商社、日系機関の現地駐在代表者が語る中東市場の魅力と展望

丸紅株式会社 執行役員 中東・アフリカ支配人藏元 正隆
双日株式会社 執行役員 欧・阿・中東・ロシアNIS総支配人補佐(アフリカ・中東担当)篠原 昌司
豊田通商株式会社 ドバイ事務所長 兼 トーメンイラン社長鈴木 一巳
住友商事株式会社 執行役員 中東支配人 中東住友商事会社 社長藤浦 吉広
三井物産株式会社 執行役員 欧州・中東・アフリカ副本部長 兼 中東三井物産㈱ 社長藤谷 泰之
伊藤忠商事株式会社 中近東総支配人三橋 優憲
(独法)日本貿易振興機構 ドバイ事務所 所長渡邊 全佳
三菱商事株式会社 常務執行役員 中東・中央アジア統括吉川 惠章(司会)

1. 日本の対中東貿易・投資動向、同地域の政治・治安情勢

(1)日本の対中東貿易・投資動向


三菱商事株式会社
常務執行役員中東・中央アジア統括
吉川 惠章氏

吉川(司会)
中東地域は世界の政治経済ニュースのタネに事欠かない。紛争の続く地域がある一方で、人口増加、経済発展も顕著で、日本にとってエネルギー資源の供給元としてのみならず、インフラ輸出や消費マーケットとしても大きな潜在性を持っている。その重要性に比べると、一般的にまだこの地域のことが正確に知られていないと、われわれ現場を預かる者は日々感じているのではないか。

本日は最近の中東の政治経済動向、原油市況と中東産油国の動向、今後のビジネス環境や留意点、日本と中東との関係強化に向けた支援のあり方など、いろいろな観点からお話しをうかがい、それを本誌読者の皆さまに発信したい。まずは、現在の中東地域をめぐる全体像をつかむため、JETROの渡邊さんから「日本の対中東貿易・投資動向」、伊藤忠商事の三橋さんから「中東地域の政治・治安情勢」についてコメントいただきたい。

渡邊(JETRO)
中東地域は、かつてないほど政治的にも経済的にも注目されている。まず安倍総理は就任以来、すでに5回この地域を訪れている。2013年4-5月にはサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコを訪問し、その後、8月にはクウェート、バーレーン、カタール3ヵ国を訪問、さらに10月に再びトルコを訪問している。2014年1月にはオマーンも訪問し、2015年1月にはエジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナを訪問している。その目的は、エネルギーの安定供給やインフラプロジェクト分野への参入などの重要テーマだけでなく、医療、食品、教育等の新しい分野で官民トップセールスによる売り込みを図っている。総理がこちらに来られる時は、商社各社にもご協力を頂き、必ず各社トップの方々に来訪いただいている。

まずこの地域のポテンシャルを幾つか指標で示してみたい。人口動態を見ると、2010年時点で、すでに5億人を超えている。地元の人は「インドやパキスタンを含め、中東は20億人の人口を抱えている」と言うが、特筆すべきは、人口増加率である。2005-10年の5年間で、46%増加している。同期間のASEANの人口増加率は23.9%、インドでは24.2%であるが、中東はこれを大きく超えている。その人口構成を見ると、25歳未満が過半数を超えており、非常に若い人であふれ、理想的な人口構成を持っていることが魅力の一つである。就労人口のピークが2030年ごろと見込まれており、かなり長いスパンで見ても潜在的な消費力が見込める地域ではないかとみている。

GDPの規模を見ると、2000年以降、この地域は10年間で約3倍の伸びを示している。総額3兆5,000億ドルといわれており、2015年になると4兆6,000億ドルに達するとの見方がIMFから発表されている。この規模はインドやASEANと比較してみると、インドの2倍、ASEANの1.7倍に相当し、この地域の成長性も見込まれると考えている。

