体験! オクトーバーフェスト!

兼松ドイツ会社 社長
荒井 麻理子

筆者

兼松はドイツに現地法人を開設して2017年で60年となりました。その社長として、2014年夏よりデュッセルドルフに赴任しています。ドイツ生活も、はや4年目となりますが、ドイツ人の、ルールにただ従うのではなく、良心・モラルを優先した行動が多いところに感動したり、一方、電車が時間通りに来ないとか、一度壊れたインターネットは直るまで1ヵ月とか、社員の休暇の取りっぷりにびっくりしたり、日本との違いにいまだに新鮮な気持ちを抱く日々です。
そんな中で唯一というと大げさですが、予想通りだったのがドイツのビール事情(飲みっぷり!)です。ビールの祭典「オクトーバーフェスト」体験記です。

オクトーバーフェストとは?


世界の酔っ払い大集合。9割くらいは民族衣装

オクトーバーフェスト、あたかも10月のお祭りのようですが、実際には毎年9月の半ばから10月第1日曜日までの16日間 (年により10月3日までの18日間となるケースもあります) のみミュンヘンで開催される、世界最大規模のお祭りです。参加人数はなんと600万人! 10月に、ワインのボージョレ・ヌーボーのような初物を味わうお祭りなのかしら?と思っていたのですが、その歴史は1810年に行われた当時のバイエルン王国王太子の結婚を記念した催し物にさかのぼります。

トリビア

オクトーバーフェストトリビア集から面白い数字を幾つかご紹介しましょう。

建物、遊園地、全てが仮設です。42ha、サッカーフィールド60面分の更地に、ビール会社が巨大なテントをこの16-18日間だけのために建てます。テントといっても、木造の、まるで巨大な体育館のような建物で、ひとつのテントだけで中とテラスの座席数を合わせて2,500から1万900席。床面積は4,000m²から7,000m²程度だそうです。日本の標準的な高校の体育館の面積が1,000m²程度ですから、どれだけ大きいかご想像いただけるかと思います。そんな巨大な建物、「仮設」にもかかわらず建築に90日かかるそうです。ちなみに取り壊しにも1ヵ月かかるとか。

2017年は14もの大テントが建てられます。日本では、全国どこに行っても同じ大手ビールメーカーのビールを飲むことができますが、ドイツは地域ごとに特徴のあるビールを造っており、どのテントもバイエルン地方のビール会社の設営です (一つだけワインテントがあります) 。ミュンヘンでデュッセルドルフ名物のアルトビア (上面発酵の黒いビール) を飲みたいなんて言うとおそらく白い目で見られます。

オクトーバーフェストのビールは普通のビールよりも若干アルコール度数が高く、1Lジョッキに入り、1Maß (マス) という呼び方をします。重くて持つだけで一苦労。そんな1Lビールが750万杯飲まれるそうです。

600万人といわれる入場者には遊園地目当ての家族連れも多いのですが、ビール目当ての人が訪れるテントの中だと、1杯1Lのビールを1人2-4杯は飲んでいるようにみえます。でも、なぜかトイレにあまり並びません。何しろテント自体が巨大なのでなかなかトイレにたどり着かないのですが、長い列ができていることはほとんどありません。ドイツ人、膀胱が大きいのでしょうか?

ここ数年、飲み過ぎへの規制が厳しくなり、なんと、一気飲みをすると即退場!です。2016年ですが、おそらく観光客と思われる女性がテーブルの上に乗り、一気飲みを始めたら、警備員に両腕を取られテントの外に連れていかれていました。「一気飲み禁止」というのがドイツ語の表示だったので外国人には分からないのです。皆さまもご注意を。


衣装にも縛りあり


ミュンヘン事務所のメンバーと (中央が筆者)

