企業における多様な人材活用―女性の活躍を中心に

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 調査・解析部 主任調査員
吉田 和央

「多様な人材の活用」のテーマで思い起こされる人材としては、女性、外国人、障害者が挙げられる。特に女性については、政府が「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%とする」目標を掲げる*など政策の中心となっているが、現状は、国会議員、官公庁、教員・研究者などの分野で女性の割合が低い状態が続いている。ここでは、企業の女性採用の動向、女性の管理職への登用状況、女性の活躍に対する施策などについて、各種の調査結果からデータをピックアップしてみたい。併せて、外国人人材、障害者雇用についても現状を確認する。
*2003年6月男女共同参画推進本部決定。以降継続的な取り組みが進められている。

まず女性の採用について、経済同友会の「企業の採用と教育に関するアンケート調査」の2014年結果(同年9-10月実施)を見ると、直近1年間の新卒採用を「増やす予定」と答えた企業は全体の26.2%となった。「同程度の予定」が45.2%と多いものの、「減らす予定」は2.3%にすぎない(他に「わからない」26.2%)ため、全体としては「増やす」意向が読み取れる。

女性の登用状況については、2015年7月に実施された帝国データバンクの景気動向調査・特別企画「女性登用に対する企業の意識調査」(以下、「帝国データバンク調査」)によると、管理職に女性が占める割合は平均6.4%で、前年同時期の調査からは0.2ポイント上昇した。役員では8.4%だった(前年と変わらず)。しかし、女性の管理職割合がゼロ(全員男性)の企業は、前年同時期からは0.6ポイント下降したものの、いまだに50.9%と約半数に上っている。役員でも、女性割合ゼロの企業は61.5%と多数を占めている(前年同時期からは0.2ポイント下降)。

このような傾向は、経済同友会の「ダイバーシティと働き方に関するアンケート調査」(2014年10-11月実施、以下「ダイバーシティ調査」)の結果からも読み取れる。「課長級以上」の女性登用は6.3%で、前年から0.5ポイント上昇しているものの、数値は帝国データバンク調査と同水準。取締役の女性割合は2.7%(前年と変わらず)で、回答企業に大企業が多いことを反映して低い値となっている。この調査では、社外取締役の女性割合が9.1%で、前年より2.5ポイント上昇していることが目を引く。

帝国データバンク調査による、自社の女性の割合に関して5年前、現在、今後の変化をみる設問では、女性管理職割合が5年前と比較して現在「増加した」と答えた企業は18.8%、現在と比較して今後「増加する」は22.3%となった。「変わらない」が多いものの、管理職登用の動きは拡大する見通しだ(表)。



では、女性の活躍を進めるための施策はどうなっているだろうか。帝国データバンク調査では、「女性の活躍を促進するために重要と考えること」(複数回答)として、5割超の企業が「仕事と子育ての両立支援(育休復帰支援など)」(57.4%)、「妊娠・出産・子育て支援の充実」(54.3%)を挙げている。次の「保育サービスの充実(待機児童や保育士不足の解消など)」(44.8%)まで、上位3項目が子育てに関する施策である。

続く項目は、「税・社会保障制度の見直し(個人所得課税、被用者保険の適用拡大など)」(28.4%)、「男性の育児・介護休業取得、育児参加の促進」(27.7%)、「介護の支援」(27.4%)、「働き方の改革(長時間労働の削減など)」(26.4%)、「ワーク・ライフ・バランスを推進する企業を幅広く評価する枠組みの導入」(23.2%)などで、労働環境や働き方に関する施策が多い。

一方、企業が考える「女性の登用・活用を促進するにあたり障害となっている課題」を経済同友会・ダイバーシティ調査から見ると(複数回答)、上位3項目には「女性の採用数が少数である(あった)ため、管理職の候補者が乏しい」(44.5%)、「女性のロールモデルが少ない」(43.2%)、「女性自身のキャリアに対する自覚・責任感が未醸成である」(34.5%)が挙がっている。

このような意識に基づき、同調査における「女性の登用・活用のために実行している施策の効果」で効果的とした企業の割合は、「職務の明確化、男女差のない公正な評価・処遇制度を確立し実行する」(80.4%)、「女性の採用及び職域を拡大する」(66.8%)、「法令を上回る充実した休暇・休職制度を設ける」(59.9%)が上位3項目となっている。子育てに関する施策の「仕事の継続を支援する育児との両立支援施策を充実させる」(52.6%)は次点の4位であり、帝国データバンク調査の結果とは異なる傾向が出ている。

女性以外の状況を見ると、外国人人材に関しては、経済同友会・ダイバーシティ調査によれば、「外国籍人財がいる企業」は、日本国内では84.4%に上っている。2013年度総合職の外国籍人財採用状況は、日本の大学・大学院を卒業・修了した「外国籍留学生」の採用が53.6%の企業で行われたが、外国の大学・大学院を卒業・修了した「外国籍学生」の採用は24.9%の企業にとどまっている。

また、障害者雇用については、第一生命経済研究所が2014年11-12月に上場企業を対象に実施したアンケート調査「障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化」によると、雇用している障害者の数が0人と答えた企業は2.5%(同研究所の2006年調査では5.7%)にすぎず、10人以上雇用している企業が6割近く(58.9%)に上っている。障害者雇用を「増やす」とした企業は68.3%に達し、2006年調査の54.7%を上回っていて、同研究所は法定雇用率(2013年4月以降2.0%に設定)を超える企業においても「増やす」意欲がうかがえるとしている。

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