湾岸協力会議(GCC)諸国と日本との貿易総額は、2014年は前年比▲3.82%の1,648億ドルとなっている。その主な要因は、油価下落によるもので、前年度比で▲5.45%である。半面、日本からGCC諸国への輸出は非常に好調で、2014年には前年比11.18%増となっている。ただ、金額的には249億ドルしかない。また、輸入の中で原油、エネルギー関係は非常に落ち込んでいるが、アルミニウムと銅については輸入が増加している。

UAEとの貿易関係を見ると、2014年の貿易総額は前年比0.54%増、全体で513億ドルである。日本からの輸出は前年比14%増で、自動車が一番大きく、その他は機械、鉄鋼などが中心である。従来の分野に加えて、食品やサービス関連分野の伸びが目立っている。一方、輸入は前年比▲1.75%で、これは油価下落の影響が大きいわけであるが、数量で見ると前年度とほぼ同じで0.63%増となっている。数字で見ると油価や為替の影響というのはどうしても出てくるが、依然としてUAEのパートナーとしての本質的な重要度は全く変わらない。

JETROのドバイ事務所への年間相談件数は1,400件を超えているが、全世界に70数ヵ所ある海外事務所の中で最も多い数字である。その相談内容は、ほとんどが中東地域への輸出、中東地域への進出に関連するものであるが、従来の機械、自動車部品の他に、いわゆる小売り、美容関係等、サービス業の相談が徐々に増えている。


(独法)日本貿易振興機構
ドバイ事務所 所長
渡邊 全佳氏


中東地域には約 600社の日本企業が進出しているといわれるが、そのうちドバイには約 300社が進出している。中東地域が新興市場であるということに加え、ドバイは南アジア、中央アジア、アフリカまでを含めて、その中心に位置するという地勢学的な優位性を持っていることが特徴として挙げられる。イスラム教徒のビジネスにも注目が集まっている。イスラム教徒の人口は2030年には22億人に達するといわれている。それは全世界の約26%に相当するが、この22億人を対象としたハラル食品、イスラム金融も含め、ドバイが「イスラム・ビジネス」のハブになるということも注目に値する。

また、ドバイは2020年の万国博覧会(Expo)開催を目指して、観光客を2,000万人誘致する目標を掲げている。これは日本の目標と同じであるが、その関連プロジェクトの開発が続いており、ビジネスチャンスはますます大きくなっていくのではないかとみている。

吉川(司会) 社内外の方々に地域の規模感を説明する際、中東地域全体は、GDPも人口も、ASEAN10ヵ国の8割から9割程度の規模になる。現在の成長率を維持する場合、2020年ごろにはASEAN10ヵ国とほぼ同じ経済規模、市場規模を抱えることになると話している。先ほどお話しのあったイスラムという視点で考えると、2030年には世界人口の4人に1人がイスラム教徒になるとの予測もあり、世界の価値観は「欧米」「中華」「イスラム」という三つの大きな潮流が基軸になっていくのではないかと個人的に思っている。

次に、昨今、政治経済動向の中の特に政治面でいろいろな事件も発生しているが、中東は政治・宗教を抜きにして語ることが難しい地域でもある。経済面は後で議論するとして、伊藤忠商事の三橋さんから、最近の中東地域の政治・治安情勢を中心にコメントをお願いしたい。

⑵ 中東地域の政治・治安情勢


伊藤忠商事株式会社 中近東総支配人
三橋 優憲氏

三橋(伊藤忠商事)
2014年6月以降、イラク、シリアで勢力を拡大している過激派組織「イスラム国」(以下 IS)の動向については、米国をはじめとする有志連合の空爆によって、戦闘員はすでに6,000人程度死亡し(現在は8,500人以上)、その勢力は弱体化しているともいわれている。しかし、一方で毎月1,000人近くの新規の戦闘員が参加しているともいわれ、2万5,000人程度といわれる戦闘員が、減少しているのかどうか、分からない状況にある。

