西アフリカの優等生、コートジボワール共和国

伊藤忠商事株式会社
アビジャン駐在員事務所長
山下 正明

はじめに


皆さん、「カカオ」「象牙の奇跡」「西アフリカのニューヨーク」と聞いて、どの国を連想されますか? あるいは、サッカーファンの方でしたら、「アフリカ屈指のサッカー強豪国」「2014年ワールドカップ」「ドログバ」の方がピンとくるでしょうか? 正解は、コートジボワール共和国(以後、コートジボワール)です。2014年のサッカーワールドカップで日本に勝利したのを記憶されている方も多いかと思いますが、農業大国であるコートジボワールは、カカオ豆やカシューナッツでは世界最大の生産量を誇り、食品加工や電力・エネルギーなどのさまざまな産業が発達していて「西アフリカの優等生」とも呼ばれています。

私が駐在する都市アビジャンは、コートジボワールの旧首都で、法律上の首都であるヤムスクロに代わり現在も実質的に首都機能を担っており、政治・経済の中心地です。在留邦人(約150人)のほとんどはアビジャンに住んでいます。

2019年8月に第7回アフリカ開発会議「TICAD7」が開催されたことも相まって、地球最後のフロンティアとも呼ばれているアフリカ大陸は近年ますます注目を浴びています。一口にアフリカといいましても、54もの国々、日本の80倍を超える面積に12億人を超える人々が生活をしている巨大な大陸で、サハラ砂漠を境に南北で人種や宗教が大きく異なる上、地下資源や観光資源の有無や治安の状況、気候等のさまざまな要素によっても国情が左右され、多様な国々がひしめき合っています。中でもコートジボワールは、西アフリカ最大、世界第5位の経済成長率(実質GDP成長率:7.5%(2018年実績)、世銀)を誇り、アフリカ仏語圏のリーダー的存在として同圏の発展のけん引役を担っています。

テロや病気、貧困など、マイナス要素ばかりが紹介されがちなアフリカですが、アフリカ初心者の私が駐在員として当地で悪戦苦闘する中で見えてきた、心豊かな愛すべき人々と多様な文化、さらなる市場の成長可能性など、当国の秘めたる魅力を少しでもお伝えできればと思います。

アフリカ仏語圏へのゲートウェイ


筆者 初めてのカカオ農園にて

コートジボワールに赴任が決まったことを友人に告げると、コートダジュール(風光明媚(めいび)な南仏のリゾート)と勘違いし、「欧州のリゾート勤務、最高やなぁ」とうらやましがられたことをまるで昨日のように思い出します。同じコート(海岸)でも、コートジボワールは、14世紀ごろ、フランスやポルトガルの商人が訪れて、この地方で象牙(仏語でivoire(イボワール))の取引を始めたことが国名「Côte d'Ivoire(象牙海岸)」の由来といわれています。

コートジボワールは、北緯5-10度、西経3-8度の間に位置し、日本の約0.9倍の国土を有する西アフリカの中核国で、南部には約550㎞の海岸線が東西に延びており、ギニア湾沿いに湖沼地帯が広がっています。南部は高温多湿な熱帯雨林気候、中部から北部はサバンナ気候で、5月から9月が雨季、10月から4月が乾季、年間を通して気温は24-32℃、湿度は70-90%と、ある意味安定しています。日本の梅雨末期から真夏までの気候が一年中続くようなイメージです。ただ、異常気象の影響を受けているのか、最近では乾季でも突然嵐のような夕立が襲ってきたりします。また、例年、12月から3月までハルマッタン(サハラ砂漠から飛んでくる砂を含んだ風)の季節で、肉眼で太陽を直視できるほど、白い霧に包まれたような状態になることがあります。


