インドネシアにおけるメタノール製造事業

双日株式会社
化学品本部 基礎化学品部 部長
有賀 謙一

2015年のASEAN市場の統合に向けて、インドネシアは、域内市場向けの自動車生産の拠点としてその重要性が増すとともに、域内最大の2億4千万の人口を擁し、経済発展に伴う「中間層」の拡大によって、中国に続く「消費市場」としても多くの日本企業から注目を集めております。また、親日的な民族国家であり、2013年は日本・インドネシア国交55周年に当たります。
双日は、原油・天然ガス・石炭・鉱物など豊富な天然資源を有するインドネシアにおいて、1970年代よりLNG事業などのビジネスを通じて長く関わってまいりました。現在では、LNG・石炭などの天然資源関連の事業の他に、化学品事業、複合都市開発事業、食品事業などを展開しております。


双日のメタノール事業


KMI社外観

双日のインドネシアでのメタノール事業は、1994年にKMI社(PT. Kaltim Methanol Industri)への一部出資とプロジェクトファ イナンス供与により開始いたしました。
メタノールは、基礎的な化学原料であり、合成繊維・高機能プラスチック・接着剤等の原料として用いられております。また、昨今燃料の代替としてのエネルギー用途への注目が急速に高まっております。
KMI社は、インドネシアで産出される天然ガスからメタノールの製造および販売をしている会社として、現在、同国で唯一稼働している会社です。製造開始した1998年に当社は85%を出資し、製造から販売までを当社主導で一貫して行うようになりました。
それまでの商社の事業は、メーカーや現地 パートナーと組み、少数株主の立場で事業参画することが主流でした。しかし、当社は、インドネシアにおけるメタノール事業の成長を自らが描き、推進していきたいとの意向を強く持つようになり、経営の主体となることを決断しました。
しかしながら、当社には製造業経営や工場操業における技術的知見・経験が不足しておりました。高い製造技術と工場運営で実績のある日本の化学品メーカーから多大なご支援を頂いたこと、また、当社のネットワークを駆使してインドネシアでの天然ガスを原料とした化学品の製造経験のある人材を獲得できたことが、安定操業の実現につながりました。


メタノール用途


苦難を乗り越えて


当社はKMI社への事業参画以前、米国より年間約10万t のメタノールを輸入し日本の化学品メーカーへ納入しており、海上輸送を含めたメタノールのトレード・マーケティングノウハウは蓄積していました。しかしながら、製造開始時はアジア通貨危機による影響で経済は冷え込み、メタノール価格を含む商品市況は過去最低水準まで落ち込んでいました。 年間製造能力は66万t でしたが、フル生産に至るまでさまざまな紆余曲折があり、3年という期間を要しました。
同時に当社がKMI社から引き取りを保証した40万t以上のメタノールを販売するために、輸出市場を開拓する必要がありました。メタノールを使用する業種は化学品メーカー・燃料メーカーなど幅広く、東奔西走いたしました。液体化学品であるメタノールの貯蔵タンク容量には限りがあり、販売ができなければ工場の稼働を止めなくてはなりません。余儀なく工場が停止し再稼働した場合、製品の品質悪化や生産コスト増加などの懸念があります。そのため「稼働を止めるわけにはいかない」その一心で、アジアを中心に駆け回り、顧客一社一社との信頼関係を築いてまいりました。
このように日本の化学品メーカーのご支援と懸命な販路開拓により、KMI社の操業、製品の販売も軌道に乗り、現在当社は年間約100万tのメタノールを取り扱うまでになりました。この取扱量はメタノールの世界貿易の約4%に相当、需要の中心地アジアではトップ3の実績を誇っており、KMI社は双日メタノール事業の根幹を成すまでに成長しました。


さらなる飛躍に向けて


当社はKMI社15年間のオペレーションで培ってきた製造業経営や工場操業の経験、ノウハウ、顧客との信頼関係などの「資産」を活かした新たなる事業展開を図ってまいります。その水平展開として第二のメタノール製造事業の設立や、垂直展開としてメタノールの下流事業の設立を目指します。双日グループのグローバルネットワークを活かし、トレード物流機能とメーカー機能の融合をコアに、世界のメタノール事業をけん引し続けます。

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