ウラジオストク座談会「極東ビジネス最前線:極東から見る、ロシアと日本」

三井物産株式会社
三井物産モスクワ有限会社ウラジオストーク支店長
岩垂 英彦
住友商事株式会社
CIS住友商事会社ウラジオストク支店長
江畑 博文
双日株式会社
ハバロフスク駐在員事務所長
山崎 哲
丸紅株式会社
ウラジオストク出張所長
(司会)
永田 賢祐

事務局:本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。前回のロシア特集(2012年)から6年が経過し、ロシアを取り巻く環境も、日ロ関係も変化してきました。本日は、前回とは一味異なる、ロシア極東地域からの視点・ご意見をお伺いできればと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。


はじめに─ロシアとの関わり


永田(司会):本日司会を務める、丸紅ウラジオストク出張所長の永田です。まずはじめに、自己紹介を兼ねて、皆さんのロシア・極東地域との関わりについて伺います。私は1989 年に丸紅に入社後、1994 年から1999 年にかけて、コモディティ関係(繊維、食品等の物資)の営業でモスクワに赴任していました。その後大阪本社、インドネシア、ウズベキスタンへの赴任や東京での業務を経て、2016 年から再び2 回目の極東地域への駐在となりました。現在は、極東地域の3 拠店(ウラジオストク・ハバロフスク・サハリン)出張所長を務めており、極東のビジネスの全体を見る立場にいます。

江畑(住友商事):住友商事・CIS住友商事会社ウラジオストク支店長の江畑です。私は1981年の入社以来、主に石炭を扱うトレードに従事してきました。入社当初からロシアとの関わりが深く、日本への石炭積出窓口としてナホトカやウラジオストクによく足を運んでいました。今回は2014年7月から赴任しており、入社直後の語学研修を含めると4度目、通算12年が過ぎようとしていますが、直近の4年間では、日ロ貿易に波のような動きがあったと感じています。

山崎(双日):双日株式会社ハバロフスク駐在員事務所長の山崎です。私は1989年に入社し、現在まで一貫して木材を取り扱っています。1993年に初めてハバロフスクに駐在したのち、香港へ赴任しましたが、その後ロシアに戻り、イルクーツクやハバロフスクを見ていました。今回は2018年5月からの赴任で、ハバロフスクは3度目です。香港赴任時代もロシア関係を担当していたので、入社以来ロシアと関わっています。

岩垂(三井物産):三井物産モスクワ有限会社ウラジオストーク支店長の岩垂です。私は1986年に入社し、まずは営業会計としてソ連(当時)に機械を輸出する部門を担当していました。当時はカウンターパーチェス等のソ連特有のビジネス手法を学んだことを覚えています。1993年に語学研修に出て、1996年からモスクワに駐在、一度ドイツ駐在を経て、ロシアに戻りサンクトペテルブルク、ユジノサハリンスク・ハバロフスクを経て、現在はウラジオストーク支店長を務めています。ロシア駐在の各時期には大きな出来事があり(モスクワ赴任時-ロシア金融危機、サンクトペテルブルク赴任時-リーマン・ショック、ユジノサハリンスク・ウラジオストク赴任時-ウクライナ問題)、不思議な縁を感じています。

ロシア政治・経済の現状と見通し


丸紅株式会社
ウラジオストク出張所長
永田 賢祐 氏

永田(司会):続いてロシア全体の政治・経済の現状と見通しを伺いたいと思います。私見ですが、2014年のウクライナ危機以降、国内の景気はしばらく低迷していたものの、2017年から上向きになってきました。IMFによれば、成長率は1.5-1.7%となっており、「安定」基調にあるといえるでしょう。投資も回復しつつありインフレ率も4%以下、これまで2桁が通常だったのに、これはいい兆しではないでしょうか。一方政治の面では、プーチン大統領の再選もあり安定期といえますが、米国からの経済制裁という課題もあります。直接的な影響は限定的だとする見方もありますが、今後日本からの投資が縮小し、案件の創生が難しくなるのでは、と不安な見方も否定できません。

江畑(住友商事):プーチン大統領は再選直後に、八つの方向性((1)人口増加、(2)寿命の延伸、(3)所得と年金の増額、(4)不慮の事故(飛行機や洪水等)発生リスクの低下、(5)高い技術やイノベーションを持つ企業の増加、(6)世界経済トップ5への成長とインフレ率を4%以下にすること、(7)デジタル経済の進化、(8)工業・農業分野への人材投入)を示しました。制裁の影響は無視できないものの、今後の方向性が明確にされたことは評価します。ロシアにとって肝心要の油価が安定し経済が好転すれば、幾つもの方向性が実現される可能性はあると考えています。商社もこの方向性にのっとって、あれこれ検討できるのではないでしょうか。