コートジボワールはカカオ豆において世界一の生産量を誇る

このようになかなかタフな気候ではありますが、気候の特徴を生かし、南部では、カカオ豆、天然ゴム、コーヒーを栽培し、中でもカカオ豆の生産量は約200万tで世界第1位(50%超)です。日本では、カカオ豆といえばガーナというイメージが強く、歴史的な背景もあり、実際に、日本に輸入されるカカオ豆のほとんどがガーナ産ですが、世界的にみればコートジボワール産の豆が過半を占めており、圧倒的なシェアを誇ります。一方、北部の乾燥したサバンナ地帯では、カシューナッツ(約80万t、生産量世界第1位)、綿花の生産等が盛んです。カシューナッツのほとんどはインドやベトナムに輸出されますが、そこで加工されたものが消費地に出荷され、結果的に皆さんが日本を含め各国で食されているものの中にもコートジボワール産の原料を使った商品がたくさんあります。チョコレートやカシューナッツを食べる時に一瞬でもコートジボワールのことを思い出していただけるとうれしいです。

そんなコートジボワールは、先述の通り西アフリカ最大、世界第5位の経済成長率を誇ることに加え、アフリカ仏語圏へのアクセスの良さ(HUB機能、エールフランスの直行便が毎日就航)、アビジャン港を起点とした周辺国への交通網、安定したエネルギー供給と周辺国への電力輸出、等々、アフリカ仏語圏へのゲートウェイとしてその役割・機能を存分に発揮しています。

象牙の奇跡再び


西アフリカのニューヨークともいわれる近代的なアビジャン・プラトー地区の街並み

1960年8月に宗主国であるフランスから正式に独立、初代大統領には、後に「国民の父」とあがめられたフェリックス・ウフェ・ボワニ氏が就任し、そのカリスマ性により政治は安定、旧宗主国フランスの力も借りて近代化する開発優先策が採られました。豊富な地下資源に手を付けず、コーヒー、カカオ等の輸出により獲得した外貨を教育に投資し、1960年代から1970年代にかけ、年平均8%の驚異的な高度経済成長を遂げ、その発展は当時「象牙の奇跡」と呼ばれました。また、「西アフリカのニューヨーク」とも呼ばれる近代化されたアビジャンの街並みは、既にその頃に完成されていたそうです。

それから40年以上経過した今、コートジボワールは「象牙の奇跡」以来の経済成長を見せており、国が活気を取り戻しています。農産品(カカオ、カシューナッツ等)の安定的・継続的な生産・輸出拡大や、港湾の拡張などインフラの整備が進んだことが大きな要因となっています。

コートジボワールの公用語はフランス語です。アビジャンにおいては、一般市民に至るまでほとんどの人がフランス語を理解しています。私はといいますと、フランス語圏に駐在しておきながら元々全くフランス語ができない中、日々悪戦苦闘していますが、グローバル化を目指す当地企業の経営陣をはじめ、ホテルや空港、公共の場で、思っていた以上に英語が通じるため、何とか乗り越えられています。このような環境一つとってみても、この国がさらに一段階上のステージに行くために変わろうとしているのを肌で感じ取れます。


イボワール人(コートジボワール人)の日常


イボワール人はとてもおしゃれ

コートジボワール(特に大都市)には多くの交通手段があります。街中で最も目にするタクシーは営業可能なエリアで色分けされており、例えばオレンジ色のタクシーはエリア制限なしとなっています。その他、「ウォロウォロ(乗り合いタクシー)」「バカ(乗り合いバス)」といった当地独特のユニークなネーミングの乗り物も、国民の貴重な足となっており、幾つかの種類の乗り物を乗り継いで出勤する社員もいます。また、南部には大きなラグーンがあり、バス会社が毎日水上バスを運行しています。たまには水上から、建設ラッシュで少しずつ変貌しようとしている街並みを眺めるのも乙なもんです。

