モウマンタイ・香港

香港岩谷有限公司
増田 昌義

筆者


はじめに


私にとって2度目の香港駐在も2年が過ぎました。前回2000-06年の駐在では、家族 5人での帯同赴任でしたが、今回は人生初の単身赴任での珍道中を日々過ごしております。私にとっての香港事情を思いつくままに、書かせていただきたいと思います。


香港概要


香港は、中国広東省の南部、珠港デルタの河口に位置しており、北京からは約2,000km の距離があります。香港島、九龍半島が有名ですが、大小262の島があり、全体の陸地面積は1,104㎢で、東京都の半分、中国全土の9,000分の1程度と本当に狭い地域です。
気候は亜熱帯性気候で高温・多湿ですが、四季は一応あり、冬場は10度以下になることもあるので、暖房設備がほとんどない香港の冬は想像以上に寒さを感じる日々が2-3週間あります。また、台風がフィリピン沖から勢力を保ったまま直撃することがあります。台風の警報が発令されると、学校、会社や交通機関は強制的にストップとなります(日本企業の駐在員は、なぜか状況を本社に報告するために出社しているケースが多いようです(笑))。
人口は723万人で、95%が「華人」と呼ばれる中国系が占め、ハウスヘルパーとして出稼ぎで働いているフィリピン人が20万人ほどおり、日本人は約2万人が在住しております。また、人口の半分が香港島北部や九龍半島に集中しているため、生活実感としては世界一の過密都市と断言できる、毎日街中が満員電車のような状況です。
公用語は英語と広東語ですが、1997年の中国返還以降は、学校教育でも北京語が必須となっており、実質的には公用語は3つとなっています。現在、英語を話せる人は人口の約30%といわれており、返還後は言語の面でも、中国への傾斜が進んでいます。
1997年の返還時に成立した「香港基本法」は香港の資本主義経済体制や社会システムを50年間不変のまま維持し、軍事や外交を除く高度な自治権を認めるいわゆる「一国二制度」で運用されていますが、変換後 18年が経過して、中国本土と香港の融合スピードが速くなってきており、50年を待たずに加速的に一体化する可能性も高いと想像します。


歴史


香港が世界史の表舞台に登場するのは 1842年のアヘン戦争からですが、考古学調査によると約6,000年前の新石器時代には、既に人が居住し漁業を営んでいたようで、中国王朝時代も漁業や内陸物資の集散港として活用されており、アヘン戦争時は5,000人程度が居住していたといわれています。アヘン戦争後は英国による統治が100年以上続きますが、その間、1941年には日本軍が真珠湾攻撃から2週間後に香港を占領し、現在のペニンシュラホテルが「東亜ホテル」として、日本軍の軍事拠点になった歴史もあります。また1960年代には中国の文化大革命により、飢餓を免れようと約60万人の難民が香港にやってきたという歴史もあります。
一方、経済面では1950年代からは軽工業が発展し、中継貿易港としての役割が大きくなり始め、その後は英国の統治の下、国際都市として、また中国ビジネスのゲートウェイとして重要な役割を担ってきました。中国への返還後も国際金融都市、また華南地区のゲートウェイとして、発展を続けております。


香港歳時記


さて、ここからは、硬い話は終わりにして、最近の香港の変化と知ってお得な「食」の情報などをご紹介します。

1)観光客の激増
7年ぶりの香港の変化は、何といっても観光客の激増があります。2014年の香港への観光客は6,000万人を超えました。人口723 万人の地域に毎月500万人が入ってきており、そのうち80%は中国人。香港は今や事実上1,200万人を超える巨大都市として変貌しています。
大多数の中国人は、日帰り観光が多く、主要目的は買い物といわれています。買い物の内容も当初は富裕層が不動産や保険、宝石、貴金属を買うのが主体でしたが、現在では中国内製品に対する安全性の不安から、食料品、衣料品、雑貨などを大量に買って帰ります。香港は街中高級ブランドが立ち並び、香港人はお金持ちというイメージがありますが、実は購入しているのは中国人で 1回の訪問、1日で平均10万円以上消費するといわれています。
そんな中、香港人はどこに行くのか? その答えの一つが「日本」なのです。2014年の日本への渡航者は100万人を超えました。なんと人口の約14%が日本に向かっています。その理由を当社現地スタッフに聞いたところ、①LCCの増便で渡航費が安くなった。 ②円安による為替変動の恩恵。③日本の観光、買い物、食事の魅力、が最大の要因のようです。特に香港人は「食」に関しては糸目をつけずにお金を使うので、お土産には日本のイチゴや桃などの高級フルーツや、家電、時計、薬など日用品まで、観光はそっちのけで、買い物に集中するのが最近のトレンドとなっているようです。

2)食は香港にあり
香港の中華料理は世界一で美食家の楽園といわれております。私も多少食道楽でありますので、日々、体重コントロールに苦労しております。これから、私の一押しのレストランをジャンル別にご紹介したいと思います。
「広東料理」なら、「唐閣(タンコート)」が一押し。
合計9年間の香港駐在での広東料理を含めたMy best restaurant in Hong Kong です。
気品ある内装と落着いた雰囲気で、長年ミシュラン二つ星を獲得しており、最先端の広東料理では最高峰といえます。
特に名物料理のかきのグリル、ポートワイン仕立ては、誰もがそのボリュームとかきの風味とポートワインのマッチングに驚嘆します。また、フカひれスープは、関西出身の私好みの薄味仕立て、京料理の「おだし」のような深みのあるスープが、フカひれのコクと合体、これは日本人のためのスープと言って過言ではないほどほれ込みます。その他、何をオーダーしても期待外れのない、まさに名店です。


