良いところもおおらかさ、 困るところもおおらかさ?

日立ハイテクノロジーズマレーシア会社
取締役
川畑 亮一

日立ハイテクノロジーズマレーシア会社へようこそ


日立ハイテクノロジーズマレーシア会社は、マレーシアの日系家電メーカー向けの部品・材料販売を目的として1992年に設立されました。現在も引き続き日系企業への家電、自動車関連部品・材料の販売を中心に、ハードディスク検査装置のサービス、生産系IT システム、分析装置などを取り扱っています。社員はクアラルンプールに15人、ペナンに5 人の計20人。そのうち日本からの駐在員は私を含めて4人で、現地採用の日本人1人を含め全社で計5人の日本人が働いています。
私は、2015年4月に管理部門の担当として着任しました。総務、人事、財務関連の業務を見ています。管理部門には私を含めて6人が所属していますが、勤続20年を超えるベテランのマレーシア人社員も2人おります。ナショナルスタッフとの会話はほとんど英語ですが、管理部門のマレーシア人スタッフは1 人を除き全員が中華系なので、ナショナルスタッフ同士は中国語で話すことが多いようです。オフィスでは英語と中国語が飛び交う状態ですが、私に聞かれたくない内容は中国語で話しているようなフシもあります(苦笑)。
私の使う英語がたどたどしい場合も、ナショナルスタッフは長年日本人と仕事をしていることもあって、私たち日本人が何を言いたいのかをきちんと感覚で理解してくれているようで、とても助かっています。


マレーシアってこんな国…私の印象


オフィス受付にて(筆者)

私にとってのマレーシアは、東南アジアの新興国で発展途上の国というイメージでしたが、3年前に初めて出張でマレーシアを訪問したとき、「想像以上に都会」と驚き、それ以来イメージががらりと変わりました。マレーシアの在留邦人は約2万人ですが、この中にはビジネスパーソンだけでなく、リタイアした後にマレーシアで過ごされている方も含まれています。その一番の理由は気候が暖かいことにあるようです。その他、比較的物価が安いこと、税制面での優遇なども挙げられ、日本より暮らしやすいと感じる人も多くいるようです。
マレーシアの皆さんは、日本に対して良いイメージを持ってくれていると思いますが、日系企業で働くことが昔ほどステータスにはなっておらず、入った日系企業を辞めてしまう方も多いようです。日本以外の企業もどんどんマレーシアに進出していることも理由の一つかもしれません。
特に最近は、家電や電子部品などの韓国系企業が増えていて、私たちのオフィスの周りにも韓国人の方が多くいらっしゃいます。私が住んでいるモントキアラという外国からの駐在員が多く住む地域でも、韓国系のスーパーが増え、コリアンバーベキューのお店も目につきます。韓国以外にも中国や欧米の方など、さまざまな国・地域の人たちを見掛けます。


車の話題が多いマレーシア


通勤時間帯の交通渋滞(朝7時ごろ)

こちらへ来てやや苦労しているのが交通手段です。通勤は車ですが、日本の電車通勤のように新聞や本を読んでいれば目的地へ到着できるわけではなく、いつもハンドルを握って運転に集中しなければならなくなりました。通勤時間は渋滞していなければ15分ですが、渋滞にはまると30分から1時間ほどかかることもあります。車自体が多い上、交通マナーが徹底されていないために渋滞がひどくなっているように感じることもあります。交通事故も多く、赴任してからの半年間で4回ほど見掛けています。マレーシア人は普段は比較的のんびりしているのですが、こと運転に関してはそうでもなく結構攻撃的なハンドルさばきをします。特にこちらはバイクも多く、渋滞をすり抜けていくときに車と衝突して、ライダーが大けがをするという場面に2 度も遭遇しています。
道路も、道の真ん中に普通に穴が開いていたりします。高速道路を走っていても突然工事中となって一般道に出され、また高速に戻ることもあります。夜道は特に注意が必要で、知らない道をスピードを出して走っていると穴にはまる危険がありますので注意が必要です。歩行者も横断歩道で信号が青になるのを待たず、車が通っていなければ渡るのが普通で、信号に頼らず自分の身は自分で守らなくてはなりません。
輸入車は関税が高いため、日本車の価格は日本で購入する場合の倍ほどの値段です。それだけに欧米車も含め輸入車に乗ることは、一つのステータスになっています。その一方でプロトンやプロドゥアといった国産車は、ボロボロになるまで乗られています。また日本人には驚きですが、マレーシアには車検という制度がありません。点検整備は個人の意識に任されているのですが、時々タクシーなどに乗っていてエンジンの音がおかしかったりすると、ちょっと不安になることもあります(苦笑)。


