日EU経済連携交渉について

日本と欧州連合(EU)による経済連携協定(EPA)i 交渉は、7月の大枠合意を目指した大詰めの協議が進められている(本稿は7月5日現在)。わが国政府は、日EU・EPAを、環太平洋経済連携協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP ii)、日中韓FTA等と並ぶ重要なメガFTAと位置付け、鋭意交渉を推進している。実現への期待が非常に高まっている日EU・EPAの重要性と交渉経緯について改めて確認したい。


1.日EU・EPAの重要性・市場認識


EUは、日本の輸出入総額の約10%(中国、米国に続き3位)を占める重要な貿易相手である。また、投資も日本にとってEUは米国に次ぐ第2位の投資先であり、日本への投資元としては第1位である。日本とEUは貿易投資に関して非常に重要なグローバルパートナーである。日EU・EPAが発効すれば、関税撤廃や投資ルール等が整備され、日本・EU相互の企業にとって、より良いビジネス環境が整備され、貿易投資はさらに拡大するだろう。

また、グローバル経済の中では、日EU・EPAが発効すれば、世界人口の約1割、GDPの約3割、貿易総額でも約3割(EU域内を除くと2割)を占める巨大な自由貿易圏が誕生することになる。日本EU・EPAを通じた両経済圏のさらなる経済成長を通じて、世界経済全体の発展が期待されるとともに、世界の貿易投資ルール作りの先導役となることが期待される。


2.交渉経緯と状況


日EU・EPAは、2013年4月の交渉開始から、4年以上が経過している。両政府が当初目標としていた2015年中の合意はかなわず、2016年中の合意目標も先送りした経緯がある。

2017年5月に開催されたG7伊タオルミーナサミットの際の日EU首脳会談では、改めて日EU・EPAについて、「できる限り早期の大枠合意が極めて重要であること」が確認された。また、「大枠合意は手の届くところまで来ており、双方が政治的指導力を発揮する段階に来ているとの認識で一致した」と公表されている。現在(6.23)、日本とEUは、7月上旬のG20首脳会議(於:ドイツ)に合わせて調整している日EU首脳会談での大枠合意を目指して、交渉を加速し、詰めの交渉が行われている。そのような中で、安倍首相は、6月24日、神戸市内の講演会で日本とEUとのEPA交渉について「(首脳会談で)大枠合意を目指したい。自由で公正な経済圏を世界へと広げる起爆剤となる」と述べている。

3.交渉分野

日EU・EPA は、21世紀のメガFTAにふさわしいルール作りを目指し、関税分野に加え、規制分野での調和、非関税措置、知的財産、投資・サービス、政府調達、環境、労働等、27分野を対象とする交渉が行われている。

日本側の主な関心事項は、①EU側の鉱工業品等の高関税の撤廃(例:乗用車10%、電子機器最大14%)、②欧州側の規制の透明性確保・運用改善、③投資・サービス(人の移動等)である。一方、EU側は、①農産品の市場アクセスの改善、②非関税措置(自動車、化学品、電子機器、食品安全、加工食品、医療機器、医薬品等の分野)への対応、③地理的表示(GI)の保護、④政府調達(鉄道等)の開放である。日EU間には、関税・市場アクセスの問題だけでなく、政府調達、基準・認証など非関税障壁に関する課題も多く、交渉は難航している。

一方、EU韓国FTAが既に発効し、自動車関税を含むほぼ全ての品目で関税が撤廃されていること等も踏まえ、EU市場における日本企業の競争条件の改善のためにも、早期発効が望ましい。






4.保護主義対抗としての日 EU・EPA の早期大枠合意の重要性


2016年6月英国が国民投票でEUからの離脱を決め、2017年1月米国トランプ政権がTPP離脱を表明するなど、先進国を中心に反グローバリズム・保護主義が台頭する中で、日EU・EPAの外交的重要性は格段に高まっている。わが国政府にとっては、日EU・EPAで保護主義の流れを押し返せるか、正念場といえよう。TPP11 iiiの発効に向けた協議を前進させたい日本にとっては、日EU・EPAが大枠合意できれば、強力な交渉カードにもなるだろう。英国のEU離脱交渉の本格化前に大枠合意を打ち出したいEUとわが国双方で、日EU・EPA実現の機運が高まっている。

日本貿易会は、わが国にとって貿易および投資の拡大は、持続的な経済成長を実現していく上で重要な課題であり、その円滑化を通じて諸外国との関係を深めることが不可欠であるとの認識から、TPP協定の実現をはじめとする自由貿易投資体制の推進に関する要望活動を行ってきた。反グローバリズム・保護主義の伝でん播ぱ を断ち切るためにも日 EU・EPA の早期大枠合意と早期発効を期待している。


ⅰ 日本と欧州連合(EU)間の輸出入にかかる関税を撤廃し、貿易・投資に関するルールを統一することを目指す協定

ⅱ RCEP =ASEAN+6 ヵ国(日本、中国、韓国、豪州、NZ、インド)が対象国

ⅲ 日本政府は米国のTPP 離脱表明により、米国を除く11ヵ国(豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、NZ、ペルー、シンガポール、ベトナム)での発効を目指し、協議を進めている。

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