日本でも最近花火大会には浴衣がトレンドですが、オクトーバーフェストでも、民族衣装が大ブームです。この10年くらいの現象とのことですが、大体9割くらいの人が民族衣装を着ている印象です。女性は胸元の大きく開いたワンピースDirndl (ディアンドル) 、これまた胸を強調したブラウス、エプロンの3点セットが基本。どうも日本人とドイツ人、骨格が違うのか?胸に合わせるとウエストがきつく、ウエストに合わせると胸が余る、という悲惨な状態になりがちですが、これを着ないでは気分が盛り上がりません。デパート、衣類量販店、スーパーから雑貨屋さん、ミュンヘンのみならずデュッセルドルフでも多くのお店で8月の終わり頃からこの衣装を売り始めます。この数年の間でも、売るお店がかなり増えてきたという印象です。日本でも、昔は呉服屋さんでないと買えなかった浴衣が、今では衣類量販店で買えるようになったのと似ているように思います。

女性用の衣装は、元々は青、赤、緑、黒といった、それこそ中世ブリューゲルの絵に出てくるような色合いがメインでしたが、2017年のトレンドは、つやのある生地、薄いパステルカラーのワンピース、レースのブラウスとエプロン、そしてスカートから少しのぞかせるペチコートだそうです。そういえば2016年のトレンドはハイネックのブラウスでした。毎年トレンドを発表するとは、いずこも商魂たくましく、恐るべし小売業界というところでしょうか。なお、男性は赤、青といったベーシックな色のギンガムチェックのシャツに、皮パンツです。皮パンツも膝丈、膝下丈と流行があるようです。ただ大体の男性は何年も同じものを、洗わないで着続けるそうです。怖くてにおいをかげません。絶対にビールや何かが染み付いているはずです。


民族衣装のチラシなど

オクトーバーフェスト、実は男女出会いの場でもあるのでは?と想像しています。というのも、上述の女性用民族衣装ですが、エプロンのリボンをどこで結ぶかによって、独身・彼氏募集中、既婚・彼氏あり、が分かるようになっているのです。着用する女性から見て右にリボンは既婚・彼氏ありですが、左にリボンは彼氏募集中の意味となります。時々、おそらく海外の観光客だと思うのですが、結婚指輪をして男性と手をつないでいるのにリボンが左だったり。これはまずいですね。また後ろにリボンはウェイトレスさんまたは未亡人の意味になってしまいます。ピンクや水色のかわいらしいミニのDirndlを着た、若い女性が3-4人で、当然リボンを左にして歩いていると、男性グループからよく声が掛かっています。事実なのか冗談なのか不明なのですが、翌年の初夏の頃、大量に赤ちゃんが生まれるという話も...。


予約は大変


巨大な14のテントと小さなテントを合わせ総座席数は11万あるにもかかわらず、予約はかなり難しいです。3-4人であれば、平日の昼間にふらっとどこかのテントに入って座席を見つけることは比較的簡単です。テーブルに、この座席は17:30から予約が入っています、と書いた紙が貼ってあれば、その時間まではそこで飲み食いOKです。

各テント、1月半ばからオンライン予約の受け付けを開始しますが、その段階で金土日の夜は予約でいっぱいになります。どうも毎年そこでお客さまを呼び会食をする会社や同窓会など、リピート顧客でほとんど夜の座席は埋まってしまうようです。2017年はなんとか日曜日のお昼に10席の予約を取ることができました。やったー! あとは請求書が来たら支払いすればOK?なんて思ってたら甘かった。仮予約のメールが来たのが3月末。当然ドイツ語です。Google翻訳を駆使して読んだところでは7月に請求書が送られてくるはずでした。7月に入り、そろそろ請求書が送られてくるかな?と待っていましたが何の連絡もありません。私の予約したテントの場合、請求書は発行されず、毎年発表される「今年のビールの単価」を自分で調べ、予約席数×2杯で計算し、さらに予約席で買うべしとされる数量のお料理バウチャー分と合わせ、ミュンヘンにあるテント設営ブリューワリーの事務所にお金を払いに行かないといけないのでした。当社ミュンヘン事務所の日本人およびドイツ人スタッフの力を借りてなんとか予約・支払いの完了までたどり着くことができましたが、ドイツ語のできない日本人駐在員には果てしなく高いハードルでした。ちなみに2017年のビール代 (1L) は、1杯ほぼ10€です。


