中国と日本との経済関係のさらなる発展に向けて

中華人民共和国駐日本国大使館 公使(経済商務)
宋 耀明

2017年は日中国交正常化45周年の節目に当たります。日本貿易会の70周年の歴史の中でも、1980-90年代には、中国部会が活発な活動を展開し、貿易モデル契約書作成の日中間協議にあたり日本側で中心的役割を果たした他、ミッション派遣等、経済交流を通じて両国間の経済関係の深化と拡大に寄与してきました。2017年1月に中華人民共和国駐日本国大使館公使(経済商務)として着任されました商務部の宋耀明氏は、1985年の入省以来、一貫して両国間の経済交流に携わり、中国の対日窓口として幅広く日本の経済界と親交を築いてこられました。今回、同氏と長年の親交がある日本貿易会 岩城宏斗司 常務理事が宋耀明公使を訪問し、対日経済協議との関わり、中国政府が提唱している「一帯一路」の取り組み、今後のさらなる関係発展に重要な点、また、日本滞在への期待などについてお話を伺いました。


宋耀明公使(右)にお話をうかがう岩城常務理事(左)

中華人民共和国駐日本国大使館 公使(経済商務) 宋 耀明氏 1964年1月北京生まれ。1985年、対外経済貿易大学(対外貿易、日本語専攻)卒業後、対外経済貿易部(現商務部)に入省。1988-92年、中国駐日本国大使館商務処。1992-95年、対外貿易経済合作部アジア司日本処幹部。1993年、慶應義塾大学ビジネススクール経営管理研究科留学。1995-98年、対外貿易経済合作部アジア司日本処副処長。1998-2002 年、中国駐シンガポール大使館経済商務処に赴任。2003年以降、商務部アジア司の日本処処長、アジア司副司長、商務参事官(司長級)を歴任。2017年1月より現職。

1. これまでの対日経済交流の関わり

岩城
公使としての着任おめでとうございます。宋公使は、日本との経済交流に長く関わってこられましたが、これまでのお仕事で印象に残っていることをお聞かせください。


日中貿易拡大協議会を通じて青島で開催された第2回中国貿易実務セミナー(1988年9月)


日本との経済交流の仕事に携わってから、すでに30年余りになります。大学を卒業して商務部(当時は対外経済貿易部)に就職した時は、ちょうど中国が対外開放政策にかじを切ろうとしていた時期で、1985年に仕事を始めた直後の9月に、当時の村田敬次郎 通商産業大臣の訪中ミッション受け入れという大きなイベントに関わりました。中国側の輸入超過解消をテーマとした協議を踏まえ、1986年5月、日本の経済界から訪中団が派遣されました。いまもその名称を覚えていますが「通産省訪中国貿易拡大ミッション」というものでした。

そのミッションの下で分科会に分かれさまざまな議論が行われましたが、日本貿易会は貿易実務部会のリード役でした。そして同年1986年の秋には「日中貿易拡大協議会」が設けられました。当時は現在とは違って、日中経済協議は貿易の話が中心で、まだ直接投資の議論は始まっていませんでしたが、日中間にこのような枠組みができたことを大変印象深く記憶しています。中国からの農産品輸出における日本の検疫上の課題や、入国ビザの緩和など、日本側にいろいろな協力の要請をしました。



1988年から日本に駐在となりましたが、その時期に岩城さんをはじめ、日本の総合商社や大手電機メーカーの方々と意見交換を行う機会にも恵まれましたが、日本貿易会の他、国際貿易促進協会、日中経済協会、経済団体連合会、日本商工会議所、日本貿易振興会といった経済団体のトップの方々にお会いしたことも、とても印象に残っています。

1992年にはいったん、帰国しましたが、1993年には慶應義塾大学ビジネススクールで学ぶ機会がありました。この大学院の勉強はケーススタディーが中心で、毎回さまざまなケースを熟読して議論に臨まなければならなかったため、とても苦労もしましたが、企業が合併するときの財務上の課題や人的資源管理など、企業経営についていろいろ勉強することができました。


岩城常務理事

その後、日本処の副処長を務めた後、アジア金融危機が発生した時期に、日本以外の分野も勉強してはどうかとの上司の勧めもあって、駐シンガポール中国大使館に赴任しました。その5 年間は、中国と東南アジア諸国との貿易・投資拡大に関する仕事に携わっていましたが、現地で活動する日本の商社の方と懇談する機会もありました。

