2012年のロシア政治経済と極東・シベリア開発の展望ー商社・日系企業現地駐在員が語るロシア事情ー

住友商事株式会社
CIS支配人
荒井 健彦
丸紅株式会社
執行役員 CIS支配人
生田 章一
国際協力銀行(JBIC)モスクワ駐在員事務所
首席駐在員
岩尾 大史
双日株式会社
モスクワ駐在員事務所長
金子 雅昭
三菱商事株式会社
欧阿中東CIS統括補佐(ロシア・ウクライナ)
中里  誠
豊田通商株式会社
モスクワ事務所長
廣田 佳弘
コマツ
CIS総代表
藤田 昌央
伊藤忠商事株式会社
CIS代表
茂谷 貴彦
三井物産株式会社
CIS総代表
目黒 祐志(司会)

1. はじめに ─ ロシアとの関わり


目黒(司会)
最初にロシアとの関わりについて自己紹介をお願いしたい。私はロシアに駐在して通算13年になる。もともとは鋼管をはじめとする鉄鋼製品の輸出に従事しており、ロシアには現在3度目の赴任で、4年目が経過した。大学時代もロシア語とソ連政治経済を勉強していたので、自然にロシアの仕事に入ってしまった。1986年、92年、2007年に赴任、それぞれソ連の時代、ソ連が崩壊した後の時代、プーチン時代を現場で見聞し、さまざまなEXCITINGな商売をやらせてもらったが、国としても、市場としても、人々も大変面白く、奥の深いところで興味が尽きない。

藤田(コマツ)
コマツのCIS総代表として、CIS諸国を統括している。私は6年前にコマツに中途入社し、CIS諸国を統括しているが、2007年からモスクワに赴任し、この1月で5年になる。コマツに入る前は経済産業省に勤務しており、1992年から95年の3年間、経済産業省から外務省に出向し、駐ロシア日本大使館の経済担当参事官を務めていた。コマツは日本のロシアビジネスでは最も古い部類に入り、1969年に1号機を供給してから2012年で43年目になる。各商社等の方々にも大変助けられながらビジネスを行ってきた。

岩尾(JBIC)
私自身は、今回ロシアに初めて赴任しており、1年9ヵ月が経過したところである。ロシアとの関わりという意味では、こちらに来る前は、三井物産さんと三菱商事さんが行っているサハリン2、特にフェーズ2の案件について、プロジェクトファイナンス部の課長の時に調印を迎えることができた。JBICの中では営業部での経験が長く、ソブリンからコーポレート、プロジェクトファイナンス、出資等まで、幅広く経験させていただいている。そういった観点からもロシアビジネスのお役に立てるのではないかと考えている。

荒井(住友商事)
私の着任は2011年4月であり、ロシアの駐在期間はまだまだ短いが、1970年代から80年代にかけてソ連ビジネスに関わってきた。「極東森林資源開発(KS)プロジェクト」、それから「南ヤクート炭プロジェクト」にも関わり、その他にも産業機械のビジネスなども担当してきた。その後、80年代前半ごろからは、CISビジネスから離れアジア中心になった。そして2011年、住友商事CIS支配人として赴任してきたところである。ロシアは資源が中心の場所であるが、もう少しいろいろな産業を活性化させていくことを期待している。

金子(双日)
私は1988年に旧日商岩井に入社し、現在まで旧ソ連のほとんどを含むロシアの仕事に従事している。その間、日本からのプラント、工作機械、それから自動車の輸出、日本向けの非鉄、レアメタル、貴金属等の調達などを行ってきた。前回の駐在が1995年6 月から2000年1月にかけて4年半あり、今回は2009年10月に赴任し、現在3年目に入ったところである。

廣田(豊田通商)
私は2011年4月に着任したところであるが、かつて共産圏時代のブルガリアに駐在したことがある。その時には現地の言葉を多少話すことができ、文字も読むことができたため、ロシアでも大丈夫かと思っていたが、文字はよく似ているが単語や文法などは全く異なり、文字を読むことができても意味が分からないことなどを感じているところである。

生田(丸紅)
私は丸紅本社の市場業務部という全地域の状況を見る部署にいた。その時にもロシアには5-6回出張で来ていたが、サハリンやシベリアの他、モスクワ、サンクトペテルブルクにも行き、ロシアでのある程度の課題は分かっていた。今後も皆さんといろいろなプロジェクトをやれればいいと思うし、また、競争するところは競争し、一緒に意見交換するところは意見交換できればいいと考えている。

中里(三菱商事)
私のロシアとの関わりは、赴任したのが2009年6月で、ほぼ丸3年に近づいている。三菱商事はロシアで駐在事務所を開設してから44年になり、これまでの所長はおおむね機械グループ出身であったが、私が初めてエネルギーグループからの出身となった。これはサハリン2のプロジェクトがあったという背景もある。私自身は、サハリン2の投資決定から立ち上げの同時期に、インドネシアの「タングープロジェクト」という天然ガスプロジェクトを担当していた。どちらが早く稼働するかということを社内で競っていたが、今度はロシアの担当となった。

