Withコロナで過ごす、シカゴの今

Hitachi High-Tech America, Inc.
Corporate Risk & Treasury Department
倉林 諒

はじめに


筆者

私は、2018年1月にイリノイ州・シカゴに赴任しました。赴任から約2年半の生活で実際に経験したことや、現地の最新事情についてご紹介します。


魅力あふれる街シカゴ


シカゴは米国中西部のイリノイ州にあり、ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ米国第3の都市です。街の東側には五大湖の一つであるミシガン湖が広がります。このミシガン湖から吹き込む風が摩天楼の合間を強風となって流れることにちなんで、シカゴはWindyCity(風の街)というニックネームで呼ばれています。

シカゴは1871年に起きたシカゴの大火と呼ばれる大火事をきっかけに、街の再建のために高層ビルの建築ラッシュが到来し、「摩天楼発祥の地」として有名です。

至る所に個性豊かなビルや建物が点在しているので、街を歩くたびに新しい発見があります。また街に流れているシカゴ川では建築物をクルーズ船に乗りながら見学できる建築クルーズツアーが人気で、船から眺めるシカゴの街並みもお薦めです。

シカゴシアターは、もとは映画館として1921年にオープンした歴史ある劇場です。外観は素焼きで仕上げるテラコッタの彫刻が見事なバロック調ですが、内装はフランス第2帝政時代に流行したスタイルです。現在は映画館としてではなく、コンサートやミュージカルの公演会場として使われています。


1年に一度緑色に染まるシカゴ川 Saint Patrick’s Day


シカゴのランドマークであるシカゴシアター


ミレニアムパーク


人気観光スポットミレニアムパーク

シカゴで一番の観光スポットといわれているミレニアムパーク。豆のような形から「ビーン(The Bean)」の愛称で親しまれている銀色のステンレス製のオブジェが有名です。こちらの公園は野外劇場や植物園、ギャラリーなどを持つ大きな公園で、普段からたくさんの人でにぎわっています。

幾つか観光スポットをご紹介しましたが、シカゴは他にも野球をはじめ六つのプロチームがあるスポーツの街、ジャズ&ブルースの街、シカゴドッグやシカゴピザなどの名物料理が楽しめる街としてさまざまな魅力があります。


医療事情


駐在生活2年目に当たる2019年、第1子となる息子が誕生しました。初めての妊娠・出産を異国の地で経験することに夫婦ともども不安がありましたが、今は、周りの方にサポートしていただきながら、時には米国と日本の習慣の違いに驚いたりもしながら楽しく子育てに奮闘する毎日を過ごしています。

米国は妊婦や赤ちゃん連れに対して特に優しい社会だと感じています。スーパーや街ですれ違った時には老若男女を問わず、赤ちゃんの性別を尋ねてくれたり、気軽に声を掛けてくれたりするので会話が弾むことが多いです。妻の妊娠中も病院の検診に夫が一緒に来ていることはごく普通の光景であり、出産に立ち会うことも一般的で、母親や親しい友人が立ち会う場合もあるそうです。

米国と日本の出産時の大きな違いに入院期間があります。日本では出産後5日から1週間程度入院するのが一般的だと聞きますが、こちらでは出産の翌日もしくは翌々日には退院となります。日本人と欧米人の体格や体質の違いや、米国では無痛分娩(ぶんべん)が主流のため、自然分娩よりも産後の母体の回復が早いという点が理由として挙げられますが、医療費が高額だという点が退院の早さにつながっています。

米国は医療費がとにかく高いことで有名です。出産だけに限ったことではないのですが、病院からの請求金額に驚くことも実際に多くありました。米国では低所得者と高齢者を対象にした公的医療制度はありますが、日本のように国民全員を対象にした一律の保険制度は存在しません。従って、個人が自主的に保険へ加入する必要があります。また保険の適用範囲やカバー率も保険の種類によって大きく異なります。そのような理由から、米国には無保険状態の人がいまだに多く存在します。米国の医療格差という社会の仕組みが、新型コロナウイルス感染者数が多い理由の一つにもなっています。

