世界一退屈な街?ドーハ

岩谷産業株式会社
ドーハ駐在員事務所長
田中 靖俊

はじめに


当社は、2017年4月にドーハに事務所を開設したところであり、当地に赴任して1年半が経過しようとしています。カタールと聞いて思い付くのは、世界一のLNG生産国、「ドーハの悲劇」や2022年開催予定のサッカーワールドカップくらいではないでしょうか。

今、ワールドカップに向けて、スタジアムをはじめ、地下鉄、ホテル、住宅、道路など至る所で建設が進んでいます。裕福な国といわれてはいるものの、他の国に比べると娯楽も少なく、まだまだこれから開けていく国といえます。2017年6月から始まった、UAE、サウジアラビア等の周辺国からの断交は、長期化の様相を呈している中、さまざまなことが急速に変わりつつあります。

ガイドブックにも「世界一退屈な街」と書かれるくらいの小さな国。住めば都といいますが、現在のカタールの状況について、ご紹介させていただきます。

カタールの概要


スタジアム建設


メトロ駅建設


カタールは、アラブ首長国連邦のドバイの対岸、クウェートの南東に位置する、アラビア半島から突き出したペルシャ湾の南岸にある半島です。面積は、1万1,427km2と秋田県よりやや狭く、国土の大部分は平坦な砂地です。

人口は約245万人で、カタール人が約30万人、日本人は900人を切る程度、カンドゥーラ(男性の白い民族衣装)やアバヤ(女性の黒い民族衣装)を着ている人を見掛けなければ、ここはインド?フィリピン?アフリカ?と思うほど、外国人労働者の比率が高く、自分は一体どこにいるのだろうかと思う時があります。

人口のほぼ半数は首都ドーハに住んでおり、治安は、空き巣やスリ、置き引き等の被害がないわけではありませんが、カタール当局が治安対策に力を注いでいることもあり、比較的良好です。


歴史

カタール半島には、18世紀から19世紀にかけてクウェート、アラビア半島内陸部の部族が移住したことにより、現在の部族構成が確立しています。1916年に英国の保護下に入りましたが、1968年に英国がスエズ以東から軍事撤退を行う旨、宣言したことにより、1971年9月3日に独立しました。なお、カタールの首長家であるサーニー家は、現在のサウジアラビアの首都リヤドの南に位置するジブリン付近に定住していたタミム部族の分家といわれています。

英国から独立後、アフマド首長を中心に国造りを始め、その後、ハリファ首長が、第1次石油危機以後、急増した石油収入を資金源に、製鉄・石油化学などの工業化路線を進め、一定の国内工業化が図れた後、農業・漁業の振興や天然ガス開発など国内経済の多様化を目指しました。1992年以降、ハリファ首長の長男であるハマド皇太子(前首長)が国政全般を取り仕切るようになり、1995年にハマド皇太子が新首長に就任。ハマド首長は、天然ガス開発を積極的に推し進めるとともに、教育やスポーツの振興、保健・医療の充実に努めました。その後、2013年に、ハマド首長はタミム皇太子への権限移譲を表明し、タミム皇太子が新首長に即位し、現在に至っています。

気候

典型的なアラビア半島沿岸部の気候で、高温多湿な夏季(特に7-8月)には、45℃前後、湿度が上がると体感温度で50℃前後と非常に暑くなります。この時期は、歩いて5分のエリアでも、歩いているとあまりの暑さにくじけそうになります。ただ、戸外はあまりに暑いため、車での移動が多く、オフィスやショッピングモール、ホテル等の屋内では、冷房が必要以上に効いていることが多く、長時間建物内にいると逆に冷え切ってしまうこともあります。

