国際社会貢献センター(ABIC)20周年記念特別企画 三村日本商工会議所会頭と中村日本貿易会名誉会長が語り合う 「シニアの活用とABIC」

日本商工会議所 会頭三村 明夫
一般社団法人日本貿易会 名誉会長中村 邦晴

三村会頭(右)と中村名誉会長(左)


日本貿易会が設立したNPO法人である国際社会貢献センター(ABIC)は今春創設から20周年を迎えました。これを記念した座談会企画として、2020年2月26日に中村(当時)会長が、日本商工会議所の三村会頭を訪ね、社会貢献活動とABICについて語り合いました。その内容の一部は、3月27日付の日本経済新聞朝刊に「シニア人材の活用で、人手不足の解消、地域経済の活性化を後押し」と題する記事広告として掲載されましたが、今回は広告で掲載されなかったやりとりを含め、ABICに関する部分を中心にお届けします。

中村:当会の社会貢献活動は多岐にわたりますが、その中核を担うのがABICです。商社出身のシニアを中心とした3千人弱の登録会員が、現役時代のノウハウやスキルを活用して社会貢献活動を行っています。人生100年時代といわれる中で、定年60歳、再雇用で65歳を過ぎたシニアには、まだまだ先の人生があります。社会とのつながりを持ち続けていきたい、社会に貢献したいと考えている方がたくさんおられる中で、その力を社会のために役立てていく仕組みが必要ではないかというのが、20年前にABICを設立した時の問題意識です。

中小企業の人材不足への対応は急務

三村:私は日本商工会議所(日商)の会頭ですが、日商は全国515の商工会議所を会員としていて、傘下の会員企業は約124万社を数えますが、その99.7%が中小企業。その中小企業の最大の問題が人手不足です。人手不足の深刻さはすさまじく、そのために業績が伸ばせない、大変だと訴える企業が、2019年の調査で66.4%に達し、毎年だいたい5%ずつ増えています。考えてみれば当然のことで、少子高齢化が進んで15歳以上65歳未満の生産年齢人口が年間50万人以上減っています。加えて、中途採用の拡大で中小企業と大企業の間で人材の行き来が拡大し、差し引き年間50万人くらいが、大企業に移動しています。いずれの要因も毎年深刻化していくことが懸念されます。この人材不足への対応策の一つは女性の活躍ですが、それと並んでシニア人材の活用にも期待しています。

中村:私も地方の中小企業の方とお話をする機会がありますが、人手不足は本当に深刻ですね。外国人材の登用なども進めておられるのですが、経営の中枢を担う人材はなかなか確保が難しい。先ほど三村会頭がおっしゃったように、中途採用で確保しようとしても、報酬が合わないという現実があります。そこで、シニアで、報酬よりも、人助けがしたいという志を持った方々を活用しない手はないということで始めたのがABICです。

三村:マッチング機能が非常に重要なんですよね。大企業を定年になっても元気なシニアがたくさんいます。そういう意味で社会全体としてのニーズは高い。一方の中小企業ですが、輸出比率が4%しかない。日本全体でも14%しかありませんから、日本は国内マーケットの伸張に合わせてみんなが成長してきたということなのですが、これからはそういうわけにはいきません。海外進出を考えないといけないのですが、中小企業の多くはそんな経験はまったくありません。

人材マッチング機能を提供するABIC

中村:商社のシニアはそれぞれに専門があって、海外の特定地域や特定のビジネス分野で非常に豊富な経験を積んでいます。国内の営業をやってきた人もいますし、経理だとか、法務だとか、管理分野の経験をしてきた人もいます。ABICは、こうした人材の集まりなんですね。

三村:それを20年やっておられる。ずっとやってきて、登録人材がどんどん増え、マッチングされて、実際に中小企業や地方自治体で活躍している。私はそれをもっと宣伝をしてほしいと思います。世の中でそういう人材の需要と供給のマッチングが、一層進んでいってほしい。商社出身だけではなくて、他の業種にもシニア人材はたくさんいます。人材ニーズもたくさんありますよ。いろいろ各分野で。例えば地方自治体でインバウンドを自分たちに引き寄せるのにどうしたらいいのか、などという話は、地方の目ではなく外国人の目で見て、地方の魅力はどこにあるのかを考える必要があると思います。だから需要はたくさんあるんです。それをどうやってマッチングするのかが、商工会議所の会頭としての昔からの悩み、要望です。

中村:ABICをより多くの人に知ってもらうために、自治体などとタイアップして、いろいろな集まりに説明に出掛けています。そんな中で、最近増えているのが、地方で働く外国出身人材のサポートです。日本語が分からないために、住民登録から始まり、日々の生活のさまざまなところで苦労している。そういう方々に日本語を学んでもらうお手伝いもしています。最近の例としては、宮城県の気仙沼市で水産加工業の震災復興支援を当会の会員企業が行っていた縁で、外国出身の方々に日本語を教えてもらえないかという依頼がありました。気仙沼市役所と話をした結果、5月からABICが講師を派遣して日本語教室を開催することとなりそうです(注:新型コロナウイルス感染拡大を受け7月に開講予定)。この例を見ても、地道にABICのPRをやっていけば、もっとニーズはありそうです。