永田(司会):油価の安定は、やはり欠かせないポイントですね。極東地域に関していえば、石炭価格も重要といえると考えています。

江畑(住友商事):資源価格以外でいえば、物流・港湾整備も経済成長のポイントでしょう。

山崎(双日):ロシア経済は世界から過小評価されていると感じませんか。世界銀行と国際金融公社(IFC)による世界のビジネス環境格付け「ビジネス環境の現状(DoingBusiness)」(2017年10月時点)では、日本は第34位、ロシアは第35位です。油価の変動などで経済が上向きになったとき、順位の躍進もあり得ます。また、油価以外にも江畑さん同様に物流の効率化がキーポイントだと考えています。広大な土地において効率的な物流が実現できれば、他分野においてコスト減につながります。木材に限っていうと、実はロシア国内でトラック輸送が発達し始めています。アムール地方からウラジオストクまで2日で輸送が実現し、遅延が当然だった頃から考えると、大変な進歩でしょう。さらに、バルク輸送からコンテナ輸送にシフトしており、物流の成長から目が離せない状態です。また北極海航路の開発も進んでおり、今までアクセスできなかったエリアや資源の到達が可能になると期待しています。一方、政治分野として江畑さんがおっしゃった八つの方向性のうち人口について申し上げると、現状維持が精いっぱいかと考えています。また国連によると、ロシアにおける平均寿命が78歳を超えるのは、2065年だそうです。人口問題と寿命・健康は密接するものだと思いますが、方向性の中では実現まで長い時間がかかるでしょう。

江畑(住友商事):トラック輸送の発達のためか、最近では道路整備も進みましたね。

山崎(双日):市内にできた橋も物流の効率化に貢献しています。いままではウラジオストク市内も渋滞が大きな問題でしたが、解消されているのではないでしょうか。こういった整備が進めば、必ず効果が出てくると思います。

岩垂(三井物産):経済については、一般的に制裁の影響が注目されていますが、制裁によって資源一本足打法だったロシアの産業が、農業や水産業にも大きな関心が向けられつつあると感じています。新しい産業の成長に日本企業もチャンスを見つけていけるのではないでしょうか。極東地域の位置付けにも関連しますが、当地は連邦政府管理下にあるエネルギー産業の勢いが強い半面、水産業などはまだ成長過程にあり、日本企業にとっても参入の垣根は低いと感じています。この分野に日本が協力しwin-winの関係を築くことができたらよいかと考えます。

永田(司会):私も岩垂さんの意見には賛成で、ポテンシャルの高いエネルギー産業は今後も大いに成長させるべきだが、地場産業に根差したビジネスを育てることが経済成長の基本だと思っています。例えば地場で生産した農産品をまずは国内で消費し、余剰を海外へ輸出する。インパクトは大きくないかもしれませんが、持続的な経済成長という観点ではこの基本構造が重要でしょう。

山崎(双日):最近驚いたのが、ロシア国内での電子商取引の成長です。大手国営銀行ズベルバンクで導入したeコマースが、急速に浸透しています。また、メッセンジャーアプリケーション「Whats App」もすさまじい勢いでユーザーが伸びている。この浸透力は規制が厳しい日本には見られないでしょう。まだロシア国内では規制が整っていないことも影響しているでしょうが、デジタルコンテンツを受け入れる柔軟性と、それを身に付ける能力にはとても驚いています。ここにも可能性を感じます。

岩垂(三井物産):2016、17年と当地で行われた東方経済フォーラムに安倍首相が参加され、ロシア、特に極東地域に来られる日本のお客さまが増えています。日本人のロシアに対する一般的なイメージは、必ずしも良いとはいえませんが、来ると印象が変わる人が多いのも事実です。人の交流が深まれば、商流にもよい効果が出ると思います。

永田(司会):確かにウラジオストク・ハバロフスクいずれも観光客が増えた印象がありますね。ノービザで入国できることや、毎日航空便があることも影響して韓国からの観光客が目立ちます。日本も電子ビザの導入によって増えてきていますが、まだ期待する余地はあります。ものづくりだけが産業ではありませんから、観光業・ツーリズムも今後の成長が期待できる分野でしょう。プーチン大統領の今後の6年間で、われわれが可能性を見る分野をどう引き伸ばしていくのか、そして経済をどのようにハンドルしていくのか、注視する必要があります。