シンガポールから帰国した後は、商務部と日本の経済産業省との次官級定期協議、中日経済パートナーシップ協議、中日省エネ環境総合フォーラムなど、さまざまな重要な対日経済協議の議論に関わってきました。関西や九州など日本の各地から経済ミッションを受け入れたのも思い出深いイベントでした。また、環黄海中日韓経済・技術交流会議の仕事にも長く携わってきました。

2.「一帯一路」を通じた日中関係の在り方

岩城
中国は特に2001年のWTO加盟後に目覚ましい発展を遂げる中で、世界経済での存在感を増してきました。


中国は依然として世界経済の発展のエンジンであり、世界経済の回復の強い原動力となっています。2016年の中国のGDPは74兆元、前年比6.7%増で、世界経済の成長寄与率は30%を超えています。2016年の貿易総額は3.69 兆ドル、対中直接投資額は1,260億ドル、対外直接投資額は1,701億ドルとなり、外国への旅客数は延べ1億2,000万人を突破しました。2017年上半期は6.9%成長を実現し、経済成長は合理的な範囲内にコントロールされ、安定の中で好転する兆しが顕著になっています。今後5年間で、輸入額は8兆ドル、対中投資額は6,000億ドル、対外投資総額は7,500億ドル、そして、外国への旅客数は7億人に達することが見込まれています。

岩城
直近では習近平国家主席が提唱された「一帯一路」構想が、日本企業の間でも注目を集めています。この構想の意義をお聞かせください。


「一帯一路」イニシアチブは、2013年秋に習近平国家主席が提唱した「シルクロード経済ベルト」と、「21世紀海上シルクロード」からなる経済圏構想です。その後の4年で「一帯一路」は理念から行動へ、理想から現実へと進化を遂げ、その成果も実り始めています。2017年5月には北京で「一帯一路国際協力サミットフォーラム」が開催され、日本からも二階俊博 自民党幹事長、榊原定征日本経団連会長など、多くの方々に参加していただきました。その際、習主席と二階幹事長との会談も行われ、習主席の、「一帯一路」を通じて互恵的な協力を実現し、中国と日本の間の新しいプラットフォーム、実験的な取り組みになるようにその枠組みを築いていきたい、という発言に対して、二階幹事長からは、中国のイニシアチブに対して参加できるように前向きに協力していきたい、との回答がありました。

2017年6月に東京で開催された商務部と経済産業省との第18回次官級定期協議では、商務部の高燕副部長と片瀬裕文経済産業審議官が出席し、中国側が「一帯一路」を、日本側が「質の高いインフラパートナーシップ」を紹介し、双方はアジアインフラ建設の連結性を巡って、建設的な話し合いを行いました。

その後、安倍首相からも、2017年7月にハンブルクで開催されたG20サミットでの習主席との会談において、「一帯一路」における中国との協力を検討していきたいとの表明がありました。

中国企業はインフラ事業や人的資源の豊富さで優位性がありますし、日本企業はさまざまな分野で先進的な技術を持っているという優位性があります。「一帯一路」を通じて、中国、日本以外の第三国において工業団地建設や道路や鉄道、発電所建設などインフラ整備を進めることも増えてくると思います。今後、両国企業が「一帯一路」を契機として、第三国におけるインフラ・コネクティビティ、資源エネルギー開発、物流サービス、製造業サプライチェーン、医療健康サービス産業輸出などの面において積極的に互恵協力を展開し、グローバル市場における複数国間の「ウィン・ウィン」の実現を図ることができれば素晴らしいと思います。

開放的で包括的なイニシアチブとしての「一帯一路」に対しては、北京の日本商会でも連絡協議会を立ち上げたと聞いていますが、これは日本企業が「一帯一路」に積極的に参加したいとする意欲の表れでしょう。「一帯一路」を通じて、ユーラシア大陸が一つにつながれば、日本から欧州に至るまでの物流費用・輸送時間の低減や、海路に加え陸路の代替ルート構築など、大きなメリットが生まれるものと考えています。すでに中国-欧州間の貨物鉄道の利用を積極的に検討する企業も出てきました。

