富士通が取り組む中東地域における事業展開

富士通株式会社 テクニカルコンピューティング・ソリューション事業本部 本部長
山田 昌彦

はじめに

サウジアラビアは日本にとって最大の原油供給国であり、わが国のエネルギー安全保障上最も重要な国の一つである。以前のアラビア半島といえば、砂漠と石油とらくだのイメージであったが、私が数年前初めて訪問したサウジアラビアで、予想外の光景を目にし衝撃を受けた。空港は 24時間人であふれ、街中ではいくつもの高層ビルの建築が進められ、リーマン・ショックの影響がまだ色濃い他国地域と比較して産油国の力強い経済を肌で感じた。

本稿では、当社が情報通信技術(以下ICTと記載)ビジネスを中核にしていることを踏まえ、まず中東における ICT市場に触れ、当社が同国で展開しているプロジェクトのエピソードを交えながら、最後に中東におけるICTビジネスの展望等について述べたい。

中東 ICT市場の現状

中東における設備投資については、2014年以降の油価の大幅下落の影響も懸念されているものの、ワールドカップ開催等国際的なビッグイベントが予定されていることから、引き続き湾岸諸国を中心に旺盛な投資が継続されると推測されている。特に、産油国各国は政府成長戦略の中でICTを重要なドライビングセクターと位置付けている。中東(北アフリカ含む)におけるICT市場規模については、2013年の681億ドルから2018年には819億ドルに上昇すると推測されており、現状では、通信インフラに対する投資比率が高いものの、今後はソフトウェア・サービスに対する投資が徐々に高まっていくと予想されることから、ソリューションの展開が期待できる。

中東における日本企業のプレゼンス

中東においてはその歴史的背景から、欧米系の企業やコンサルタントが現地政府機関も含め、幅を利かせており、主に欧米のスタンダードが志向されがちであるが、近年は中国・韓国・インド系企業の参入も顕著になってきている。

日系企業のプレゼンスは、自動車では非常に高いが、ICT分野においては決して高いとはいえず、欧米有力ベンダーの後塵を拝している状況である。一般的に日本の技術に対する期待は高いが、日本企業のアピール不足が影響してか、現地のセミナーでも日本がどのような技術やソリューションを提供できるのか知らないという声もよく聞かれる。

このように、日本企業にとって好条件がそろっている環境とはいえないものの、今後のアプローチや事業分野次第では有望な市場といえる。

中東における富士通

富士通は現在100ヵ国以上で事業を展開しており、中東地域では1967年以来事業を展開してきた。その範囲はトルコ、UAE、カタール、サウジアラビア等、計15ヵ国以上に及び回線事業、静脈認証装置、サーバおよびパッケージソフトウェアの導入を主要事業としている。今後はハードからソリューションに需要がシフトするとされており、当社もPoC(Proof of Concept)を通したソリューション提案を企画・実施中である。

サウジアラビアでのプロジェクト

当社がサウジアラビア工業用地公団(MODON)と関わることになったのは、ある偶然がきっかけだった。2010年11月、エジプト大使館で開かれたチャリティーバザーを訪れた当社の若手社員が、会場でサウジのアブドゥルアジーズ・トルキスターニ駐日大使と会ったことをきっかけに、後日、来日中であったMODONのタウフィーク・アルラービア総裁(現商工大臣)に、あらためて当社の技術についてプレゼンする機会を得た。当社が行った幾つかの提案のうち、環境配慮型の都市づくりに関するアイデアが、同総裁の心をつかんだ。

その後、環境分野の専門家として川崎市、大学教授に加え、同分野で高い技術力を持つ富士電機㈱とメタウォーター(株)、環境管理に関する優れた知見を有する㈱みずほ銀行が加わり、コンソーシアムを結成した。また、それと前後し、2011年10月、経済産業省の「海外インフラ輸出促進調査等委託事業」にも採択され、環境測定等を含めた現地調査を経て、本格的な提案活動を実施した。2013年3月、MODONと当社間で環境管理プロジェクトに関する随意契約を締結、8ヵ月間のシステム構築と 1年間の運用・保守期間がスタートした。

国際入札が常である同国の政府商談において随意契約を獲得できたのは、1.専門家を巻き込んだ産官学連携であったこと、2.構築・運用等全てを包含したパッケージ・ソリューション提案であったことが大きかったと思われる。

また、当社は2014年、同国最大の大学であるキング・アブドゥルアジーズ大学(KAU)にハイパフォーマンス・コンピューティング・システムの導入も行っている。

環境管理システム、ハイパフォーマンス・コンピューティング・システムいずれも、日本の技術・品質・ノウハウに高い期待を寄せているとともに、サウジアラビア政府として、人材育成・技術移転を重視していることもビジネス獲得上、重要な要素である。

今後の展望

日本企業がサウジアラビアでビジネスを展開するに当たってはさまざまな課題がある。例えば、上流工程からの案件発掘、欧米企業との提案差別化、現地体制の強化等が挙げられる。これらの課題については、歴史的背景または地理的要因もあり、簡単に解決できるものではない。

しかし、何もない砂漠に突然街が出現するようなダイナミズムがある国というのは、世界を眺めても決して多くはなく、そうした新たな国造り、街づくりにICTで貢献することはビジネスとして大きな可能性を秘めている。また、同国がアラブ地域唯一のG20加盟国であることにも鑑み、従来のように買い手としてではなく、イノベーションのインキュベーションセンター、投資家としてなど、事業パートナーとしての付き合いを模索することも十分あり得るのではないだろうか。当社としても現在日本政府が進めているインフラ輸出施策と連携した産官学のアプローチを活用するとともに、当社単独ではなく、国内外のパートナーとの協業を視野に引き続き事業展開を行い、中東諸国のICT分野におけるパートナーとして貢献していきたい。

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