空港制限区域内における自動運転の事業化に向けて

丸紅株式会社
航空宇宙・防衛システム部
太田峻介

1. AIRO株式会社の設立

世界の航空旅客需要は堅調に推移しており、国内においても訪日外国人旅客数(以下、「インバウンド」)は増え続け、日本政府は2020年までに年間4,000万人達成を目標としています。一方、インバウンド需要増加による航空発着便数の拡大と生産年齢の人口減少に伴い、空港での航空機離着陸時に必要な地上支援業務(以下、「グランドハンドリング」)の労働力不足が深刻な課題となっています。丸紅株式会社(以下、「丸紅」)と株式会社ZMP(以下、「ZMP」)は、労働力不足という課題解決に向け、丸紅の空港グランドハンドリング事業および航空分野におけるノウハウと、ZMPの自動運転技術の開発力と実績を掛け合わせ、空港制限区域内での自動走行車両を用いた自動運転サービスの事業化を目指し、2018年12月7日にAIRO株式会社(以下、「AIRO」)を共同で設立しました。

丸紅は、2006年にスイスポートジャパンを設立し、空港グランドハンドリング事業に参入しました。現在では、成田・羽田・中部・関西・福岡の国内主要空港にて事業を展開し、10年超にわたって空港内ビジネスのノウハウ・知見を蓄積してきました。その他、従来の航空機・エンジン販売や整備支援などの代理店ビジネスにとどまらず、エンジン開発投資や航空機・エンジンリース、部品売買、宇宙ビジネスなどへも進出し、堅調な旅客需要の成長が見込まれる航空分野の事業拡大に取り組んでいます。

ZMPは、ロボット技術をベースに自動運転開発プラットフォームRoboCar(R)シリーズや自動運転の統合コンピューターIZAC(R)などを中心に開発してきたベンチャー企業で、それらを自動運転車両管理システムなどとあわせて「自動運転プラットフォーム」として提供しています。さらに2014年に公道における実証実験を開始し、2018年8月には大手町~六本木間で世界初となる自動タクシーの営業運行を行うなど、都心部を中心に自動運転車両の走行試験を継続的に実施しています。また、日本初の宅配ロボットCarriRo(R) Deliの開発や実証実験を推進し、日本における自律移動技術開発の先駆者として「R&Dから量産へ」をテーマに自律移動技術の実用化に取り組んでいます。

2. 成田国際空港での実証実験

かかる状況下、国土交通省航空局はIoT・AI・自動化等の最先端技術を活用した「航空イノベーション」を推進する方針を示し、空港グランドハンドリング事業の省力化・自動化に向けた取り組みを加速しています。2018年6月には、空港制限区域内における乗員・乗客等の輸送を想定し、国内初となる「空港制限区域内の自動走行に係る実証実験(以下、「実証実験」)」を公募しました。2018年9月に丸紅とZMPは実証実験実施者に選定され、2019年1月28-30日の3日間、成田国際空港制限区域内において、第2ターミナルのサテライト付近にあるスイスポートジャパンのランプオフィスと整備地区を往復する約7㎞のルートで、ミニバン(トヨタ・エスティマ/乗車定員:7人)による実証実験を行いました。

実験車両はすでに公道で自動走行の実績がありますが、今回初めて実験が行われた空港制限区域内は公道と異なり、人や自転車の突然の飛び出しといった懸念が少ないため、自動走行を実用化しやすい領域とされています。しかし一方では、航空機をはじめ、トーイングトラクター、コンテナドーリー、トーイングカーなどの空港内特殊車両の存在など、空港独自の環境・交通ルールがあります。こうした空港制限区域内の特殊な環境の中、自動走行車両の実用化に向けた課題やデータ抽出を行いました。

3. 今後の展望

航空旅客需要の増加に伴う空港での人員不足は、世界中が抱える課題であり、バスを使った自動走行等多くの国と地域で実証実験が行われており、自動走行車両を活用したオペレーション実現に向けた動きが加速しています。AIROも2019年3月にも中部国際空港制限区域内において、国際バスラウンジからターミナル間の乗員の輸送を想定した自動走行バスによる実証実験を予定しています。貨物分野でのコンテナドーリーやけん引車の自動走行も視野に入れながら、空港制限区域内での自動走行車両および付随サービスの商品化・販売の検討に向けた取り組みを推進してまいります。


車両概観


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