盛り上がるテント内


中央ステージのバンド演奏がテント内を盛り上げます

チケットを買い、衣装を準備し、あとは飲むだけです。テントに予約時間に行くと、座席が用意されています。長いテーブルにベンチ、クッションもなく、座り心地は全く良くありません。お昼の予約は11:30頃から16:30頃までです。重い1Lビールで乾杯、お料理を食べているとだんだん音楽が大きくなってきます。

巨大体育館の真ん中に、ちょうど盆踊り大会のやぐらのように高くなったステージがあり、そこでバンド・歌手のコンサートが始まります。流れる曲は、オクトーバーフェストにつきものの、ドイツ語の乾杯の歌のようなものが15分に1回くらい、そのたびに全員で乾杯です。その他は懐メロ系ともいえるクイーンやらアバやら、アラフィフ以上に親しみのある音楽が大音響で流れます。英語の歌とドイツ語の歌が半々ぐらいでしょうか。最初は座って大声で合唱していたお客さんも、時間がたつうちにベンチに乗って踊りだします。クッションが置けない理由が分かりました。


会場内には移動遊園地もあります

座席の上で踊りだす頃にはもう皆さん基本的にデロデロに酔っぱらっています。近くの座席のドイツ人と交流も進みます!? たまたまかもしれませんが、隣の席にミュンヘンの人がいたことはありません。チューリンゲンのおじさん・おばさんたち、デュッセルドルフの若者グループ、また米国人の家族連れとか。地元の人よりも観光客が多い時間帯だったのかもしれません。

2015年はちょうど後ろの席が、妙齢の美人ばかり10人グループ。そこに入れ代わり立ち代わり男性グループが寄ってきていました。


どこの町でも


ここ数年、あちこちの町でオクトーバーフェストと銘打ったビール祭りが開かれるようになっています。2016年はマンハイムの取引先から、会社のみんなでオクトーバーフェストに行ったと聞き、ミュンヘンまで社員旅行かと思ったら、なんとマンハイム近郊で開催されるオクトーバーフェストへの参加でした。写真を見せてもらいましたが、ミュンヘン同様、全員民族衣装で酔っぱらっている状態でした。

インターネットで「あなたの町のオクトーバーフェスト」と検索すると、ベルリン、フランクフルト、ハンブルクなどドイツ中で開催されていることが分かります。どの地域でも基本はミュンヘンの雰囲気、ビール、食べ物なのですが、ケルンの場合はなぜかスポンサーがケルンのブリューワリーで、出てくるビールもケルン独自のKölsch (ケルシュ) ビール。ちょっと違うかもという気もします。デュッセルドルフ近郊のノイス (Neuss) という町の公園でも9月末から1週間ほどライニッシェオクトーバーフェスト (Rheinische Oktoberfest ライン川地域のオクトーバーフェスト) が開かれるようです。9月から10月にかけてドイツをご旅行の際は最寄りのOktoberfestを探して参加するのも面白いかもしれません。


テロには負けない


ここ数年、欧州のあちこちでテロが起きていますが、ドイツ人はそんなことに負けてお祭りを中止するようなヤワな国民ではありません。とはいえ警備は非常に厳重で、今まではどこからでも出入りできた会場が、2016年から、ほぼ全面壁で覆われ、入り口で全員荷物チェックがされるようになりました。持ち込める手荷物も小さなバッグ程度までです。入り口に荷物預かり所ができています。

日本でもいろいろなところでオクトーバーフェストが行われていると聞いています。帰国後はぜひ行ってみたいと思います。ドイツ民族衣装を着て盛り上がっている中年女性がいたら、それは私かもしれません。みんなでProst! Prosit! 乾杯!

体験! オクトーバーフェスト! 誌面のダウンロードはこちら