茂谷(伊藤忠商事)
私は機械部門の「ソ連部隊」に配属され、以来十数年、ロシアに関わった。今回2度目の駐在で、前回は1990年2月から94年12月まで、ほぼ5年間であった。そのころは、皆さんご存じのゴルバチョフ氏の幽閉、ソ連の崩壊、クーデターという時期を過ごし、94年末に帰国した。その後も一貫して機械部門だがアジアなど他の地域を担当していた。今回2006年の4月から2回目のモスクワ駐在となり機械のみならず全般を見ているが、間もなく丸6年になるところなので、ロシアとの付き合いも20年近くなった。


2. 大統領選挙後のロシア政治、政策の行方


三井物産株式会社
CIS総代表
目黒 祐志氏

目黒(司会)
それでは自己紹介に続いて、ロシアの政治、大統領選の行方も含め議論したい。2011年12月にロシア下院の選挙が行われ、その後、いろいろなことがいわれている。与党の「統一ロシア」は過半数を獲得したと言っているが、調査によると、明らかに水増し等々があり、実際は過半数に遠く及ばなかったといわれている。そうした中で、プーチン氏が果たして3月の大統領選挙で、第1 回目の投票で当選するのかどうか、もしくは本当に大統領になれるのかということも含めて、皆さんのご意見をお伺いしたい。

藤田(コマツ)
3月の大統領選挙でプーチン氏が大統領になるのは、まず間違いない。世論調査でも52%がプーチンに投票すると言っているし、他の候補の方々はいるものの、プーチンに勝てるような候補はまず出ていない。確かに決選投票となる可能性もあるが、大統領にプーチンが選ばれることは間違いない。また、国会選挙には確かに不正批判が見られるが、過半数は引き続き統一ロシアが維持することになる。気を付けなければいけないのは、プーチン氏の個人的な蓄財批判、あるいは、政府調達や国営企業における腐敗の問題、これが特に都市部の中間層には評判が悪いという点。それがどの程度、社会的な運動につながるのかというところが鍵であると思う。
ただ、ロシアの人たちは、90年代にリベラル派の甘い言葉によって痛い目に遭っているから、街頭に出てきて扇動するような人たちが、社会、政治的に大きな力になるとは思えない。これを契機にして、現在の政府批判が内部変革のきっかけに活かせればいいと個人的には思っている。

岩尾(JBIC) 
私も同様に感じており、大統領選挙については、決選投票が起こりそうな気もするが、プーチン氏の当選はほぼ確実視される状況である。日本企業の方でこちらにいらっしゃる方がしばしば言われる意見として、「今まで東京には、『ロシアの政治は安定している』と伝えていたが、12月以降、意外な展開になったことでちょっと困っている」という話を時々お伺いすることがある。しかし、こちらの新聞で紹介される欧米企業の方の意見というのは、まさに藤田さんが言われた同じ意味で、「これはロシアにとって良いきっかけ」であり、市民が街頭で批判的な声を出して、政治の方も真摯にそれに向き合っていかなければならないことを考えるようになり、今まで停滞していたといわれる改革が、少しは進むのではないかというものである。


住友商事株式会社
CIS支配人
荒井 健彦氏

荒井(住友商事) 
私もこれだけ知名度のある、政治運営ができる方という意味では、プーチン氏しかいないのだろうと考えている。プーチン氏からは、2011年後半から、産業面では配当よりも設備投資が少ない、つまり近代化投資がなされていないことを問題視する発言が聞かれ、また、政治的にも、もう少し民主的な動きを認めざるを得ないであろうといった動きも見られるようになった。
2011年12月、4時間半にわたるプーチン氏と国民との対話がテレビ放映された。その中の一コマとして戦車などを背景に武器工場の従業員から「ロシアではどんなものでも作れるのに、なぜ武器を輸入しているのか」と聞かれ、プーチン氏が、「国防省はロシア国民を守るために存在しており、守るために必要なものは何かということで比較をしたところ、外国の武器の方がその任に堪え、経済的であったため、そういう判断に基づいて外国から(通常兵器の範囲内で)購入している」と回答していた。この発言は、ロシアの現状とプーチン氏の考えをよく表していたように思う。

金子(双日) 
同じ意味では、12月初旬の国会下院選挙では、私のところにも早朝から東京やロンドンから問い合わせがあった。選挙後、確かに数日間は騒がしかったし、逮捕者も出た。しかし、12月10日の大規模デモというのは、私が見る限り平穏に終わっている。クリスマス前後に再び「うねり」が見られるかどうか、日本の報道関係者は緊張して見ていたが、結局、年末にかけてどんどん収束したという印象である。プーチン氏の対抗馬となるような人物も見られず、大統領選挙はすでに「出来レース」になっている気もする。

廣田(豊田通商) 
いわゆる2つの方向性が考えられるのではないか。1つは、他国の報道でよく見られる「締め付け」が厳しくなるのではないかという見方。3月4日の大統領選、あるいは大統領が決まるまでは、開放的な雰囲気を醸し出してガス抜きをしておいて、再選されれば、もう一度プーチンなりの秩序を回復させようとするのではないか。
一方で、取引先の方や一般のロシア人から聞く話として、「ペレストロイカ以降、いろいろな変化があったため、また法律ややり方が変えられたりするのは、いささかきつい、やっぱりプーチン氏で安定するのであれば、その方が心地よい」ということを複数の人が異口同音に言う。それを聞くと、それもあり得るのかなという気がする。
そんな中でプーチン氏が一番望んでいることは、表向きは国内の安定と言うものの、やはり対外政策であり、いわゆる「強いロシア」を表に出してくるのではないか。


