豊田通商が取り組むアフリカビジネス

豊田通商株式会社
自動車本部 アフリカ自動車部 部長
大平 正和

1. はじめに


近年、アフリカにはこれまでにない新しい風が吹き始めています。21世紀に入りグローバリゼーションが加速度的に進み、これまでになかった人材・情報・マネーの流れが、現在のアフリカを動かしています。豊富な天然資源や人口の増加、所得の向上など大いなる潜在力を秘めたアフリカは、今、確実に新しい時代へ始動しています。
本誌2012年5月号でご紹介させていただきましたが、豊田通商はこれまでアフリカでのビジネスに主体的に参画してきました。その歴史は古く、今から91年前の1922年にアフリカで綿花の買い付けに着手したことに始まります。1933年にはエジプトに現地事務所を設置、政情不安から多くの企業の撤退が相次いだ1990年代にも、これまでの自動車や設備の「トレーディング」だけでなく、市場の需要動向などを判断し投資を行い現地で事業運営を行う「オペレーション事業」を進めてきました。こうした足跡に裏打ちされた実績を武器に、当社はアフリカ市場を戦略的重点地域と定め、事業を推進しております。
さらに今回、当社は120年以上にわたりアフリカでビジネスを展開してきたフランス大手商社「CFAO(セーファーオー)S.A.」との協業により、「No.1 Alliance Group in AFRICA」を指向する新たな一歩を踏み出しました。当社は、従来基盤のさらなる発展・強化を目指す新たなフェーズに入ったといえます。


2. これまでの取り組み


a)自動車ビジネス進出の歴史
当社は、CFAO社と提携する以前から、アフリカ54ヵ国中24ヵ国において、トヨタや日野自動車など複数のブランドの販売を手掛けています。アフリカ市場で、当社のコア事業である自動車事業に着手したのは、約半世紀前の1963年です。ケニア向けの日本製完成車(クラウン)の輸出が最初で、その後輸出先を拡大していきました。
当初の主体業務は完成車の輸出事業でしたが、2001年に英国の商社ロンロー社からケニア、アンゴラ、ジンバブエ、ザンビア、マラウイの自動車事業を買収、当社100%出資の代理店を設立するなど、豊田通商は、直接投資による現地での事業経営へと大きく舵を切りました。
折しも、直接経営に業態をシフトしたこの時期に、アフリカ各国の経済成長が重なり、年間1万台前後だった販売実績が2001年以後は堅調に伸長。2008年には2万5,000台超えを達成するに至りました。
販売台数の大幅増とシェア拡大の背景として、資源価格の高騰によるアフリカ市場の伸張があることは事実ですが、加えて、当社が2001年以降取り組んできた【現地人材の育成・登用】が結実したという点も挙げられると考えます。そこで次に、当社の現地人材育成について簡単にご説明します。

b)事業を通じた人材育成・地域貢献
2001年、当社はロンロー社からトヨタ代理店5社を買収しましたが、現地でのオペレーション事業を推進するに当たり基本姿勢としたのは、「現地・現物」という当社の企業理念に基づいた事業経営です。充実した研修を提供し、公正な人事処遇を提示するなど、現地で働くスタッフ各人が安心して主体的に業務に取り組める体制を整え、経営層にも現地出身者を積極的に登用してきました。
その結果、現在当社が直接出資する自動車輸出・販売の代理店8社全てで、現地スタッフ中心の経営体制を確立。そのうち自動車販売事業に携わる現地スタッフは2,000人以上の規模になっており、当社の事業は雇用創出の点からも現地貢献を果たしていると考えております。今後も、現地スタッフのキャリアアップ・能力開発を継続的に行うべく、職種別・階層別の研修プログラムをいっそう整備し、現地での事業を牽引する人材を育成していきます。

c)自動車以外の事業の歴史
自動車以外の事業では、特にエジプトでの取り組みが挙げられます。1933年、エジプト・アレクサンドリアに事務所を開設しました。
政府などパートナーとの関係を構築したエ ジプトでは、1980年代に日系高炉メーカーと協同でエジプト初となる直接還元製鉄所の設立・運営に参画、2000年代には、エジプトでの電力需要の急増に対応し複数の火力発電所・発電所向け機器を連続受注するなど、電力プラントにて実績と強固な基盤を構築し、2008年には、海底ガス田の掘削に用いる巨大構造物「ジャッキ・アップ・リグ」の傭船事業も受注するなど、累計31件の受注実績を数えており、エネルギー・プラント事業はエジプトにおける基幹ビジネスといえます。


