丸紅が取り組むわが国の農産物の輸出販売について

丸紅株式会社
食糧部門 農産部
近藤 孔明

わが国の農水産物および食品は、安心・安全・高品質と三拍子がそろったブランド力があり、また栄養面・見た目の美しさも誇るべき点です。しかしながら少子高齢化に伴い、国内のマーケットは縮小傾向にあるため、現場では担い手不足の深刻化、地方経済の停滞など、厳しい現実に直面しています。この状況を打破し、日本の素晴らしい農水産業を維持拡大するためには、新しいマーケットへの進出が不可避です。


香港衛星テレビ国際メディア集団との提携意向書締結風景

2013年5月30日、当社は香港衛星テレビ国際メディア集団と、日本の農産物の輸出力強化と、香港・マカオ・華南地域・台湾への、安心・安全で高品質な食糧・食品の供給に関して戦略的な提携関係を結び、共同事業構築に向けてスタートしました。

世界的には日本食ブームが広がっており、海外に目を向ければ今後伸びていくと考えられる有望なマーケットが複数存在します。特にアジア諸国では、経済発展に伴う富裕層の増加、人口増加により、ビジネスチャンスが見込まれています。

これまでも限定的な取り組みとして、海外の日系スーパー向けなどの小規模な輸出事例はありましたが、本プロジェクトにおいては、新たにメディアと提携することとしました。5,500万人の視聴者を保有する香港国際メディア集団のメディアパワーにより、直接的、定期的かつ大量に海外の消費者へ販売する流通ネットワークを構築することがその狙いです。

香港国際メディア集団の保有する世界有数のテレビネットワーク、携帯電話通信、インターネットの3つの通信手段を双方向に駆使したネットワーク力と、丸紅が保有する農産物を中心とした貿易・物流のノウハウという両社のシナジーの結集により、アジアにおける新たな流通・販売網がここに誕生します。

日本の農産物には、大きな潜在需要が世界中に存在しています。しかし現実的には日本産品を欲する世界の消費者にとって、これを購入する手段は現在極めて限定的です。特に鮮度が決め手となる生鮮産品を、大量にかつ定期的にデリバリーするルートは確立されていません。今回スタートしたこのプロジェクトにより、海外で日本産品を欲する人々にとって、新鮮な日本ブランドを手に入れる手段が出現します。また日本の生産者も、自信を持って作った農産物を輸出できるツールを手に入れることができます。高品質な日本の農産物の生産者と需要者、相互のニーズを結び付ける流通網の構築が、プロジェクトの真の目的です。

本事業は、多くの企業、生産者、農協、ロジスティック業者、官公庁のご協力の上に成り立っている、オールジャパンのプロジェクトです。当社はネットワークの窓口として事業を進め、わが国の農業における競争力の抜本的な強化に寄与してまいります。


今後、農産物・食品を流通させる拠点を、香港地域だけでなく、人口増加が見込まれる深セン、クアラルンプール、マニラ、ホーチミンにも広げていく計画です。アジア全体にネットワークを張り巡らせ、日本の農産物流域を拡大していきます。将来的には、アフリカ・中東への流通も視野に入れています。

日本は農地に適した広大な国土を有しております。土壌が肥沃(ひよく)であり、しかも降水量が年間を通じて潤沢にあります。「狭い日本」というのはまったく誤ったイメージです。世界には日本よりも狭い国土でありながら、農産物の輸出大国である国は多々あります。日本は世界有数と言っても過言ではない素晴らしいポテンシャルを秘めています。

日本ができる「モノづくり」は電化製品や自動車だけではありません。農産物も次世代のメード・イン・ジャパンを担う「モノづくり」の主役です。

世界的にはまだ食料は不足しており、多くの子どもたちが飢餓に苦しんでいます。耕作条件の整った環境と国土を持つわが国が、農産物を増産することは全人類に対する義務であり、耕しても何も作ることができない乾いた土地に絶望する他国の人々に対する責務です。

その責務を果たす手段は、今回のようにメディアとの提携だけではなく、あらゆる可能性を追求していきたいと考えています。日本の農産物とそれを必要とする需要家をつなぐため、このプロジェクトではオープンなビジネスモデルで、参加者を広く募ってまいります。この構想のかなたには、わが国の高品質な農産物が流通するネットワークが世界中で構築され、それが日本のプレゼンスの向上と世界貢献の一助となることを願ってやみません。

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