丸紅株式会社
執行役員 CIS支配人
生田 章一氏

生田(丸紅) 
全く同感である。プーチン氏は国家観というものを絶えず背景に抱きながら発言している雰囲気を感じる。今度当選したら、今まで以上にプーチン色の強い政策が出てくるだろう。その1つ目は、すでに見られる「ユーラシア共同体」のような形で、周辺諸国をロシアの経済圏に囲い込んだ形にしていこうという取り組みである。そのときに、われわれは周辺諸国でも仕事をしている観点から、ロシア企業の周辺国への影響力を含め、そして、全体的に経済が良くなるのか、悪くなるのか今の段階では見えにくいが、いろいろな形で影響が出てくると思う。これがプーチン色の1つだろう。
2つ目は、プーチン色としていつも感じるのが、極東地域をさらに発展させ、人口も定住させたいということを非常に強く意識していることだと思う。極東関係でのビジネスをもっと活発にさせていきたいという意味で、ロシア人の関心を向け、財政投入し、プロジェクトをつくっている方向性は明確に進めていくであろう。


三菱商事株式会社
欧阿中東CIS統括補佐
(ロシア・ウクライナ)
中里 誠氏

中里(三菱商事) 
2011年の統一ロシア党大会でプーチン氏が大統領に立候補を表明すると、ロシアの中では「これでまたプーチンの6年間が2回、計12年続くのか」と思った人が多かったと思う。不正選挙への抗議が発生したことで、プーチン体制が今後12年にわたることに対して、かなり懐疑的な意見が多くなっていると思うが、その意味において、プーチン体制も今後変わっていくのではないかと思う。
現在のところは不正選挙問題に対する抗議集会も、極めてオーガナイズされた形で行われている。集会に参加した人の話も伺ったが、いわゆる中産階級の人たちが参加しており、底辺層にまでは動きは広がってないため、これ以上、変なことにはならないのではないか。一方、今度の大統領選挙でプーチン氏の当選が再び同じような疑問符が付いた形で評価されると、少し騒がしくなるのではないか。そうなればプーチン氏が持つ強い基盤が揺らいでいく可能性もあるし、この国も近代化という動きを含めて、徐々に変わっていくのではないかと思う。

茂谷(伊藤忠商事) 
混乱期であった2000年代には、傑出した力のある政治家が、この国には必要であったと思う。原油価格が高くなったことにも助けられたが、力のある人だからこそ、あの混乱を収拾して立ち直らせることができたのではないだろうか。その過程ではいろんなことがあったのだろうが、そういうやり方なくして立ち直ることはできなかったであろうと、外国人として外から見ていて思う。政府もさらなる民主化が必要だと認識していて、ただし一気にするのではなく、段階を踏んでやろうとしてるのではないだろうか。今回の選挙結果や抗議デモといった動きは、その一連の動き・流れの中にあるもので、それが先ほど皆さんがおっしゃったように、この国がもっと良い国になっていく過程であると思うし、この経験を踏まえて実際良くなっていくであろう。アラブのようなことにはならないと思う。ロシア人はどこか冷めていて過剰には熱くならないと思う。ソ連が崩壊した時も、クーデターの時もそうだったが、外国で報道されていたほど、熱くならず、国民性なのか割と冷めていた。だからなのか、ある統計によるとロシア人の3割から4割の人たちが外国へ行きたい移住したいと考えているそうである。
今度、大統領選でプーチン氏が選ばれれば、以前とは違う、一皮むけたプーチン氏が政治運営を行い、安定するのではないかと思う。

目黒(司会) 
皆さんも東京からは「ロシアはどうなるのか」ということを聞かれると思うが、やはりロシア人が汚職問題に憤りを感じている点があることは間違いない。一方で、まさに荒井さんが言われたテレビでのインタビューの時に、プーチン氏が自嘲気味に話していたことが少し気になっている。何を言っていたかというと、「体制批判をする若者たち、その中堅層の人たちがいるが、これは要するにプーチン時代の安定がもたらした落とし子であり、自分は甘んじてその批判は受けなければいけない(今のロシア人はパンと安定だけでは満足しなくなった)」と。
ロシアで注意しなければならないのは、民主的な君主は悲劇的な最期を遂げているという歴史である。逆に言うと、今回の抗議デモの問題でも自由を与えており、与えるとロシア人の性格としてもっと要求を強めることになる。ブレーキをかける、あるいはグリップを利かせる指導者がこの国には必要であるように思う。


3. ロシア経済の今後の見通しと課題


目黒(司会) 
今度はロシア経済に注目して、皆さんのご意見をお伺いしたい。2011年、2012年と欧州、米国の景気が悪い中で、ロシアはGDPで4%成長を遂げ、財政状況も加えたマクロの数字を見ると、ロシアは、インド、ブラジルと比べても非常に良い。まず、コマツの藤田さんから、ロシア経済の現状と今後の見通しについてご意見を伺いたい。

