伊藤忠商事が取り組む南アフリカにおける太陽光発電事業

伊藤忠商事株式会社 ソーラー・環境ビジネス室
高橋 一史

はじめに

伊藤忠商事株式会社(以下、「伊藤忠」)では、2009年4月にソーラー事業推進部(現ソーラー・環境ビジネス室)を発足させて以来、太陽光発電ビジネスに対する取り組みを加速させ、国内・海外でビジネスを展開してきた。

その中で海外展開の軸となるのが、2008年5月に出資したScatec Solar 社(ノルウェー、以下「スカテック・ソーラー」)である。

伊藤忠は2008年出資以降、出向者や研修生をノルウェー・オスロ、南アフリカ共和国(以下「南ア」)・ヨハネスブルクなどに派遣し、スカテック・ソーラー向けの主要機材調達などに関与、物流・ファイナンスを含めた多面的な支援により、同社の事業拡大に寄与してきた。

スカテック・ソーラーは、2010年にチェコで20MWの太陽光発電所を建設・保有したのを皮切りに、2015年6月現在では新興国を中心に合計約220MW(チェコ20MW、南ア190MW、ルワンダ9MW)の太陽光発電所を保有・運営している。

また、昨年2014年10月にノルウェー・オスロ証券取引所に上場、さらなる発電資産の積み上げを図っている。

南アフリカの電力事情ならびにEskomの現状

南アの電力公社Eskomは、南ア政府が完全所有する有限責任会社であり、1923年電力供給委員会として設立された。最大発電容量は約44GWで、南ア電力の95%を発電している。発電の内訳は、石炭火力86%、ガスタービン5%、原子力4%、揚水3%、水力1%、風力1%未満から構成、経済成長により電力需要が増加し、電力需給が逼迫、ポスト・アパルトヘイト時代に電力部門の設備投資やメンテナンスの水準が低下した影響もあり、Eskomは慢性的な発電容量不足に陥っている。

2010年に、南ア政府は現在の発電容量約44GWから2030年までに約89GWへ倍増させる電源計画を策定、Eskomは休止していた発電所の再起動、既存発電所の増強に加え、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)を含む発電所の新設や第三者売電企業からの買電などにより、電力供給力の強化を図っている。

しかしながら、昨今のEskomの経営・財務状況は健全な状態とはいえず、さらに慢性的な電力供給不足をカバーするための緊急電源用燃料費の拠出が財務体質の悪化に追い打ちをかけている。かような中、Eskomは、新規発電設備の建設コストの確保や人件費・燃料費・設備維持費等の増加によって上昇するコストをカバーする必要があり、今後継続的に南ア電力価格の上昇は避けられない見通しとなっている。



南アフリカの再生可能エネルギー制度

南ア政府は、2030年までに電力需要の約2割に当たる17.8GWを太陽光をはじめとする再エネにより賄うという目標を設定した。2011年にはREIPPP制度を導入、この制度は、南ア政府が同国内での再エネ導入を推進するため、政府保証の下、国営電力会社Eskomを通じて再エネにて発電された電力を買い取る制度で、合計10.5GW導入することが決まっている(REIPPPは、RenewableEnergy Independent Power Producer Procurement の略称)。

これまで第1期(1.4GW)、第2期(1.0GW)、第3期(1.7GW)、第4期(2.2GW)まで計6.3GWを落札発表済み。このうち、スカテック・ソーラーは、第1期75MW、第2期115MW、第4期258MWの合計448MWを落札した。

第1期、第2期合計190MW分の発電所はすでに完工・稼働しており、Eskomとの20年間の売電契約の下、電力を供給している。

南アフリカ事業の特徴


南アフリカKalkbult 太陽光発電所(75MW)

アフリカではこれまで再エネの導入政策がほとんどなかったが、現在南ア政府が推進中の再エネ導入制度は、欧州などの事例を参考にした、先進的な制度である。

欧州など一般には、発電業者が再エネによる電力を国が定める一定価格で販売できるようにする固定価格全量買取制度が採用されており、国が定めた一定の販売価格と市場価格との差額は、国民の電気料金への付加や、国の予算で賄うことになる。

一方で、南アの入札制度は、売電価格を競う方式であり、入札者間の競争により価格が下がり、さらに複数回行われる各入札期ごとに価格低下も期待され、国が補てんする予算も減少していく。また、各入札期とも導入量上限を設定することにより、電力系統への影響にも考慮しながら再エネの導入が進んでいる。

南ア政府が推進する黒人優遇政策(B-BBEE※制度)にも配慮し、現地資本比率や、現地調達比率を定めている他、経済規模が小さいNorthern Cape 州などに多くの太陽光発電設備が導入されていることから、雇用創出を含め、南ア経済への貢献も大きい。

今後の方向性

スカテック・ソーラーは大型太陽光発電所を世界中に普及させるため、先進国のみならず電力需要が急速に高まっている新興国もターゲットに置き、南ア他アフリカ各国での開発・建設と発電設備の保有維持、中近東における現地有力パートナーとの事業推進などさまざまな取り組みを展開する戦略である。同社は南アフリカなどで培ってきた大型メガソーラー案件組成の経験・ネットワークを活用し、目下の目標として750MW相当の太陽光発電所の開発・建設・保有を目指している。伊藤忠は引き続き同社の積極的な事業展開を支援し、新興国における電力供給能力向上や雇用増加への貢献ならびに環境に優しい再エネ発電の展開にまい進していく所存である。

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