「歴史」と「今」が共存する都市 メキシコシティ

米国JFE商事会社
メキシコシティ支店
小川 宏之

1. はじめに


JFE商事海外事務所の中で、最も新しい事務所が米国JFE商事ロサンゼルス本社傘下で2014年1月に開設されたメキシコシティ支店となります。当地に赴任して3ヵ月ですが、短期間でも時に驚く慣習あり、時に感動する風景あり、ドキドキする体験がしばしばあります。

メキシコシティはご存じの通り、メキシコ合衆国の首都、中南米を代表する世界都市です。主要都市と近郊を含む都市圏人口は、現時点で世界第9位の2,030万人。また2014 年、米国シンクタンクが公表したビジネス・人材・文化・政治などを対象とした総合的な世界都市ランキングで世界第35位として評価されており、中南米ではブエノスアイレス、サンパウロに続き3位です。
実際に駐在し、確かにこの評価の背景にあるものを実感しています。それはメキシコには非常に勤勉な方が多いこと。毎朝8:00 ごろから仕事を開始し、20:00すぎまで勤務される方々が多いようです。弊支店が入居するビルの皆さまばかりでなく、特に鋼材加工センター等現場の方の勤務姿勢に感心いたします。
一方で、昼休みは14:00-16:00約2時間確保し、シェスタと呼ばれる昼寝の時間もベテラン社員の方はしっかり取っています。昼休みがこの時間帯のため、昼食には当初難儀しました。日米スタイルで12:00過ぎから昼食を取ろうとするとオープンしている飲食店がほとんどなく、また開店していても朝食メニューが提供される状況です。
遅くまで働くため、家庭における夕食は 21:00や22:00ごろからが一般的。タコス等を代表とするカロリーの高い食べ物が多く、その上、夕食時間が遅いため、前述のPositiveランキングとは逆に、メキシコには「世界一の肥満大国」というあまりありがたくない称号があります。自分自身、さすがに肥満大国に貢献することは避けたいため、食後のランニング等、日米と同じペースで活動していたのですが、これも油断大敵! メキシコシティは標高約2,200mの高地、突然ひどい頭痛に襲われました。さすがに今は高地にも完全順応しましたが、ペースを抑えた適度な運動を心掛け、食事時間や内容に留意し生活しています。


2. メキシコシティで体現するアステカ・マヤ文明の栄華


メキシコシティには近郊も合わせ、一見の価値がある遺跡群が点在しています。私自身、学生時代から中南米のさまざまな遺跡に魅力を感じ続けており、アステカ・マヤ遺跡を実見することは休日の楽しみとなっています。メキシコシティの原型はかの有名なアステカ帝国の首都「テノチティトラン」。 13世紀末、現在のメキシコシティにアステカ人が居住開始、干拓等により都市建設を進め西暦1428年から約100年間続くアステカ帝国が誕生しました。このアステカ帝国の栄華を実感できるのが、メキシコ国立人類学博物館です。この博物館の中でも最大スペースを誇るのがアステカ文明コーナー、そして中でも最大の見所が、アステカ文明暦を図形化した「太陽の石」です。この巨大な石は、1年を365日にキチンと区分し彫刻されており、アステカ人はこれに従って農耕や宗教儀式を行っていたといわれています。アステカ人たちの神秘的な宇宙観をシンボル化した物としても知られています。
また、アステカと並びメキシコで栄えた文明として欠かせないマヤ遺跡品も多数展示されています。特に、マヤ文明展示室では広々としたスペースと高い天井を活かし、当時の神殿風の建造物を再現、室内に居ながらも文明の栄華を感じることができます。


博物館 アステカ文明

博物館 太陽の石(アステカカレンダー)

博物館 マヤ文明


3. メキシコシティ近郊で体現するもう一つの栄華


太陽のピラミッド

マヤ文明をもさかのぼる古代文明がメキシコシティ近郊に存在していました。マヤ・アステカほどの知名度はないかもしれませんが、紀元前2世紀から6世紀まで存在したと考えられるテオティワカン文明です。メキシコシティから車で約90分、約50kmの道程を経て、当時の文明規模を感じることのできる古代都市テオティワカン遺跡群を訪れることが可能です。
この遺跡群の迫力は何といっても巨大なピラミッド。「太陽のピラミッド」「月のピラミッド」と呼ばれる二つの極大ピラミッド、そして死者の大通りといわれる南北5kmにわたる道が基点となり各施設の遺跡が残ります。テオティワカンには、古代都市特有の城壁が存在しないため、戦争や圧政のない平和都市と長年考えられていましたが、近年の発掘調査の結果から、多数の殉教者、いけにえをささげる風習が存在したことが判明しています。社会についてはあまり知られておりませんが、巨大な宗教都市国家であり、規模から考えて神権的な権威が存在、高度に階層分化、発達した統治機構を保有していた、と推測されています。一方でこの文明を開いたテオティワカン人と呼ばれる人々は、どこから来たのか、そしてなぜ消えてしまったのか、多くの神秘的な謎が残っています。


テオティワカン全景


4. 建設当時のメキシコシティを感じるスポット


ソカロ カテドラル

メキシコシティは、1519年スペインによるメキシコ征服によりアステカ帝国の首都テノチティトランが破壊され、その上に現在の欧州(スペイン)風の都市が築かれました。アステカ帝国時代に作られたソカロと呼ばれる神殿に囲まれた重要な広場には、現在も大統領官邸として使用される国立宮殿や中南米・カトリック教徒の総本山メキシコシティ・メトロポリタン大聖堂(カテドラル)がほぼ当時の姿のまま残ります。
これら伝統的建築物を眺めるのにお薦めのスポットが、カテドラル至近Hotel屋上のレストラン「Balcon del Zocalo」。特に野外テラスからは、ソカロ全体を見渡すことができ、カテドラルを間近に拝観可能です。また、この席からは毎日定刻に打ち鳴らされる鐘の音を腹の底まで響き渡るまで感じることができます。現在、弊社メキシコシティ支店は1名体制、時に心を落ち着かせるため、休日夕刻にこの場を訪れています。


5. 最後に


わずか3ヵ月程度の駐在経験で恐縮ですが、今回の寄稿を通じ、メキシコ人気質や、長きにわたり培われてきた歴史に起因する現在の発展を客観的に回想、この国のさらなる発展の可能性と大いなる潜在力を感じています。メキシコシティ中心部を東西に伸びるレフォルマ通り周辺で建設が進む超高層ビル、車で埋め尽くされる道路、そして自動車および自動車部品メーカーをはじめメキシコに次々と進出する世界各国の企業等、活力あるエネルギーに満ちあふれています。
半面、治安に気を配らねばならないことが幾つも存在するのも確かです。例えば、私はコーヒーが好きなため、店内に無料Wi-Fi サービスがあるスターバックスを頻繁に利用していたのですが、携帯電話やPCは盗難の対象となるためくつろいで使用することはできず、最近では専らテイクアウトにしています。iPhone、iPad、MacBookを狙いOffice 街でも度々強盗事件が発生。盗難品は、危険地区の闇市場で不正に販売されていると聞いています。
当然ながら日米と同感覚で決していられない事象がこれ以外にもありますが、メキシコの方々は前述通り勤勉、かつ非常に陽気です。その陽気さに公私両面で常時勇気づけられます。重厚な歴史を持った魅力ある遺跡群、陽気な人々、そしてタコスをはじめとするボリューム感ある絶品料理が皆さまをお待ちしております。ぜひ、メキシコシティへお越しください! くれぐれも食べ過ぎにはご注意を!

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