『相馬事業所における震災からの復旧と今後の事業展望』復興そして飛翔

IHI航空宇宙事業本部生産センター 副所長 兼 相馬事業所長
須貝 俊二

IHI 相馬工場は相馬市中核工業団地にあり、沿岸部から内陸に10㎞、海抜約40mにある。IHI相馬工場は航空宇宙事業本部の主力工場として、タービン翼を含むジェットエンジンの主要部品を生産している。


被災そして復旧


東日本大震災から3 年半余が経過した。3月11日、津波は免れたものの、震度6強の揺れは激烈で、相馬工場は、インフラを含む工場建屋、事務所、自動倉庫、そして生産設備はことごとく何らかの被害を受け、操業は完全に停止した。唯一救われたのは、当時事業所で働いていた従業員約1,100人は、奇跡的に全員無事避難することができたことであった。

復旧作業は、IHIグループ全体の力を結集したのみならず、建設会社や生産設備メーカーなどを含め、最大時には1,000人を超える方々の献身的な活動により、復旧が加速した。何よりも現場の従業員が、それぞれの持ち場で、自ら最適な解決策を考え、必死に働いた現場力が、地震発生から1ヵ月たたない3月28日に、一部とはいえ生産設備の稼働を可能にした。このいち早い復旧が、先の見えなかった相馬市の復興作業に一筋の希望の灯となった。

その後も度重なる余震の中、復旧作業を続け、電源喪失をしていたタービン翼生産工場に仮設変電所が設置され、4月15日、復興通電式を行った。5月中旬には工場のおおむねの職場で本格的稼働を果たした。そして8月上旬には、工場全体が完全復旧に至ったのである。

多くの励ましと再認識


相馬事業所全景

震災直後から相馬事業所の主要なお客さまや関係する皆さまから多くのお見舞いや励ましの言葉を頂いたことを、心より感謝したい。

震災後、まだ、放射能汚染が心配される中、IHI のエンジン事業の重要な顧客であるボーイング社、ゼネラル・エレクトリック社、ロールス・ロイス社、IAE社等々の幹部に相馬工場を訪問いただいた。関係者多数のサインを記した励ましの横断幕を持参していただいた会社もあった。世界の名だたる航空機やエンジンメーカーの方々の温かい気持ちに、強く励まされるとともに、世界的なエンジン部品工場としての自覚を新たにした。

震災から学んだ災害対策

今回の震災で被った予想を超えた被害の中でも、後に復旧活動に大きな影響を与えたものがあった。その対策は、決して大きな対応ではないように見えるけれども、被災して初めてその重要性が明確になった事柄であり、その対策を着実に行ってきている。

外部電源の回復に重要なトランスの予備を常備し、震災直後入手困難となった工場の電源や設備間の配線をそのまま保管した。自動倉庫の被害を最小限にするため倉庫運転のシステムの改善を実施した。

災害復旧に最も重要な通信網の電源の確保対策を実施した。災害により外部電源が遮断されても、事業所で独立して維持できるソーラーシステムを導入し、かつ、震災後の電力事情の逼迫に対応できるようリチウムイオン電池を導入した。これにより事業所電力需要のピークカットならびにピークシフトが可能となり、増産の中、電力需要の最適化ができる体制ともなっている。

また、災害時の的確な初動による避難と迅速な安否確認を目的とする避難訓練と、被害状況を想定し復旧に向けての情報収集、対策立案等のロールプレーイングによる訓練を東日本大震災の3月11日と関東大震災の9月1日の年2回実施することとした。これらの訓練には自衛隊OBの指導を受けつつ、より厳しく現実に即したものにした。

復興から成長へ


相馬野馬追祭り

IHI相馬工場は、この震災から復興するだけでなく、相馬の地にしっかりと根を下ろし、事業の拡大を目指している。

航空機の需要は世界的に好調で相馬工場の仕事量は年率10-20%で伸びている。今後の20年間の航空機需要も堅調でアジア地区を中心に伸びると予想されている。IHIは世界で運行される旅客機の小型から大型までのあらゆる大きさの機体に対応できるエンジンラインアップを持っており、これらの需要の拡大に製品的に対応可能である。

また、将来的に、日本が得意とする新複合材部品や世界の最先端の加工技術を駆使したものづくりでもシェアを伸ばしていく計画である。

IHIはエンジン事業の今後の確かな成長を予想し、相馬工場の生産能力を更に拡大することにした。2016年度竣工予定の約4,000m2の新工場の建設準備を進めている。

相馬との絆と発展

IHI相馬工場は、相馬市に工場を建設して今年(2014年)で16年と、まだ比較的新しい工場である。

ここ相馬の地は、幾多の困難を乗り切り生き残った相馬藩の歴史に裏打ちされ、勤勉で真面目な人間性を育んだ人々が豊かな文化を築いてきた土地柄である。また、工場の周囲には工業高校や高等専門学校などの教育機関も充実し、技術を持った人材が豊富である。相馬工場は、工場従業員の多数を地元で採用してきている。

相馬の地との絆をしっかりしたものにするため、災害復興に当たっては、相馬市への生活物資の援助や募金をIHI全社で行った他、相馬が誇りとする相馬野馬追祭りにもより積極的に参加するため、震災後の2013 年の祭りより、事業所長である私須貝が甲冑を付け、騎馬武者として参加することとした。

IHIは、世界最先端のジェットエンジンのものづくり技術と生産により、相馬地区の復興と未来に向けた発展に微力ながら貢献していく所存である。

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