藤田(コマツ) 
ロシア経済は2011年もGDP成長率が4.3%であり、インフレ率も6.1%まで下がり、個人消費も予想以上に好調である。マクロ指標を見ると、全く世界の動向とは自立して成長している感じがある。ただ、ロシア経済を見るときに重要なのは原油と金融である。原油は安定しているが、金融的には、いかにロシア経済が脆弱(ぜいじゃく)であったかが、リーマン・ショック後に示された。
中央銀行が引き続き資金供給をかなり緩和的に行っているため、金融面も今のところ影響は出ていない。ただ、欧州の金融問題によっては、確かに先行きは不透明である。リーマン・ショックのときと比べると、ロシアの銀行も預金と貸し付けの比率を見てみると、現在は8割ぐらいを預金で賄っている。欧州の銀行が資産収縮をしたときに、ロシアの銀行は若干の金融収縮はあるかもしれないが、4%、5%程度の成長はできるのではないかとみている。
中期的にはいわゆる「5分野の近代化」が重要だが、それにも増して、いかに外国企業の直接投資を得られるかが重要。率直に言って自動車、エレクトロニクス、機械製造等の分野でロシア企業が単独で生き残るのは困難ではないか、外国企業を誘致して国内雇用を創出させるのが最も現実的な産業政策だと思う。WTOへの加盟により、投資環境の改善、諸制度の透明化を図り、外国企業の信頼を高めることが重要な課題と考える。

目黒(司会) 
IMFの「2020年の世界経済の姿」という資料があるが、GDPのランキングでは、中国、米国、日本ときて、ロシアが4位、5位にインドと、ロシアはGDPで世界の4位になると出ている。ロシア経済は、現在はマクロ的には良い数値が出ており、これには原油価格の影響もあるが、岩尾さんは2020年ぐらいまでの状況をどうご覧になるか。


国際協力銀行(JBIC)
モスクワ駐在員事務所
首席駐在員
岩尾 大史氏

岩尾(JBIC) 
ロシアが4位というのは、やや甘過ぎる気がする。現在のままでは高い経済成長は望めないのではないかと思っている。もう少し改革が必要であることは明らかで、4%というのは、この国の本来持てる力ではないだろうという気がする。経済構造的にもよくいわれるが、資源頼みの中で、特に2012年に関しては欧州危機の影響も受けるため、3%、2%台ということもあり得ると思っている。

荒井(住友商事) 
当面、ロシアが輸出している商品、外貨獲得商品の石油・ガス値段がどう推移していくかにもよるが、それほど大きくは変わらないのではないか。波乱要因は米国であるかもしれない。今やガス価格が2.4ドル/MMBtuまで下がっていると聞いている。EU経済の悪化で需要が落ちることはあると思うが、収入としてはある一定の範囲内にここ数年は落ち着くのではないか。
もう1つは、今まで欧州だけが市場であったが、極東から輸出し、日本、中国、韓国、台湾、それから東南アジアが新しい市場として伸びるのではないか。ロシアの4%前後の成長は、地味ながら、この国の状況に相応であると思う。また、中産階級の人たちの購買力ももう少し上がってくるのではないか。現在、GDPで見ると、米国で7割を超える国内消費が、ロシアでは5割強程度で、ほどほどの規模になりつつある。

中里(三菱商事) 
天然ガスについては、確かに米国のパイプラインガスの価格が安くなっているが、液化天然ガスについては、事業化するために相当な設備投資もいるし、長期間の準備期間も必要なため、ある程度、長期保証がないとできない。パイプラインガスに引きずられて、需給バランスが緩むことは想定しにくく、ある程度のところで価格も維持されていくのではないかとみている。原油価格についても、ある程度、高値で安定していくということではないか。中東では現在もイラン等で騒いでいるが、地政学的なリスクもあり、多少価格が上がったり下がったりを繰り返しながら、緊張感を持ったところに原油価格も維持されていくと思う。
ロシアが世界第4位のGDPの規模になることは、私も岩尾さんと同じで現状ではほとんど想定できない。この国のソ連時代から続いている国営企業をベースにした大きな経済基盤の中で、プーチン氏は存在しており、そういった国営企業は、産業の近代化という意味で大きな足かせになっているのも間違いない。

金子(双日) 
2020年にロシアが4位になるという話は、私も高過ぎる評価である思う。油価は先ほど中里さんがおっしゃったように、緊張感を持って高値で止まり、4%程度の経済成長が続くであろうとみている。2008年のリーマン・ショックの後、ロシア経済は落ち込んだが、あの時の状況と比べると、現在は欧州の波を受け、同じ目に遭っても、まだ耐性がある。外貨準備高、連邦準備基金、そして国民福祉金を全部足すと、何とか財政は維持されており、2008年末以降、控えめなかじ取りをしてきたのではないか。

廣田(豊田通商) 
ロシアの安定成長については、おそらくそうなると思われるが、ただ、1点だけ私が気にしているのは、ロシアの人口がまだ減少していること。これは中長期で見た場合に心配な点である。

