年頭所感

一般社団法人日本貿易会 会長
丸紅株式会社 会長
國分 文也

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

新年1月1日に最大震度7の令和6年能登半島地震が発生いたしました。亡くなられた方々に心からお悔やみを申し上げるとともに、被災された全ての方々にお見舞いを申し上げます。

昨年は、ここ数年見られた国際社会の分断が一段と複雑化した年でした。
地域紛争ではロシアによるウクライナ侵略が2度目の冬を迎え、今なお戦争終結への筋道は見えない状況です。
また10月には、ハマスがイスラエル領土内に奇襲、その後の大規模報復を招き、融和への期待があったイスラエルとアラブの関係を再び一変させました。
ウクライナ侵略、ガザ紛争ともに、多くの一般市民の犠牲を伴うものであり、現状を強く憂慮するとともに戦闘行為が一刻も早く終結し、市民が安心して暮らせるようになることを心から願っております。

こうした地域紛争に加え、米中関係の冷え込みなどを含む地政学リスクの高まりがサプライチェーンの不安定化という形で顕在化、各国の経済安全保障への意識を高めました。課題であるサプライチェーン強靭化に加え、グリーン経済への移行などを背景に、欧米をはじめ一部先進国では産業政策を強化する動きが見られます。
そうした中、日本はG7議長国を務め、5月には広島でG7サミットが開催されました。そこでは自由・民主主義・人権・法の支配といった普遍的価値を変わらず最重視していくことで参加国間での一致を見ることができました。また、グローバルサウス各国をパートナーと位置付けた形での包摂的経済開発の重要性も確認されました。

一方で、国際機関の機能不全は残念なことに一段深まった感があります。国連の安全保障理事会では常任理事国の拒否権発動が常態化し、国家間紛争や人道危機に対し有効な解決策を示すことができていません。

また、多国間の通商ルールを司るWTOでは、最終的な裁定を行う上級委員会の欠員状態が長期に続き、多くの紛争案件の解決が滞っています。
そのような中でも、多国間の通商ルールを補完するメカニズムとしての経済連携では数々の進展がありました。2月にチリ、7月にブルネイにおいて環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が発効し、発足時のメンバー国11ヵ国全てで締結・発効しました。加えて英国もCPTPPへの加入に関する議定書に署名するなど、さらなる広がりが期待されます。英国の加盟にあたっては、日本政府の粘り強い交渉が奏功したと評価されました。
また、サプライチェーンの再構築・強靭化に関しては、2度のIPEF(インド太平洋経済枠組み)閣僚級会合を経て「IPEFサプライチェーン協定」が署名に至りました。

日本貿易会は、自由な貿易・投資体制の維持拡大を掲げており、その原則を追求しつつも、現在のような複雑な国際関係のもとでは参加国の多様性に配慮したこれら枠組みを通じて、包摂的、かつハイレベルな経済関係を目指していくべきと考えます。

気候変動対策では、先のCOP28で「化石燃料からの脱却を進める」という歴史的な合意が産油国の賛同を得た形でなされました。
日本貿易会は、「商社とカーボンニュートラル」をテーマに昨年から特別研究会を立ち上げています。会員各社のカーボンニュートラルへの具体的な取り組みを持ち寄り、商社業界としてカーボンニュートラルにどのような貢献ができるかを検討する試みです。
政策や制度の充実はもちろん重要ですが、温室効果ガスが具体性をもって削減されていくことも同様に重要です。エネルギーの対外依存度が高い日本にとっては極めてチャレンジングな状況が待ち受けていますが、われわれ商社業界もこの課題に正面から向き合い、役割を果たしていきたいと考えています。

2024年は世界が大きく変容する可能性のある要因が目白押しです。
国際社会において政治的、経済的な影響度が高い国の多くで、国政選挙などの政治イベントが予定されています。その中でも米大統領選は、その結果いかんで同国の国際社会に対するこれまでの関与が大きく変わりかねない最重要イベントと位置付けられます。

国際情勢の不透明感は一段と強まっており、企業経営の舵取りはますます難しい局面を迎えることになります。日本貿易会は、本年も「ともに築こう、サステナブルな世界を」を掲げ、積極的な官民連携を通じた各種事業活動を推進し、諸課題の解決に取り組んでいく所存です。当会への引き続きのご理解、ご支援をお願い申し上げます。

末筆ながら本年が皆様にとりまして、一層実りのある年になりますことを祈念申し上げ、新年のご挨拶とさせて頂きます。      (1月4日記載)

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