ドイツあれこれ

Inabata Europe GmbH
福田 威士

筆者左(同僚と)


ドイツはデュッセルドルフに赴任したのは、2013年12月。しかしながら、欧州赴任から数えますと、2010年ベルギー赴任、後のフランスを経ての異動となります。一方、個人的な話で恐縮ですが、十五、六年近く前の学生時代に、1年程度滞在したこともあり、私にとってはどこか懐かしい国、今回の赴任でも、なぜか見知った土地に帰ってきたような気になる、自分勝手に縁を感じている国、ドイツについてご紹介したいと思います。


はじめに


日本デー

ドイツは昨今の欧州経済低迷の中にあってもなお、欧州随一の経済国であり、欧州内での発達した市場地位は揺るぎないものになっています。そもそもドイツは、わが国日本と同じく製造業をその経済基盤としています。国内経済では、個人消費率が日本より低く、輸出依存度が高い傾向にあり、徹底した競争主義を採用していることから、同国製造業は高付加価値分野への移行が進んでいます。この移行が、製造業の利益率を高らしめ、結果として同国経済の原動力となっているといえます。
一方、この成功はEUおよびユーロ通貨の恩恵でもあり、すなわち、東欧を含む近隣諸国からの安価な労働力、原材料の調達を実現し、ユーロにて欧州全域に為替リスクを負わずして、製品を輸出できることであります。加えて、フランクフルトに代表されるように、金融業も発達し、例えば南欧諸国に資金融資し、その資金でドイツ製品を購入させるという戦略を採用することで、同国経済に大きなメリットをもたらしています。出口が見えず、長引く欧州経済の低迷により、欧州域内輸出に依存する欧州経済にも影響が出始めておりますが、ドイツにおいては、好調な経済に並行し、徹底した緊縮財政を敷いており、いわば、このブレない対応が、同国経済の将来の安定性を予感させるものです。

今度は話を赴任地、デュッセルドルフに寄せてみたいと思います。ドイツは連邦制で、 16州ありますが、デュッセルドルフはそのうちの一つ、オランダとベルギーに国境を接し、ルール地方で有名なノルトライン=ヴェストファーレン州の州都となります。
デュッセルドルフについて、特筆すべきは何といっても、日本とのつながり、また日本人の多さで、欧州の他都市でもこれほど日本人が集中している場所は類を見ません。総人口約60万人に対し、日本人居住者は約5千人、
1%近くを占めることとなります。
また、毎年6月ごろには日本デーと称する大きなイベントが開催されます。ここでは、日本食の屋台が立ち並び、折り紙・書道など日本の伝統文化の紹介や、柔道、剣道など武道の演武、アニメ・マンガ・J-POPなど最新のポップカルチャーまでさまざまな日本文化が紹介されます。また、祭りのフィナーレには、欧州で唯一日本人花火師が打ち上げる花火が夜空を彩り、一説には100万人の集客を誇るともいわれています。


エコ・BIOブーム


BIO マーク

次は、ドイツで加速が止まらないビオブームについてご紹介します。そもそもドイツは、欧州で初めて緑の党を結成し(1980年の旧西ドイツ)、エコ、BIO(ドイツ語ではビオと読みます)先進国です。リニアモーターカーの建設取り止めや脱原発などは記憶に新しいと思いますが、実生活レベルでもエコ推進をそこここで目にします。
また、スーパーマーケットの飲料コーナーでは、特に酒類において缶よりも圧倒的にビンが目立ちます。さらに、これらのビン、多数回再利用されて多くの傷がついているものがほとんど、新品を探す方が難しいくらいです。このような再利用用のビンには、再利用の印がついており、購入時にはデポジットが価格に算入されています。そして、返納した時にデポジットが返還される仕組みです。これは、ペットボトルや缶にも印があるものがあり(これらは当然原材料ベースでの再利用ですが)、手続きは同様になります。
余談ですが、以前はこの返金、店舗で手作業でしたが、現在はマシンがそれに代わっており、時代を感じます。ただ、機械だけあってバーコードを読み取らなければならない等々複雑になっていて、特に週末など機械の前に長蛇の列。何が便利なのか分からなくなります。


