三井住友銀行の中東地域でのビジネス展開

三井住友銀行 欧阿中東州本部 中東総支配人 兼 ドバイ支店長
尾崎 寛

1. 三井住友銀行の中東市場の位置付け、ドバイ支店の役割

グローバルに金融ビジネスを展開する当行において、中東は戦略的に重要な地域の一つとして位置付けられている。2014年4月からは中東地域全体を統括する中東総支配人を置き、部門横断的な業務対応が可能な体制を整えている。現在、中東地域にはドバイの他、6事務所(ドーハ、バーレーン、テヘラン、カイロ、アブダビ、イスタンブール)を開設しており、ドバイはその中でも地域を統括する機能を有している。

中東は人口増、とりわけ若年層人口が増加傾向にあることから市場として今後の成長が期待できるだけでなく、日本の成長にも資する地域であると考えている。例えば、中東は日本にとっての資源供給地であるが、それに付随する石油化学の周辺産業も拡大傾向にある。また、人口増に対して造水・発電インフラ等の需要は拡大傾向が続いており、これは日本が得意とするインフラ輸出にもつながる。

さらに中東地域においては資源収入による潤沢な外貨がソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)等で運用されており、銀行の資金・資本調達上の潜在的機会も大きい。

2. 中東における金融ビジネスの動向

当行が中東で手掛けるビジネスは、「トレードファイナンス」、「プロジェクトファイナンス」、「コーポレートファイナンス」に大別される。また、子会社の欧州三井住友銀行を通じて、「イスラム金融」の手法も用いる場合もある。

トレードファイナンスでは、貿易・金融のハブとしてのドバイの特徴を活かし、トルコを含む中東・北アフリカ、中央アジア、コーカサス地域において、金融機関、ノンバンク、石油、化学品、食品、自動車、家電等、さまざまな業種・業態の顧客との取引を行っている。ドバイ支店には12人のトレードファイナンス専任スタッフを配し、貿易金融取引、海外での新規事業展開、売掛債権保全・管理・キャッシュフロー改善等、多様なソリューションを提案している。

プロジェクトファイナンス業務は、中東では湾岸協力会議(GCC)加盟諸国を中心に、LNG 生産施設、石油精製施設、石油化学プラント等の資源・エネルギー分野の大型プロジェクトに加え、発電、造水施設を中心に下水処理施設、空港、大学(欧米の名門大学による中東地域での分校建設)等の社会インフラ案件にも幅広く取り組んでいる。これらの取り組みが評価され、業界誌『ProjectFinance International』(Thomson Reuters社)が選出する「Global Bank of the Year」を2008年、2012年、2014年と業界最多の計3 回受賞している他、業界誌『IJ Global』(Euro money 社)の2014 年の「Middle EasternBank of the Year」にも選出された。

この他、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコに対しては、住友化学と同社が推進する「ラービグプロジェクト」において、当行が財務アドバイザーとして案件のクローズに大きく貢献した他、その他の案件でも当行が主要な役割を果たしている。

コーポレートファイナンスでは、GCC諸国の国営石油会社、国営投資会社等、国営企業との取引の他、通信、金融機関など非日系・主要企業との取引を拡大させている。また、ドバイはアジア諸国とアフリカ諸国を結ぶ物流のハブとして、商社・メーカーが300社以上進出しており、日系顧客に対しても各種金融サービスを提供している。

イスラム金融については、欧州三井住友銀行のイスラム金融チームを中心にお客さまをサポート、必要に応じてイスラム金融の手法を用いている。

加えて、2014年9月には、イスラム開発銀行傘下のイスラム投資・輸出保険機関(ICIEC)と協働のための覚書を締結。ICIECの保険枠組みを活用した、国際貿易・融資の促進を図る取り組みも進めている。

3. 今後の中東における金融ビジネスへの抱負

中東地域の周辺において多様なリスクが高まっている点は確かにあるが、経済基盤、政情等が安定しているGCC 諸国を中心に、大きな市場ポテンシャルが見込まれることも事実である。特に、外貨準備高やSWF を通じた対外資産の蓄積があり、原油・天然ガスの生産コストも低い国々は、原油価格の低下に対しても耐性が強いとみられており、引き続き、インフラ関連のプロジェクトが期待できる。

また、中長期的な観点から、日本の技術を活かした支援にも関与している。例えば、2014年9月より資源エネルギー庁「平成26年度産油国石油精製技術等対策事業費補助金」を得て、東京農工大学、日本総合研究所と協働しながら、「アブダビにおける植物工場の事業性調査・人材育成プログラム」に取り組むなど、当地のニーズと日本の技術を組み合わせることにより地域経済の発展に寄与したいと考えている。

GCC諸国は、新興市場として潜在性の高いインド、そしてアフリカとの中間に位置し、ヒト、モノ、カネ、情報のハブとしてその重要性は今後ますます高まると思われる。今後も、金融サービスの提供を通じ、商社・貿易会社をはじめ、日系のお客さまのご支援をさせていただきつつ、中東・北アフリカ地域の産業多角化や、一層の発展に寄与しながら、日本の再興戦略にも合致したビジネス展開を進めていきたい。

(聞き手:広報グループ 石塚哲也)

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