豊田通商グループが行う「木質バイオマス発電」のさらなる展開

豊田通商株式会社 ユニット機械部 部長職(株式会社エネ・ビジョン 代表取締役)
森田 孝

1. 豊田通商グループにおける「木質バイオマス発電事業」の位置付け

「木質バイオマス発電」は、持続可能な社会の実現に向け、豊田通商グループが展開している再生可能エネルギー事業の一つである。㈱エネ・ビジョン(以下、当社)は設立以来、企業のエネルギー確保に欠かすことができないとされる省エネルギー・高効率なコージェネレーションシステムの設計・建設・運用に取り組んできた。CO2削減という環境面の利点もあり、近年多くの企業が導入する中、当社は過去約10年間にわたり、トヨタグループを中心に国内外合わせて80社以上の納入実績を誇る。

東日本大震災以降、非常用電源などの自社確保を重視する機運が上昇し、追い風を受ける形で業績が伸びる中、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を活用でき、当社のプラント設計・建設・運用ノウハウを生かせる事業として、木質バイオマス発電事業に参入した。木質バイオマス発電は、製材や端材、木質チップなどを燃やして発電タービンを回すのが特徴であり、CO2フリー電源といわれている。木質バイオマス発電を手掛ける企業は、もともと製紙業や製材業といった「木」を入り口として参入している業種が多い中、当社はこれまで培ってきた発電やプラント設計ノウハウを生かし、より高効率なシステムの提案など、他業種とは別の視点でアプローチできると考えている。

2. 木質バイオマス発電所の建設・稼働状況


発電所全景

2013年6月に設立した島根県の「合同会社しまね森林発電」の江津バイオマス発電所が2015年6月3日に竣工し、同年7月1日から運転を開始する。年間発生電力は約8万6,000MWhであり、この発電所1ヵ所で島根県の全電力の約2%をカバーする計算である。また、2014年1月に愛媛県で「合同会社えひめ森林発電」を設立した。年間発生電力約8万7,000MWhの発電所が2017年12月に竣工予定であり、2018年1月の運転開始を目指している。

日本は国土の約3分の2を森林が占める森林大国なので、「木質バイオマス発電」は大きな発展の可能性を秘めているが、幾つかの条件を満たす必要があると考える。

①森林資源が豊富:
発電に必要な燃料が長期間安定的に確保できること

②河川から近い:
発電の際、水蒸気でタービンを回すために必要な工業用水が確保できること

③港が近い:
出力調整の目的に加え、万が一木材の供給が断たれたときのための燃料として、海外からヤシの種子殻を輸入し使用するため、港へのアクセスが良いこと

④送電線が近い:
①〜③を満たした上で、系統に接続可能な送電線が近傍にあること

島根県、愛媛県の当社のバイオマス発電所は、これらの点で優れているといえる。また、林業活性化の起爆剤となり、関連企業を含め、多くの雇用創出にもつながることから歓迎の声は大きい。次なる候補地として、競合企業も少なく森林資源も豊富な東北地方に注目しているが、冬場の積雪量などといった問題をどう考えていくかが今後の課題となる。林業活性化、雇用の創出につながる事業であるが故に、森林資源と労働力の確保、コスト面とのバランスが鍵となる。

3. 木質バイオマス発電所の将来性

木質バイオマス発電で燃やす木は、木材加工の際に出る、未利用間伐材などを木材チップにして利用する。「山にお金が返る」仕組みづくりが可能であり、発電所運転員といった直接雇用に加え、木材の切り出し・搬出・運搬など林業従事者としての雇用にもつながる上、インフラの活用といった地元への波及効果が大きい事業といえる。

日本は戦後復興の過程で木造家屋の建設が急速に進んだため、60年ほど前に大変な勢いで木が伐採され、その際に植えられた木がちょうど今、切り頃になっている。現時点では、当社が使用する燃料は国産材が大半を占め、一部輸入のヤシ種子殻などを混焼させる予定であるが、将来はこれを完全に国産材で賄えるようにしたい。国産材の需要の増加に伴い、間伐されずに放置されている荒れた山は守られ、林業者は安定した需要が確保できると期待される。

「木質バイオマス発電」は、大きな観点で山の営みに貢献し、持続可能な社会の実現に向け社会的意義が大きい事業と考える。実現可能な地域においては、できる限り案件を実現させ、日本の地方を活性化していきたい。



(聞き手:広報・調査グループ 藤田正)

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