3. 中国と日本との国交正常化45周年と日本貿易会創立70周年を迎えて

岩城
2017年は中国と日本との国交正常化45周年であり、また2018年は日中平和友好条約締結40周年です。これからの両国間の経済関係の拡大に向けてどのような点が重要であるとお考えになりますか。


宋公使


とりわけ次の面においてさらに協力を促進すべきであろうと考えています。第一に、インフラ整備、省エネ・環境技術を通じた経済のグリーン成長、ハイテク産業、シルバー産業、医療・保健産業など、そしてインターネットプラス、IoT、クラウドコンピューティング、Eコマースなどの新たな産業分野における実務レベルでの協力の拡大です。第二に、両国のマクロ経済情勢および政策における意思疎通を深化させ、財政金融分野における協力の強化です。第三に、地方と民間レベルの交流において独自の優位性を発揮し、中央政府に働き掛ける形で、地方と民間レベルの協力を強化することです。第四に、中国企業による対日投資を支援し、「一帯一路」を契機として、第三国における中日協力を推進させることです。そして第五に、中日韓FTAやRCEPなど、多国間自由貿易協定交渉を推し進めると同時に、G20やAPEC、WTOなどの枠組みの下で話し合いを進めていくことです。

習近平国家主席がG20サミットで安倍首相と会談した時には、経済交流は両国関係の推進システムであり、実務レベルでの協力を一層推進すべきであると述べ、安倍首相も経済、金融、観光などの分野で協力関係を深化させたいと述べられました。現在、3 万社を超えた日本企業が対中直接投資をしていますが、両国間の経済関係の相互交流を深めるという意味では、日本企業の対中直接投資だけでなく、中国企業の対日直接投資も今後増やしていけるように努力したいと思っています。日本貿易振興機構は「インベスト・ジャパン」という仕組みを通じて、対日直接投資を呼び掛けています。日本貿易会におかれても提起されている「内なるグローバル化」という観点を踏まえて、中国企業の対日直接投資の促進と拡大にご支援をいただきたいと思います。また、2017年下半期には、第11回中日省エネ環境総合フォーラムと第12回中日経済パートナーシップ協議がそれぞれ東京と北京で開催される予定ですが、双方が突っ込んだ意見交換を行い、積極的な成果を上げられることを願っています。

岩城
日本貿易会にとっては創立70周年という節目の年でもあります。


日本貿易会は中日両国間の経済交流、技術協力など、両国間の経済発展に大きな貢献をされてきました。この場をお借りして創立70周年を迎えられたことについて、小林栄三会長をはじめ、関係者の皆さまに心よりお祝いを申し上げ、また、日本貿易会とその会員企業・団体の皆さまの、両国間の経済関係の深化と改善・発展に対するご尽力に深く感謝いたします。

対日経済交流の最前線である経済商務処としては、日本貿易会と当大使館との交流も拡大していきたいと考えます。日本政府の経済産業省、外務省などの関係省庁、各経済団体とも交流を積極的に展開し、両国の経済・貿易関係の健全な発展を推し進めていきたいと考えています。

4. 日本滞在への期待

岩城 
最後に、今回の日本駐在の間に経験してみたいことや、期待があればお聞かせください。


今回、日本に滞在する機会を得て、あらためて日本への理解を深める良い機会にしたいと思っています。大使館近くにある書店によく足を運んでいますが、経済関係の本にとどまらず、日本の文化・歴史に関する本もあらためて読んでみたいです。これまで訪れる機会のなかった地方都市にも視察をして、日本のことをもっとよく知りたいとも思います。親友と旧交を温めることも楽しみですし、政府、経済界をはじめとして、新しい友人も作っていきたいと思っています。


岩城
今日のお話を通じて、創立70 周年を迎えた日本貿易会がかつて中国との貿易関係の構築において関わってきた歴史を再確認することができました。最近では、日本とEUとのEPA 交渉で大枠が合意されましたが、「一帯一路」を通じたアジアと欧州の連結性が増々強まっていくと、いにしえのシルクロードが数々の恩恵を日本にもたらしたように、このEPA もまた違った意味でインパクトがあるような気がいたします。当会としても日本と中国との経済関係の強化と深化に向け、これからも積極的に活動をしたいと思います。宋公使のこれからのますますのご活躍に期待しています。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(2017年7月27日 於 中華人民共和国駐日本国大使館経済商務処)

中国と日本との経済関係のさらなる発展に向けて 誌面のダウンロードはこちら