シカゴ −多彩な魅力を持つ街−

日鉄住金物産米州会社
副社長
中野 武紀

ビーン


1. はじめに


私たち日鉄住金物産米州会社は、2014年1 月に旧日鐵商事米国現法と旧住金物産米国現法が統合し発足いたしました。2015年4月には新本社事務所をシカゴ郊外(シャンバーグ市)へ統合移転いたしました。米州現法は鉄鋼、食糧、産機インフラの3事業部門からなり、シカゴを本社としてロサンゼルス、ヒューストン、ピッツバーグおよびメキシコ市に拠点を有しています。
また事業会社としてオハイオ州に自動車部品メーカー、ブリキ製造会社、ケンタッキー州およびテネシー州にサービスセンター、メキシコのアグアスカリエンテス州にはサービスセンター、自動車部品メーカーを展開しております。
私はテキサス州ヒューストンを経て2013 年10月からイリノイ州シカゴで勤務しています。本稿では現在の勤務地でありますシカゴについてご紹介させていただきながら、内側から見る米国、シカゴに少しでも興味を持っていただければと思います。


2. 米国内陸で最大の都市シカゴ


夏のミシガン湖畔

シカゴはミシガン湖西岸に位置し、19世紀に造られた五大湖をつなぐ運河と鉄道により物流の中心地として発展しました。ミシガン湖の水をくみ上げていたウオータータワーを除き市街の全てを消失した1871年のシカゴの大火までは農産物、畜産物の集積地でありましたが、大火以降は鉄筋構造導入による高層建築ラッシュと工業化が主流となりました。中でも20世紀に入りシカゴ地域(実際にはミシガン湖南部沿岸)で発展した鉄鋼業の背景には発達した鉄道輸送網があり今日に至っています。
その歴史の中でも日本との関わりは、1893 年に開催されたシカゴ万国博覧会ではないでしょうか。当時の日本は宇治平等院を模した鳳凰(ほうおう)堂を博覧会会場に実際に建設し、その美しさで大きな賞賛を得ました。鳳凰堂はしばらく存続しましたが、残念ながら1946年に焼失してしまいました。その後、1992年にはシカゴと姉妹都市である大阪市によりその跡地に日本庭園が再整備され、大阪ガーデンとなりました。現在は修繕のため見ることができませんが、一方で日米親善のシンボルとして新しいコンセプトでの鳳凰堂の再建計画も進行しており、近い将来、新しい姿を見せてくれるものと楽しみにしています。 
全米規模では近年ヒューストンに抜かれ米国第4位の都市ともいわれますが、内陸部では依然最大の都市であります。ダウンタウンの景観は市内を流れる運河に今でも稼働する跳ね上げ橋が架かり、19世紀から建つ高層建築と近代の超高層建築ビルそして緑が調和した美しく活気のある都市を形成しています。


3. シカゴの魅力


リグリーフィールド

筆者の周りのシカゴで生まれ育ったシカゴアン(Chicagoan)たちは最後には必ずシカゴに帰って来ると言います。米国では一般にも郷土に対する愛着には強いものを感じますが、シカゴアンを引き付けて離さないシカゴの魅力とは何なのか、シカゴアンたちに聞いてみました。
シカゴアンたちはシカゴには全てがそろっていると言います。
まずは気さくで明るい良い住人たちとおいしい食事。
そして文化では美術館、博物館、オーケストラ、オペラそしてジャズが挙げられます。夏季には芝生に座り家で作った料理を持ち寄りとっておきのワインとともに一流の音楽家の演奏が楽しめる野外ホールが人気です。
学術では82人のノーベル賞受賞者を輩出したシカゴ大学、ビジネスなどで全米トップクラスのノースウエスタン大学をはじめ多くの教育機関があります。しかしシカゴは内陸という地域性からか日本からの留学生が西海岸や東海岸に比べとても少ないことが残念です。
プロスポーツではアメリカンフットボール、野球、バスケットボール、アイスホッケー、女子ソフトボールもあります。また今まで多くの偉大なプレーヤーたちがシカゴで活躍してきました。シカゴのアメリカンフットボールチームはベアーズですが、全米で2番目に古いチームでありとても人気があります。野球はカブスとホワイトソックスです。今日(本稿を執筆している10月12日)はカブスがカージナルスに勝利し、リーグ優勝戦進出まであと1勝と王手をかけたところです。シカゴ市民は108年ぶりのワールドシリーズ優勝を目指し大いに盛り上がっています。
その他のスポーツも盛んです。つい先日もシカゴマラソンが開催されました。テニスコートは住宅地の中に多くあり、冬季でも使えるインドアの施設も充実しています。ゴルフでは伝統格式のある名門コースから気軽にできるパブリックコースも数多くあります。ゴルフのシーズンは5月から10月の半年でありますが、オールベントの芝は美しく米国人にとってゴルフはとても身近なスポーツであり、休日には家族でラウンドしている姿も珍しくありません。
交通インフラも充実し、シカゴのオヘア空港は8本の滑走路を持ち全米各都市を結ぶ巨大なハブ空港です。発着回数は世界で最も多く1日2,400便以上に及びます。(しかし冬季は厳しい天候に影響を受けるためスケジュールに注意が必要ですが…)。また中部時間帯であることから東部(+1時間)、西部(−2 時間)とも連絡しやすく、メキシコなど中米諸国と同じ時間帯であることも便利な点の一つです。
もう一つ忘れてならないのはシカゴを舞台とした映画が数多く撮られてきたということです。その中でシカゴは時に恋愛ストーリーの背景として描かれたり、そうかと思えば「アンタッチャブル」などでは暗黒街として描かれます。今ではマシンガンを構えたギャングたちは過去のものとなっていますが、映画の中で映し出される1920年代の光景は今でもシカゴの街の日常の中で見つけることができます。