サウジアラビアについては、最近、サルマン新国王が79歳で即位した。依然として高齢ではあるが、王位継承という意味では、次に70歳のムクリン皇太子、それから第3世代で55歳のモハメッド・ナエフ副皇太子が決まっていることから、国内体制に大きな問題は生じないと思われる。しかし、対外的にはこれまでの米国との蜜月関係がずいぶん変化してきている。

エジプトについては、シシ大統領の改革推進を受けて、サウジアラビア、UAE、クウェート、これらのGCC諸国が全面的にバックアップをしている。2013年11月以降、120億ドル以上の資金供与も行っているということで、エジプトに関してはムルシ前大統領のムスリム同胞団や、シナイ半島を拠点とするイスラム過激派、この辺をどういうふうに押さえていくかが大きな課題なのではないかとみている。

イランについては、核交渉が、過去2回、期限が延期されており、これ以上の延期はないのではないかと考えている。米国には共和党中心の議会の反対や、イランにも既存の権益を守ろうとする、制裁解除に反対する勢力がいることから、話は簡単には進まないと思うが、この交渉が決裂した場合は、ローハニ大統領の勢力が相当弱体化していくのではないか。また、再び旧革命防衛隊等の保守派が台頭してくることも予想される。

トルコについては、2023年の建国100周年を目指して経済大国に変身しようとしている。エルドアン大統領になって全方位外交を行っているが、トルコはもともとエジプトのムルシ前大統領のムスリム同胞団をどちらかというと支援をしていたという関係で、エジプトとの関係は芳しくない。

「IS」の勢力拡大に沈黙を続けているイスラエルであるが、こちらはパレスチナ和平の推進をめぐって米国との関係が相当悪化している。イスラエルは米国とイランが核交渉推進に向けて前進していることに相当強い懸念を持っている。

最後に他の湾岸諸国については、UAEでは皇太子へのスムーズな権限委譲が行われており、政治と資金についてはアブダビ、経済についてはドバイという形ですみ分けができている。アブダビ皇太子とドバイ首長との関係も表面上は良好なのではないかと考えている。カタールもムスリム同胞団関連で一時悪化していたGCC諸国との関係は、表面上は修復した形になっているのではないか。

以上を簡単にまとめると、当面の中東における共通の課題は「IS」の撃退というところであるが、中長期的にはやはり中東の安定にはエジプト、イラン、トルコ、この三つの大国の安定がどうしても必要ではないかと考えている。

次に治安情勢については、今回のような人質事件が発生すると、日本では「中東全体が非常に危険である」として、当社の取引先のお客さまも、当初ドバイに出張に来る予定を取りやめるというケースが幾つか見られた。もちろん中東の一部には非常に危険な地域はあるものの、ドバイ、アブダビ、ドーハ、リヤド、そしてテヘランも含め、これらの都市の治安情勢は以前とあまり変わっていない。日常生活もビジネスも共に平常通り行われている。

とはいえ、エジプト、ヨルダン、トルコなどで、イスラム過激派の、日本人を含めた外国人、あるいは外国企業をターゲットとしたテロの脅迫声明といったものが出ていることから、安全確保に向けては十分注意が必要であるということは当然である。しかし、中東のみならず、今や全世界的にテロの脅威は拡大している。最近では「一匹おおかみ型テロ」と呼ばれる、大きな組織に属さない形でのテロが頻発し、自分の身は自分で守るということを常に念頭に置いて行動すべきであろう。

藏元(丸紅)
当社関係の取引先でもGCC全域を危険と判断し、出張やイベントを取りやめたケースがある。今の状況で100%安全だといえないのが、なかなか厳しいところでもあるが、客観的な状況を発信して、正しく状況を理解していただいた上で出張いただくということが必要ではないかと思っている。

三橋(伊藤忠商事)
こちらに出張するかどうかの判断は、重要性の度合いもあり、「安全だから必ず来てください」とは言いにくい。ただ、「全ての出張が難しい状況」となってしまうと、われわれとしてもつらいところであり、そうならないような努力はしていきたい。

