イノベーションによる新たな価値の創生へ

一般社団法人日本貿易会 副会長 住友商事株式会社 社長
中村 邦晴

2014年の日本経済を振り返ると、2013年に引き続いてアベノミクスへの期待感から超円高の是正・円安の進行と株価の上昇はあったものの、景気回復への歩みは必ずしも順調とはいえず、成長戦略の実行と日本経済の再生もまだ道半ばといえます。その中で、赤㟢勇名城大学終身教授、天野浩名古屋大学教授、中村修二カリフォルニア大学教授の3人が、青色発光ダイオード(LED)の発明によりノーベル物理学賞を受賞したことは「明るい」ニュースとして記憶に新しいところです。3人のもたらした技術革新、イノベーションは、照明や映像機器などへの応用に道を開き、省エネにも貢献するなどLEDが今や社会に不可欠なものとなり、産業や日常生活を大きく変えたといえます。

少子高齢化による人口減少社会の到来した日本が持続的な経済成長を達成するためには、第一に、アジアを中心とした新興国の経済成長に貢献しつつ、その旺盛な需要を取り込んでいくこと、第二に、国内需要を新たな視点で見直し、医療・介護・健康、環境などのまだ満たされないニーズを掘り起こすことが極めて重要となります。商社もこれらの領域では、今後ともインフラ輸出や資源・エネルギー開発、企業の海外進出支援、医療・健康ビジネス、再生可能エネルギービジネスなどさまざまな分野で、日本の経済成長に貢献できると考えます。

そしてもう一つ日本の経済成長に欠かせないものがイノベーションです。成長の源泉であるイノベーションを広い意味で捉えると、技術進歩・技術革新にとどまらず、生産現場におけるコスト削減の知恵や事務作業における業務効率化、新しいマーケティング手法や新たなビジネスモデル、ノウハウといった「新機軸」「創意工夫」も含まれます。また、人と人、企業と企業、国と国それぞれのレベルにおいて異質なものとのネットワークの構築と、それから受ける刺激がイノベーションを創出する原動力となります。海外やあらゆる業種とのネットワークを持つ商社には、広い意味でのイノベーションを創出する素養があり、日本の持続的経済成長に貢献できる余地は大きいと思います。

2015年は日本経済にとって、成長戦略など経済再生と新たな成長ステージに向けた具体策を待ったなしで実行に移さなければならない1年といえます。来るべき大きな変化と新たな成長ステージに向けて、商社も多様なネットワークを通じて新機軸や創意工夫を生み出し、新たな価値の創生に真価を発揮していきたいと考えます。

イノベーションによる新たな価値の創生へ 誌面のダウンロードはこちら