三村:人材派遣サービスとの競合もあるのではないでしょうか。

中村:ABIC自体も有料職業紹介事業の許可を取得していますので、一部重なる部分はありますが、多くの場合人材紹介の協力依頼が人材派遣サービスの会社からあります。自治体にしても中小企業の方々にしても、商社など大企業出身者と聞くと、報酬面で無理ではという反応が多いのですが、いや、そうじゃないんですと。「週に2日でも、月に5日でもいいんですか」とか、「報酬はこれくらいしか出せないんです」ということがあれば全部言ってくださいとお願いしています。何も背伸びする必要はない。先方のニーズと負担できる費用を聞いて、それでマッチングさせるのがABICの特徴です。

三村:そんなマッチングの世話をする人が7−8人おられると聞きました。これがまた大変ですね。手弁当でやってもらっているようなものでは。スポンサー企業のバックアップがないと、20年間スムーズに運営するのは難しかったでしょう。

中村:当会から必要な費用は出していますので、会員会社に負担してもらっているということになります。

三村:こういうマッチング機関というのは、いろいろあるのですが、ABICのように、シニア人材が今までの人生で蓄積したノウハウとか知識とかを社会に役立てる、そういうマッチング機能というのはあまり聞きません。なぜでしょうか。

中村:テンポラリーにと言いますか、必要なところを必要な時間だけ助けてもらうというサービスがあまりないように思います。日本はもともとフルタイム雇用が一般的で、最初からあきらめてしまっている中小企業が、特に地方には多いと感じます。

三村:そうですね。ある地方企業が、フルタイムではなく副業として、都会の人たちを対象に人材募集したら、すごい数の応募が来たという話を聞きました。



依頼者も支援者もともに満足


中村:ABICに依頼の多いもう一つの分野が教育関係です。小学生向けの国際理解教育では、ミャンマーとかインドネシアなど各国の事情について話をしてほしいという依頼がきます。これに対して、かつてその国に駐在した経験のあるシニアを送り出すのですが、1時間の授業にもしっかり準備をして臨みます。中には改めてその国に行って最新事情を確認する会員もいるんです。費用が報酬よりもはるかに高くつくこともあります。

三村:相手がビジネスマンであれば、改めて準備はいらないと思いますが、小学生、中学生相手となると大変ですよ。

中村:その通り、本当に大変です。しかし、会員の話を聞くと満足度は非常に高い。人を教える楽しさに加え、未来を担う子供たちを育てる手伝いができるというところに、ものすごい満足感を感じてやってもらっているようです。

三村:20年も続いたということは、お願いする方もお手伝いする方も満足度が高くないと続きませんよね。

中村:双方の満足を取り持つのがコーディネーターの方々です。会員の得意分野や実績などが頭に入っていて、この人ならうまくやってくれるだろうということで、マッチングをする。依頼する方も、この人になら、もっと他にもお願いしたいと、リピーターになっていただける例もあります。

三村:ビジネスでもそうなんですよね。広がっていくんです。

中村:そうなんですが、今のやり方では、これ以上案件数が増えたら対応しきれなくなりますので、少しシステムも高度化しようと考えているところです。

三村:地方のニーズがもっと伝われば、案件が増えるのは間違いない。

ABICの活動をもっと広げるには

中村:地方は直接のやりとりが難しいので、自治体の中小企業支援機関のようなところに窓口になってもらうのがポイントです。その点では、日商傘下の全国515の商工会議所にも窓口になっていただくことができれば、さらに可能性が広がりますので、これも成功事例をどこかで作っていければと考えています。

三村:商社というと、最初はちょっと敷居が高いんですよね。ただ資料を拝見すると3千人の登録会員のうち商社出身者は6割強ぐらいですか。

中村:6−7割ですかね。あとは、金融機関やメーカー出身者もいます。確かに敷居は高いというか、皆さんのイメージとして、大企業のその中でも商社というと、こんな仕事はやってくれないだろうとか、なんとなくみんな海外ばかり飛び回っているようなイメージを持たれるのですが、国内営業の経験者もいて、地方の特産品を全国で販売したいとか、会社の経理を見てほしいというご要望にもお応えしています。

三村:私は、どうして商社業界だけがこういうマッチング機能を20年間も続けてこられたのか、こんな時代のニーズに沿ったプロジェクトを、他の業界ではどうしてまねをできないのか不思議でなりません。商社の人だけが社会の役に立ちたいという意識を持っているのではなく、他の業界でも同じように、定年まで働いた後は国のため社会のために何かやりたい、それでお金も少しもらえれば、というふうに思う人がたくさんいると思うんです。なぜこれが広がらないのでしょうか。

中村:私たちも商社以外の業種の方にも、もっとABICに登録いただきたいと思っています。しかし、実際には各企業で既に社会貢献組織を持っておられる例も多く、わざわざABICにということにはなかなかなりません。

三村:日本全体のためにもっとアピールしてもらいたいですね。

中村:そのためには三村会頭のような理解者をもっともっと増やしていくことが必要です。先ほど申し上げた、地方商工会議所とのタイアップもぜひお願いします。

三村:成功事例をたくさん作っていきましょう。日経新聞にも広告だけでなく、記事でも取り上げてもらいたいですね(笑)。

中村:本当にそう思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。


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