藤浦(住友商事)
危険な地域への出張には必要な対策をしっかりと講じた上で実施していることもあり、事故は発生していない。出張可否の慎重な判断、出張時の十分な対策は今後とも油断なく継続することが重要ながら、取引先企業にここらの実態をよく説明することが大事である。

篠原(双日)
危機管理体制をきちんとやらないといけないという意味では、東京と現地にいるわれわれの認識のギャップを感じることはある。最近、日本人2人が犠牲になる事件も発生したが、2014年には「IS」に対する米軍中心の空爆が行われ、その時点で「IS」側は、「イスラム国を認めない者、国、あるいはその同盟国は全て敵である」と言明していた。従って、今回のような事件以前からこちらに刃を向けていたわけで、その時点から「有事」と認識し、危機管理体制を強化していた。

藤谷(三井物産)
安全対策については万が一のこともあってはいけないということで、二重、三重の防備を考えているが、各企業の安全対策に掛かるコストはかなり上昇している。しかし、原油の8割を日本は中東に頼らざるを得ないため、ここで仕事をやらないわけにはいかない。官民共に安全対策の水準を上げていくしかない。

藏元(丸紅)
危機管理水準を上げるとともに、現地の実情を正確に説明し、理解いただいた上で、正しい判断をしてもらうということではないか。


豊田通商株式会社ドバイ事務所長 兼
トーメンイラン社長
鈴木 一巳氏

鈴木(豊田通商)
第1次中東戦争から始まって、イラン革命、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、そして記憶に新しいアラブの春と、狭義での中東のみならずアフリカも含めた地域で大きな事象は継続して発生しており、おそらく今後も発生するであろう。宿命論的ではあるが、中東では、「どこかで必ず何かが起きる」という前提で、それを所与として受け止め、意思決定をしていく必要がある。

篠原(双日)
万全の体制で危機管理を施して、その上で仕事は仕事としてわれわれはやはり中東の皆さんのご期待に応えなければならない。そういう意味では、われわれが言っているのは重要性と緊急性を厳選する必要があるということ。有事対応だから何もやらない、何もやれないというわけにはいかない。

渡邊(JETRO)
現地側からは正しい情報を正しく提供することが重要で、日本ではその情報を的確に伝えることが重要である。日本では、中東すなわち危険地帯と捉えていて、どこでも危険というような報道がされているのではないかと懸念している。ドバイでは、1月終わりにゴルフトーナメントの「デザートクラシック」が行われ、欧米諸国のトッププロが参加して、数多くの観客が集まった。また、2月には「ガルフード」という世界最大規模の食品見本市も開催され、過去最高の来場者数を記録している。それでも出張やイベントが中止となるのは、「中東=危険」というような偏った情報によって判断されているのではないかと憂慮している。

吉川(司会)
シリアでの日本人人質事件の時には、連日、アンマンの日本大使館が映像として流され、「ヨルダンは非常に危険なところ」というイメージがつくられてしまった。今回かなりの日本メディアが集まったが、必ずしも中東事情に詳しくない人が多かったようだ。とにかく「危ない情報を集めなければ」ということで、ヨルダンに在勤している日本人に連日電話攻勢があったと聞いている。「われわれから一言でも危険であると捉えられる発言をしてしまうと、それを拡大解釈して報道された例もあり、軽々に取材に応じられない」という話も現地に駐在している方々から聞いた。

藤浦(住友商事)
私も中東に3年滞在しているから中東の実情を理解できるが、現地から本社に同じ情報を発信しても、受け止める人により理解が大きく異なる。中東との接点が多い方は非常に現地の状況を理解いただけるが、そうでない方は理解しづらそうである。そういう意味では、地道に中東に来ていただくということから始めることも大事であると思う。

渡邊(JETRO)
ドバイは、殺人、強盗などの重要犯罪が年間10万人に対して60.1件(2012年)といわれているが、これは日本と同じ程度治安状況が良いということになる。こうした話もドバイの治安は落ち着いているという情報の一つとして大事ではないか。