極東開発の現状と今後の展望


住友商事株式会社
CIS住友商事会社ウラジオストク支店長
江畑 博文氏

永田(司会):次に、少し焦点を絞り、極東地域についてご意見を伺いたいと思います。

江畑(住友商事):過去2年間で、日ロ両国が官民を挙げて極東地域に再び注目している状況を実感しています。ロシアにおける案件組成に関して、外務省・経産省の方々の他に、農林水産省や国土交通省の方も視察に見えられるようになり、ロシアの可能性にかける期待の変化を感じています。一方で、極東地域は欧州部と異なり地場産業・企業同士の結束が強く、漁業・林業分野では一族経営から発展した企業が多数存在します。そのため、モスクワからの新規参入が非常に難しく、ブランド企業の進出には時間がかかっています。例えば、期待分野の観光業でも、ホテル等宿泊施設の整備が喫緊の課題ですが、難航する外資系ホテルの進出は、ぜひ実現させてほしいですね。政治面では、極東や沿海地方は現政権「統一ロシア」への投票率がロシア西部に比べて低く、共産党への投票率が比較的高いという傾向があります。懸案の極東開発に関しては、規模と時間軸において日ロ両国の認識にずれが生じつつあるのではと懸念しています。ロシア側は、短期的で大規模な投資を期待していますが、日本側には十分に応えきれない要因があるとも感じますので、温度差を縮めていくことが課題でしょう。

岩垂(三井物産):中国とロシアの関係性は大きな流れの中で改善しており、中国東北三省の市場開拓について、今後極東地域が窓口になる可能性が高いと思われます。一方で、日本企業がロシアへの投資を考えるときに、極東が第一の選択肢とならないのは、その人口密度の低さが理由として挙げられます。現状、商売をするという観点で、魅力度が低いと感じる企業もいるでしょうが、効率的な物流に向けた改善もあり今後マーケットとしての魅力が大きくなってくると期待をしています。

永田(司会):東方経済フォーラムもあり、確かに経済発展・投資促進等が注目されているように伝えられているが、極東地域自身が産業政策を重要視しているのか疑問を持つこともあります。連邦政府の思惑と、現地、現場が考えている実利の認識がずれて、商社や日本企業のプロジェクト推進がなかなか進んでいないのかなと感じる面もあります。

山崎(双日):極東地域は、寒さ・広さを見てもそもそも不利な条件を背負っている地域でロシア国内の他エリアに比してコストはかかってしまうでしょう。だからこそ、政府の極東開発への姿勢と支援は重要であり、われわれが進出するための前提だと考えています。

岩垂(三井物産):連邦政府支援は産業への直接的な補助金である必要はないと感じています。むしろ、これまでのような一定期間の税金軽減策では、持続的な日系企業の進出は期待できないのではないでしょうか。先に話の出たインフラ整備を進め、当地に進出したいという企業を増やすことが必要だと考えます。

永田(司会):これまでの議論を踏まえても政府補助を強化してほしいという気持ちもあるが、要となるインフラ整備が極東への企業誘致には必須という意見が総意のようですね。

江畑(住友商事):インフラ整備から派生して、電気・ガス・水道といった、「住みやすさ」の面でもインフラを整えてほしい。当地では電気代がかさむという悩みもあり、再生エネルギーにも関心が高まっているのではないでしょうか。

山崎(双日):アムール地方に行くと、小型の太陽光パネルがたくさん並んでいる様子や信号機の上部に小さな太陽光パネルが取り付けられている様子も見受けられますね。これも最近の潮流といえます。

岩垂(三井物産):当社では、カムチャツカとサハ共和国で風力発電実証事業を手掛けています。一般的に風力発電など再生エネルギーはコストが高いといわれていますが、送電網につながっていない遠隔地へ発電燃料を運ぶ等の一連のコストと比較して、持続可能性がある再生エネルギーを導入する動きがあります。カムチャツカでもこれまではディーゼルを使用していた地域で、最近風力発電を試験導入することになりました。極東では地方政府がモスクワやサンクトペテルブルクに比して好天日数が多いことをうたって、太陽光発電を導入している地域もあり、今後の可能性は十分にあるでしょう。

