国土交通省が取り組むインフラシステムの海外展開について

国土交通省 総合政策局 国際政策課 企画官
上手 研治

1. 政府全体の方向性

わが国は、世界に先駆けて、少子高齢化や国内市場の縮小などの課題に直面している。その中で、中長期的に経済成長を続けていくためには、成長・拡大を続ける国際マーケットの獲得競争に打ち勝っていくことが重要である。特に、世界のインフラ市場は、新興国の急速な都市化と経済成長により、今後のさらなる拡大が見込まれている。経済協力開発機構(OECD)の報告によると、交通インフラの整備需要は、現在、年平均38兆円となっているが、2015-30年には5割以上増加して59兆円に上ると予想されている。このため、わが国の技術とノウハウを活かして世界の膨大なインフラ需要を積極的に取り込むことは、わが国の政策の重要な柱となっている。

このような流れの中で、政府においては平成25年3月に「経協インフラ戦略会議」を設置し、同年5月に「インフラシステム輸出戦略」をとりまとめた。同戦略においては、2020年(平成32年)におけるわが国企業のインフラ関係受注額を約30兆円(現状約10兆円)とすることを目指している。そのための施策の柱として、同戦略においては、①企業のグローバル競争力強化に向けた官民連携の推進、②インフラシステムの海外展開の担い手となる企業・地方公共団体や人材の発掘・育成支援、③先進的な技術・知見等を活かした国際標準の獲得、④新たなフロンティア分野への進出支援、⑤安定的かつ安価な資源の確保の推進、を掲げている。

なお、同戦略は、同年 6月に閣議決定された「日本再興戦略」において、その迅速かつ着実な実施が盛り込まれたところである。

2. 国土交通省におけるインフラシステムの海外展開の考え方

国土交通省においても、このような動きに基づき、国土交通分野におけるインフラシステムの海外展開を推進することとしている。競合する諸外国との競争に勝ち抜き、わが国企業が受注を獲得するためには、ハードとソフトが一体となって安全で信頼性の高いシステムを構築するといったわが国の強みを発揮し、相手国のニーズに柔軟に対処していくことが必要である。

そのため、国土交通省では、(A)プロジェクトの川上(構想段階)からの参画・情報発信、(B)インフラシステムの海外展開に取り組む企業支援、(C)わが国制度・基準の国際標準化等ソフトインフラの海外展開といった取り組みを実施している。

最近では、平成26年4月に、わが国事業者による交通事業・都市開発事業の海外市場への参入促進を図るため、需要リスクに対応した「出資等」と「事業参画」を一体的に行うことを目的とした、㈱海外交通・都市開発事業支援機構に関する法律が成立し、現在同機構の設立準備を進めているところである。本稿では、同機構の活用も含めたインフラシステムの海外展開の取り組みを概説する。



3. 国土交通省における具体的な取り組み

(A)川上からの参画・情報発信

インフラプロジェクトの獲得に向けては、まず川上から参画し、相手国のニーズをくみ上げてこれに合わせた提案を行うとともに、わが国技術による安全性や信頼性、運営段階も含めトータルで見た費用対効果の高さについて、相手国の理解を深めていく必要がある。

具体的には、官民一体となったトップセールスの展開や案件形成等の促進に取り組んでいる。安倍政権発足以降、太田国土交通大臣はミャンマー、シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア、モンゴル、韓国、中国、マレーシアおよびカンボジアを精力的に訪問し、各国のトップや国土交通分野を担当する閣僚との協議や意見交換を行い、相手国のわが国インフラシステムへの理解を深めてきた。

また、諸外国の大臣等要人の来日・表敬といった機会や、セミナーの開催等を通じ、わが国インフラの優位性に関する発信に積極的に取り組んでいる。例えば、平成25年9月に初の日本開催となった「第8回APEC交通大臣会合」に際しては、APECに加盟する21の国と地域の交通担当大臣等が一堂に会する機会を活用し、「テクニカルツアー」として陸海空の交通インフラを紹介した。テクニカルツアーには、大臣会合に参加した20のエコノミーの代表を含む約70人が参加し、わが国の優れたインフラを実際に体験していただいた。

この他、官民が連携してインフラシステムの海外展開を進めていく場として、道路、水、港湾物流、エコシティ、鉄道、航空といったそれぞれのインフラ分野において海外官民協議会を設置している。また、平成26年6月には、「日本防災プラットフォーム」が新たに設立され、第1回総会が開催された。

(B)インフラシステムの海外展開に取り組む企業支援

近年、インフラシステムの海外展開先の相手国において、法令や商慣行の相違等により、海外での事業においてトラブルを抱える企業も多く、多角的な視点から民間の活動を支援する必要がある。

具体的には、国土交通省に「海外建設ホットライン」を設置し、海外建設プロジェクトにおける施工技術、施工管理マネジメントの課題に関するわが国企業からの相談に答えている。さらに、二国間対話等を通じたビジネストラブルの解決支援を行っている。

