三井物産がメキシコで展開する電力ビジネス

三井物産株式会社 プロジェクト本部 電力事業アセットマネジメント部 第三営業室長
脇田 善匡

三井物産の電力ビジネス

世界的な人口増加、経済発展に伴い、世界のエネルギー消費量は過去30年で約2倍に増加し、今後も新興国を中心とした経済規模の拡大や所得水準の上昇が電力消費の増大を後押しし、今後30年間で世界経済は約2.3倍に拡大、省エネルギー技術の発達を織り込んでも世界のエネルギー消費量は約1.4倍に達すると見込まれている。

このような環境下、当社は長年培ってきたEPC(Engineering, Procurement andConstruction)主契約者としての実績・知見と地域展開力を活かし、発電事業への参入を追求、1997年パキスタン/ハブ・リバー火力発電所、1999年インドネシア/パイトン火力発電所等を完工・操業させ、発電事業の開発実績を積み上げてきた。

2004年には米Edison Mission Energy 社の持つ海外IPP(Independent Power Producer、独立系発電事業)資産を英InternationalPower(現ENGIE社)と共同買収したことによりIPP事業に本格参入。その後も一貫して電力事業の拡大を図ってきたが、米州地域においては、その他地域におけるパートナーシップ戦略とは異なり、メキシコ/バジャドリド発電事業、カナダ/オンタリオ州発電事業ではパートナーとの折半出資で事業に参画している。

2006年には両案件のパートナーであった米Calpine社が米連邦破産法第11条(Chapter11)を申請したことをきっかけとして、バジャドリド発電事業においては中部電力と共にCalpine社持ち分の買い取り、オンタリオ州発電事業においてはEPCをはじめとするCalpine社が請け負っていた全業務を当社が引き取ることで、当社はパートナーに依拠しない主導的事業運営管理体制を構築してきた。その後も中東・東南アジア・南米で事業開発・買収を通じた良質資産の積み上げによる事業拡大を図り、当社持ち分発電容量(ネット)は約9.6GWに達している。

このように長い歳月を経て今日の事業展開・発展に至っているが、その中から今回はメキシコでの当社IPP事業をご紹介したい。

メキシコでの事業展開

〜当社初のメキシコIPP事業への参画〜


Rio Bravo天然ガスだきコンバインドサイクル(複合火力)発電所

当社のメキシコにおける電力案件への取り組みは古くは1950年代の水力発電所向け発電機器納入にさかのぼり、以後メキシコ電力庁(CFE)や民間向けのEPC案件を手掛けてきた。

他方メキシコでは好調な経済成長に伴う高い電力需要の伸びを背景とした新規発電所の建設が相次ぐ有望市場であり、多くのIPP案件が成立した市場であったことから、当社は2003年にCFEが招聘したバジャドリド発電事業の事業権入札にCalpine社と共同で応札。入札の結果、当社グループが落札し中部電力も事業に参画。本プロジェクトはCFEと25年間にわたるPPA(Power PurchaseAgreement、長期売電契約)を締結するも、2006年の事業開始前の2005年末にCalpine社がChapter11を申請したことを受け、当社は中部電力と共同でCalpine社持ち分を取得し、無事プラントを完工させ、2006年6月に商業運転を開始。商業運転開始から現在に至るまで発電所は安定操業を続け、メキシコ・ユカタン半島における電力の安定供給に貢献している。

〜当社初のオペレーターシップモデル〜

当社はそれまでに蓄積した電力事業の知見を活用して、主体的に事業を開発し経営する『オペレーターシップモデル』を目指す方針を掲げ、2009年に電力事業開発および電力事業経営を推進するプラットフォームを獲得する好機と判断し、ガス火力発電所5ヵ所をまとめて買収することを決定した。

一方、本件は総額1,100億円を超える大型買収であったことに鑑み、国際協力銀行(JBIC)をはじめとする融資銀行団からの融資供与および東京ガス(30%)、中部電力(20%)、東北電力(10%)からの共同出資を得て買収を完了。上述バジャドリド発電事業と合わせ、同国での当社の発電容量はIPP事業者として第2位の地位となり、メキシコの電力安定供給を通じて経済発展の一翼を担っている。

〜再生可能エネルギーへの挑戦〜

当社は、メキシコにおいては電力分野にとどまらず、ガス分野(LNGターミナル・ガスパイプライン・ガス配給事業)や水分野でのビジネスも展開しており、同国を重点インフラ市場として位置付けている。

また電力事業ポートフォリオ戦略の一環として再生可能エネルギー発電資産を一定量保有すべく、海外優良パートナーとの規模感のあるポートフォリオ構築を模索する中で、世界有数の好風況地域である同国オアハカ州にある二つの風力事業への出資参画を決定。フランス国営電力公社(EDF)の再生可能エネルギー専門子会社であるEDF EnergiesNouvelles(EDFEN社)から両事業の50%持ち分を2013年に相次いで取得し、合計発電容量324MWを保有している。

将来に向けて

メキシコ国内第2位のIPP事業者でもある当社は、長年にわたるCFEとの好関係、過去に蓄積した市場ノウハウやプレゼンス、当社グループ内の豊富な人的リソースを活かし、今後もさまざまな電力事業モデルに挑戦するにふさわしい市場と考えている。

さらには、ペニャ・ニエト大統領が推し進めるエネルギー改革の流れを機敏に捕捉し、メキシコ国営石油会社(PEMEX)とのエネルギー関連分野での協業等、重層的かつ多岐にわたってメキシコでのインフラ事業を拡大し、同国の発展に寄与していきたい。

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