永田(司会):極東地域の再生エネルギーの拡大事業を見るに、電力事業関連も政府レベルで制度が整備されれば日本企業の参入機会も増えると見込めますね。

日ロ関係の現状と今後の展望


三井物産株式会社
三井物産モスクワ有限会社ウラジオストーク支店長
岩垂 英彦 氏

永田(司会):先ほど江畑さんがおっしゃっていましたが、日ロ両国間で極東地域への投資に対する温度差があるのは確かだと思います。

山崎(双日):制裁の問題で投資はやはり難しくなっているという印象はある。今後拡大することも懸念の一つです。一方でロシア国内では、ソ連建国以来75年近く制裁を受けている歴史的背景があるためか、あまり危機感を持っておらず、日ロ間で現状に対する見方の違いがあるように見えます。

岩垂(三井物産):確かに今はビジネスには簡単ではないタイミングですが、当社としてサハリン2の経験を踏まえて、どこから大きな案件が発掘されるか分からないという期待を持ってロシアを見ています。冒頭申し上げた通り、これまでの赴任経験では、厳しいといわれる状況において発掘される案件や動き出す案件もありました。その背景には、難しいタイミングだからこそ隣の友人(=日本)に助けを求めるロシア側の姿勢があります。マクロで見れば厳しい状況に変わりありませんが、ロシアにおける日本に対する信頼感は依然として高く日本企業にとって進出を控えるべきタイミングではないと考えています。

永田(司会):成功体験という点でいえば、住友商事・サミットモーターズの事業も同様でしょう。VVO(ウラジオストク)で25年続くという継続は力なりの事業かと見受けられる。制裁を受けている現状や今後の不透明感を踏まえると、短期的に事業を回していくことが賢明という見方もありますが、そういった長期的な視点も必要ですね。

山崎(双日):極東の親日レベルは高く、日本の技術に対するリスペクトが非常に大きい。一方で、中ロ関係が良くなってくるとロシア人の中国に対する見方が変わってきたように感じています。ビジネスの進め方も中国は日本に比べて規模が大きく、決裁も早い。中国に対する親しみが増しています。また中国からロシアに対する印象も以前ほど悪くなく、さらにいえば、プーチン大統領の好感度が高い。これだけ中ロ関係が深まってくると、日本が取り残されていくのではないかという不安も抱いています。

江畑(住友商事):当社の事業会社であるテルネイレス社も現在中国に木材を輸出しています。やはり中国のマーケット規模は大きく、ロシア・極東におけるビジネスでも、中国抜きでは語れない印象があります。

永田(司会):日ロ・中ロに限らず、二国間連携には限界もあると思います。今後は中国、韓国など第三国との複数国での連携の可能性も追求すべきではないでしょうか。当社のヴォストーチニー港湾建設事業でも、主要基幹製品は日本から供給していますが、中国で生産されて納入している資機材も多いです。障壁はもちろんあるが、共同事業の可能性は今後も模索していくべきでしょう。

極東地域でのビジネス展開

永田(司会):今回集まった商社の中でも、三井物産さんについては、ロシア・極東地域で一歩リードされている印象を持っています。

岩垂(三井物産):当社の極東ビジネスの「いの一番」は、やはりサハリンでのLNG事業です。同事業への支援は拡張も含め強化していく予定です。エネルギー以外の分野ということでは、農業でも日本向け輸出にトライしています。ロシア産品が日本市場を席巻するといった予想はしていませんが、細かなニーズに応える姿勢で臨んでいます。その他、風力発電案件等は昨今の良好な日ロ関係の下、トライアルで展開しています。

永田(司会):第1次産業である農林水産業が基本だという考えが見受けられます。当社もその点に同様の視点を持って極東発のビジネスを生み出し、育てていけないかと日々思案しているところです。

山崎(双日):今回の赴任において、当社は木材の他、農業、漁業、観光業において、新規事業を開拓するミッションを負っています。特に観光についていうと一般的には「買い物と食事」がキーポイントでしょうが、残念ながら極東地域は充実していません。また観光客をつかむようなお土産もまだ少なく、開発の余地があります。レジャーはバリエーションもあり、日本からの近さも魅力ですので、今後力を入れられる分野だと思います。

岩垂(三井物産):サハリンにもレジャー施設があるし、日本のスーパー銭湯に近いものも進出しています。こういった楽しみ方があることをPRすれば公衆衛生などの整備も後押しされるのではないでしょうか。

