東北地域における成長戦略

経済産業省 東北経済産業局 局長
守本 憲弘

東北地域経済の状況と復興への課題

東北の鉱工業生産は、震災直後、震災前の6割程度に落ち込んだが、2011年8月には9割程度まで回復し、その後は堅調に推移している。その原動力となったのは、内陸の製造業の迅速な復旧であり、こうした企業の多くはほぼ震災前の生産水準に回復した。

商業・サービス業については、内陸部は迅速に復旧し、大型小売店の販売額は、2011年5月には震災前の水準にまで回復したが、小売事業所の減少率は全国値より大きい。

一方、沿岸部の水産加工業等については、国や県の支援を活用して設備を復旧したものの、販路の縮小や従業員の不足により、多くの企業が震災前の生産水準まで戻っていない。

また、津波被災地域・福島県避難指示区域の商業・サービス業については、本格復旧は住民の帰還と表裏一体であり、まだこれからという状況である。

福島県の避難区域を除く地域の産業は、順調に復旧しているものの、農水産物や観光等は、風評等により依然として厳しい状況に置かれている。

東北地域の成長戦略の概要

東北の復興のためには、地域の一つ一つの取り組みが復興への一歩であり、東北地域経済が長期的に発展するための基盤となる。

そのため、東北地域においては2013 年度に、東北7 県知事、各地域の企業経営者、東北を所管する国の支分部局からなる東北地方産業競争力協議会を開催した。東北地域一体となって地域ごとの取り組みを加速させていくことをコンセプトにとりまとめられた地域産業の成長戦略は、次の三つの分野から構成されている。

(1)復興からの新産業創出

東日本大震災からの復興の過程で、被災企業におけるバリューチェーンの再構築や地域での起業、震災後の地域的・社会的な課題に対応したプロジェクトの展開、東北のみならず、日本を先導するような新たな産業創出プロジェクトの展開などといった新たな取り組みが生まれている。

例えば、宮城県気仙沼市では、大手総合商社2 社の支援の下、被災した複数の水産加工業者が協同組合を設立し、独自ブランドを構築して海外を含めた販路開拓に取り組んでいる。

これらの取り組みを、丁寧に拾い上げ、成長産業へと育てていく。

(2)地域資源の新たな魅力発掘と発信

東北には、歴史・文化資源、祭りなどの観光資源、伝統的工芸品、農林水産物等の多様な地域資源が存在する。しかしながら、その打ち出し方が地域ごとに細切れになり、東北の真の魅力が十分に発信できていない状況にある。

東北地域の地域資源のさらなる活用・魅力向上のために、複数の特色ある地域が連携し、広域観光ルートの開発、産品のラインアップ等を進めるなどして、東北ブランドを構築し、東北が一体となって内外に強くアピールしていく。

(3)ものづくり産業の戦略的育成

東北地域をけん引する産業として、自動車産業や医療機器産業を地域一体となって成長産業へと育てていく。競争力を高め、さらに多様性を広げ、ものづくり産業を持続的な成長軌道に乗せていく。

2014年度は、既に東北一体となった具体的プロジェクトが動き出しているが、特に海外展開を意識した代表的な取り組みを紹介する。


図 東北地域の成長戦略


成長戦略の実現に向けた取り組み

(1)水産加工業等海外展開支援プロジェクトチームの設置

東北地域の水産加工業者の多くは、被災して復旧するまでの間に、これまで取引のあった事業者が、他地域の水産加工業者から商品を調達するようになり、事業を再開しても販路が回復できていない状況にある。

そこで、東北地域の水産加工業の新商品開発や海外販路拡大を進めることを目的に、2014年3月3日、被災県、ジェトロ、中小企業基盤整備機構、東北経済連合会とプロジェクトチームを発足した。本プロジェクトチームでは、関係者が連携して沿岸部の水産加工業者等を訪問し、現場の現状や課題についてヒアリングを行い、ヒアリングによって抽出された課題に対しては、補助事業やアドバイザー制度、海外センターによるネットワーク支援等、それぞれの機関が有する支援事業を投入して、解決を支援していく。

(2)地域資源のインパクトある発信

国内に限らず、グローバルな視点での販路拡大や観光客誘致のためには、広域な連携の下、一つの地域として発信していく必要がある。具体的な取り組みとしては、「東北」ブランド発信に向け、米国やアジアで「東北六魂祭※」で培ったネットワークを活用した観光PR や東北の物産品販売などによるプロモーション事業である。この事業で、東北一体となって海外からの誘客や地域産品の販路拡大などを行う。

さらに、東北の魅力発信ツールとして、新潟県を含む東北7 県の知事が出演する観光プロモーションDVD を制作し、さまざまな海外プロモーション事業に活用し、インパクトのある情報発信を行っていくこととする。

また、個々の物産に関する発信としては、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市の水産加工業者が統一ブランドを作り、新たな販路として東南アジア市場への輸出を目指すプロジェクトや、福島県の酒蔵が連携し、欧州における日本酒のポジションを確立するプロジェクトなどが進められている。水産加工品や日本酒は東北地域を代表する地域資源としてこれまでも活用されていたが、これらのプロジェクトのように、震災を契機として、東北の地域資源を海外に発信していくという新たな取り組みが生まれている。

水産加工品や日本酒の他にも、東北地域には、イタリア大手ブランドメーカーにも採用されている世界一薄くて軽いシルクや米国大統領夫人が着用したニットカーディガンの毛糸、欧米で人気を集めるカラフルな南部鉄器のティーポット等、世界的に強みを持つ工芸品が多数存在し、海外での飛躍に向けた取り組みが行われている。

当局としては、それぞれの特性に沿った支援を行うことにより、これらの取り組みを強力に後押しして行こうと考えている。

※東北六魂祭とは、東北6 県の代表的な夏祭りを一堂に集めた祭りであり、東日本大震災からの復興と鎮魂を祈るものとして、2011 年から東北各地で毎年開催されている。

終わりに

復興は徐々に進んでいるものの、本格的な復興へはまだ多くの壁が立ちはだかっている。しかしながら、東北地域全体が一体となってこの壁を乗り越え、東北の魅力をさらに磨き上げ、世界へ踏み出すことで、新しい東北が生まれる。

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