北京ダック

「北京ダック」なら、「満福楼(ダイナスティ)」が一押し。
このレストランは高級広東料理で有名なレストランですが、私はこの店の北京ダックが世界一と思っています。味のポイントは何といってもダック、鳥料理に例えると産地指定の地鶏を使っているようなもので、それに特製のみそと薬味を生地に包んで口に入れた時の香ばしさと味わいは絶品です。香港での北京ダックは通常、皮と肉を一緒に食べる店が多いですが、この店は、究極に薄くスライスした香ばしい皮だけを食しますので、脂っこさも少なく、特に女性は大喜び。前回の駐在時、帰国が決まったわが家の最後の餐晩(ばんさん)もこの北京ダックを楽しみました。


チャーシュー

「チャーシュー(焼き豚)」なら、Lung King Heenが一押し。
焼き豚なんかどこでも同じ、なんて思う方はだまされたと思ってフォーシーズンズホテル内にあり、中華料理で世界で初めてミシュランの三つ星を獲得した、Lung King Heenの焼き豚をご賞味ください。高級店ですから、おいしいのは当たり前。しかし、ここの焼き豚は本当に、ほっぺたが落ちると感じる素晴らしさがあります。産地限定の高級豚肉に秘密の下味を付けて、こんがり焼いた後、店特製の蜜をかけて出来上がり。フルボディの赤ワインと頂くと、うーん、これはエクセレント。ぜひお試しください。


辛子鶏

「四川料理」なら雲陽閣が一押し。
辛い、辛い四川料理、とはいっても香港の四川料理は、本場とは違い、多少マイルドに仕上がっています。この店の名物は、辛子鶏(ラーツージー)。鳥の空揚げに唐辛子、さんしょう、薬味などをミックスさせた四川の代表的なメニュー。一口目は誰もが「辛い~」とビールをごくごく飲みますが、何度か口に運ぶと次第にうま味が実感でき、「辛うまい~」に変身する不思議な料理。他にエビチリ(これも辛い)、と辛くない野菜炒めなどを組み合わせて堪能、堪能。また来たいと実感すること間違いなし。
「海鮮中華」なら竹園海鮮飯店が一押し。ほとんどの日本人は海鮮料理が大好き。特に香港の海鮮中華は日本では絶対に食せない珍味があります。それは蝦蛄(シャコ)。日本の蝦蛄の10倍くらい大きなサイズで、ニンニクと一緒に空揚げにして食べます。見た目はエビのような、カニのようなプリプリの身を口に入れると、「何これ~」と言うこと間違いなし。カニの食感と甘エビより甘い独特の風味にほれ込みます。リピーターになること間違いなし。


女人街

3)ディープな買い物の街 「女人街」
2014年からの円安傾向と香港の物価高で、日本人旅行者として香港の買い物は妙味がないと言う方が多くおられます。そんな方には「なんちゃって買い物」の聖地「女人街」をご紹介します。九龍半島の繁華街モンコックの一角に長さ1kmにわたり、毎日午後2時ごろから10時ごろまで露天がひしめき合う怪しげな街。「なんちゃって」というのはいわゆる「偽物」ということで、いつ行っても観光客でごった返しています。
ブランドバッグ、時計、カバン、ベルト、衣類、靴などなど、何でもそろっています。それぞれの品質は多種多様ですので、よく観察する必要がありますが、ここの醍醐味は何といっても「値引き交渉」です。特に観光客には高値をふっかけますので、私がご紹介する「代表的な交渉術」を習得いただければ、怖いものなしです。

交渉術 例)お土産に財布を二つ買う場合。
本人: これいくら?
店員: 100ドル
本人: 高い~、40ドルにして(ターゲットは、言い値の40%掛け)
店員: そんな値段、できるわけない。80ドルでどう?
本人: 高い、高い、要らんわ(と言って、次の店に行こうとする)(すると、ほぼ80%の確率で)
店員: ちょっと待って、いくらなら買うの?
本人: だから40ドルと言っているでしょ
店員: 60ドルがファイナル価格です
本人: 要らん
店員: いくつ買ってくれる?(ほら来た)
本人: だから、2個買いで80ドルや
店員: 100ドルが限界です
本人: やっぱり要らんわ、バイバイ(と言ってまた歩き出す)
(ここがポイント。店員が再度「待って」という確率は40%だが、リスク承知で歩く)
店員:分 かった、分かった、80ドルでOK (ほら来た)
ということで商談成立。お試しください。

少し支離滅裂に書かせていただきましたが、香港はビジネスの面では、世界の大生産基地である華南地区を背後に持ち、世界有数の金融機能と高いレベルで教育された人材が豊富な国際都市です。一方、これまで書いたように食の宝庫であり、商売、特にお金には貪欲な国民性を持っております。多少の失敗でも「モウマンタイ=大丈夫、問題なしの広東語」の精神で、おいしいものを食べ、ビジネスでしっかり稼いで、常に前を向いて進む、陽気な香港人気質は見習うところが多いと感じながら、日々悪戦苦闘をしております。そんなユニークな香港へぜひお越しください。

モウマンタイ・香港 誌面のダウンロードはこちら