インド住金物産社長に聞く―インドビジネスにかける想い

インド住金物産株式会社
社長
斎藤 久志

1. インド住金物産の現況


インド住金物産は、2010年4月に現地法人として、首都デリー近郊のハリヤナ州グルガオン市に設立し営業を開始した。以前ムンバイに駐在員事務所を置いていたが、2000年前後の鉄鋼不況のあおりを受け、財務体質の強化を図るべく事業を見直し、いったんムンバイ事務所を閉めていた。その後、しばらく事業会社を含めて営業拠点を置いていなかったが、インド経済の近年の目覚ましい発展を受け、またインドに進出され住金物産との鋼材取引を既に始めていただいていた客先へのパフォーマンスの向上を図るため、現地法人という形で進出した。
住金物産は、「鉄鋼」「産機・インフラ事業」「繊維」「食糧」の4カンパニーの事業体制で、価値創造型・加工メーカー型機能を有するグローバル複合専業商社として、強固な企業集団の実現を目指している。インド現法は、その中で鉄鋼カンパニーの拠点として位置付けている。
当社の陣容は、駐在員が私1名とナショナルスタッフ4名の総勢5名である。これまでは、鋼材・薄板の輸入販売をメーンに取り扱ってきたが、電機・自動車向けを中心とする旺盛な部品需要に対応できるように、2011年9月に新会社を設立し、プレス成形品事業に参入した。現在は、従来の薄板事業をこの新会社に移行し、現地法人としての今後の収益基盤をつくるべく、今まさにさまざまな新しい取り組みを始めているところである。
新会社は、デリー近郊のラジャスタン州ニムラナ工業団地内(インド初となる日本企業専用工業団地)に、独資にて、スミキンブッサン・スティール・サービスセンター・インディア(住金物産99%、SB Coil Center Thailand Ltd1%)として設立した。従業員50名、300tプレス機等を設置し、鉄鋼製品のより加工度の高い分野への進出を図り、需要家の要求に沿ったプレス成型品のジャスト・イン・タイムでの納入体制の構築を目指して、2012年4月より稼働している。同工業団地は、日系企業が集積するここグルガオンのあるハリヤナ州の境に接し、デリー空港から約105㎞、デリーからムンバイに至る国道8号線に面している。


2. 今後の事業展開


インド市場の一番の魅力は、まさしくこの国の人口、一大消費地となり得る可能性の高い人口の多さである。2030年には中国を抜いて15億人となる予測もあり、しかも若年層が多い人口構成である。当社がターゲットとする客先の電機・二輪・自動車メーカーは、各社とも積極的な増産計画を打ち出しており、まずは客先のニーズをしっかりと捉えて対応し、客先の生産増に従って当社の取扱高も増やしていきたいと考えている。
先ほどご紹介した新会社・スティール・サービスセンターの設立も、従来はインド現地企業に委託加工をお願いしていたが、品質管理や納期対応等の面でわれわれが許容できる水準とは大きくかけ離れていた。そこで逆に、現地企業とは異なる高品質のモノ・サービスを、コンプライアンスを含めてわれわれの管理水準で提供することで、インド進出の日系顧客が持っている現地ニーズへの対応が可能になるとの考えに基づき自ら取り組むことにした。
薄板事業以外での取り組みとしては、火力発電所やプラント関係で使われる輸入鋼材の販売である。インドのインフラ需要は非常に旺盛であり、同分野の需要は今後ますます伸びていくものとみている。日本からの輸入販売はもとより、上海現法との共同ワークにより中国で実績のある鋼材を提案するなど、当社の現地法人を活用した仕入れ、輸入販売取り組みも実施している。
また一方で、インドから対日、アセアンへの加工製品輸出にも取り組んでいる。品質面・コスト競争力の両面で優れた地場企業を発掘し、当社顧客へ提案をすることで仕入先・販売先共にそれぞれのニーズに応えることが可能になると考えている。
当社としては今後もわれわれのグローバルな専門知識を生かした仕入れ・販売取り組みにより、当地での取引拡大につなげていきたい。


3. 社長の抱負


2010年にインド住金物産を立ち上げた時、実は、私は志願して赴任してきた。インドとは、これまでビジネスで関わったことは一度もなく、またこの国が好きだということで来たわけでもない。インド経済の潜在力に魅せられたというか、この国はどう考えてもこれから大きく成長していく国に間違いなく、そこに拠点をおいて営業基盤をつくるというのであれば、ぜひ自分も携わりたいという強い想いがあって来させてもらった。2011年度後半以降インド経済の発展の勢いは、それまでに比べると緩やかになっているものの、この国の今後の成長性、潜在力の大きさに関しては依然疑いないものと考えている。
これはある人の受け売りであるが、この国で成功しようと思ったとき、この国の成長とともに、この国の成長に応じて、われわれも事業を拡大していくという発想でやることが、すなわち当地での確固たる営業基盤を構築することにつながると考えている。
今回、当社がインドに事業会社を設立した背景も、まさに当社で直面していたインドでの事業運営上の困難であった部分を、われわれ自身が設備や技術・ノウハウを持って補完することで、地場企業が不得意とする顧客ニーズへの対応を可能とし、すみ分けができるのではないかとの発想である。このような事業展開を行うことで、必然的に仕事のボリュームが膨らんでいくのではないか。ニッチな分野でも大国インドではかなりのボリュームになる。そして、そのような部分へのわれわれの専門知識を生かした取り組みが、インドへの貢献にもつながるものと勝手に思いながら、今後とも事業を進めていきたいと考えている。

(2012年9月14日、インド住金物産(グルガオン)にて、山中通崇)

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