生田(丸紅) 
資源価格が安定していることもあり、この時代に4%台を維持しているのはすごいことであると思う。ロシア国内の投資に資本がどのくらい向かうのかということが、今後の安定的な経済成長の1つの条件であると思う。ロシアの資本主義者のお金持ちの中には、どこに、どのように投資をしていくかという問題を、一所懸命、勉強している人たちも多い。また、国営企業が足かせになるというお話はおっしゃる通りで、国営企業がビジネスマインドを持ち、競争を前提にした経営を行う方向に変わることができれば、現在11位のGDPが4位になるかどうかは別としても、上位には来る可能性があるだろう。

目黒(司会) 
IMF統計をあらためて見ると、欧州諸国が軒並み転落するという絵になっている。ロシアが、勢いよく伸びるのではなく、上位にある欧州諸国が次々と脱落していくという姿。イタリアに続いて英国、フランスも脱落し、ドイツすら5位、6位に転落する可能性がある。だからロシアが、例えば7%成長をするという見通しではないようだ。

茂谷(伊藤忠商事) 
ロシア経済の今後は次の3点次第であると思う。第1にロシア政府も言うように、資源の輸出頼みではなく産業の近代化を進めること、これが最優先課題。第2は、先ほどから話題に出ている極東を含めた東部地域開発をどうするのかということ。そして第3はロシア人が勤勉さを身に付けられるかどうか。個人差はあるが、仕事において要求ばかり多くて、やることをやらないという体質が変わるかどうか。それがあって初めて近代化もできるし、国際競争力を持ったものも作れると思う。


4. 極東・東シベリア地域開発の展望


目黒(司会) 
極東・東シベリアは日本にとっても非常に重要な地域であるが、ここで日本として何をやればいいか、アイデアなり、ご提案があればお願いしたい。

藤田(コマツ) 
コマツはまさに極東・東シベリアで、特に資源開発でビジネスをさせていただいてきた。リーマン・ショック以降、ロシア経済が停滞しても、極東・東シベリアの資源関係では十分ビジネスが成り立ってきた。日本としては、まさにそこが最も大きなビジネスチャンスではないか。
他方、中国から極東・東シベリアを見ると、明らかに資源とエネルギーを狙っている。東シベリア太平洋パイプラインは、結果的に中国が250億ドルを拠出し、パイプライン建設資金と、毎年1,500万tの石油を確保した。パイプライン建設では私どもにも恩恵があり、中国の進出を歓迎はしているが、日本としても、いかに極東・東シベリアを戦略的に位置付けるかが重要だろう。
2007年6月の首脳会談で、安倍総理(当時)が、プーチン大統領(当時)と、「極東・東シベリアの日露間協力イニシアティブ」の合意をした。残念ながらその後の動きは見られないが、日露協力の可能性がありそうなプロジェクトも、ある程度見えてきている。やはり日本がお得意の官民一体となって、資源をどう位置付けるかということであろう。資源、エネルギー、インフラ、運輸、通信といった分野において日露協力の在り方を今こそ考えていかなければいけないのではないか。

荒井(住友商事) 
残念ながらロシアの産業は、現状、ウラル地域以西にほとんどあり、極東・東シベリアは、いわゆる労働力を吸収する産業があまりない、あるいは現状では産業が生まれにくい土地柄かもしれない。従って輸出を前提とした産業を連邦政府として後押しすべきではないか。私どもは極東で木材工場に投資をしており、これもある意味では石炭やガスと同様に、資源を使う産業になっている。現在3,000人以上の従業員を擁している。しかし今のところは政府の後押しが少なく、いささか苦戦している。また、LNGに加え石油・ガス化学についても政府の対応次第で可能性は大きいと思う。
もっと進めるべきことは、やはりインフラ投資だ。輸送力の増強を進めることが東西間の距離を縮める。大いなる夢であるが、ロシア横断超特急貨物ラインができると、立地の問題も関係なくなり、そうすることで極東にも産業立地が増加する可能性が出てくる。


双日株式会社
モスクワ駐在員事務所長
金子 雅昭氏

金子(双日) 
当社はAPEC会場のルースキー島を中心に、川崎重工業殿とコージェネレーション設備を納めている。ただ、会議を開催できても、APEC後をどう展開するのか、期待感と不安感がある。コージェネレーションの絡みでいうと、あの地域の発電インフラは非常に老朽化している。その需要の掘り起こしをいかにやっていくのかというところに関心がある。
また、アムールスクの合板工場の機械納入のお手伝いをしているが、極東・シベリアというと資源が中心になる。鉱石系でまだ精錬されていない、そのままではとても買えないものが多いため、第1素材の付加価値化を進めないといけない。例えば、品位が低い銅鉱石は、輸送距離が短くなっても、競争力が出ない可能性がある。品質向上での付加価値化で日本が協力できるかどうか?
産業化については、技術力があり、それを上げられる労働者が確保できるかどうか、設備投資をする場所、土地があるかどうか、それから生産に関連する資材等を輸入せざるを得ないという問題が出てくるため、生産性が成り立つのかどうかをよく考えた方がいい。

廣田(豊田通商) 
極東については、当社はそれほど関わっていないが、極東を地図で見ると当然、日本の方が近い。モスクワからコントロールされているとよく聞くが、現場と離れているところで、どういうふうに皆さん活動されているのか非常に興味深い。

