2017年1月号(No.754)
米国大統領選挙直後のワシントンを訪問し、経団連米国事務所の山越所長にお話を伺いました。(インタビュー日 2016年11月21日)
皆、大変驚きましたね。主要メディアが既に伝えている通りですが、世論調査と逆の結果となったこと、経済格差、社会格差の問題が思った以上に深刻であること、クリントン候補の不人気、オバマ政権への不満も根強かったことなど、国内外を問わず、いろいろと考えさせられた人が多いのではないでしょうか。米国の人々も期待と不安の両方を持って新政権の誕生を待っていると思います。
新政権の具体的な政策がどうなるか分かりませんが、日米関係の重要性はまったく変わりません。米国の良さは、やはりアメリカンドリームに象徴される、明るく前向きな姿勢と活力です。トランプ大統領の下で米国の経済活動はさらに活発化されると思いますので、日本企業にとってもさまざまなビジネスチャンスが生まれてくると思います。
米国経済の現状は決して悪くありません。今後の展望としてはグローバリゼーションの持つさまざまな側面に対して米国がどのように対応していくか、まずはその動きをしっかり見ることが重要です。トランプ新大統領の下で、経済成長への具体的施策をどう打ち出していくかが注目されますが、ダイナミックで変化に富む経済活動を支援してくれると思います。
トランプ氏は経験豊富なビジネスマンなので、ビジネスの現場を見てもらえれば、日系企業の米国現地法人がいかに米国で雇用に貢献し、米国市民の共感を得ているか、よく理解してもらえるのではないでしょうか。一方で民間企業はパブリック・ディプロマシーの重要な担い手です。日本および日本企業の実態を正しく理解してもらうために、対外メッセージの発信、キーパーソンへの働き掛け、人的ネットワークの構築などが一層重要さを増してくるでしょうね。コミュニティーレベルでの草の根交流も重要ですので、駐在員の皆さん一人一人が外交官であるともいえます。
おっしゃる通り、今後数年間は政治が経済に大きな影響を与えていくことが予想されます。当事務所の活動は、米国の政治経済情報の収集・分析と日本へのフィードバック、日本の経済界としての情報発信、日米の相互理解の促進、ネットワーク構築とプレゼンス向上などを中心にしています。当事務所に限らず、在外日本人と日本企業は高い意識を持ちつつ、地道にやるべきことをしっかりやっていくことで日本と日本企業への長期的な高い評価と信頼を勝ち得ることができると思います。木村さんはもう、ワシントンの中心街を歩かれましたか?
そこがポイントなんですよ。ワシントンには建物があり、実際に行政関係者や世界トップクラスのシンクタンクの研究者が働き、生活しているんですね。情報だけを入手しようと思えばインターネットを使って世界中どこでも同じ情報が入りますが、ワシントンの良さはバーチャルではなく、リアルに政治や行政の動きに接することにより肌感覚で温度差も感じられることです。その意味で当事務所だけではなく、民間企業のワシントン事務所の重要性はますます増していきますし、日本貿易会、商社各社とも今後、より緊密に連携していきたいと思います。何といっても、適切な情報の受発信と円滑なコミュニケーションを通じて、相互理解を促進させていくことがグローバルなビジネス活動を支える基盤になりますからね。
(聞き手:広報・調査グループ長 木村昭)