デポジットマシン

エコに続きBIOですが、つまり自然食品の意で、有機農業の生産、流通、販売、そして品質管理を包括するシステムの下、認められた商品に緑の六角形のビオマークが付けられます。これが登場したのは2001年ですが、このあたりの年はちょうど狂牛病についてドイツでも感染が確認された環境も後押しし、伸び続けている市場です。
また、開始当初は自然食品専門店や、スーパーの隅に置かれ、しかも高額だったこともありましたが、最近ではいわゆる格安スーパーでも取り扱うようになり、価格で敬遠していた消費者にも一気に火が付いた形となっています。ただ、この加熱するブーム、ドイツのBIO農家を潤す結果になっているかと言えば、そうではないようで、BIO農家の数は伸び悩んでおり、大きな要因の一つが政府補助金のカット、さらには前述の格安店におけるBIO製品の安売りによる利益の減少です。
さらに、このBIOブーム、ドイツだけではなく英国やフランスでも同様に広がりを見せているようで、そもそもBIO農産物の生産が需要に追い付かなくなっており、特に格安店においては積極的に域外からBIO商品を輸入しているようです。ここで問題なのは、輸入するBIO製品は欧州有機農業規則にのっとりチェックされることから、製品としては問題ないものの、例えば輸送に関わる環境負荷については鑑みられていないのが現状で、今直ちにこれを本末転倒と嘆くのは時期尚早ですが、もろ手を挙げて楽観視できるわけでもない印象になっています。


ドイツとソーセージ


スーパーのソーセージ売り場

さて、日本だけでなく、ドイツ以外の国でもよく聞かれるのが「ドイツといえば、ビールとソーセージ(豚肉料理)でしょ?」という質問です。いろいろと回答はあると思いますが、「いえ、違います」という答えだけは確実にマチガイ。ここではドイツとソーセージについて書いてみたいと思います。
まず種類ですが、ドイツには1,500種以上ものソーセージがあるといわれ、地方や街、お店によって製造方法やサイズも多種多様で、調理方法も、ゆでたもの(ミュンヘンの白ソーセージ)、焼いたもの(ニュルンベルク)、サラミのような乾燥ソーセージや調理ソーセージ(ペーストのようなソーセージ)などさまざまです。
残念ながらここで実際に味わっていただくことはできず、各位機会がある折にご賞味いただくしかないのですが、その代わりに、本稿ではドイツらしいソーセージにまつわることわざをいくつか紹介したいと思います。
まず大体想像がつくものから、「ソーセージと法律は作る過程を見ない方がいい」。そのままですが、過程はあまり美しくない、という意味です。次にご紹介するのは「ベーコンを求めてソーセージを投げる」。やや難解ですが、ヒントとしては、ここでのベーコン、日本でよく見るスライスではなく、天井からつり下げられた塊を想像していただければ分かりやすいかもしれません。日本語ではちょうど、エビでタイを釣る、というような意味になります。いかがでしょうか。ただ、前述の2つ、ソーセージはあまりいい意味で使われていません。ドイツには「このソーセージ野郎!」(失礼)という悪口もあるぐらいで、国民食であるのにひどい扱いです。従って最後は、汚名返上にこのことわざを紹介します。「全てには終わりがある、ソーセージには終わりが2つある」…苦し紛れにうそを言うな!と怒られそうですが、原文はAlles hat ein Ende, nur die Wurst hat zwei. となり、ドイツでは誰でも知っている有名なことわざです。ソーセージも悪役ではありません。ただ、悲しいことにこのことわざ、意味自体はあまりなく、全てに終わりがあるということをソーセージのくだりをつけることで強調しているだけの由。あまりフォローにもなりませんでしたが、ソーセージがいかにドイツ人にとって近しいものであるのか、少しでも感じていただければと思います。


