インド初、官民連携の「日本式」総合病院の挑戦

豊田通商株式会社
(Takshasila Hospitals Operating Private Limited 出向)
光武 泰彦

インドのサクラ


サクラ病院外観

2014年 3月に開設した「SAKRA WORLD HOSPITAL(以下、サクラ病院)」は、セコム・グループの医療事業における中核を担い、日本での病院運営支援・医療事業でのノウハウを持つセコム医療システムと、豊田通商が運営するインド初の「日本式」総合病院である。病院名の「SAKRA」は、日本の国花である「桜(Sakura)」、インドの古い言葉で神聖な意味を持つ「Powerful/Ruler of Heaven (Sakra)」を由来としている。

人口 960万人を超えるインド第 3の都市、バンガロールの市街地の外れに位置する病院には、日々多くの患者が来院する。病床数294床、25の診療科目、充実したリハビリテーションセンターと薬局があり、1万 5,000件以上の脳・脊髄手術実績のある医師など、経験豊富な現地スタッフがきびきびと対応している。着工当時はのどかだった周囲の景色も、開院から 2年以上たつ今では、病院を中心に商店などが立ち並び、活気を見せている。


なぜインドで病院運営事業か


インドでは国民皆保険制度が設備されておらず、民間保険の加入率も低い。また、医師・看護師・病床数などは国際基準を大きく下回っており、医療インフラの設備が社会的課題となっている。

また、今後、インドでは人口の増加と経済成長に伴う中間所得層の増加、生活水準の向上が見込まれる。

このような環境の下、本事業では医療インフラ不足解消への貢献と、先進医療や生活習慣病にも対応可能な先進国型の医療サービスへのニーズに応え、従来のインドには見られなかった最新機器や最先端の医療技術と日本式のきめ細かな医療サービスの提供を目指し、取り組んでいる。

これを実現するためには、セコム医療システムの日本国内における 18の提携病院や提携クリニックに対する運営ノウハウと、豊田通商のグローバルネットワークと機動力を最大限に発揮することが必要不可欠である。

さらに、2014年の国際協力銀行(JBIC)の出資参画、現地通貨によるリスクマネーの供給は、事業のさらなる安定と信用力の強化に貢献しており、本事業に欠かせない強みとなっている。


真の「患者本位のケア」への挑戦


日本から派遣された看護師がサクラ病院の看護師に指導を行っている

われわれは、日本式の医療ノウハウの活用にも注力している。インドではまだまだ看護師の社会的地位が低く、医療水準向上の足かせになっている。サクラ病院では、常に患者を中心に、看護師と医師が同等の立場で向き合うチーム医療の導入を目指し、看護師の育成に力を入れている。サクラ病院とセコム提携病院間で医師や看護師を互いに派遣し、医療手技の意見交換などを行うことで、セコムの医療ノウハウの定着と地域医療への貢献を図っている。

また、「患者本位のケア」の実現のため、現在、現場主導で「モデル病床プロジェクト(Model Ward Project)」に取り組んでいる。

一例として、「患者待ち時間」と「ナースコールの対応時間」の改善成功例が挙げられる。病院の Customer Satisfaction(CS)向上のため導入した TPS(Toyota ProductionSystem)を基に業務フローを見直し、既存のマニュアルを分かりやすく絵入りのものに修整することで、待ち時間等を短縮することができ、患者から満足度向上の声を得ることができた。また、これ以外にも「ベッドメーキング」「栄養管理書提出」の時間管理を徹底し、業務を効率化することなどにより、安全かつ高品質なサービスを提供できる病院を目指している。

サクラ病院開院以来、来院患者数は順調に推移しており、2016年には、医療機関の組織運営ならびに質の管理の適切性を評価・認証する、インド国内唯一の政府外郭団体であるNABH(National Accreditation Board of Hospital)から認証を取得した。これらの努力の継続により、さらなる質の向上を目指して日々奮闘中である。


今後の豊田通商のヘルスケア事業ビジョン


当事業の推進は、当社にとって、ヘルスケア分野における豊田通商の強みを活かしたブランド構築を目指すものである。具体的には:豊田通商がグループウェイに掲げる「現地・現物・現実」を現場で愚直に実行することで、パートナー企業と共に医療における「カイゼン力」「問題解決力」のコアコンピタンスを確立し、海外事業ノウハウとの掛け合わせにより患者・医療機関に選ばれるブランドづくりを推進することにある。

また、今後もインドをはじめとする新興国を中心に、日本の医療技術・サービスの国際展開を推進する。そして、日本と新興国の医療を融合させた、現地の患者が求める新しい付加価値の高い医療サービス創造を目指し、現地の志の高いスタッフと共にまい進していく。

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