Rainbow Nation南アフリカの魅力

三菱商事株式会社
ヨハネスブルグ支店
川村 絵美

わが社オフィスも入る総合商業施設、ネルソン・マンデラ・スクエアにて故ネルソン・マンデラ大統領像の前で


はじめに


期待と不安を胸に、2013年8月にヨハネスブルグの駐在員として南アフリカに降り立ってからはや16 ヵ月がたちました。南アは「虹の国-Rainbow Nation-」と形容されるように、さまざまな背景を持つ人たちが、多彩な社会・文化を創り出しています。本稿ではこれまでの生活を振り返りながら、皆さんに南アという国の一面をご紹介したいと思います。


南アでの仕事と生活


私はヨハネスブルグ支店 企画業務部という部署に所属し、アフリカ全体の地域戦略づくりや拠点運営サポート等を担当しています。ヨハネスブルグを基盤に生活しつつも、ヨハネスブルグを含め11の拠点を管轄しているため、アフリカ域内の他国に出張する機会も多くあります。
駐在前にアフリカの他の国に多数出張した後に訪れた南アは、街並みが綺麗で、まるで欧州の先進国のような印象でした。買物のできる店やレストランも比較的豊富にあり、また医療レベルも通常の診療を受けるには問題ありませんので、生活には大きな不便はありません。
一方、治安面では問題が多く、エリアによる貧富の差が大きく外国人は目立ってしまうため、出掛ける場所・時間帯等には注意が必要です。2013年の日本での殺人事件数が939 件に対して南アフリカは1万6,211件、人口当たりの件数では40倍以上ですから、残念ながら安全とは言い難く、南ア社会の大きな問題の一つといえます。


南アの人々と歴史


社内の交流イベントにて同僚たちと虹の国の名の通り、わが社社員もさまざまな人種民族で構成されています

南アの人口は約5,300万人、大きく分けて8 割のアフリカ系黒人・1割の欧州系白人・1割のカラード(混血)やアジア人で構成されています。白人の多数派は17世紀のオランダ東インド会社時代の大陸欧州系移民の子孫で、それに19世紀初頭の英国系移民の子孫が続きます。アジア人中最多のインド系は、主に19世紀に農業労働者としてやってきた移民の子孫です。同じ人種の中でも民族や文化はさまざまで、言語もオランダ語起源のアフリカーンス語、英語、アフリカ系住民が話すズールー語をはじめとしたバントゥー諸語等、11言語が公用語として使われています。ビジネスの場面での使用言語は英語が圧倒的ではあるものの、家庭や仲間内ではそれぞれの言葉を使います。
南アフリカでは1990年代初頭までアパルトヘイト(人種隔離政策)が行われておりましたが、1991年に白人のデ・クラーク大統領がアパルトヘイト法廃止を宣言、平和裡に民主化を推し進めたとして、後に黒人初の大統領となるネルソン・マンデラ氏と共にノーベル平和賞を受賞しました。初の全人種による総選挙が行われた1994年から今年(2014年)で20年、5月には4度目の総選挙が行われ、アパルトヘイト後に生まれた世代が初めて投票に参加したことで話題になりました。南アの人々はフレンドリーで陽気、いつも How are you?とお互いに声を掛け合っており、外国人のわれわれに対しても非常に親切です。一方、プライベートな生活の部分では人種間の交流はいまだに限られており、アパルトヘイトの影響が垣間見えることも事実です。異なる人種間の結婚は非常にまれですし、居住する地域も人種によって大まかに分かれています。今の子供たちは人種により居住区や使用できる公共施設を分けられることなく、共に教育を受けて育っています。もう少し時間はかかるでしょうが、次の社会を担う世代の意識は確実に違ったものになることでしょう。
しかし人種を問わず、建国の父たる故マンデラ大統領への国民の敬意は非常に強いものに感じます。2013年12月のご逝去の際には、国全体が喪に服しました。わが社でも、ご逝去の翌朝には社員全員が会議室に集まって手をつなぎ、国歌を斉唱し共に祈りをささげました。故マンデラ大統領の影響力の大きさを目の当たりにするとともに、個人的にも大変感動する出来事でありました。


南ア経済概況


南アのGDPは約3,500億ドル、1人当たり 6,600ドル(2013年:IMF)と、アフリカの中ではかなり豊かな国といえます。南アの経済規模はサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南の国)の3割弱を占めてアフリカ経済をけん引しており、南ア企業はサブサハラの多くの国へも進出し投資を進めています。日本企業の多くも南アからアフリカをカバーしているケースが多く、約120社が拠点を設け、1,500人弱の邦人が在留しています。
南アというと金・ダイヤモンド・プラチナ等の資源が中心の経済というイメージが強く、実際に鉱業主導で成長した国ではあるのですが、近年では金融・保険等のサービス業の割合が拡大し、2013年のGDP部門別内訳は、鉱工業が約8%に対し、サービス業が63%を占めています。
このように経済的に発展した国ですが、一方で失業率は25%(2013年 IMF)と高く、経済の不平等度(ジニ係数)は世界第2位と、非常に大きな所得格差があることを示しています。貧困問題は深刻で、先に挙げた治安状況も大きな貧富の差によるところが大きいものと思います。
政府はこの貧富の格差を解消すべく、歴史的に差別を受けてきた人たちを優遇するBBBEE(Broad Based Black Economy Empowerment)政策を採用しています。この政策では、企業が過去に差別を受けてきたとされる特定の人種の人たちを資本家・従業員等に組み入れることを義務付けています。しかし、その義務が急進的過ぎて企業にとっては大きな負担になっているとの批判もあります。人種間の貧富の格差が大きい中、何らかの優遇策は必要であろうと思いますが、経済全体の効率的運営とのバランスも必要であり、非常に難しい問題といえます。
また、南アはアフリカの中では最もインフラが発達した国ではあるものの、近年では過去に建設されたインフラ整備・運営の能力不足や非効率性が問題を引き起こしています。特に、電力の供給不足による停電や電力料金の値上げは製造業に大きな打撃を与えており、今後のさらなる経済発展のための課題となっています。