2. 中東地域におけるビジネス環境の課題と展望

(1)原油市況と中東産油国経済への影響

吉川(司会)
続いて「中東地域におけるビジネス環境の課題と展望」について、三井物産の藤谷さんから「原油市況と中東産油国経済への影響」を中心にコメントを頂きたい。


三井物産株式会社 執行役員
欧州・中東・アフリカ副本部長 兼
中東三井物産㈱社長
藤谷 泰之氏

藤谷(三井物産)
湾岸産油国はこれまでにも、1980年代後半の原油低価格時代や、2008年、2009年のリーマン・ショック時の油価急落など、同種の局面を乗り越えてきた経緯はあるが、GCC全体の人口がこの 35年で 1,400万人から 5,090万人と 3.6倍に増え、「アラブの春」前後の 2010-14年にかけて、国家歳出は 1.5倍に膨れ上がっている。米国のシェールオイル増産が続く状況での原油安はこれまでにない難局と言っても言い過ぎでない。

原油価格下落の1次的影響についてはIMFが試算を発表しており、年平均原油価格が1バレル 99.4ドルから 56.7ドルまで下落した場合、湾岸産油国からの輸出は合計約3,000億ドル減少するとしている。石油輸入国にはその分の所得移転効果がもたらされることになるが、湾岸産油国にとっては、名目GDPの21%に相当する資金流入が消失することを意味しており影響は大きい。これを主な理由としてIMFは、1月湾岸産油国の2015年実質GDP成長率見通しを2014年10月の予測値から1.0ポイント引き下げ、前年比3.4%成長に下方修正した。従って、従来の2013年、2014年を底にして成長は上向くとされていた中東産油国経済は、逆に経済成長が減速する公算が強まった格好となっている。

ただ、より注目すべきは財政収支、経常収支の悪化の方である。湾岸産油国では、いずれも国家歳入全体に占める石油関連収入の割合が高い上、政府が石油利権を掌握しているため、原油安は政府の歳入減に直結する。

他方、いずれの政府も歳出削減は行わず、歳出拡大路線を継続する構えを見せている。従って、2015年の財政収支は対GDP比6.3%の大幅赤字に転落する見込みである。経常黒字も輸出が大きく減少することによって、1.6%に急降下する。結果的に湾岸産油国の財政収支、経常収支はいずれもここ10年間で最も低い水準にまで2014年は悪化する予想である。

2次的影響の一つ目として挙げられるのは、耐久性の低い国では政策転換色が強まるということである。湾岸産油国は2015年原油価格下落の影響から、892億ドルの財政赤字を計上する見込みであるが、どの国もこれまで蓄積した海外資産を取り崩すなどして赤字分を補塡する方針を示している。各国の耐久性の高さは、財政赤字に対してどの程度のストック、公的対外資産を有しているかで推測することができる。このデータに基づくと、クウェート、カタール、UAE、サウジアラビア、バーレーン、オマーンの順番で耐久性が高い。一方、サウジアラビアは、2015年に見込まれている赤字水準をこのまま計上し続けると、この先11年程度で資金不足に陥る。オマーンとバーレーンに至っては、資産の余力は4年足らずとなっており、状況はより深刻である。しかも、オマーンでは44年間にわたって国を統治してきたスルタン・カブースが現在健康問題を抱えており、不安定化リスクが重なる。オマーン、バーレーン、サウジアラビアにとっては省エネ産業多角化、公共料金・行政サービス料の引き上げ、さらに税制改革は長期的な目標ではなく、短中期的に取り組まなくてはならない課題となる。実際、オマーン、UAE等では、エネルギー価格の値上げをすでに2015年から発表している。