イボワリアン(男性)、イボワリエンヌ(女性)はとてもおしゃれです。弊社社員によると、イボワール人は特に食事とおしゃれにはお金をかけるとのことです。実際その社員もいつも仕立てのスーツをおしゃれに着こなしてます。また、イボワリエンヌは身だしなみやヘアスタイルにも気を配っていて、母親から受け継いだ三つ編みを、トレンドに合わせ現代風にアレンジしています。ヘアスタイルによって見た目が全く違うので驚かされることも多いですが…(汗)。


アビジャン名物ブレゼ(肉や魚の炭火焼き)は香ばしくて美味、ビールにもぴったり。国民食であるアロコ(プランテンバナナの揚げ物)も付け合わせで

日々オフィスで仕事をしていると、12時ごろになるとキッチンのドアの隙間からさまざまな香りが漂ってきます(嗅いだことないような香りもありますが(笑))。コートジボワールでは、フレンチ、イタリアン、レバノン、中華、韓国、ドイツ、メキシコ等々、かなりレベルの高い世界中の料理が食べられます(残念ながら本物の日本食は存在しませんが)。イボワール人はなかなかの食通で、コートジボワール料理はまさに風味の玉手箱、さまざまな種類のソースやグリル料理、海の幸をベースとした西アフリカのあらゆる風味がそろっています。代表的な料理には、ケジェヌ(チキン、または魚のトマトソース煮込み)、ソースゴンボ(オクラスープ)などがあり、米やアチェケ(キャッサバイモを発酵させたもの)、アロコ(プランテンバナナをぶつ切りにして揚げたもの)などと共に食します。中でも私の大好物は、ブレゼ(ビーフ、チキン、魚などを炭火で豪快に香ばしく焼いたグリル)でして、ビールとの相性も抜群、ボリューム満点の逸品です。

コートジボワールは南国ということもあり、ご家族連れでも楽しめる美しいビーチリゾートも点在しています。アビジャンから1時間前後のグランバッサム(旧首都、世界遺産)やアッシーニ(波が低く穏やかで砂浜がきれいなリゾート)が有名ですが、私のお薦めは、アビジャンから飛行機で西へ1時間弱(東京⇔大阪と同程度)、カカオ豆の貿易港で有名なサンペドロ港からほど近いグラン・ベレビというリゾート地です。晴天の日の景色は世界の名だたるリゾート地に全く引けを取りません。おしゃれなコテージもあり、家族で余暇を過ごす欧州人も多く、開放的なレストランで味わえる料理も秀逸です。


アフリカにいることを忘れる西部サンペドロの絶景ビーチリゾート


個性豊かな社員たちとの結束を固める楽しいひととき


おわりに


日本から乗り継ぎ含め飛行機で20時間超、地球の反対側ともいえるコートジボワールですが、少しでも心理的な距離を近く感じてもらえましたでしょうか?

2020年は10月に大統領選というこの国の成長・将来を左右する重要なイベントが控えており、その結果によっては治安や経済に大きな影響が出る可能性があります。過去に内戦を経験している国であることもあり、当地に駐在する者は、不透明で誰も正確には読めない選挙の先の姿に、不安がないといえばうそになりますが、一方で、この局面を平和裏に乗り越えることができ、政治がさらに安定すれば、この国の持つポテンシャルからして、もう一段階上のステージへとさらなる成長を遂げることができると確信しているのも事実で、むしろその期待や楽しみの方が大きいのが正直な感覚です。

この国のさらなる発展を占う節目ともなり得るこのタイミングで当地に駐在できることを幸せに思うとともに、もう一皮むけたコートジボワールに、日系企業の進出(含む、再進出)が相次ぎ、日本人が仕事・生活をしやすいインフラも整備され、当地の商業界で圧倒的なプレゼンスを誇るレバノンやフランス系企業と肩を並べ、しのぎを削り合えるような日が来るのはすぐそこであると信じてやみません。

まだ成長過程で、毎日のように予期せぬ「アフリカあるある」が起こりますが(笑)、伸び代は無限大で、可能性に満ちたこのコートジボワールで、皆さんもドキドキ、ワクワクしながら仕事・生活をしてみませんか!

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