コロナ禍でも色あせないメキシコの魅力 VIVAメキシコ

Nagase Enterprise Mexico S.A.de C.V.
矢沼 貴之

はじめに


皆さんはメキシコと聞くと何を思い浮かべますか? 米国との間の移民問題、麻薬カルテル同士の抗争による治安悪化といったネガティブなニュースから、カンクンやロスカボスをはじめとする有名な観光地や古代マヤ・アステカ文明の遺跡の話、あるいはテキーラやサルサの効いたメキシコ料理などを思い浮かべるかもしれません。

メキシコ合衆国グアナファト州レオン市への赴任からちょうど1年。コロナに始まり今なおコロナと共にある私の赴任生活ですが、メキシコでの生活を少しでも身近に感じていただけたらと思い、本原稿を寄稿させていただきます。

ちなみに、メキシコの人口は日本とほぼ同じで1.3億人、国土は日本の約5倍、平均年齢は29歳(日本は47−48歳)というのがメキシコ基礎情報。この三つの情報だけでも少しメキシコが身近になった気がしませんか?


メキシコの気候


メキシコの正式国名は「メキシコ合衆国」、32の州から構成される連邦共和国です。その国土は広く、ティファナやメヒカリといった北部地域と南部のチアパス、私の住んでいるグアナファトのような内陸とカンクンのような沿岸部では気候が全く異なります。メキシコは北半球に属するため季節の流れは日本と同じですが、主に5月から10月ごろの雨期と、11月から4月の乾期の二つに分かれます。雨期といってもしとしとと一日中雨が降り続くようなことはなく、夕方から夜にかけてスコールのような激しい雨が短時間で降るような気候です。首都のメキシコシティの標高は2,200mにも及び富士山の5合目に相当します。私の暮らすグアナファト州レオン市の標高は1,800mほどです。レオンはメキシコシティほどの標高ではないですが、高山病の症状が出る方や睡眠が浅くなり夜中に目が覚める回数が増える方もいます。レオンは一年を通して晴天の日が多く、毎朝まぶしい日差しで目が覚めます。

多彩な観光資源

突然ですが、今から6,600万年前に地球上から恐竜を絶滅させたとされる小惑星が衝突したのは、実はメキシコです。ユカタン半島北部にあるチクシュルーブ・クレーターがその時の衝突跡とされています。このクレーターがあるユカタン半島で有名な観光地が日本でもおなじみカンクンです。美しいカリブ海に面し、オールインクルーシブの有名ホテルが立ち並ぶリゾートエリア。ダイビングやシュノーケリングといったアクティビティや、チチェン・イッツァやトゥルムといったマヤ文明の遺跡へのアクセスも良く、遺跡とリゾートの両方を楽しめることから日本から来られる方も多い観光地です。かくいう私も初めてメキシコに来たのはカンクンへの新婚旅行でした。「せっかくの新婚旅行なのでこの先二度と行くことのないであろう遠い場所に行こう」と決心して旅行したカンクンでしたが、まさか数年後にその国に自分が駐在になるとは…。人生どこで何があるか分からないものです。

メキシコの観光資源は豊富で、世界遺産の数を見てみると2019年時点での登録数は35件、世界第7位と数多く存在します(参考までに日本の登録数は23件で世界第12位です)。

私の住むグアナファト州で有名な世界遺産が「古都グアナファトとその銀鉱群」。レオンからは車で1時間ほどの距離にあり小旅行にはもってこいの観光地です。グアナファトとは先住民の言葉で「カエルの岩山」との意味を持ち、もともとはカエルしか住まないような険しい山々が連なる場所だったのが、銀鉱山の発見により18世紀には世界の3分の1の銀を産出するようになります。スペインによる征服の歴史が絡んでくるので光と影の部分がありますが、そこで得た富で街が発展し、カラフルな美しい景観の都市となりました。メキシコ独立戦争の英雄ピピラの像がある「ピピラの丘」からの眺望はご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。


筆者:アルコ・デ・ラ・カルサーダの前にて


ピピラ記念像


カンクンの白砂のビーチとカリブ海


チチェン・イッツァ遺跡の見どころエルカスティージョ
(ククルカン神殿)


食事のあれこれ


タコスとサルサ

メキシコ料理で有名なのが、すりつぶしたトウモロコシの粉から作った薄い生地(トルティーヤ)にさまざまな具を包んで食べるタコスかと思います。値段は1個当たり10ペソ(約50円)前後で、日本でいうおにぎりのような感覚で気軽に食べられます。日本では飲みに行くと〆のラーメンですが、こちらの人たちは〆のタコス。夜になると街中のあちらこちらに屋台が出てきて、その店ごとに特徴のあるタコスを提供しています。チーズが入ったケサディージャ、パン生地に具材を挟むサンドイッチ形式のトルタなどさまざまなバリエーションがあり、中に挟む具材も牛肉、豚肉、鶏肉、海鮮と多岐にわたります。ライムを絞りお好みのソース(サルサ)をつけ、味を変えながら楽しみます。

