水素インフラ整備に向けた岩谷産業の取り組み

岩谷産業株式会社 常務執行役員 中央研究所 副所長(兼)水素エネルギー部長
宮崎 淳

1.はじめに

2014年12月、トヨタ自動車㈱様が FCV「MIRAI」の一般販売を開始され、いよいよ水素エネルギー社会への扉が開かれました。しかし、本当に FCVが普及して水素エネルギー社会への道筋をつけるにはまだまだ課題があります。

私ども水素インフラ事業者、エネルギー供じゅうてん給事業者に課せられた命題は、水素を充填するための水素ステーションを一日でも早く、一つでも多く整備を進めることです。水素ステーションを積極的に整備することで FCVの普及を少しでも加速させ、真の水素エネルギー社会の実現を目指しています。

2.水素ステーション整備への取り組み

2011年1月、「2015年度末までに FCVの一般販売の開始と水素ステーションを 100ヵ所先行整備する」という共同声明を、自動車メーカー3社とエネルギー供給事業者10社が発表し、国からご支援を頂く中で水素ステーションの整備が開始されました。当社も20ヵ所の整備を目標に水素ステーションの建設を進めています。

当社の水素ステーションは、水素を外から運び込む「オフサイト方式」です。水素は「液化水素」の状態で専用のタンクローリーで輸送し、ステーションの貯槽に貯蔵されます。貯槽は内容積2万4,000ℓで、FCV「MIRAI」300台分以上を満タンにできる水素を貯蔵できます。

液化水素はマイナス253度の極低温で、ガス体の水素の体積を約800分の1にすることができ、大量輸送、大量貯蔵に適しています。液化水素の貯槽から気化させた水素ガスをコンプレッサーで82MPa(820気圧)まで加圧して蓄圧器に蓄え、蓄圧器と FCVタンクの差圧により、水素ガスを高速で70MPa(700気圧)まで FCVのタンクに充填するというシステムです。商用のステーションとしてお客さまの利便性にお応えするには、ガソリンスタンドと同様に燃料・水素をスピーディーに満充填する必要があるため、FCVに約5kgの水素を3分間で充填する能力を有しています。水素ガスをFCVに急速に充填する際にFCVタンク内の温度が上昇しますので、水素ガスをあらかじめマイナス40度まで冷却した状態で充填します。超高圧、極低温、保安・安全対策といったハイレベルの技術要素が組み込まれた設備となっておりますが、1941年から長年にわたり水素を取り扱う当社の経験や、供給技術などさまざまなノウハウ、知見が活用されています。

2014年7月、当社の中央研究所に「イワタニ水素ステーション尼崎」として国内初の商用水素ステーションを完成させたことを皮切りに、2016年2月末現在、16ヵ所の水素ステーションを既に開所しています。

2015年4月に東京都心のど真ん中、東京タワーの足元に「イワタニ水素ステーション芝公園」を開所しました。通常の水素ステーション機能に加えて、水素、FCVの普及に向けての情報発信基地として、トヨタ自動車㈱様のご協力の下に FCVのショールームを併設し、大勢の見学者にご来場いただいています。

また、2016年1月には関西国際空港内に「イワタニ水素ステーション 関西国際空港」を開所、2月には新しいビジネスモデルとなる、㈱セブン-イレブン・ジャパン様とコラボレーションした「コンビニエンスストア併設水素ステーション」を東京都大田区池上、愛知県刈谷市の 2ヵ所に同時オープンしました。その他、4大都市圏以外にも山口県周南市や山梨県甲府市にも水素ステーションを開所するなど、地方都市への拡大も視野に入れた整備を推し進めています。


コンビニエンスストア併設の水素ステーション


3.水素ステーション整備に向けての課題

2015 年度末までに100 ヵ所の水素ステーションを整備する目標に対して、現状では80 ヵ所程度の整備にとどまりそうですが、FCV 普及に向けてのインフラ整備の役割は果たせているのではないかと考えています。しかし、今後はさらに整備を進めなければなりません。そのためには、FCV の早期の販売台数拡大が重要であるとともに、ステーション整備においては以下の課題が挙げられます。

① 水素ステーションの設備コストが4 - 5 億円かかり、新規プレーヤーが参入しづらい状況にある。

② 水素ステーションを建設するための土地の手配が困難である。特に都市部では、採算の取れる価格での土地の探索は極めて難しい状況にある。

これまで水素ステーションの建設が進み始めた背景には、関係省庁のご尽力により、積極的に規制見直しがなされて市街地への建設が可能になったことが挙げられます。今後は保安距離、使用材料の拡大、セルフ充填等の規制見直しが進むことで建設コスト、運営コスト、整備面積の低減につながっていくものと期待しています。

当社は設備仕様の標準化、システムの見直し等も含めて、設備コストの低減に向けた取り組みを加速させております。また、液化水素ポンプの導入により、設備、システムの簡略化、電力代などランニングコストの大幅低減に向けても取り組みを開始しています。

4.終わりに

FCVの量産が見込まれる2020年ごろまでは、水素ステーションの自立はまだ難しく国のさまざまな支援が不可欠と考えていますが、いずれ水素の需要は大幅に増大することが予想されます。そのために水素の供給能力を高める必要があり、当社はまず、国内での液化水素の生産能力増強を進めて水素供給の安定化に取り組みます。2017年、㈱トクヤマ様との液化水素製造合弁会社「山口リキッドハイドロジェン㈱」の製造ラインを2倍に増設します。これで㈱ハイドロエッジ、岩谷瓦斯㈱千葉工場などの製造設備と合わせて当社の液化水素供給能力は25%増の約1億㎥/年となります。

今後は、水素の調達コスト低減、CO2フリー水素の導入にも力点を置く必要があります。その一つの取り組みとして、豪州の未利用エネルギー「褐炭」を原料に現地で液化水素を製造し、液化水素輸送船で日本に運ぶプロジェクトをNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)より受託し、川崎重工業㈱様、電源開発㈱様、当社にて検討を進めています。2020年ごろには神戸市の協力の下、神戸空港島の一部に液化水素輸入基地を建設し、褐炭由来の輸入液化水素供給の実証運転を開始する予定です。

当社は真の水素エネルギー社会の早期実現に向け、海外から国内流通に至るまで水素供給・インフラの整備を積極的に推進してまいります。

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