江畑(住友商事):1991年ソ連崩壊によって、極東地域の市場が開放されました。当社は、当時いち早く進出した商社の一つです。2011年にCIS住友商事会社として現地法人化し、25年の歴史の中で、大きく三つの事業を行ってきました。一つ目がプラスタン村の木材加工業。日本の四国の1.5倍以上の面積で、樹齢100年の木を伐採しています。森の再生機能を利用することで、100年後には一巡してスタート地点に戻ってこられるという循環サイクル型の事業です。次にトヨタ車・レクサスの販売代理店であるサミットモーターズをVVO(ウラジオストク)とKHV(ハバロフスク)で展開しています。そして、三つ目がKHVを中心とした、コマツの建設機械販売です。これら三つの他、ダンロップのタイヤ販売等も展開しており、極東地域の優良な資源開発に間接的に関与してきました。昨今では、ロシア極東新型特区の設置が進んでいますが、当社はそれ以前から良い商品にバリューを見いだして積極的に支援し、地場産業の発展につなげてきました。この姿勢は、今後も継承していきたいと考えています。

山崎(双日):これまでロシアで木材ビジネスが長く進められてきた背景にはロシアの森林が日本から高い評価を得ていることが挙げられます。ロシアの森林は、林業の国際的な森林認証(FSC森林認証、PEFC森林認証)を受けており、環境保全に配慮し、地域社会の利益にかなった、持続可能な森林管理が行われています。

永田(司会):ロシアでは林業だけでなく、水産業等でも天然資源に配慮した取り組みが進められている一方で、石炭採掘では粉じんが問題視されており、環境規制がまだ追い付いていません。極東においてターミナルの閉鎖型システムの導入が一層推奨されていくことになるでしょう。沿海地方政府からも、現状、推進に当たりサポートを得られております。ロシアの環境規制に沿ったビジネスが求められていくのではないでしょうか。

岩垂(三井物産):きっちりした規制、認証の取得義務など、ロシア社会が変わってきている印象もあります。市民も外部の新しい品物を取り入れることに少なからず抵抗感はあるかもしれませんが、良い品質のものを作るために外国のものを取り入れるという寛容性を備えてきつつあるので、この点で日本企業参入の可能性はあると考えています。

期待・展望


双日株式会社
ハバロフスク駐在員事務所長
山崎 哲氏

永田(司会):それでは最後に、皆さんのロシアビジネス・極東ビジネスに対する期待・展望をお聞かせください。

江畑(住友商事):個人的には、極東ロシアと限定してしまいますと5-10年先と現在では大きな変化はないのではないかと考えています。だからこそ、東アジアを含めた東部ユーラシア経済圏といった構想が実現されることを期待しています。物流の課題を解決できれば、モノや人、お金の自由な往来が増え、地域の結び付きも強まるでしょう。また先ほどの話にもあった通り、ロシアの高いイノベーション力が今後世界に向けてどのように発信されるか注目しています。イノベートされた分野に日本が協働することができれば、日ロ両国にとって大きな利益となるでしょう。

山崎(双日):ロシアの最大の課題は、物流の効率化です。当社としては、北極海航路を含め、まだアクセスできていない地域・資源に接近できるという期待を持っています。またデジタルコンテンツへの柔軟性や普及の速さという点に大きな可能性を感じています。これらをビジネスにつなげられたら、新しい日ロ経済交流が生まれるはずです。

永田(司会):私も、インフラ整備とイノベーションに期待する一方で、人口増加も経済成長の要素だと考えています。極東連邦管区はロシアの3割以上の国土を占めているにもかかわらず、人口は620万人で、毎年減少しています。昨今極東が注目されているとはいえ、人口流出していては政府間で期待されている発展は難しい。だからこそ、社会保障制度を充実させ、人口拡大に向けて一手を打つべきです。数は力とは言ったものですが、人口が増えればインフラ整備・イノベーションの開発も一層進むと信じています。

岩垂(三井物産):稚内とサハリンの距離を考えると、実はロシアは日本にとって最も近い外国です。相対的に日本ブランドの勢いは下がってきているという意見もありますが、極東地域との距離や、日本人への親しみの高さを考えると、双方がwin-winの関係を築くことができるビジネスの可能性はまだ高くあるといえます。イノベーションの分野、農林水産業、それぞれの可能性を見いだし日系企業に橋渡しすることがわれわれ商社の責務でしょう。

永田(司会):当社を含め、ロシアに対する期待や親しみ、ある意味で愛情のようなものを感じさせられる討議でした。本日は長時間にわたりどうもありがとうございました。

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