他方、11-4月の気候は比較的温和になり、過ごしやすい気候になります。降雨量は非常に少なく、10-3月にかけてたまに地面を湿らす程度降ることがあります。

宗教・慣習等

カタール人は、ほとんどがイスラム教徒(大部分がスンニ派)です。このため、豚肉類、アルコール類等は、カタール国内に持ち込むことが禁止されており、一部ホテルのレストラン・バー以外では、酒類は供されず、豚肉を扱ったメニューは一切お目にかかれません。

日曜から木曜が平日となり、朝7:00-8:00が始業時間、15:00-16:00が終業時間となり、金曜日はイスラム教の休日のため、政府機関は休み、店なども夕方からとなります。イスラム暦9番目の月であるラマダン月では、約1ヵ月間の断食が行われるため、レストラン、ファストフードのお店も日中は閉店するため、ランチ難民に陥ります。また、ラマダン期間中はレストラン、バーからアルコール類も姿を消してしまい、アルコールと豚肉が唯一購入できる登録制のQDCというお店で事前に購入し忘れると、1ヵ月間禁酒を余儀なくされます。

カタール人の気質

砂漠が多い世界に住んでいるためか、砂漠の無慈悲さ、残酷さ、荒廃性に似た性格を持つとされ、攻撃性が比較的強く、ケンカや口論も多いとされます。また、自分や家族、一族の誇りやプライドを非常に重要視しており、プライドを汚されると、激しく攻撃してくるといわれています。

一方、プライドを傷つけることなく、自分や家族を尊重してくれる人に対しては、非常に親しみやすく、その相手だけでなく、相手の友人関係も尊重して親しく接し、人情に厚いことから、困っていればすぐに助けの手を差し伸べるといわれています。

過去のLNGにおける日本との関係から、東日本大震災時にはカタール政府から1億ドルもの資金提供とLNG、LPG追加供給をすることをすぐに表明するなど、親日国であり、また親日家の人も非常に多くおられます。

街の雰囲気

当社の事務所のあるウェストベイエリアは、官公庁やカタールを代表する企業や多くの日系企業も事務所を構える中心街です。空港からのウェストベイまでのコーニッシュストリートというメインストリートまでは、南国風な風景と高層ビルが立ち並ぶ風景が相まって、常夏の先進国のようにも見受けられますが、ふと足元を見渡せば工事中や工事してそのまま放置?状態の現場があるなど何かと中途半端なところが散見されます。歩いていると急に歩道がなくなることもあり、目的地にたどり着くのに急に大回りをしなければならないなど、行き来には注意が必要です。

観光スポット

日本からですとカタール航空で羽田と成田からそれぞれ1日1往復の週14便が就航しています。欧州などへ観光に向かう旅行者の乗り換え地点となっており、観光シーズンはもとより、年間通じて日本便はほぼ満席に近い状態ではありますが、乗客のほとんどはトランジットエリアに進み、到着エリアに進むのは駐在員と出張者など自分を含め数人だけという状態で、非常に寂しい気持ちになります。

トランジットの時間を利用した観光のための入国もカタールとしては進めており、北西部にある世界遺産のアル・ズバラ考古遺跡群や博物館など観光スポットがあります。その中でも、一番のお薦めは空港から20分ほどでアクセスできるスークワキーフという昔ながらの市場となります。


砂漠


砂漠バギー



ズバラフォート



スークワキーフ


土壁風の雰囲気のあるところで、中はまるで迷路。今でこそ自由に動き回れますが、赴任当初は自分が一体どこを歩いているのかが分からず、目的のエリアにたどり着くのに一苦労でした。

スーク内では、民族衣装用の生地やシルク製品をはじめとした衣料品、カーペット、スパイス、ナッツ、子供向けのスナックなどの食料品、鍋や食器、コンロ、掃除道具などの日用雑貨と、生鮮食品以外はほぼ調達できます。鳥、猫、ウサギなどが売られているペットスークもありますが、驚きなのがファルコンスーク。目隠しされて並んでいるファルコンの姿は、まず日本ではお目にかかれない風景。高級なものでは1羽数千万円もするとか。ゴージャス感たっぷりの宝飾品エリアのゴールドスークと共に中東ならではという雰囲気があります。