2020年に先進国の仲間入りが目標


オフィス(29階)から見た建設中のビル群

マレーシアでは、2015年の5月21日に次期(2016-20年)国家5 ヵ年計画「第11次マレーシア計画~成長を国民の手に~」が発表されました。この中では、年率平均5-6%の経済成長率をめざすこと、2020年には先進国入りの目標に向け、1人当たりの国民総所得(GNI)を1万5,690ドルまで引き上げることが提示されています。低成長あるいは横ばいの状況が続く日本から見れば夢のような経済成長率ですが、こうした国家計画の中にも、これからどんどん成長して先進国の仲間入りをしようという勢いを感じます。
オフィスの窓からも3-4棟の建設中のビルが見えますし、自宅の近所でもマンションが建設中です。ショッピングモールへ出掛けてもマンションの売り出しが頻繁に行われていたり、不動産業界も活気があるようです。
日常生活の中ではスマートフォンがはやっています。老若男女を問わず、時間があればスマートフォンでゲームなどをやっている風景を至る所で見掛けます。日本と同じ風景だと思っていましたが、ショップの店員がスマートフォンを操作しながら接客しているのには驚くばかりで、国が違えばサービスも違うものです。


のんびりしているけど、運転はアグレッシブなマレーシア人


人気のショッピングモール

マレーシア人は、全般的には結構のんびりした性格だと感じています。良くも悪くもおおらかなところが特徴だと思います。細かいところを気にせず結果が良ければOKという部分は、日本人も参考にすべき点を含んでいると思いますが、あまりにも時間にルーズな場面に触れると、やはり日本人の私は少々イライラしてしまいます。
しかし車の運転となると人が変わるのか、渋滞の中での割り込みや頻繁かつ強引な車線変更など、攻撃的な運転をする人が多いように感じます。私自身、通勤時も積極的な運転をしないと、なかなかオフィスまでたどり着きません。最初は渋滞を避けて朝早く自宅を出ていたのですが、今では道が混雑しているときでも「ちゃんと」運転できるようになりました。
マレーシアでは6-7月がラマダン(断食月)になります。この時期はムスリム(イスラム教徒)の人たちは昼間何も食べないで仕事をして、16時には帰宅します。おかげで 17時半-18時ごろの帰宅ラッシュがない代わりに、16時ごろから渋滞が始まるそうです。また、このときはお腹も空いているからなのか、いつもよりさらに運転が荒くなる傾向があるようです。
マレーシアの人は休日などの余暇には、ショッピングモールに出掛けることが多いようです。マレーシアには大きなショッピングセンターやモールがあります。イメージは日本のショッピングモールと同じような感じで、イオンなど日系資本の施設も含まれており、多くの人でにぎわっています。


ビジネスもおおらかさが第一!?


先ほど、マレーシア人はのんびりした面があると書きましたが、基本的にこちらでは打ち合わせは時間通りには始まりません。私の会社では始業時間は守られていますが、打ち合わせについては時間が守られているとはいえません。社長を交えての会議でも同様なので最初は私もカリカリしていましたが、今ではそれにも慣れました。自分一人が気が立っていても仕方がないので、私も周りのペースに合わせるようにして穏やかに仕事を進めています(笑)。10-30分ぐらいの遅れは日常的といった感覚ですが、遅れた方が謝ることもなければ他の人がそれをとがめることもなく、そういったところにも日本人とは違ったおおらかさを感じます。
こうした環境で仕事をするコツは、やはり自分も彼らのようにおおらかになること。無理にきちょうめんになることなく自然の流れに任せるようにしています。時々日本の管理部門と話をしていると、日本人の細やかさに戸惑う自分を感じることもあり、だいぶマレーシアになじんできたのかなとも思っています。抜け出せなくなると困りますが(笑)。