(C)ソフトインフラの展開

日本全体としての競争力強化のためには、従来のインフラ分野に加え、日本の強みを活かした新しい分野についても不断に開拓し、積極的に海外展開を図ることが必要である。

そのために、国際規格の制定に向けた議論に積極的に参画することにより、わが国規格を反映させる他、相手国におけるわが国規格・標準のデファクト・スタンダード(注1)化を進めている。これらにより、わが国企業の進出・受注に向けて有利な環境整備を進める。

(D)㈱海外交通・都市開発事業支援機構について

インフラ整備に関する最近の傾向として、官民連携の枠組み(PPP:Public-Private Partnership)の拡大が挙げられる。海外におけるインフラ事業は、これまで長い間、中央政府・地方自治体や政府機関による公共投資を財源とするものが中心となっていた。わが国も、このような分野において、政府開発援助(ODA)を活用して支援を行ってきた実績がある。しかしながら、冒頭で述べたような膨大なインフラ需要を公共投資だけで賄うのは困難であることから、この20年ほどの間に、民間の資金を活用するPPP型でインフラ事業が実施される事例が多くなっており、これが各国の民間企業にとって大きな事業機会となっている。

特に、交通や都市開発の分野は、事業運営のみならず、部品や関連機器の供給など、裾野産業が広いことが特徴である。また、交通や都市開発の分野における運営型の事業は、長期的にはリターンが期待されることに加え、安全性や信頼性の高さやライフサイクルコストの低さという点で、日本が強みを活かせる。

これらの分野におけるプロジェクトにわが国企業が参画することは、裾野産業を含め、広くわが国の産業に裨益し、わが国の経済成長に寄与するものと期待している。

一方で、出資を通じて民間企業がこれらの事業に参画するに当たっては、交通や都市開発事業に共通する、大きな初期投資、長期にわたる整備、運営段階の需要リスクという特性があるために、民間だけでは参入が困難である。



こうした事情を踏まえ、国土交通省は、海外の交通や都市開発のプロジェクトに対して「出資」と「事業参画」を一体的に行う㈱海外交通・都市開発事業支援機構(以下「機構」という)の設立に向けた取り組みを進めている。平成26年4月に機構に関する法律が成立し、国の予算として、平成26年度財政投融資計画において、1,095億円(産業投資(注2)585億円、政府保証(注3)510億円)が盛り込まれた。

機構は、以下の支援を行うことにより、交通と都市開発の海外市場に対するわが国企業の参入の促進を図り、もってわが国経済の持続的な成長に寄与することを目的としている。また、日本の技術とノウハウが、当該事業が行われる国や地域の人々の役に立つことも期待されている。

①出資
日本企業が海外でインフラ事業に参入する際、関係企業は、現地で事業運営を行う事業 体を設立する。機構は、これら関係企業と共同して現地事業体に出資する。

②事業参画
機構は、出資先の現地事業体に対して、以下の事業参画を行う。

・日本の技術や経験を活かすため、役員や技術者などの人材を派遣。
・日本政府の出資機関として、相手国と交渉。

機構の支援対象は、鉄道、道路、バス、物流、船舶・海洋開発、港湾、空港、都市・住宅開発など、幅広い分野にわたる。わが国は、これらの分野に関して、優れた知識、技術および経験を蓄積している。例えば、安全で定時性を確保しつつ大量・高頻度の鉄道輸送等を可能とするノウハウ、大型浮体構造物の建造・維持管理の技術、地震工学(災害発生のメカニズム等)の知見、下水道の膜処理技術や長大橋建設の経験などは、交通や都市開発のプロジェクトにおいて、わが国の強みとして活用されることが期待される。

以下の図3は、現在、国土交通省が把握している主な海外の交通や都市開発のプロジェクトを一覧にしたものである。これらのプロジェクトの中には、全てが民間活用型となるのではなく、相手国側が、一部を公共事業として実施する形態のプロジェクトも含まれる(次ページの図4の青色部分)。個々のプロジェクトのうち、どの部分が民間活用になるかは、今後順次決まっていくことになるが、交通や都市開発の多くのプロジェクトにおいて、わが国の知識、技術および経験が活用され、わが国企業の参画が進むことが期待される。




4. おわりに

相手国が真に求め、真に役立つインフラの整備に協力し、現地の経済社会の安定・発展に貢献すると同時に、雇用創出や技術者育成にも貢献し、さらには環境の保全にも資するような「良い仕事」をすることによって、日本は、将来にわたって繁栄を享受し、世界で尊敬される国であり続けることができる。

国土交通省としては、以上の取り組みを通じて、わが国の国土交通関連産業の国際競争力強化や海外プロジェクトへの参入機会の拡大を図るとともに、海外において真に必要とされ、真に役立つインフラの整備に貢献してまいりたい。

(注1)事実上の標準。公的な標準ではなく、市場の大勢を占めることにより標準と見なされている規格。
(注2)財政投融資(産業投資):国が保有するNTT株、JT株の配当金などを原資として行っている産業の開発及び貿易の振興のための投資。政策的必要性が高くリターンが期待できるものの、リスクが高く民間だけでは十分に資金が供給されない事業に対して、資金を供給する点が特徴。
(注3)財政投融資(政府保証):政策金融機関・独立行政法人などが金融市場で資金調達する際に、政府が保証をつけることで、事業に必要な資金を円滑かつ有利に調達するのを助けるもの。

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