3. 新ビジョンに基づく取り組み


当社は、2012年4月に発表した新ビジョン「GLOBAL 2020 VISION」の中で、当社の強みを発揮できる持続可能な成長分野として「モビリティ」「ライフ&コミュニティ」「アース&リソース」の3つの事業領域を定め、注力する方針を打ち出しております。アフリカでも、同ビジョンに沿って事業拡大に向けた新たな動きが加速しています。

a)モビリティ分野
新興諸国において、人やモノを輸送する自動車は極めて貴重な資源であり、インフラ整備や開発事業などにも不可欠ですが、一般の人々にとって新車は未だ高嶺の花です。当社は、2009年、自動車金融販売会社「Tsusho Capital(Kenya)Ltd」を設立し、ケニアとモーリシャスで中小企業や個人事業主へのリース・ファイナンスの提供を行っています。
また、ケニアの中古車市場は新車市場の6-10倍というボリュームを有する一方で、粗悪な中古車も横行しています。そこで当社は、2012年、ケニアにおいて、小売からアフターサービスまで一貫して行う中古車事業会社「Toyotsu Auto Mart Kenya Limited」を設立し、品質はもちろんのこと、補給部品の供給も含めた徹底したサービス体制により、お客様が購入しやすく、安心できる環境づくりを整えました。この中古車事業は、自動車ユーザーの裾野を広げる事業として、将来の新車需要層の取り込みにもつながります。
また、当社は、自動車の生産支援事業も行っています。南アトヨタのダーバン工場で生産される自動車16万台の生産支援事業として、①シートファブリック製造、②エアバッグ製造、③組立部品保管/物流、④タイヤ・ホイール組み付け事業、⑤自動車リサイクル事業、⑥ボデーパネル用の鋼材ブランキング事業を行っています。モビリティ分野のバリューチェーンは、このように販売・サービスにとどまらず製造事業にまで広がっており、今後もさまざまな可能性が期待できると考えます。

b)アース&リソース分野/ライフ&コミュニティ分野
アフリカは現在、平均5%以上の経済成長が見込まれており、電力インフラの整備・拡充は喫緊の要事です。
当社はケニアにおいて、当社初となる地熱発電プロジェクトを進めています。国内発電容量の半分以上を水力発電に頼ってきた同国では、干ばつなどの影響で安定した電力の確保が難しいのが現状です。代替電力としてわれわれが着目したのが、環境に優しい再生可能エネルギーの1つである地熱による発電です。このプロジェクトは、完成時には現在の総発電容量の約25%に相当する、ケニアが国家戦略として取り組むプロジェクトであり、ケニアで最大、ひいてはアフリカで最大の地熱発電プロジェクトといえます。こうしたプラント事業の実績と、ケニア電力公社など当社とケニア政府機関との深いつながりもあり、当社はケニア政府と、ケニアの最 重要施策をまとめた国家ビジョン「VISION 2030」の実現に向けた覚書を締結しました。これは当社のGLOBAL 2020 VISIONの実現にも合致するものです。
また、ライフ&コミュニティ分野の取り組みとしては、ケニア・ウガンダにおいて農業機械化事業を進めるなど、地域の発展に貢献しています。


4. CFAO社との協業


アフリカにおいて、当社はモビリティ分野で培った知見やネットワークから他分野へビ ジネスを波及させる段階にあります。冒頭に触れたとおり、当社はそこにCFAO社という最良のパートナーを迎えることができました。ビジョンを含めて同じ方向を向き、地域においても補完関係にあるCFAO 社と当社。1+1=3以上となる両社協業の目的は、将来のアフリカの発展にも寄与する確固たる地盤を築くことです。
モビリティ分野については、当社が強固な代理店網を持つのは南・東部アフリカ、対してCFAO社は北・西アフリカが中心です。相互に強い地域を補完し合えるため、アフリカ全土での事業展開が一気に加速することが予想されます。他にも、CFAO社は医薬品卸売事業でアフリカNo.1シェアを有しており、医薬品メーカー450社と取引、約2万点の商品を取り扱い、北西アフリカ27ヵ国で5,000店の薬局向け卸売販売を行っていることから、ライフ&コミュニティ分野での事業領域拡大も期待できます。


5. 最後に ~アフリカでのCSR活動~


当社は、教育・地域福祉・環境などの分野で社会貢献活動を積極的に行っています。
ケニアでは、国の将来を担う人材の育成に向けた「トヨタケニア基金」を1990年に設立。2011年までに300人を超える学生に奨学金を給付しました。また、治安・事故対策として街灯の整備活動も進め、累計1,000本超を設置しております。このほか、南アフリカでは「貧困地域での農業開発プロジェクト」を展開。アンゴラでは、日本のNGOが行っている「地雷除去活動への支援」を2008年から続けています。
また、我々の協業パートナーであるCFAO社も、西アフリカを中心に社会貢献活動を積極的に展開しております。
豊田通商は、CFAO社とも協力し、これからもアフリカ全域で現地社会への貢献活動を推進し、地域社会から尊敬される企業を目指してまいります。

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