マレーシア料理は刺激的


マレーシアは、マレー系、中華系、インド系などさまざまな民族が入り交じっているため、それぞれの民族の多様な料理を口にすることができます。赴任した当初は珍しいこともあってナシレマ(ナシ=ご飯、レマ=脂肪、ココナツミルクで炊いたご飯の上に具がかかっている)などのマレー料理を好んで食べていました。マレー料理は私の印象では、香辛料の辛さと塩味が濃いことが特徴のように感じます。脂っこい料理が多く、香辛料の影響か色も黄色や茶色っぽいものがほとんどで、彩りという意味では日本料理を見慣れた目には少し単調かもしれません。日本の焼きそばのような麺料理もありますが、味はやはり辛くて塩味が濃い感じです。
ときどき屋台街へ出掛けて中華系の料理も食べます。屋台街の店は正直きれいとは言い難いですが、日本人には食べ慣れた、日本人好みの味だと思います。また、マレー系と中華系がミックスされて生まれたニョニャ料理というものもあり、マレー系の香辛料と中華系の食材が組み合わされた、奥深く優しい味わいが好まれています。
日本食のクオリティは結構高く、日本のチェーン店がいろいろと出店していることもあって、その気になれば現地食を食べなくても生活できてしまうほどです。「吉野家」や「はなまるうどん」といったお店はマレーシア人にも人気で、家族連れでにぎわっています。マレーシアはイスラムの国なので豚肉は普通には売っていません。でもスーパーなどにはノンハラルのコーナーがあって、そこで豚肉は買うことができるので、こちらでも豚肉を食べる機会はそれなりに多いです。最近ではとんかつ屋さんもできたほどです。
フルーツは南国なのでおいしいものがたくさんあります。スイカやランブータン、マンゴスチンなどがおいしいです。有名な「果物の王様」ドリアンは6-8月が時期で、自宅の近所にもトラックに積んで売りに来ています。マレーシア産のドリアンは、においが強いものが特に良いとされているそうで、3回食べると癖になるといわれています。ブルーチーズが好きな人ならイケるということなので、そういう方はぜひ試してみてはいかがでしょうか。ちなみに私は、普通にスーパーで売っていたものを初めて食べてみたのですが、今のところあとの2回は先延ばしにしています(苦笑)。


ドリアンを割ったところ


異国情緒に浸れる港町マラッカ


最近、日本から来た友人をマドリアンを割ったところ ラッカに案内しました。マラッカはポルトガル、オランダ、英国、日本と多くの国の影響を受けてきた都市で、歴史的にも欧州とアジアの貿易の中継地点として重要な役割を果たしてきた港町です。教会や古い建物なども多く、オランダ広場など欧州の香りのする場所も残っています。
ガイドブックにはクアラルンプールから電車で行けると書いてありますが、電車はお薦めしません。電車はよく遅れますし、電車を下りてからもバス、タクシーと乗り継がなければなりません。直行バスの便もありますが切符が買えないこともあるので、結局自分で車を運転していくのが一番便利かもしれません。
マラッカはクアラルンプールとも、他のどのマレーシアの都市とも違った雰囲気があり、日本人の私が言うのもおかしいですが、マレーシアでも異国情緒を感じられる独特の空気を持った面白い場所だと思います。


おわりに


20年ほど前には、マレーシアには日系の家電メーカーがたくさん進出して、世界のエアコン工場、VTR工場と呼ばれていた時代がありました。現在ではマレーシアの産業構造も変化し、外資の導入もオープンになってきており、韓国や中国をはじめ欧米からの進出も多くなっています。新5 ヵ年計画の下、その傾向はさらに顕著になるのではないかと思います。
このような変化がある一方で、マレーシア人の細かいことにこだわらないおおらかさは今も健在で、日本に対する印象も良好だと感じています。これからもこうした信頼関係を大切にしながら、変化するマレーシアに柔軟に対応していきたいと考えています。

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