新型コロナウイルスの状況

2020年8月末時点における米国全体の新型コロナウイルス感染者数は600万人超で世界一となっています。また、われわれが生活するイリノイ州クック郡の感染者数も全米第4位の規模となっています。国家非常事態宣言が3月13日に発動されたのを受けて、イリノイ州も3月21日よりStay at HomeOrderが発令されました。これにより、5月末まで自宅待機することが義務付けられました。このStay at Home Order等により、一時的に新規感染者数が減少傾向となったものの、解除後の6月中旬より再び増加傾向にあり、8月末現在においてもその数は右肩上がりで増加しています。

経済への影響

この新型コロナウイルスが与える米国経済への影響も大きなものとなっています。4月以降、感染拡大を受けて外出禁止令が続いたため家計の支出が減っている他、小売業などでも売り上げが落ち込んでいることにより、米国の第2四半期(4月から6月)のGDPの伸び率は、前期比年率マイナス32.9%と過去最悪の下げ幅になりました。また、新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の停滞を受けて、経営破綻に陥る企業数が急増し、米国破産協会(ABI)によれば、2020年上半期の企業の米連邦破産法第11章(Chapter11、日本の民事再生法に相当)の申請数は前年同期比26%増の3,604件となりました。

私は現在CRT(Corporate Risk & Treasury)Departmentに所属し、主にビジネス活動におけるリスク管理全般を担っています。その中でも、営業取引を行う上で相手(顧客)に与える信用力(与信)の判断や管理は、特に注視しながら力を入れて行わないといけない状況にあります。信用力を判断する上で、従来よりも慎重な判断が求められてくる状況下である一方、保守的になり過ぎた結果、会社の成長を阻んでしまう恐れもあり、そのバランスが非常に重要です。このような信用収縮が広がる状況の中でのリスクの見極め、適切な判断の難しさを感じながらも、それ以上に自分が担っている職務への真価が今まで以上に問われている点をやりがいに変えながら日々奮闘しています。

生活面への影響

また、この新型コロナウイルスは、経済だけでなく、実際の生活面にも大きな影響や変化をもたらしています。その一つとして、マスク着用が挙げられます。現在、ほとんどの人が外出する際はマスク着用を基本としていますが、以前の米国においては日本と違いマスクをする習慣がほとんどありませんでした。赴任してすぐ、予防のためにマスクを着用して出社した際に、同僚のスタッフにすごく驚かれました。後で本人にその理由について尋ねると、「重大な感染症にかかっているのではないか」と思ったそうです。それを聞いて、私も驚きました。マスクの着用以外にも、他州間の移動制限、学校のオンライン授業、企業のリモートワーク、レストランでのテラス席のみの営業など、新型コロナウイルスが感染拡大してから、国、州、企業や学校がソーシャルディスタンスの確保および人との接触機会の減少を目的とした取り組みを行っています。

新しい趣味

最後に、新型コロナウイルスの影響による生活の変化は私自身の趣味や週末の時間の使い方にも大きな変化をもたらしました。新型コロナウイルスが拡大するまでは、家族と休暇を利用して米国内、カナダ、メキシコのさまざまな場所への旅行を趣味としていました。旅行先での地ビールやワイン、バーボンなどのお酒を飲むことも楽しみの一つでした。しかし、新型コロナウイルス拡大以降は、外出や旅行の自粛が求められる状況と在宅勤務にて家で過ごす時間が増えたことが重なり、その結果、今までほとんどしなかった料理に興味を持つようになりました。特に、本格的なラーメン作りに最近夢中になっています。週末は朝早く近所のアジア系スーパーで豚の骨や鳥を丸ごと買い、チャーシューや煮卵などの具材から、ラーメンのスープのたれに当たる「かえし」まで、必要な全てを一から自身で作ることを趣味としています。豚や鳥の骨を6時間以上弱火で炊くことで濃厚な豚骨スープに仕上がります。スープ作りのためにラーメン屋さながらの大きなずんどうまで購入しました(笑)。


Social Distancing を守りながらスーパーに並ぶ人々


一から手作り濃厚豚骨しょうゆラーメン


新型コロナウイルスをきっかけに、新しいことに興味を持つことができ、新しい自分の一面も知ることができました。そして、今まで以上に家族と過ごす時間が増えました。厳しい環境はこれからも続きそうですが、このような状況下だからこそ前向きに、一日一日を大切にしながら残りの米国生活も楽しんでいきたいと思います。

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