バイエルン王国での過ごし方

岩谷産業株式会社 欧州駐在員事務所
藤森 厚嗣

バイエルン王国の歴史


ドイツは連邦国家であり16の州から構成されています。各州はそれぞれが主権を持ち、独自の州憲法・州議会・州政府そして州裁判所を有する国家となります。新型コロナウイルス対応においても、メルケル首相率いるドイツ連邦政府と各州首相とで会合を行いドイツ連邦共和国として基本方針を決定したのち、州政府ごとに具体的な規制を発表・運営しています。

その一つの州であるバイエルンは欧州の中でも古い起源を持ち、その歴史は6世紀までさかのぼることができます。中世時代から19世紀初頭まで、バイエルンは強力かつ巨大な公国でした。1806年にナポレオンと同盟して神聖ローマ帝国から離脱し王国となって以降、100年以上にわたり立憲君主制によって統治されてきました。統合分裂を繰り返す当時の戦国時代において、バイエルン王国は長年にわたり独立を保ち、群を抜いて強い地域性と高いプライドが培われました。このバイエルン王国の初代国王がマクシミリアン・ヨーゼフ1世で、写真のように今でも街の中央に君臨しています。

そしてバイエルン州の首都となるのがここミュンヘンです。それでは私の感じたミュンヘンの魅力について少しお話しさせていただきます。


バイエルン王国の初代国王
マクシミリアン・ヨーゼフ1世の銅像


お薦め観光スポット(ぷらっとランニング編)


ミュンヘンは中世の街並みが残り、欧州らしい重厚感のある建物と素朴で大柄なドイツ人の姿がうまく調和しているように感じます。北陸地方のようにアルプス山脈の北側に位置するミュンヘンは、長い冬の期間を太陽にも恵まれずじっと冬眠するように過ごします。一方、5月ごろから一気に晴天と木々の緑が姿を現し、どんどん日が長くなると同時に彼らの表情と動きが躍り出します。どこもかしこもビール片手に1年分の太陽と会話を楽しんでいる景色へと様変わりしていきます。

この時期におけるお薦めスポットは、街の真ん中を縦断するイザール川沿いの「英国庭園」です。日頃、太陽と海に恵まれないミュンヘンっ子たちが、この時期になると緑とイザール川を目指して大集結。そして開放感を満喫しながらの水遊び・サッカーに加え、ミュンヘンでもランニングをしている人たちを多く見掛けます。私も英国庭園をランニングしているので、少しお薦めスポットをご紹介します。

まずはサーフィンスポットです。日本の湘南のように、この周辺ではサーフボード片手に自転車に乗ってスポットへ集合し、さくっとウエットスーツに着替えてこの写真のように列に並びます。「波乗りは一人ずつ」のルールでしょう、ドイツ人らしくちゃんと並んで順番を待ち、永遠に波乗りできそうな上級者でも川の端から端まで何往復かした後は、わざと自滅し次のサーファーへとバトンタッチしていきます。橋の上から周囲をぐるりと見物客に囲まれ、本場の海サーフィンよりも歓声があり優越感をたっぷり楽しめそうです。また少し離れた別の場所にも隠れ家的なサーフィンスポットがあり、ここは2軍の練習場所だと思われます。日々練習を重ねた上で1軍の波の上に登板するのでしょう。さて、ここで私なりの疑問があります。この上級者の方々は本場の海でどれほどまで実力を発揮できるのでしょうか?

彼らは既に気付いていると信じますが、自然の海とは「波が逆向き」なように感じます。


英国庭園のサーフィンスポットにて


オクトーバーフェストにて


続いてのスポットはランニングの休憩地点です。とても広い英国庭園内には幾つかのビアガーデンがあります。つまり頑張ってトレーニングした後はすぐに本場のビールを堪能できるのです。ご想像の通り、一汗かいたあとの栄養補給は麦芽やホップといったビールの髄まで味わえる感覚です。写真は英国庭園のビアガーデンではなく、世界最大規模のビール祭りオクトーバーフェストの一幕です。ビアガーデンもそうですが、彼らのビールサイズはマスジョッキ(1L)が標準のようです。ついでにスーパーマーケットでのビール売り場もご紹介します。写真のように永遠にビールの種類が続きます。このようにやはりビールは充実しており、味・値段・種類と3拍子そろっています。一方、残念なのが主食となる食事ですね。イタリア・スペイン・フランスのような美食国に比べると、あからさまに素朴で質素です。もしかしたら私の理解不足なだけで、彼らの主食はビールなのかもしれません。


スーパーマーケットのビール棚


お薦め観光スポット(ちょこっとドライブ編)

ところでドイツと隣接している国の数はご存じでしょうか。答えはなんと10ヵ国もあります。当然、日本と異なり陸続きですのでドライブで簡単に海外旅行ができちゃいます。しかもドイツ国内の高速道路アウトバーンは一部を除いて制限速度なし。時速200㎞なんかも体験できます。

