2012APEC首脳会議とロシア極東

社団法人ロシアNIS貿易会
ロシアNIS経済研究所 副所長
高橋 浩

APEC首脳会議開催の意味


2012年は、ロシアにとって世界経済への関わりにおいて、メルクマールとなる年となる。まずはWTOへの加盟である。2011年12月、ロシアはWTOの閣僚会議会合で加盟が認められ、ロシアの議会での批准が済めば、正式加盟となる。もう1つ重要なのは、APEC、アジア太平洋協力会議の議長国をロシアが務め、9月にウラジオストクで首脳会議が開催されることである。
首脳会議を首都以外で開催することは珍しいことではないが、ウラジオストクではオリンピック以上のインフラ開発とセットで実施されることが特徴である。主なものでも、以下のようなものがあり、数十に及ぶ。

・首脳会議が開催されるルースキー島と本土を結ぶ橋の建設
・ウラジオストクの金角湾の横断橋の建設
・新しい空港ターミナルの建設
・空港から市内に向かう道路の大改修
・会議場の建設
・複数の5つ星のホテルの建設

その他、上下水道、廃棄物処理、まさにインフラ開発のオンパレードだ。裏を返せば、ウラジオストクは、長年、貧弱な空港、市内までの悪路、渋滞、慢性的な水不足、コンベンション機能の弱さなど、あらゆる都市機能の貧弱さが指摘されてきた。
同市は極東のハバロフスクと並ぶ 2 大都市のひとつとして、ソ連解体後、ロシア極東の中心となるべく大きく期待されてきた。しかも、目指すところはコンベンション都市、ところが、沿海州、ウラジオストク市は、長きにわたり期待を裏切り続けた。
それを打開するものとして誘致されたものが、APEC首脳会議である。そして主導したのがプーチン首相(誘致決定時は大統領、そしてこのレポートが出るころには大統領に選ばれている可能性が大である)であった。


めじろ押しのエネルギー関連のプロジェクト


ルースキー島への建設中の橋

エネルギー関係でも極東で大きなプロジェクトが進行している。日本にとって大きな影響があったのはサハリンでの石油・ガスプロジェクトである。これは、エリツィン時代に契約したサハリン1(1995年)と2(1994年)であるが、日本への原油は2001年から輸入開始、天然ガス(LNG)は2009年から輸入が開始された。2011年は、原油とLNGだけで57.7%(速報値)を占めている。日本の対ロ輸入は一気に原油・天然ガスの比率が高まった。サハリン3以降の新しい原油・ガス田開発計画も具体化してきている。
ロシアからの原油輸入で注目されるのは東シベリア太平洋パイプライン経由の原油であり、2010年から供給が開始された。東シベリアから太平洋までのパイプラインは 2011年中に完工し、これまでのパイプラインと鉄道を経由した輸出から、2012年中にパイプラインのみで原油輸出がなされる予定である。
天然ガス・パイプラインもソ連時代にすでにあったサハリンからハバロフスク地方までのパイプラインが沿海州まで2011年に延び、沿海州のエネルギーのガス化が進みつつある。将来的に、LNG 基地の建設計画、朝鮮半島までのパイプラインの延長計画もある。
この数年で、ロシアの極東の石油ガスをめぐる状況は大きく変化し、サハリンや東シベリアでの原油、天然ガス開発、石油ガス関連のプラント建設計画などに目が離せなくなってきている。
原油・ガスの陰に隠れているが、石炭も日本をはじめとするアジアの需要増に伴い、ロシアの輸出が増え、石炭取扱量を増やすために港のターミナル建設などが行われている。日本がロシアから輸入する原油、ガス、石炭などの鉱物燃料は、2010-11年には輸入の4分の3を占めるに至っている。


バム鉄道と特別経済区


ロシア極東はソ連が消滅し、ソ連時代の有力な港を有していたウクライナ、バルト諸国、コーカサス諸国が外国になったために、ロシアにとって、アジア太平洋に開かれた広大な海岸線がある極東は貴重な地域である。人口集積地からは離れているが、物流の重要拠点である。その中で、重要な輸送の課題は、第2シベリア鉄道ともいわれるバム鉄道(バイカル・アムール鉄道)の輸送力強化である。沿海州のウラジオストク、ナホトカ近郊のボストーチニーに貨物が集中する現状を、ハバロフスク地方のワニノ港、ソベツカヤ・ガバニ港経由で輸送することにより、シベリア鉄道の負荷低減、輸送時間の短縮が図られる。ソベツカヤ・ガバニは極東で唯一の特別経済区で、しかもロシアで数少ない港湾型の特区なので大きな期待があるが、アクセスの悪さとインフラ開発の見通しが立たず、現状では期待外れであるが、大化けを期待したい。
バム鉄道はソ連時代に建設が開始されたが、山岳地帯で、建設は困難を極め、能力全開に至るには時間がかかっている。特別経済区もそうであるが、APECに関与しないハバロフスクのプロジェクトは、力が入っていないような感じがある。


ボストーチニー宇宙基地


巨大プロジェクトの1つとしてハバロフスク地方の西隣のアムール州での宇宙基地建設計画も注目すべきである。基地とはいっても、発射台だけではなく人口3万人規模の町をつくると同時に、宇宙産業関係の工場、飛行場などインフラ建設計画がある。基地の名前は「ボストーチニー」、東を意味する。エネルギー関係のプロジェクトが前倒しで実施されてきているのに比べると、進み具合が遅れているが、ロシアの重要な宇宙発射基地がカザフスタンにおかれている現状では、必要性は高いプロジェクトである。


プーチン再登場、APEC後は?


APECによるインフラ開発は望ましいことであるが、極東、特に沿海州経済が、APEC終了後一気にしぼむ懸念がある。一方で、極東重視を進めたプーチン氏が、予想通りロシア大統領に再登板すれば、アジア重視や日本との関係強化への期待もある。変わらないと思われた極東は、この数年で大きく変化しつつある。日ロの関係改善と民間ビジネスにとって、変化を生かす大きなチャンスの時期に来ている。

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