生田(丸紅) 
極東では、これから中国の影響力をさらに強く感じながら仕事をする時代が来るだろう。ウスリー島の国境問題も解決し、あそこに橋を架けることも決定した。あれは明らかに人が往来するための橋ではなく、物資、エネルギー輸送のための橋であるから、そういう交流もこれから太くなるだろう。
極東ビジネスにおいて、製造業への投資、木材、鉱物資源、エネルギー、農産品などで、いろいろな形で中国を強く意識する時代が来るだろう。その中で中国や日本の投資も進み、1つの競争の活性化が起こるのではないかという気がする。そういう意味では、極東はビジネスチャンスであり、ビジネスの大変な戦いがこれから始まるのではないか。

中里(三菱商事) 
三井物産さんと参画している「サハリン2プロジェクト」は、キャパシティを上回る生産で非常に好調であるが、第1系列、第2系列に続いて第3系列をつくることが、ロシアにとっても一番経済性があり、リーズナブルではないかと思っている。その北にある「サハリン3」のガス開発に関与させていただいて、さらにLNGを生産し、ガスが必要な日本に持ってくるというお手伝いをぜひともさせていただきたいというのが、極東での最大の希望である。また、当社も2011年9月にウラジオストク事務所を11年ぶりに再開した。今後もロシア政府の投資が極東地区に続いていくだろうという意図である。
資源開発や大きなプラント建設など大型案件も含め経済発展を少しでも取り込みたい。日本もこれだけ経済規模が縮小している中で、特に日本海側の都市にとっては、極東は、かなり地理的に見ても面白い場所であり、そういう都市からの極東進出のお手伝いもしていきたい。極東の人たちは、意外と日本をテレビで見て知っており、また日本の車も走っていることから、消費者に近い品物、例えば食品なども市場としては面白いのではないかと思う。


伊藤忠商事株式会社
CIS代表
茂谷 貴彦氏

茂谷(伊藤忠商事)
まさに極東開発が進んでいない状況が続いているのであるが、その結果として極東地域の人口・消費が減少し、産業が発達せず、さらに人口が減少するという悪循環にある。ただ、東シベリア以東の極東には資源が多く、事業案件もある。極東からさまざまな資源等を開発して海外へ出して稼ぎたいところであるが、その幹線までつながるインフラが整備されていない。あのようにへき地である以上は、起爆剤としてロシア政府の資金でやっていかないといけない。
資源のあるところと幹線パイプライン、幹線鉄道までのつなぎの支線が必要である他、やはり東部と西部、欧州とアジアをつなぐシベリア鉄道も含めて、インフラを大きく整備する。そうすれば、必ず物は動くし、人も動くし、商売もできる。東部のインフラ整備に対して、起爆剤としての政府資金を使わなければ、東部や極東地域は発展しないのではないか。

藤田(コマツ) 
東西9,000㎞もある国土で、インフラに対する国家投資がなければ、市場経済から取り残される多くの地域が出てくる。例えば、クラスノヤルスクでアルミホイールを生産しても輸送費だけで成り立たない。極東の石炭資源も同様である。本当に極東・東シベリアのことをロシア政府が考えるならば、インフラ投資をしなければ市場経済からどんどん放置されていく社会になっていく。中国は毎年6,000㎞の高速道路を作って、今や7 万4,000㎞の世界第2位の高速道路大国となった。欧州ロシアでは経済効率化のための高速道路の整備が不可欠となっていると思う。


5. 商社・日系企業の事業展開の方向性・戦略性


目黒(司会) 
最後に商社・日系企業のロシアにおける事業展開の方向・戦略性ということで、今後どんなお仕事をされようとしているのか、どういう問題があるのか、あるいはその解決策、アイデアも含めてお話を頂きたい。

中里(三菱商事) 
どういう方向で仕事をしたいかという点では、資源の話もあるが、自動車販売などにも今後、ますます力を入れていきたいと思っており、そのチャンスも十分にあると思う。また、少し違う視点でお話をさせていただくと、日本人の一般的なロシア観というものがあまり良くない。ロシア人が日本のことを意外と好意的に見ているにもかかわらず、日本人の全体的なロシア観には何か暗いものがある。そういった意味からすると、日本人のロシアに対するイメージを変えていくことをもう少し積極的にやった方がいいのではないか。現在も文化交流、学生交流などを進めていただいているが、ロシアのいいところをもっと日本に紹介していく必要がある。宮崎駿監督も、「ソ連時代のアニメ『雪の女王』を見て感動し、それが日本のアニメに大きな影響を与えて現在があると言ってもいい」と発言している。ロシアの『チェブラーシカ』をもっと宣伝すべきではないかと思う。先日も、美術コンサルタントが、『チェブラーシカ』の原画等を収集に来ていた。もっと日本政府が後押しをするなど、ロシアに対する認識を変えていく必要がある。

