インドらしくない魅力でいっぱいのゴア

丸紅インド会社
副社長 兼 ゴア出張所所長
岡本 康男

インド! モディ首相が登場して、積極的な経済外交推進、外資導入で、経済成長著しいといわれている「旬の国」です。皆さんご存じのインドの都市といえばデリー、ムンバイ、コルカタ、最近になって日本企業の進出が著しい、アーメダバード、チェンナイ、バンガロールでしょうか。
ゴア、を挙げる人はあまりいないと思います。日本人にはなじみの薄い地域ですね。私も赴任するまで、ゴアのことは知りませんでした。ちなみに、ゴアというのは州の名前ですので、本稿ではゴア州と呼びます。ゴア州には、インドの他の都市にはない、いわゆるインドらしくない魅力がたくさんあります。 2015年4月に当地に赴任して、前任者から引き継いだこと、駐在1年目での体験を踏まえて、ゴア州のこと、その魅力を、できるだけお伝えできればと思います。


1. ゴア州について


筆者とパナジの町並み

インドの西海岸、アラビア海に面する、ムンバイから約600km南に位置する小さな州です。州都はパナジ。人口は150万人。インドでは最も裕福な州の一つ、といわれています。昔から鉱業(鉄鉱石、ボーキサイトなど)が盛んです。天然の良港に恵まれていて、鉄鉱石の輸出や、石炭の輸入港として、今も拡張計画が進められています。
歴史的には、1510年ごろから1961年までポルトガルの支配、植民地であったことから、ポルトガル風の建物、町並みが残されています。キリスト教教会がたくさんあって、キリスト教信者が多いのもゴア州の特徴。建物の造り、家具調度類もポルトガル風のものが好まれています。
最大の産業は観光業。南北約100㎞にわたる海岸線には、約30 ヵ所ものビーチリゾートが連なっています。レストラン、ホテル、ロッジなどの宿泊施設が充実していて、気に入ったビーチで休暇を過ごそうと、2015年には、海外から55万人、国内から475万人、合わせて530万人もの観光客がゴア州を訪れています。


2. ゴア州の見どころ


アッシジの聖フランシス修道院&教会

一番の見どころは、1986年に世界遺産に指定されたポルトガル時代のキリスト教建築、「ゴアの聖堂と修道院群」です。空港から北に車で45分、州都パナジからは、東に 10分。オールドゴアという地区に1600年ごろ建てられた修道院や教会の建物、遺跡が100ヵ所以上点在しています。1594年に着工、 1605年に献堂された「ボム・ジェズ・バシリカ教会」は、ラテライトの荘厳な外観と、日本にも来たイエズス会の宣教師として有名なフランシスコ・ザビエルのミイラ化したご遺体が安置されており、必見です。ザビエルのミイラ化したご遺体は、10年に一度、ひつぎごと床に降ろされて公開されます。観光客よりは、敬けい虔けんなキリスト教信者が大勢押し掛けます。前回公開されたのは、2014年11月21日-2015年1月4日でした。
ボム・ジェズ・バシリカ教会見学の後は、道を挟んで反対側。手入れの行き届いた広場にある「アッシジの聖フランシス修道院&教会」、「セ・カテドラル」の白くて端麗な外観と金色の豪ごう奢しゃな内装を楽しみます。ゴア州ならではのキリスト教建築の魅力に圧倒されます。


バガ・ビーチ

Baga Britto's店内で駐在前任者と


そして、もう一つの魅力。それはビーチリゾートです。
ゴア州の真ん中辺りにモルムガオ湾を経てアラビア海に注ぐズワリ川が流れています。この川から北をノースゴア、南をサウスゴアと呼びます。それぞれのお薦め場所を紹介します。
まずノースゴア。州都のパナジから北に 20km行くと「バガ・ビーチ」という、インド人に人気のビーチがあります。幅の広い白砂が長く続く、遠浅の砂浜。波打ち際での水遊び、海水浴が楽しめます。沖に出ればバナナボートや、水上バイク、パラセーリングなど水上アクティビティも満喫できます。夕方、ちょうど夕日がオレンジ色に変わり始める頃に、ビーチにたくさんのテーブル、いすがセットされ始めます。テーブルにはろうそくビーチでのお祭り騒ぎ! 準備の始まりです。ビーチに面して営業しているたくさんのレストラン群での食事もいけます。「ブリトスBrittos」というレストランは大人気。大きなレストランで、床は砂浜。ビーチに面したテーブルを予約できれば最高。各国からの輸入ビールにワイン、マルガリータやモヒートなどのカクテル類、インド人が好きなハードリカーも充実しています。料理は、伝統的なインド料理、ゴア風シーフード料理はもちろん、ピザ、パスタのイタリアン、ポークリブやビーフハンバーガーのアメリカン、ビーフステーキも堂々とメニューに載っています! その日の新鮮な魚介類(時価ですが…)を選んで、グリルもOK ! そして気になるお値段は、たくさん飲んで食べても日本円にしてせいぜい3,000円くらい! もしゴアに来られたら、ぜひ立ち寄っていただきたい庶民派スポットです。
そしてサウスゴア。「Park Hyatt」や「LaLit」、「Alila」といった高級リゾートホテルがビーチに沿ってあります。庶民派ノースゴアに対して、サウスゴアはやや高級リゾート、という感じでしょうか。
空港から60㎞、約1時間走るとゴア州の一番南、カナコナという地域にパロレムというビーチリゾートがあります。ここまで来るととても静かなビーチで、ゆっくりぜいたくな時間を過ごすことができます。ここに「ザ・ラリットLaLit」があります。このホテルには、9ホールのゴルフ場があってゴア州に滞在するわれわれ日本人駐在員の週末のオアシスです。5番ホールまではホテルの表玄関側にあり、前庭にもなっていて、フェアウエーもグリーンもとても丁寧に手入れされています。池やクリーク、ヒンズー教の寺院、ヤシの木などのアレンジも美しい。後半は右手にアラビア海に面したビーチ、左手にホテルの大きなプール、というレイアウトの広々としたフェアウエー。ロングホールが続きます。キャディーもゴルフをよく知っていて、礼儀マナーも良い! とても楽しくプレーできます。


