持続可能な社会の実現と商社 第4回「人権の尊重について」

はじめに

日本貿易会が2018年3月に改定した「商社行動基準」では、「第1章 経営の理念と姿勢」において、「すべての人々の人権を尊重する経営を行う」ことを新たに追加しました。この背景には、2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」)が採択され、人権を保護するための国家の義務と並んで、人権を尊重する企業の責任が明確化されたことがあります。

人権尊重に当たり企業が求められることは

指導原則は、「人権を尊重する責任は、企業に次の行為を求める」としています。
a. 自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり、助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処する。
b. たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める。


指導原則は上記責任を果たすため、企業に対して「その規模及び置かれている状況に適した方針及びプロセスを設ける」として、その必須要素として以下3点を提示しました。
a. 人権を尊重する責任を果たすという方針によるコミットメント
b. 人権への影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかについて責任を持つという人権デュー・ディリジェンス・プロセス
c. 企業が引き起こし、または助長する人権への負の影響からの是正を可能とするプロセス


難しい文章で書かれていますが、要するに(1)人権尊重の方針を定めて公表し、(2)方針が問題なく実行されていることを調査検証し、(3)万一人権侵害が起きた場合の救済方法を明確化することが、求められているのです。

人権侵害への加担も避けなければならない

人権尊重に関しては、企業が自らの事業活動を通じて、直接的に人権侵害を行うことを防止するのみならず、別の企業、政府、個人、集団などが犯している人権侵害に関与すること(加担)も避けなければなりません。先頃亡くなった、元国連事務総長のコフィ・アナン氏が提唱し、世界で1万3千を超える団体・企業が署名した国際的イニシアチブである「国連グローバルコンパクト」は、「企業は、自らが人権侵害に加担しないよう確保すべきである」との原則を示しています。

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