「北」と「南」ベトナムの見せる 二つの顔

ベトナムJFE商事会社
ハノイ支店長
住吉 功

1. はじめに


ベトナムにとって2015年は、1945年9月のホーチミンによる独立宣言から70周年、 1975年4月のベトナム戦争終結から40周年、 1995年のベトナムASEAN 加盟後20周年という節目となる一年でした。
当支店の歴史を振り返ると、1994年8月に当社の前身である旧川鉄商事がハノイ駐在員事務所を開設。98年にハノイ事務所を閉鎖しホーチミンへ駐在員事務所を移転しましたが、同じくJFE商事の前身となるエヌケーケートレーディングが同年にハノイ事務所を開設。2004年10月のJFE商事誕生とともに、 JFE商事ハノイ出張所として再出発となりました。その後、2013年の現地法人ベトナム JFE商事会社の設立に伴い、ホーチミンを本店化し、ハノイも同現地法人の支店として新たなスタートを切りました。
私自身は、2012年に当時のハノイ出張所に赴任、現法化に伴い現在は支店長としてハノイで勤務を続けています。
ベトナムの人口は約9,250万人で、ASEAN 加盟国の中ではインドネシア、フィリピンに続く多さです。うち京(キン)族が約9割を占めることから、ほぼ単一民族の国家で、国民の8割は仏教徒であることから、民族や宗教構成については、日本と似ている部分も多くあります。
国民の平均年齢は29歳と若く、平均賃金も近隣諸国と比べてもまだ安い水準で、その上治安も悪くないため、ポストチャイナとして注目を浴びていることは、ご存じのことと思います。国土は日本の九州を除いた面積に相当し、アジア諸国では日本に次いで9番目の大きさです。


2. 政治都市ハノイと経済都市ホーチミン


筆者

北海道と沖縄の緯度差は15度以上ですが、ここベトナムもハノイとホーチミンで10度程度の緯度差があります。その緯度差がもたらすのか、気候を含めハノイを中心とする北部と、ホーチミンを中心とする南部では幾つかの違いを感じます。
首都ハノイは言わずと知れた政治都市で、亜熱帯性気候に属し湿度が高く、日本ほど明確ではありませんが四季があります。市民の傾向として、消費より貯蓄を志向するという堅実性があり、非常に辛抱強い性格といわれます。しかしながら、日本人なら爽快と感じる15度前後の気温でも大変な厚着姿があちこちで見られ、寒さに対する辛抱強さにはまだ鍛錬が必要なようです。一方ホーチミンは、ベトナム最大の経済都市。熱帯性気候に属し雨期・乾期がはっきりしています。新しいものに敏感で消費志向が高く、大らかで楽天的という傾向があります。


3. 麺類の差からみる南北の違い


ハノイのフォー

ホーチミンのフォー


日本でもなじみ深いベトナムの麺料理といえば米粉でできたフォー。けれどベトナムにはフォーだけではなく太麺や春雨風の麺、汁そばに混ぜそばなど、さまざまな麺料理があります。ここでは、両都市それぞれの世界各国の観光客に大人気の麺料理の名店をご紹介します。
まず、ハノイの麺料理といえばBun Ch(a ブンチャー)というつけ麺です。炭火焼肉と肉団子入りの甘酸っぱいタレに、麺・香草・野菜を入れて食べます。少し甘めのつけだれが麺や肉とマッチして、病みつきになる旅行者もいるほどです。中でも特に人気のお店Bun Cha Dac Kimでは、あまりにも有名となったため、お隣に全く同じようなメニュー・店構えを持つ店が出現。そのため、本家の店前には、「お隣の店は偽物です」といった内容の看板が堂々と掲げられています。日本ではまずあり得ない偽物店ですが、訪れる際はくれぐれもご注意の上、本場の味をお楽しみください。
対して、毎月訪問するホーチミンのお薦め店は、Pho Hoa Pasteur。こちらは、日本でもよく目にするフォーの王道の見栄えですが、中でも牛肉のフォーが人気であり、牛肉の焼き方を好みで選びます。焼き方はレア・ミディアム・ウエルダンから選定できますが、一般的な日本人の胃力ではレアは危険です。ミディアムかウエルダンをお薦めします。フォーにはさらに、香草や揚げパンを加えます。揚げパンは日本そばでいうところの天かすの役割を果たし、さっぱりとしたスープにコクをプラス。麺と肉だけでもかなりのボリュームですが、香草と揚げパンも加わり、食後は満腹で苦しくなるほどですが、分かっていても毎回完食してしまいます。
日本でも、つけ麺 VS ラーメンという対決がよく見られますが、ここベトナムでもハノイとホーチミン、約1,800kmを隔てて、同じ構図が両都市の名店を通じて見られています。個人的にはハノイのBun Chaに僅差で軍配です。


4. ベトナム人の優しさに触れて


バイクであふれ、われ先にと急ぐ交通渋滞、歩道で所狭しと営業する朝の屋台などはベトナム風物詩ともいえる南北共通の風景ですが、他に共通しているのは温かな人柄です。
国民性でもありますが、ベトナム人は血縁・地縁を重んじ身内を大切にします。その分かりやすい例は、レストランなどで見掛ける身内や知人の誕生日パーティーです。決して裕福でなくとも、数十人単位で人が集まり、参加者全員が声を出してHappy Birthdayを合唱し盛り上がっている場面に、しばしば出会います。結婚式の参列となると桁外れのレベルになります。私もナショナルスタッフの挙式・披露宴に何度か参列しましたが、最近ホーチミンで出席した披露宴は何と参列者が約800人。新郎であるナショナルスタッフのもとに「おめでとう」の気持ちを込めたお酌をするにも、大変な時間がかかりました。
人と人のつながりも大切にし、身内に限らずひとたび知り合った相手ならば人情あふれる接し方をしてくれるベトナム人。時にその温かさが「コネ」という言葉に姿を変え、ネガティブな影響を及ぼすこともありますが、観光地として世界的に人気の都市であるベトナムには、地元の人の温かさがあるからこそと感じます。


誕生パーティーの風景

朝の屋台


5. 最後に


ホーチミン廟

まだ4年に満たない駐在経験ですが、今回の寄稿を通じ、ベトナム人の気質や、長い期間にわたって培われた地域ごとに根付いた慣習・文化を客観的に回想し、この国のさらなる発展の可能性と大いなる潜在力もあらためて感じています。インフラ整備や発電能力等、発展へ向けた課題は残りますが、国民全体の年齢は若く、確かに将来的なエネルギーを感じます。
また、ここハノイには最近のベトナムの歴史を物語る建築物や資料館も多数あります。笑顔を見せながらホーチミン廟(びょう)前の広場を歩くベトナム人老夫婦が、つい40年前までは過酷な戦火をくぐり抜けていた経験を持つのかもしれないと思いを巡らすと、今の平和なベトナムという国をさらに発展させるお手伝いをしたいと心より感じます。
2015年は歴史的にも将来に向けてもベトナムにとって重要な年でした。駐在員としてベトナムという地に赴任していることに深い縁を感じつつ、これからのベトナム、将来のベトナムのため鉄鋼関連という側面から貢献していきたいと思います。
日本でもベトナム文化の認知度が上がり、ベトナムに旅行をしなくても日本国内でベトナム料理や文化を比較的簡単に楽しむことができるようになりましたが、皆さまも、ぜひ、自身でさまざまなベトナムを体感するためにお越しください。そして自身で南北の違いや共通点を探し出し、おのおのの長所を楽しんでください。

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