茂谷(伊藤忠商事) 
日本人の多くはロシアのことを知らない、あるいは、いまだにソ連時代のイメージを持っている人が8割程度はいるのではないか。初めて来られた人は、100%と言い切ってもいいぐらい、「えーっ、これがロシア!」とおっしゃる。「これがロシアですか、モスクワはこうですか、いいところですね!」とほぼ全員がおっしゃる。それぐらい日本にいる人というのは違ったイメージをロシアに抱いている。渋滞は本当に勘弁してほしい等いろいろ文句ももちろんあるが、総じて皆さん、「思っていたよりもいいところで、素晴らしい」という反応である。それを何とかして伝えたい。いまだに米露対決との流れでロシアを見る目があり、ロシアは日米に対抗する国という見方が強過ぎるように思われる。


コマツ
CIS総代表
藤田 昌央氏

藤田(コマツ) 
コマツの場合には、ロシアには当然工場をいずれつくらなければならないという意識があった。建設機械は物を売るだけではなく、その後の部品やサービスをしっかりするのが顧客との関係で重要であり、輸送も、自動車は10台ぐらいワゴンに載るが、建機の場合は、1台か2台しか載らないため、しかるべき規模になったならば、当然、現地に工場をつくる。ただ、ロシアの場合は、やはりいろいろなリスクがあるのではないかという意識があり、コマツ自体もロシア進出に慎重であったのは事実。確かに建設許可の取得のため4m半にも及ぶ提出資料を作らなければならないということはあったが、そういうことを頼むコンサルティング会社、設計会社もあり、十分克服できる。
もう1つ、ロシアの場合に心配であったのは、本当にロシアで「ものづくり」ができるのかということであった。しかし、われわれも驚いているのは、少なくとも現地生産しているヤロスラブリ工場では、不具合率は日本の工場よりも少ないぐらいであり、生産開始から2年がたつが、現場ラインで辞めたエンジニア、作業者は1人もいない。これはヤロスラブリ自体が、昔から機械工業の地であるということ、そして、そこで当社が最高水準の給料を出しているということだと思う。
いろいろなところで「ロシアでは賄賂を要求される」という話を言われるが、賄賂の要求には1度も遭遇しなかった。ただし、ロシア政府に言わなければならないのは、規制が厳し過ぎるため、その規制を逃れようとしたり、簡単な資料で済ませようとしたりすると賄賂を要求される。真面目にやれば何ら賄賂を要求されることもない。通関も膨大な資料を出さなければならないが、きちんと資料さえ出せば正規に通る。ただ、それだけの資料を出さなければならないということは規則が細か過ぎるということでもある。そういう意味では、規制の簡素化をしなければならない。

岩尾(JBIC) 
自動車関係は、日本企業の間でもかなり投資が進められてきたが、まだ製造業全体で見れば、欧米に比べて積極的とは言えず、もっとあってもおかしくないのにという印象。ここのマーケットで一番気になるのは欧米・中・韓との競争である。多くの日本企業にとって、今は投資先としてはアジアに比してロシアはまだまだハードルが高いということかもしれないが、このマーケットの潜在性や将来性については、もう少し前向きに評価されてもよいのではないかと考えている。一方で、日本企業の皆さんのロシアに対するポジティブな見方が形成されるためには、実際の成功事例が積み上がっていくことが肝要とも思う。当行に関しては、ことに皆さんから一番ご要望が多いのは、ロシアの地場企業リスクでのコーポレート与信の拡大であると承知している。こうした面でも成功事例を作っていければと考えている。

目黒(司会) 
1990年代と2007年とで何が大きな違いであったかというと、ロシアのほとんどの企業が国際会計基準に対応できるようになってきたこと。出てくる財務データも最初は信用していなかったが、コンサルにカウンターチェックさせてみるとかなり正確。
ロシア大手企業は、米国の大学の卒業生や投資銀行勤務経験ある優秀な財務マンを、高給で雇用し、欧米コンサルも雇い、M&Aの経験は日本の企業の何倍もある。岩尾さんからもご指摘があったように、日本の企業としてももう1歩踏み出すべきではないのか。欧州企業が現在ほとんどロシアに手が出せない状態になっているため、日本企業にとっては大変なチャンスが来ている。

荒井(住友商事) 
プーチン氏が産業近代化について言及しているが、そうであれば連邦政府が外国企業誘致方針を定め積極的に進めればいい。例えばタイのように投資奨励策の下で、外資が入りやすい法律とユーティリティーが完備した工業団地特区をつくる。もちろんモスクワに近いところは、例えば税メリットを少なく、遠いところほど税メリットが出るようにする。そうすると、税メリットもあり、たくさんの書類がなくても工場建設ができ、かなりの日本企業や欧米企業が進出してくるのではないか。また製造したものがロシアのマーケットだけではなくて、欧州や他のマーケットに輸出されることも十分あるし、ロシア企業も外国企業の状況を目の当たりにして、工場の近代化を行い、企業誘致による新たな需要創出でビジネス拡大も期待できよう。

金子(双日) 
日本企業を呼び寄せるという点でいうと、東欧や中欧と比べると、来ていただく人に対してロシア側の接し方はあまり良いとはいえない。私は一時期、東京でポーランドも見ていたが、産業誘致の整備をしっかりとしている。関連の本等の資料もきちんと準備されていて、ここを見たいと言えば、「分かった、今から車で行きましょう」となる。ロシアもそうした宣伝をうまく行ってほしいし、われわれもそれに乗って動くこともできる。「ロシアは日本にそれほど知られていない」という意識をロシア側に持っていただき、もう少し「明るいロシア」という見せ方をしてもらってもいいのではないか。