4. シカゴの生活・教育環境


シカゴループ

シカゴの住宅地域は広範囲に及びますが、その中でも日本人居住地域は、ダウンタウンとサバーブと呼ばれる郊外とに大きく分かれています。ダウンタウンには金融等の企業が多く、郊外には製造業等が多く立地しています。通勤はダウンタウンから郊外、郊外からダウンタウンへの移動が同時に発生するため、ハイウエーは朝夕双方向で流れが悪くなります。旅客鉄道はダウンタウンの中で環状になっており(シカゴループ)、そこから放射状に路線が延びています。ダウンタウンの域内、ダウンタウンを起点とした移動にはとても便利です。
日本人駐在員はシカゴ郊外のアーリントンハイツ市周辺に多く居住しています。これは日本人学校および現地校へ通う生徒のための補習校とシカゴ地域の数少ない日本食材が手に入るスーパーマーケットに近い地域であるためと思われます。このスーパーマーケットへはシカゴ在住の日本人のみならず周辺のオハイオ州、インディアナ州在住の日本人も週末に買い出しに来ています。
筆者はシカゴ郊外に居住し、子女は現地の高校へ通っています。ここで少し米国の教育事情に触れたいと思います。
米国の高校は義務教育であり、入学できる学校は居住区で制限されます。その結果、名門校学区域は人気居住地域となり、比較的所得の高い地域住民が形成されることになります。また逆の現象もあり、米国での社会問題と認識されています。幸いシカゴにおける日本人の多く住む地域には名門校が多く、英語を母国語としない生徒のためのESLコースも充実しています。
始業は早く、学校によっては7:30AMから授業が始まります。1時限は50分ですが、次の授業との間の休み時間は5分しかなく、教室を移動するだけで終わってしまいます。これは学校内での自由な時間を制限することによって、特に薬物等が生徒間にまん延しないようにすることが狙いであり、米国の深刻な一面です。
しかしながら教育システム自体は充実しています。生徒はiPadの支給を受け授業から宿題までiPadが活用されています。教師も効率的に授業を行えるようにiPadの活用をよく研究、工夫しています。
学校と父兄のコミュニケーションにもIT は積極的に取り入れられています。学校は父兄、生徒共通のサイトを運営し、そこでは授業の進度、生徒に課された課題や宿題の内容から提出状況までが各家庭に公開され確認できるようになっています。またオープンスクールといって生徒の受ける授業を15分に短縮し、父兄も生徒と同じ時間割を疑似体験します。そこで科目の担当教師は、教育方針を説明し父兄から意見、質問を受けます。日頃からの父兄と各担当教師とのコミュニケーションも推奨され、学校と家庭が協力しながら教育を施していくという考え方が実践されています。もしかすると日本の教育現場でも参考になるものがあるのかもしれません。


5. シカゴの四季


冬の道路事情

2015年の夏は前半の天候不順から始まりましたが、終わってみればとても爽やかな夏でした。そして今、シカゴは短い秋も終わりに近づき、冬がすぐそばまで来ています。郊外の木々は葉の色を変え落ち葉が風に舞っています。シカゴの緯度は函館とほぼ同じですが、真冬の気温はデータによれば函館よりも低いようです。2012年の冬はとても厳しく零下40℃という超低温を記録しました。
冬はこのような氷点下のなか、年間累計1 メートル程度の降雪もあります。その中で移動手段は自動車が中心となりますが、降雪に対する道路対策には独特なものがあります。本当に小さな私道を除き降雪があれば地域全域に除雪車両が出動し除雪および融雪剤(凍結防止の塩)が大量に散布されます。これにより路面は凍結することがなく、氷点下の気温の中でも、路面は雨上がりのような状態を維持し、特に雪道用のタイヤなどを使用せず走行します。しかし過信は禁物であることは言うまでもありません。また路面の痛みは激しく、春先には路肩にぽっかりと穴が出現しパンクには要注意です。
4月に雪が解け5月には新緑に包まれます。シカゴ郊外は自然豊かであり、暖かくなれば野生動物も出てきます。シカゴはスカンクの分布地域に位置しており、日本人の居住地域にもスカンクが多く生息しています。スカンクの臭いは非常に強く、想像以上です。散歩中の犬が臭いを浴びると専門家による除臭をしなければなりません。また動きが遅いので車でひいてしまうこともありますが、その臭いは車内まで充満し、それは大変なことになってしまいます。
これから筆者は3回目のシカゴの冬を迎えますが、それにしても夏の週末の湖畔や公園にあれほどあふれていた人々は本当にどこへ行ってしまったのでしょうか。


6. 結び


米国での事業運営を推し進めるに当たっては、とにかく米国スタンダードを身に付け実践していかなければなりません。それは生活全般にも及び時にストレスになることもあるのかもしれません。 
本稿で紹介させていただきました内容は、シカゴで生活を送る上でのほんの一部分にすぎません。日本に紹介されることの最も多い米国ですが、実際に米国の中にあって人種のるつぼの中でしか感じ得ないことやまだ日本では一般的に知られていないことなども見つけ出し、伝えていければと思っています。
本稿が少しでも異文化理解の一助となれば幸いです。

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