わが社CSR活動として給水施設を寄贈した際の学校の生徒たちと
公立学校の多くは基本的な設備が不足しており、インフラ整備が必要な状況


南アの豊かな自然


ケープタウン ボルダーズ・ビーチにて南アフリカペンギンと

さて、さまざまな問題にも触れましたが、ここからは少し南アの魅力に触れたいと思います。まず一つには、素晴らしい気候と豊かな自然が挙げられます。南半球に位置するため、北半球とは逆に10-3月が夏になります。街中でも緑が豊富で、気候は1年を通じて温暖、カラッと晴れ渡った天気の日が多く、屋外を歩いたりするのはとても気持ちがいいです。
クルーガーをはじめ、サファリを楽しめる国立公園も多数あり、Big 5といわれるライオン・象・バッファロー・ヒョウ・サイ等は全て見ることができます。また、南アフリカペンギンやアザラシ等の野生動物が見られるところもあり、多彩な動物との出会いは南ア観光のハイライトの一つです。
恵まれた環境の中、南ア人は皆自然を楽しむ方法を知っており、ゴルフ・ハイキング・キャンプ・サイクリング・釣り等のアクティビティは非常に人気で、家族や友人で連れ立って週末ごとにアウトドアを楽しんでいます。皆ブラーイ(アフリカーンス語の「焼く(Braai)」という言葉が語源)といわれるバーベキューが大好きで、自宅の庭や近所の公園でブラーイを開催し、家族ぐるみで互いに招き合う、というのも週末の定番の過ごし方です。
駐在員の間ではゴルフが非常に人気です。都心近くで安くプレーできる素晴らしいゴルフ場が多くあり、日頃出歩けないための運動不足解消も兼ね、週に2ラウンドはゴルフという方も珍しくありません。


南アのワイン


ワインの産地Stellenboschにて
風光明媚(めいび)なワイナリーで味わうワインは格別です

もう一つ、南ア生活の楽しみのひとつに、おいしい南ア産ワインが挙げられます。17 世紀にオランダ人が持ち込みフランス人が技術を向上させたというワインですが、南アは土壌や気候が生産に適しているようで、今や500を超えるワイナリーがあり、世界第9 位の生産量(2012年)を誇ります。新世界ワインの一つである南アのワインはとてもコストパフォーマンスが高いので、われわれ駐在員も日常的においしいワインを味わっています(ただし、ヨハネスブルグは標高1,700m 程度、平地よりも酔いやすい環境ですので飲み過ぎには注意です)。
ウエスタン・ケープ州にあるワインの生産地はワインランドと呼ばれ、数多いワイナリーではワインの試飲はもちろんのこと、併設のレストランで食事をしたり、宿泊したり、醸造過程を見学できるところもあり、観光で訪れる先としても非常にお勧めです。ピノ・ノワールとサンソー(エルミタージュ)の交配種である、南ア独自のピノタージュという品種の人気が高く、最近は日本への輸入量も増えていますので、皆さんにもぜひ味わってみていただきたいと思います。


最後に


さまざまな問題も抱える南アですが、現在はまだ国が変わっていく過渡期であり、現地にいながらその変化を目の当たりにできることは大変興味深いことです。大都市ヨハネスブルグでさまざまな人種・民族の人々と接し、また外国人の駐在員として他の外国人と仲良くなる機会も多い中、大いに刺激を受ける日々です。それぞれ民族・文化が違う中で考え方・生活様式等はそれぞれですが、誰もが国を愛し、家族や友人を愛し、幸せなことや悲しいことやさまざまなことがありながらも、一生懸命日々を生きているという意味では皆同じだということを実感します。
南アはアフリカの中でも影響力が大きく、南ア社会の安定や経済的繁栄はアフリカ大陸全体の発展にも大きく寄与するものと思います。1994年に平和裡に政権が移譲されたように、そして皆が故マンデラ大統領に対して共に平和の祈りをささげたように、今後も人種・民族の違いを乗り越えて人々が共に問題解決に尽力し、豊かな社会を築いていく未来を祈ってやみません。わが社の南アでの活動が社会に貢献できることを願いつつ、私自身も微力ながら、南アでの仕事を引き続き頑張りたいと思います。
本稿を通じて少しでも皆さんが南アを身近に感じていただくことができれば、望外の喜びです。

Rainbow Nation南アフリカの魅力 誌面のダウンロードはこちら