中東市場における長瀬産業のビジネス展望

長瀬産業株式会社 ドバイ支店 支店長
山口 雅義

1. 長瀬産業ドバイ支店(現地名:ナガセミドルイースト)の中東市場における役割


支店があるドバイエアポートフリーゾーン

ナガセミドルイーストはナガセグループで唯一の中東オフィスとして、ドバイを拠点に中東・北アフリカ地域において活動を行っています。オフィスはドバイ国際空港に隣接したドバイエアポートフリーゾーンにあり、国籍も母国語も異なるスタッフが一致団結して中東における事業拡大に取り組んでいます。

ナガセミドルイーストは 2000年にナガセシンガポールの駐在員事務所として設立されました。当時は東南アジア市場で主要ビジネスであった化学品や合成樹脂の販売エリア拡大、販路の強化を主な目的として活動をスタートしました。豊富な天然資源を背景に成長する湾岸諸国の需要に対応すべく、拡販活動を進めてまいりました。

2000年代に入るとサウジアラビアをはじめとする産油国では、エネルギーとしての原油・天然ガス輸出に加えて、石油化学誘導品生産計画が具体化し、製造・販売が開始されました。現地の取引先からは石油化学製品製造に必要な原料、添加剤、充填剤などの特殊化学品を安定的に調達、供給することを求められるようになりました。これまでに日本、東南アジア、中国等の市場で培ったわれわれのノウハウを活用し、現地のパートナー企業との協業によって独自の受発注、在庫管理、デリバリースキームを提案し採用されました。

中東市場におけるビジネスが拡大し、本社の事業推進方針との連携がますます重要になったこともあり、2009年に長瀬産業ドバイ支店に形態を変更しました。以降、現在に至るまでナガセグループの中東・北アフリカ市場に対するビジネス展開の拠点として活動を続けています。

2. 中東市場における化学品ビジネス動向

湾岸各国における石油化学製品の計画が具体化され、製造が開始されると中東地域は石油化学製品、特にエチレン誘導品の輸出基地としての位置付けがますます重要となってきました。圧倒的に安価な原料と大規模な生産能力が市場における製品の競争力を生み出しています。ナガセミドルイーストが主に取り扱う製品は汎用石油化学製品に比べて流通数量が比較的少ない樹脂添加剤、安定剤の類ではありますが、連続かつ安定操業が前提となっている大規模設備では欠かすことのできない重要な原料です。きめ細かな情報収集活動に加えて、独自の WEB管理システムによる物流状況の見える化、現地パートナーとの協業による在庫、デリバリー管理などにより取引先の安定操業に一役買っているものと思っております。

近年はいわゆる「シェール革命」によって米国の石油化学産業が再び活気づき、生産拠点としての位置付けを取り戻しつつありますが、原油価格動向による採算性不安や環境問題も指摘されていることから、引き続き中東各国の石油化学生産基地としての位置付けは重要なものであり続けると考えます。

今後も各種誘導品モノマー、ポリマー計画が続々とスタートし、輸出品目も増えてまいります。アジア全域に広がるナガセグループネットワーク、セールスチャネルを有効活用することで中東産石油化学製品の拡販活動への取り組みを開始しております。

また、2020年のドバイ EXPOや 2022年のカタールサッカーワールドカップの開催が決まり、これら大規模イベントを控えてインフラ整備プロジェクトが活況を呈しています。中東においては訪問する各都市において空港、鉄道、道路、オフィスビル、ホテル、ショッピングモールなどの工事現場でクレーンが林立する光景を目にします。こういったインフラ整備事業に関わる塗料、建築材料の原料需要も拡大してきており、製品によっては耐候、耐熱、難燃性能などの機能付与を求める傾向も出てきております。これまでに技術・情報商社として身に付けた知識と経験を活かし、新しいニーズに応えることのできる商材を投入し続けたいと考えております。

3. 中東市場における今後の事業展開


商談会で自社製品を紹介する現地スタッフ

長瀬産業は染料の取り扱いから始まり、化学品、合成樹脂、電子関連製品、ライフ・ヘルスケアと事業領域を拡大してきました。この長い歴史を経て多くのナガセグループの製品を取り扱っております。ナガセミドルイーストでは中東・北アフリカ地域を成長市場として捉え、ナガセグループ製品、技術の開発拠点としての活動を行っております。

ここで、現在進めております開発活動の一例をご紹介します。

まずは、(株)林原(当社100%子会社)の機能性糖質「トレハ®」のプロモーション活動です。トレハ®は食品に対する食感改善、鮮度保持などの機能付与効果を持ち、各種加工食品メーカー、ベーカリーショップやホテルチェーンなど商談会で自社製品を紹介する現地スタッフ
に対するプロモーション活動を行っています。中東市場で食品分野での商材開発を進める場合、味や食感の好みなど現地の要望に対応することが重要になります。さらに食材に関わるものを扱うことになりますので、ハラル認証への対応も実施しています。現在、トレハ®は日本、欧米、東南アジアでの採用が先行していますが、中東市場でも受け入れられるものと考えております。

ナガセケムテックス(株)(当社 100%子会社)では、自社で製造するエポキシ誘導品「デナコール」や導電性高分子「デナトロン」など新素材の紹介を主に塗料製造・フィルム加工業界へ行い、中東市場における新技術、新用途開発のサポートを行っております。

また近年、糖尿病など生活習慣病の増加が問題視され始めており、検査キットなど予防医療に関わる材料の取り扱いについても調査を開始しました。

さらに、(株)キャプテックス(当社 100%子会社)のリチウムイオン電池技術を活用した電線不要の照明設備を現地のパートナーとの協業で普及させることによって、省エネルギーに貢献するとともに中東・アフリカの無電化地域を明るく照らすという夢を描いた活動も始めています。

古今東西の文化、歴史、伝統などあらゆるものが融合して新しい活気を生み出している中東市場において、ナガセグループの技術を現地の風土、習慣、ニーズに応用することによって、これからも中東社会における市場発展、生活向上に貢献する活動を進めてまいります。

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