蝶理が展開する繊維素材事業

蝶理株式会社
執行役員 繊維素材副本部長
兼 北陸支店長
吉田 裕志

生糸商を祖業として


今年6月に開催した蝶理総合展に出展した「石川FABRCIS」のブース

当社は1861年、京都西陣で生糸問屋として創業し、現在は繊維、化学品・機械の専門商社として幅広い事業を展開しています。繊維事業は、ポリエステルやナイロン等の合成繊維、カーシートなどのファブリック、アウトドアやスポーツ衣料向けテキスタイル等を扱う「繊維素材」と、婦人・紳士アパレル、およびユニホーム等機能衣料品などを扱う「繊維製品」に大きく分かれます。ユニークな取扱商材には中東民族衣装のトーブもあり、それには当社は生地から製品まで手掛けています。また、紙おむつ等に使う高機能不織布など、繊維にまつわるさまざまな商品を取り扱っており、長年の実績と世界中に広がるネットワークによって、川上から川下まで一貫したサービスを提供しています。

糸や生地を取り扱っていますので、一般のお客さまには当社の名前は直接伝わりませんが、非常に幅広い分野で製品となって利用され、日頃多くの方が当社商材に触れておられると思います。一例をご紹介すると、Nike、Adidasなどのスポーツウエアには、防水、軽量などの機能糸が使用されています。最近では、リオデジャネイロ・オリンピックで、日本のヨットチームのウエアに当社の機能生地が採用されました。ブラジルの海は水質が悪く、試合を辞退する有力選手が多数出たほど環境汚染が問題になりましたが、当社は外部からの汚れた水の内部への浸水を防ぎ、それでいて同時に内部から外部へ汗を放出するという、高い機能性と耐久性に優れた「ハイアブレージョン」という機能生地を開発し、Made in Japanのウエアとして日本選手に着用いただきました。

また当社の主力事業として、カーシート事業がありますが、原料では 60%以上、ファブリックでは 20%以上の国内シェアを誇り、国内外多くの自動車メーカーに採用されています。ファッションほどではありませんが、実はカーシートにもトレンドがあります。2-4年に1回、車のモデルチェンジがありますが、最近では特に日本の自動車メーカーはデザイン重視になっており、編物から織物へトレンドの変化が見られます。今は日本の自動車メーカーも海外生産台数が多いため、カーシートも現地での供給が求められます。もちろん、海外では違う品質が求められることも多く、より競争力のある原料を提案したり、当社が開発した「蝶理オリジナル商材」を自動車メーカーに供給するなど、差別化したサービスを展開しています。


今年6月に開催した蝶理総合展に出展した「石川FABRCIS」のブース


北陸産地への思い

私は1990年に蝶理に入社した当時から金沢で原糸販売を担当し、現在は北陸支店長も務めています。入社当時は合繊ブームで、まさに国内合繊メーカーの最盛期でしたが、現在でも北陸は日本を代表する繊維産業の盛んな地域で、長年の歴史があります。日本有数の高い技術力を誇る企業が集積しており、特に石川県、福井県は合繊産業の強い地域です。北陸支店は当社繊維事業の最重要拠点であり、私も人生の半分以上を北陸産地で過ごしていますので、会社としてだけではなく、個人的な愛着からも「産地を応援していこう」という強い思いがあります。そこで、当社では「Madein石川」を広くアピールするべく、2016年春から「石川 FABRICS」という産地ブランドの応援を始めました。すでに、ゴルフブランド「Callaway」には「石川 FABRICS」のタグが付いたゴルフウエアが店頭で販売されています。これからさまざまなブランドで採用されていきますので、多くの方に北陸ブランドをぜひ知っていただきたいと願っています。

現在、繊維産業には「素材回帰」という流れがあり、素材を特徴にした商品の人気が高まっています。残念ながら、国内の合繊メーカーは年々生産量が縮小していますので、その分は海外での調達に頼らざるを得ません。幸いにも、当社は歴史が長く取扱量が大きいこともあり、海外企業が日本にポリエステルなどの合繊商材を販売する場合には、まず当社に相談に来てくださいます。当社は従来型の商社機能に加えて、メーカーの開発機能を兼ね備えた「半工半商」とでもいうべき事業形態をとっております。北陸産地に糸、織物、編物、染色など、協力していただいている工場が多数存在しておりますので、輸入した素
材をもとにオリジナル商材を生産することができます。世界中に合繊の産地はありますし、吸水速乾や発熱、UVカットなど多様な機能ノウハウを持っていますので、当社は高機能、品質、値段といったお客さまのニーズに応じた素材、製品を提供することが可能です。今では合繊メーカーと同じような機能を持って事業展開を進めております。商社が主導するのは珍しいですが、2016年11月には「北陸ヤーンフェア」という糸の展示会を金沢で開催し、国内外の合繊メーカーに参加していただきます。われわれは商社ですが、「半工半商」というユニークな存在であり、産地のためにできることを全力で行っていこうと思っています。

ジャパンクオリティーを世界へ

国内の生産地を大切にすると同時に、海外における生産、販売拠点拡大にも力を入れています。現在、繊維産業では特にベトナムが注目されており、韓国や中国、台湾企業がここ数年、莫大な投資を行っています。当社は台湾企業とのつながりが非常に強く、今後ベトナムをより活用するためにも、2016年8月ベトナムに現地法人を設立しました。また、カーシートの生産、販売拠点として 2017年 1月にメキシコに現地法人を設立する予定です。当社は欧州や米国等、多くのアパレルメーカー、自動車メーカーに素材、製品を輸出しています。一般の方が思われている以上に、繊維の世界では日本の技術力、コスト力は高く、日本のモノづくりの力が評価されています。世界の高級アパレルメーカーも日本の生地を採用しており、世界は「ジャパンクオリティー」をよく理解していただいています。もちろん、技術力やコスト力に加えて、今後は環境面での貢献も重要になります。繊維産業の中で環境負荷が高いのは染色ですが、これからは環境負荷が低く、染色の要らない高品質な原着糸の生産を増加し、2020年度には年間 1万tに拡大させ、15万tのCO2削減による環境負荷の低減に大幅に貢献していきたいと考えます。これからも、高品質、高付加価値の繊維事業を通じて、生産地そして世界にさらなる貢献をしてまいります。

(聞き手:広報・調査グループ長 木村 昭)

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