ミュンヘンを拠点に、北東へ走ればチェコ・プラハまで約4時間。真東へ向かえば1時間半でオーストリア・ザルツブルク、さらに3時間で音楽の都ウィーンです。南へ向かえば本場アルプスを越えてオーストリア・スイス・イタリアが広がります。そして西へ向くと大人気フランスが待っています。つまり、夏休みは家族ドライブで海外旅行という方が多いですね。

本稿はミュンヘン事情がテーマですので、ミュンヘン郊外の日帰りドライブスポットをご紹介したいと思います。そこはオーストリアとの国境にある「ツークシュピッツェ山頂」です。標高2,962mのドイツ最高峰の山で、ウインタースポーツはもちろん夏の避暑地としても人気があり、過去に冬季オリンピックが開催された街です。登山鉄道とロープウエーを使って簡単に山頂まで行けるので、日帰り旅行でも十分楽しめます。

スイス・マッターホルンなどのザ・アルプスにはかないませんが、ここでも迫力満点の写真撮影ができます。


ガルミッシュ=パルテンキルヒェンにて家族で


ビジネス拠点としてのミュンヘン

改めてお聞きしますが、皆さま、ドイツへ行かれたことはございますか?私の初ドイツは辞令を持って赴任した2017年4月でした。それまでも海外旅行で欧州へ行く機会はありましたが、ドイツを選択することはなかったですね。当時はやはり欧州の人気国フランス・イタリア・スペインといった美食と太陽の国に比べてドイツに物足りなさを感じていたのかもしれません。そして実際に赴任してみて今感じているのは、ビジネス・生活においてはとてもすてきな街だということです。

まずミュンヘンにおける生活環境ですが、そこまで観光地化していない上、交通機関や安全面が充実しています。日本人学校の生徒たちも高学年になると一人で公共機関を利用して通学します。もともとミュンヘンは王国血筋の閉鎖的な街ですが、近年はドイツの中でも住みたい街トップに君臨しているようです。

そして近年はビジネス拠点としても大変注目されています。ご存じの通り日本とドイツは歴史や産業において共通点が多く、欧州におけるビジネス拠点として古くから活用されています。日系企業におけるドイツ拠点の歴史としては、海運時代のハンブルクに始まり、重工業時代にはデュッセルドルフを含むライン川沿いのルール工業地域、そして近年は金融・航空の拠点となるフランクフルトとともに当地ミュンヘンへの進出が増加しています。

ビジネスから見たミュンヘンについて話を続けます。日系企業数はドイツ全体で約1,800社、うちミュンヘンを含むバイエルン州が約450社となります。注目すべきは進出企業の増加率です。日系企業に限らずですが、さまざまな企業がミュンヘンでの拠点開設を目指しており、近年はオフィスや住居探しに苦労する状況です。

BMWやシーメンスに代表されるように、もともと自動車や電機・機械産業の優良企業が多く、その潤沢な州税を基に近年はドイツが掲げるインダストリー4.0産業革命への取り組みを強化し、IBMやグーグルといった世界的企業がR&D拠点として進出しています。同時にスタートアップ企業の誘致も積極的で次世代産業の集積地となりつつあります。

その他の背景として製造業の東欧シフトが挙げられます。自然な流れですが、日本同様に製造業は人件費の安いエリアへとシフトしていきます。欧州においては西欧から東欧へとシフトしており、ポーランド・チェコが既に飽和状態で人件費上昇を招く中、さらに東のハンガリー・ルーマニアへとシフトしています。本社や開発拠点は優秀な人材がそろう西欧にとどまる中、工場が東欧へとシフトし、この懸け橋としてミュンヘンが好立地であるといわれています。日系企業の皆さまでもミュンヘンを拠点にドイツ企業の本社をフォローしながら、工場である東欧各国へもドライブがてらに出掛けられています。

私生活における告白

当地ミュンヘンに限らずですが、家族帯同で海外駐在できることは本当に幸せだと感じています。それが子供にとって思春期であればなおのこと、父親としてはある意味存在感を示すことができたりもします。きっと彼らは結婚式の最後のスピーチで「父親のおかげで子供の頃に海外の異文化に触れ、そしてこうして大人へと成長し、すてきな妻と巡り合うことができました。改めて両親に感謝の言葉を伝えさせていただきます」まっ、これは私の空想に終わるかもしれませんが。家族帯同での駐在員のあるあるですが、駐在員生活における財産は、家族の絆が深まることかもしれません。残念ながら2020年の3月に私の家族は本帰国してしまいましたが、単身生活となった今は改めて公私ともに海外生活を充実させていきたいと感じています。そしていつかまた、家族一緒にミュンヘンの地を訪れ、当時過ごした住居を懐かしく見上げている、そんな時を想像して日々職務に励んでいきたいと思います。

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