ドイツに暮す


石畳のある風景

情報化社会が進み、地球の裏側でも1日以内で到着できる現代において、日本と欧州といえど、先進国同士、目が飛び出るような不便や、聞いたこともない習慣などはもはや見つける方が難しくなっています。
しかしながら、やはり文化の違いからくる日本人がなじみにくいもの、は存在します。ドイツでの生活において、ほとんどの駐在員はアパートに暮すと思いますし、私もそうなのですが、騒音に対する考え方がわれわれにとってなじみにくいものとして挙げられます。
そんなにうるさいのか!というわけではなく、その逆で、かなり気を使って静かにしなければなりません。まずは静かにするその時間帯です。朝は6時というかなり早い時間からある程度の騒音(生活音や音楽)は許されますが、夜は基本的には22時以降は音を立てないということが暗黙の了解になっています。騒音のレベルですが、例えば掃除機とかシャワー、電動ドリルの音のレベルはうるさい方に分類されます。平日の早朝6時から掃除機をかけることは問題ありませんが、22 時以降のシャワーは控えるべき、とされており、建物の配管によってはお手洗いも気を付けるべき範囲に入ることもあります。
さらに、日曜日は特に静かにしなければなりません。キリスト教上の安息日である日曜日は何もしてはならないと定められており、この文化は根強く残っています。日曜大工で電気ドリルをバリバリ回すなどは既に論外で、極端な場合は洗濯機を回したり、掃除機をかけるだけでも注意を受けることもあります。そんな窮屈ならばいっそ外へ!ということで、脱出したとしても、ほとんどのお店が閉っており、人通りもまばらで、スゴスゴと退散する羽目になります。
騒音に話を戻しますと、運悪く、隣人や階下に耳のいい元気なお年寄りでしかも神経質な人の場合、彼らが騒音と感じた時には、壁や床を固いものでたたくことがある由、つまり静かにしなさいというサインです。それでも直らない場合は、手紙が入れられることもあるそうです。しかも、普通に歩いていても「生活音がうるさい」と言われることも珍しくなく、自分の部屋なのに差し足、忍び足で生活するのか…なじめないというよりは、もはや苦行の様相です。
今度は少し日本人としてなじめない文化、なじめないとまではいきませんが、少し違和感を感じるのが、Cold Meal, Hot Mealという概念です。ドイツでは、朝はパンとジャムとソーセージ(Cold Meal)、昼は温かく調理された料理(Hot Meal)そして夕食はパンとソーセージ(Cold Meal)が一般的でした。ただ、昨今では、インターネットからの情報、隣国からの影響もあり、夕食をレストランにて家族で、という世帯も増えているようです(もちろんHot Meal)。大昔、ドイツ人の友人に「日本では3食Hot Mealなんでしょう?」と聞かれ、冷ややっことおしんこだけの食事があるわけないじゃないか、何を言ってるんだと思いましたが、この習慣を知って納得、ただ、マネはしたくないですね。

ドイツというか欧州に暮すに当たってよく目にするのが石畳の道路かと思います。日本の石畳は比較的各石が大きく隙間なく、もしくは凹凸なく敷き詰められていますが、こちらの石畳はれんがブロック大の角が取れた丸い石を「隙間を設けて凹凸が出るように」舗装しています。また、表面が滑りやすくなっており、歩きにくいというよりも悪路そのものです。ハイヒールではヒールの部分が凹凸にとられて危ないですし、自転車でもタイヤ幅に近い舗装感覚の上に滑りやすく、危ないこと極まりありません。車でも、ガタガタ揺れてお粗末なレンタカーなどで走行していると心配になってしまいます。ドイツ語では Kopfsteinpflasterと言いますが、一見不合理なこの道、実は聞けば納得の3つの理由があります。
まずは安全性です。ツルツルしていて、危ないのではないのか!ということで、その通りなのですが、そのおかげで自転車も、車も徐行運転になります。雨の日などは余計に滑りやすくなるので、スピードがもっと落ちることとなります。私が住んでいる地区の近くでもアスファルトから突然Kopfsteinpflasterになる場所がありますが、子供が多い場所のようで、なるほどということになります。
2つめの理由はコストです。Kopfsteinpflaster 自体をつくるのには、アスファルトを敷くよりも手間もコストもかかります。ただ、天気や交通の影響ですぐに経年劣化するアスファルトに比べ、Kopfsteinpflasterは丈夫で100 年以上使われている道もあります。また、壊れた際の修繕も石を差し替えるだけですので比較的容易です。中長期的にみればアスファルトより経済的な道なのです。
最後の理由は、景観の保護です。ドイツは特に文化財保護の意識が強く、ドレスデンのような長い歴史を持つ街などは、第2次大戦中空爆で甚大な被害を受けましたが、今でも積極的にKopfsteinpflasterが使われています。


終わりに


2014年にはデュッセルドルフ⇔成田便も就航し、日本とドイツはさらに近くなりました。主要空港のフランクフルト、ミュンヘンいずれも、他欧州空港と比べ非常に便利です。お仕事やプライベートでご訪独された折、 BIO製品を発見し、ソーセージを食べる時、 Kopfsteinpflasterで転んでしまって空を見上げることになった際などに、本稿にあるくだりを思い出し、ニヤリとしていただければ幸甚です。

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