またスークの楽しみの一つは値引き交渉です。ゴールドスークではさすがに値引き率は低いものの、それでも交渉の腕次第ではかなりお得になることも。その他のお店では、交渉次第では店員の言い値の半分以下になることもあり、そもそもの価格設定がどうなのかという思いを抱いてしまいますが、そのやりとりをすることが楽しみの一つです。

食文化


前菜

いわゆるカタール料理と呼ばれるものはなく、アラビックフードとして、シリア料理、レバノン料理、イラク料理、イエメン料理などが楽しめます。味付けや呼称が異なりますが、鶏、牛、羊の肉料理で、串焼き、煮込み、チョップなど料理方法はさまざまで、パン(いわゆるナンのようなものが主)やビリヤニ(スパイスや肉、野菜などと共に調理するお米)と合わせ、ボリュームたっぷりに出て来る料理が多いです。前菜として、パセリやトマト等を刻んで作るタブーレ、ひよこ豆をすりつぶしてペースト状にしたハムスなどをパンに挟んで食べたりします。

また、変わりどころでは、ラクダの肉を使ったキャメルバーガーやスークワキーフのイラクレストランで食べられる「バチャ」と呼ばれる羊の脳みそ料理があります。羊の脳みそは、仕入れがないと注文できないため、チャレンジしたい場合は、事前に確認してから行く方が確実です。幸か不幸かまだタイミングが合わず、食べることができていません。

世界一退屈な街?

定時に終業を迎えれば夕方16:00くらいからは自由な時間となり、有り余る時間をどう過ごすかが駐在員の悩みの一つです。ジムやプールに行ったり、スパイスを買い込んでいろいろな料理にはまったりと過ごし方は十人十色です。レストランやバーに飲みに行くこともありますが、ハッピーアワーを利用しても日本と比べ割高なお酒を飲む羽目になるので、安価で気楽に行ける赤ちょうちんの居酒屋が心底欲しいと思う毎日です。

また、日頃の運動不足の解消にサッカー、テニス、スカッシュなどが盛んですが、真夏の屋外スポーツは暑いため、選択肢が減ってしまいます。そんな中、やらなければよいのに、暑い中でも多くの人が必死に通っているのがゴルフ。娯楽の少ない当地で、ある程度長い時間過ごせることも魅力の一つです。国内に1ヵ所しかないゴルフ場で、平日の夕方や金曜、土曜には、多くの日本人がラウンドしています。ただ、真夏のゴルフはスポーツの枠を超え、命懸けの苦行。朝早くからでも既に40℃近い気温の中スタートし、ラウンド終了間近には45℃近くになります。水ではなくスポーツドリンク、梅干し等で塩分補給をしながらプレーをし、体調がおかしくなる前に途中棄権することも当地では恥ではありません。

10月以降になると過ごしやすくなり、またカタール政府もいろいろなスポーツの国際大会を誘致していることもあり、体操、卓球、テニスにゴルフと国際大会がめじろ押しとなります。メダリストも参加する大会にもかかわらず、観客は一部世界を駆け回る追っ掛けの方たちを含め少人数のみで日本では考えられないくらい選手との距離が近く、サインをもらうだけでなく、会話や写真などにも気軽に応じてくれるなど、駐在員の楽しみの一つにもなっています。

おわりに

事務所立ち上げに始まり、断交、輸送ルートの断絶とその代替手段構築、プライベートでは思った以上にさまざまなイベントや交流ものの機会があるおかげで、住んでみるといわれるほど退屈感はなく過ごしてきています。

2022年のワールドカップに向けた街の様子の変化、断交による自立に向けたさまざまな変化を楽しみつつ、残る駐在生活を楽しんでいければと考えています。

皆さまのお越しをぜひお待ちしております。

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