日本と違いメキシコの食事の開始時間は少し遅めです。お昼は14時ごろからで夕食は19−20時ごろから食べ始めます。12時前に近くのフードコートへ行くと準備中でお昼にありつけず、開店しているマクドナルドに行ってみると販売しているのはまだ朝マックのメニューという具合です。夕食を食べに18時ごろレストランに行くとお店はガラガラ、日本人が帰る21時ごろになって次々とメキシコ人がお店に入ってくるという光景もよく見られます。

そして、メキシコというとよく聞かれるのがテキーラについてです。リュウゼツラン(アガペ)から造られる蒸留酒メスカルのうち、ハリスコ州など特定の産地で造られたものをテキーラと呼びます。よく「サボテンから造られているんじゃないの?」とか「一気飲みするんでしょう?」などと聞かれますが、どちらも正確ではありません。お店でテキーラを頼むとライムやトマトジュースと一緒に出てきて、ウイスキーのようにゆっくり時間をかけて味わいながら飲むスタイルが多いようです。

コロナ禍の中で


ドライブスルークリスマスイベントでの一幕

メキシコにもコロナの猛威はとどまることなく押し寄せています。医療体制も十分とはいえない中、多くの方がコロナに感染し、非常に悲しいことに命を落されているという現状です。元来陽気な人が多いといわれるメキシコでは仲間が集まり音楽とお酒を楽しみながら親睦を深めるという光景がよく見られ、赴任当初は私が住んでいるアパートでも連休の夜になるとどこからともなく音楽と共に人々の話し声や笑い声が聞こえてきました。ただ、そのような習慣はコロナ禍においては感染拡大の温床となってしまい、最近はどこに行っても皆マスクをつけ、連休の帰省も我慢し家で家族と過ごすというのが定着しているように感じます。

そんな中、困っているのが単身赴任の駐在員。多くの帯同家族が一時帰国しまだ戻りきれていない中で、単身赴任者の食事の確保は喫緊の共通課題です。レストランに行くのもなかなか難しい中、在宅勤務の拡大と相まって自炊をする方々が増えています。また、一度作り出すとハマってしまい、とことんこだわりを持つようになっていくのも特徴。最近はYouTubeで多くの料理人の方々が動画を配信してくれているため、「どの料理系YouTuberのレシピが簡単でおいしい?」「あの動画の料理作ってみた?」など、日本の居酒屋かいわいでは考えられなかったサラリーマン同士の会話が繰り広げられています。ただ、皆さんに共通していえるのはカレー比率が高いということでしょうか。1週間のうち夕飯の半分はカレーという方も珍しくありません。

メキシコでもワクチンの接種が始まりましたが、依然としてコロナの収束は見えない状況です。そのような困難な状況の中でも私たちの身近なところでwithコロナの取り組みは行われています。最後に弊社(NagaseEnterprise Mexico S.A.de C.V.)で2020年にあった事例を一つご紹介したいと思います。

カトリック教徒が9割を占めるといわれるメキシコでは会社でも年末のクリスマスパーティーは重要なイベントです。2020年に弊社は設立10周年ということもあり、記念のテキーラを作り、社員にもクリスマスパーティーで配布する予定でした。ところが、コロナの影響でこのクリスマスパーティーが開催中止の危機に見舞われたのです。一年に一度の大切な社内イベント、何とか感染防止策を講じた上で開催できないかと知恵を出し合った社員たちは、ドライブスルークリスマスイベントという企画を編み出しました。全員がマスク着用の上、ドライブスルー形式でソーシャルディスタンスを保ちながら抽選を引きプレゼントを受け取るというこの企画。1台(1人)3分というタイトなタイムスケジュールにもかかわらず、大きな混乱なくスムーズに全員がプレゼントを受け取ることができました。例年の飲食付きのパーティーと比較すると内容は簡素化されたものでしたが、社員は皆笑顔であふれていました。大変な状況の中でも明るく前向きに生きていく、そんなメキシコ人の強さを垣間見た2020年の年末でした。この明るく前向きという人々の気質がメキシコの魅力なのかもしれません。

最後に

コロナの収束はまだまだ先が見通せず、これまでとは全く違った生活様式を強いられる我慢の日々が続いていますが、困難な状況の中でも明るくたくましく前向きに生きていくこの国の人々の姿に元気づけられる毎日です。そのようなスタッフに囲まれ一緒に苦労する中で、自分の赴任中に少しでもこの国に貢献できたらと思います。

この状況が一刻でも早く収束して皆さんが再びメキシコに来られるようになり、明るくて前向きというメキシコの人々の魅力に魅せられる日が来ることを願いつつ、筆をおかせていただきます。

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