アラビア海に沈む夕陽

そして何といっても魅力は広々としたプールサイドに白砂のきれいなビーチ。湾曲した海岸線が遠くまで見通せるパロレムビーチの景色を満喫できます。夕方には、アラビア海に沈む美しい夕陽が堪能できます。びっくりするくらいきれいなオレンジ色の夕陽が沈んでゆく様は、神秘的です。


3. 生活について


それでは、少し私の駐在生活の紹介をさせていただきます。
(業務)
私は2015年4月2日に赴任しました。支店、出張所の名前には都市名が充てられるのが通常ですが、州名であるゴアをとって丸紅インド会社ゴア出張所と呼称。私は初代から数えて15代目です。ゴア州では鉱業が盛ん、と紹介しましたが鉄鉱石の輸出に関連する業務が主体です。
インド・ゴア州の鉄鉱石産業と日本の鉄鋼業界との関係は古く1939年から始まりました。戦後間もない1950年にゴア州から日本への輸出が実現、日本の遠隔地輸入鉄鉱石のはしりといわれています。1951年には日本からの鉱山開発技術支援と日本輸出入銀行(当時)をはじめとする市中銀行からの融資による融資開発が行われました。これは戦後、日本が海外鉄鉱山に融資開発を行った最初のケース、日本輸出入銀行設立後の第1号案件です。その後、ゴア州モルムガオ港のバースの機械化、荷役設備建設に関する技術支援、融資協定締結と関係はさらに発展してゆきました。
最近の出来事としては、中国の鉄鋼ブームで鉄鉱石の価格が高騰したことで、鉱山会社による違法採掘がインド各地で行われている、という訴えがあり、実態が把握されない中、採掘が禁止される、という不幸な事態に陥りました。2012年9月のことです。この採掘禁止は、2014年4月に解除され、精査の結果、違法採掘の事実がなかったゴア州の鉱山会社は2015年7月から徐々に操業を再開させております。
(生活)
社宅で単身生活。ゴア州の州都、パナジ Panajiでアパート暮らしです。ご近所さんから見れば唯一の日本人なので明らかに目立っています。みんな、あいさつをしてくれます。少年少女もたくさんいますが、彼らの礼儀正しさには脱帽。みんな目を見て大きな声で向こうからあいさつしてきてくれます。
今住んでいるアパートは日本風にいうと6 階建ての建物で部屋は5階と6階を中の階段で行き来できる、メゾネットタイプです。屋上への出口もあるので、最初はいいね、と思ったのですが、この出口周辺が隙間だらけ。5月後半から10月にかけてのモンスーンの季節、ほぼ一昼夜暴風雨が吹き付け、この隙間から浸入する水が屋上階から階段伝いに流れ続けます。寝室の窓も隙間だらけで直接雨水が吹き込んではきませんが、暴風雨の音がうるさい。出張先でホテルに宿泊したとき、静かな部屋でベッドに体を横たえて、ああ、この静けさ、ありがたいとつくづく感じました。
食事は、3食とも通いのメードさんが作ってくれます。名前はマリア。歴代駐在員に仕えて30年。調味料を計量スプーンやカップで正確に量って調理をしてくれます。宝物です。家庭料理風の煮物、焼き物、炒め物、揚げ物。麺類からパスタ、ご飯物。何でもできます。食材は、月に2回、マリアと買い出しです。パナジにある中央卸売市場のような大きなマーケットの行きつけの区画でいつものお兄さんとマリアが楽しそうに値切って買い物しています。野菜は、玉ネギをはじめとしてトマト、芋、豆類、ナス、オクラ(インドのおくら、大きくておいしい)、大根、キャベツ、キュウリ、何でもあります。ないのは、ゴボウにレンコン。これはいつもマリアに日本に行ったら買ってきてくれ、と頼まれます。アラビア海に面していて漁業も盛んですから新鮮な魚の入手は簡単です。新鮮な卵もここで調達します。
それからマグソンという小型のスーパーマーケットで、鶏肉、豚肉、牛肉類を購入。牛肉が堂々と売られているのもゴア州ならではのこと、かもしれません。


パナジマーケット

4. 終わりに

インドでの業務は、なかなか思い通りに進まないものです。インド駐在員は「怒らず、焦らず、諦めず」をモットーに辛抱強く業務に取り組もう、なんて標語もあります。
日頃のハードシップ、ストレスが高いと、少し魅力のある建物や、ちょっとした癒やしの空間がとてもありがたいもの、になりがちです。本稿で紹介させていただいた見どころや食べ物、飲み物などについて、もしかしたらそうした事情で多少の偏見的要素が入っているかもしれません。それはそれでご愛嬌!ということでよろしくお願いいたします。
本稿を読んで、インド・ゴア州、面白そうだね、ぜひ一度行ってみたい。なんて思っていただけましたら、大変うれしい限りです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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