目黒(司会) 
一方で、ロシアは基本的に豊かな国で、現在は資源だけでも十分に成長ができていることもあり、また、商売、ビジネスに対する感覚がわれわれとは違い、どうしても外国投資家の期待に応えようという気持ちは希薄ではないかと思う。ただ、決して日本に興味がないわけではない。日本に対しては非常に尊敬の念も持っている。豊かで成長可能性の高い隣国、大国であり、ここの人たちとどうやって付き合っていったらいいかということを、もっと深く付き合い、実行に移す必要があると考える。大国らしい包容力はあり、こちらがしっかりとした考えと決意、そして人脈を持てば、日本、日本企業に多種多様なビジネスをやらせてくれると考える。


豊田通商株式会社
モスクワ事務所長
廣田 佳弘氏

廣田(豊田通商) 
私がよく言うのは、商社として、中国・東南アジアでどれだけ金を使ってきたか、成功もしてきたが、どれだけ損もしてきたか、それでもずっとつぎ込んできている。一方でロシアに対してはどうか。そもそも体験数が少ない。だからロシアを知らない。言い方は悪いが、失敗してもいいから勉強させてくれぐらいの挑戦意識を持ってほしい。

目黒(司会)
弊社の関係会社は10社程度あるが、他の国での事業に比べ、どの会社も平均点以上の利益はしっかりと出ている。ただ、リスクは取らないといけない。単純に右から左へということはなく、必ずそこにいろいろな障害、落とし穴もある。しかし、ロシアは、いろいろな労力は使わされるが、意図的に悪さを仕掛けられたという経験はない。

生田(丸紅) 
皆さんと全く同感であるが、私どもの会社もトレードから脱却したビジネスに移行する時期に来ていると思う。先ほどの話にも共通するが、東京でいろいろな人と話した時に、「ロシアで仕事をするのは大変でしょう」とか言われるが、必ずしもそんなことはない。唯一、いろいろと許認可で手間がかかることと、日本では四半期ごとの利益をどうするか、投資をしたら何年間で利益が出るかという感覚があるが、そういう時間軸の感覚が、ロシアでは残念ながらまだ合わないのは事実である。そこはもう少し弾力的に見ていただくような雰囲気が出てくれば、いい成功体験がつくれるのではないかという気がする。

中里(三菱商事) 
ロシアで働いている三菱商事本社の人間は、おそらく2012年中には、私が赴任した時と比べて倍増になる。これは2年前に投資した自動車販売が極めて順調にいっているということである。西欧のビジネスモデルがこちらに少しずつ移植され、その投資がうまく活かされている。そういう意味では、1つのビジネスに引っ張られて、次第に会社全体として、ロシアへの関心も高まってきていると思うし、いろいろなビジネスがフォローされていくのではないかと思う。

茂谷(伊藤忠商事) 
以前にアンケートがあったが、ロシアに進出している欧米企業に、「来てよかったと思いますか」という問いに対して、7割、8割が「はい」と答え、「儲かっていますか」という問いに対しても「はい」と答えている。ここに進出していない企業に、「ロシア進出、どうですか」と尋ねると、「やめとけ、やめとけ、怖い、怖い」という回答がほとんどだったそうだ。まさに進出した人は、かなりの人がうまくいっている。決して不満足でもない。まさに、出てこない人たちをどう励ますか、最後にはここに行き着く。

目黒(司会) 
ロシア政府にもお願いをしているのは、日本とロシアの間で、ビザを免除してほしいということである。両国の相互理解を深めるためには人の往来をもっと増やす必要がある。タイはロシアとの間ではビザ免除となっているが、なぜ日本ではできないのか。これは日本貿易会としても、また、最終的には政治決断を政府の幹部、首相をはじめとする方々にもお願いしなければならない話である。ロシア当局は、「ロシアはいつでも応じる用意があり、90日ぐらいだったら、日本人にビザなしで訪問してもらって結構ですよ」と言う。「断っているのは日本側である」と。たまたま今月末にラヴロフ外相が訪日するが、ビザ発給条件は緩和されると聞いている。ただ、緩和では不十分で、やはりビザ撤廃を欧米に先駆けてやることに意味があり、日本側にとってより利益が大きい話になると思う。
また、極東の件について言うと、プーチン氏ほど極東に思い入れを持って足を運び、多額の資金を投じたロシアのリーダーは、ソ連の時代を通じてもいない。私どもがトヨタ自動車さんと一緒にウラジオストクへ進出した最大の理由は、これだけ相手がやってほしいと言っているのだから、期待に応えたいと思ったことが大きい。そのビジネスの「果実化」は、商売人であるわれわれの大事な仕事ではあるが、今はとにかくやってみることが必要だと考える。ここでは高度な経営判断が求められるが、その判断をしていただくためにも、企業幹部の方にどんどんロシアに来ていただき、現場を見聞いただくことが必要と思う。

(2012年1月24日、三井物産モスクワ有限会社会議室にて開催)

2012年のロシア政治経済と極東・シベリア開発の展望ー商社・日系企業現地駐在員が語るロシア事情ー 誌面のダウンロードはこちら