インドネシアにおけるTV番組共同制作および関連ライセンス事業の展開

伊藤忠インドネシア会社
情報課 課長
後藤 雅行

はじめに


2013年5月に、伊藤忠商事は、インドネシア最大手メディア財閥PT.Global Mediacom Tbk,(以下、「GMCグループ」)と株式会社石森プロ(以下「石森プロ」)が共同制作する、インドネシアで初となる子供向けオリジナル特撮ヒーロー番組「BIMA Satria Garuda(ビーマ・サトリア・ガルーダ/ガルーダの戦士BIMAという意味、以下「BIMA」)」の制作企画に参画するとともに、 同番組関連ライセンスのマスターライセンシーとして独占契約し、インドネシアにおけるライセンス事業を本格展開することを発表した。
インドネシアは、世界第4位の人口約2.4億人を擁し、その約4割が20歳以下と若年人口の比率が非常に高い国である。昨今の経済成長により、急拡大する中間所得層は東南アジア最大といわれている。また1人当たりのGDPは3,500ドルを超えており、消費活動が急速に活発になるとされている市場として大きな魅力を持つ。さらには、親日国家であり、日本のコンテンツが広く受け入れられる土壌もあると捉えている。
本プロジェクトは、このような非常に高い潜在性を持った消費市場に対して、日本では「仮面ライダー」「ウルトラマン」などの大きな成功を収めているライセンスビジネスモデルを、いち早く展開していくことを狙ったものである。
まずは番組の概要を下記の通り紹介する。

a) 番組名:BIMA Satria Garuda
b) 話数:全26話(各話30分)
c) 放送日時:毎週日曜日 朝8時半-9時
d) 放送局:RCTI(インドネシア最大手 TV 局-全国地上波放送/GMC グループ傘下)
e) 放送言語:インドネシア語
f ) 放送地域:インドネシア全土
g) 撮影箇所:インドネシア国内
h) 制作者:RCTI、石森プロ
i ) 初回放送:2013年6月30日
j ) あらすじ:インドネシアで働く、事故で両親を亡くした天涯孤独の若者が、不思議な少年から与えられた『赤いパワーストーン』によって変身する能力を得、現実世界を乗っ取ろうとする秘密組織と対決していく。


本プロジェクトの特徴


本プロジェクトが、インドネシアにおいて広く受け入れられている要因は、以下3つの特徴からなると考えている。
1. 日本コンテンツおよび関連ノウハウの海外輸出
2. 地場地域に根差した完全ローカライズ
3. 巨大消費者市場に向けたライセンスビジネスの展開


1. 日本コンテンツおよび関連ノウハウの海外輸出


本プロジェクトでは、伊藤忠のグループ会社であり、「仮面ライダーシリーズ」他、多くのヒーローシリーズを展開している石森プロが、その40年以上にも及ぶ経験とノウハウを活用し原作を書き下ろしている。内容としては、変身能力を得た主人公が悪の組織に立ち向かう「正義」「勇気」「友情」等、子供の価値形成に良い影響を与えるものである。こういった子供向けに前向きなメッセージを発するローカルテレビ番組は、今までインドネシアには多くな かったため、非常に好印象で視聴者に受け入れられている。
さらには、日本の衣装メーカーや一部制作スタッフを招聘することにより、より品質の高い番組づくりを支援し、インドネシアのメディア産業の成長を後押しする。そのような日本からの良質なコンテンツおよびノウハウ提供が、地場パートナーであるGMCグループより好評価を受け、視聴者からの良い評判を得ていることにつながっていると考える。


2. 地場地域に根差した完全ローカライズ


かつては日本のテレビ番組も多く放送されており、人気を博していたものの、昨今のインドネシアでは、韓流ドラマ/K-POP音楽など韓国コンテンツが人気を独占しており、大きく水をあけられている。その主たる理由は「分かりやすさ」にある。近年の日本コンテンツには、急速に進み、多様化してしまった日本の文化が映っており、インドネシアの人々にとっては複雑で、理解しづらいものとして捉えられてしまうことが多い。
そこで、本プロジェクトでは、日本の原作/衣装/撮影ノウハウなどを土台としながらも、視聴者に直接映る、役者/撮影場所/言語などは全て現地化(ローカライズ)し、インドネシアの人/場所/言葉を100%使用している。 このように、海外コンテンツを好み、楽しむ一部の富裕層のみならず、全インドネシアの2.4億人の視聴者を取り込むべく、視聴しやすく、また共感しやすいコンテンツづくりを行っている。


3. 巨大消費者市場に向けたライセンスビジネスの展開


本プロジェクトは、テレビ番組制作/放送のみならず、当該テレビ番組に関連する商品の展開(マーチャンダイズ、以下「MD」)や、BIMAのキャラクターを各企業のプロモーションやイベ ント等に利用するなどの権利を提供する、ライセンスビジネスを展開している。日本では、子供向けヒーロー番組にまつわる玩具やお菓子の販売、展示会等にて開催されるヒーローショーなどが、その例として見受けられる。
インドネシアでも同様の取り組みを行うことによって、テレビ放送以外の通常生活の中においても視聴者がBIMAと触れ合う機会を増やし、BIMAを文化として浸透させている。またテレビ広告収入以外の「放送外収入」を得ることによる収益の最大化を狙う。伊藤忠商事が、日本におけるライセンスビジネスのノウハウを活かし、本プロジェクトのライセンスビジネスの一括窓口となり、BIMAのMDやプロモーション利用を希望する各メーカー/企業をとりまとめている。
このようなローカルテレビ番組のキャラクターの本格MDやイベントでの起用は、インドネシアにおいて初めての試みであり、新たな巨大市場開拓として、大きな意義を持つ。


さいごに


今後もさらなる経済成長と中間所得層の増加に支えられ、急速に拡大していくことが予想されるインドネシアの消費市場。この巨大マー ケットに対して、日本の優れたコンテンツや関連ノウハウを積極輸出し、ライセンスビジネスの拡充とともに、インドネシアのメディア産業の育成/発展に貢献していきたい。

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