2次的影響の二つ目は、全体的な新規対外投資が縮小する点が挙げられる。湾岸産油国はここ15年間、歴史的な原油高を背景に、毎年約1,750億ドルの経常黒字を稼ぎ出し、その巨額マネーを、SWFを通じて世界の金融市場に還流させてきた。ひとくくりにSWFといっても、運用方針や帰属性は多種多様である上、総じて情報開示レベルが低いため、全体像を正確につかむのは困難であるが、四つの代表的なSWF、アブダビ投資庁(ADIA)、サウジ通貨庁(SAMA)、クウェート投資庁(KIA)、カタール投資庁(QIA)だけでも、その資産規模は2.3兆ドルである。このSWFマネーが、最近の油価下落によって悪化する国家財政を補塡するために逆流するのではないかという警戒感が市場関係者の間に漂っているが、世界経済に大きな影響を及ぼす逆流現象は短期的にはないとみている。

このように原油価格下落の影響は湾岸産油国の中でも国によって大きく異なる。これらの国が国内制度を本格的に改革する局面に入った場合、国民の不満が広がり、政情が不安定化する可能性は否定できない。当該地域に展開する企業は、このような点を念頭に置いた上で、関連する動向を注視しつつビジネスを行っていく必要がある。

三橋(伊藤忠商事)
やはり1バレル40ドル程度の水準になると、補助金の削減、社会不安が懸念されてくる。1バレル70-80ドル辺りが、産油国にとっても、消費国にとっても良いあんばいではないかと思う。

藤谷(三井物産)
日本は原油輸入国であるから、油価が下がることで、これをプラスとみている企業が多いが、長期安定供給をしてもらう必要がある日本としては、やはり生産コストをカバーした適正価格で原油を提供していただくことも重要。


双日株式会社 執行役員
欧・阿・中東・ロシアNIS総支配人補佐(アフリカ・中東担当)
篠原 昌司氏

篠原(双日)
問題は財政均衡する原油価格は幾らなのかということ。先ほどの湾岸6ヵ国の中ではサウジアラビアを一番注視しなければならないが、財政均衡のために必要な原油価格は90-100ドルと理解している。GCCの2015年度財政赤字総額892億ドルの内、400億ドルがサウジアラビアの財政赤字であるが、現在の油価が続けば、その蓄財が11年、あるいは 9年で枯渇するという見通しも聞く。やはり生産コストだけでなく財政均衡する水準までいかに原油価格が上がるかというところを、しっかり見ていかないといけない。

藤谷(三井物産)
確かにIMFの発表では、サウジアラビアの財政均衡に必要な油価は1バレル90ドル、オマーンでは100ドル、バーレーンでは132ドル、イランでは140ドルとなる。ここまでの水準に原油価格が回復するのかどうか分からないが、財政均衡油価がこれだけ高いのは補助金等を自国に過剰に与えていることの裏返しである。このような政策が未来永えい劫ごう続かないことだけははっきりしているため、市場原理と政治の安定性がどこかで収束していくのではないかと思う。

篠原(双日)
ポイントは藤谷さんのご説明にあった、「アラブの春以前と比べて現在の国家歳出は1.5倍になっている」というところ。給料が上がっていく時代は幸福感があるが、給料がそれほど上がらず、経済成長も鈍化すると心理的にもきつい。こうした事態がGCCにおいて長期化したときには大きな懸念材料となる。ただ、サウジアラビアの状況を考慮しても、原油価格低迷が中長期化するとは考えにくい。

渡邊(JETRO)
UAEのマンスーリ経済大臣の話を聞いたときに気になった点がある。油価がポリティカルゲームのように扱われており、国内財政よりも油価をどのように使ってポリティカル・バランスをコントロールしていくかという意向が強く働いていることである。UAEはGDPのうち原油が占める割合は3割程度であるが、ロシアではGDPの7割を原油が占めているため、油価下落が経済に及ぼす影響が非常に大きい。こうした背景も踏まえながら、油価の動向を見ないと情勢を見誤る部分が出てくるのではないか。それほど油価は全世界に及ぼす影響が強い。


住友商事株式会社
執行役員 中東支配人
中東住友商事会社 社長
藤浦 吉広氏

藤浦(住友商事)
油価の変動は避けられない。あってほしい油価レベルはあるものの、そこでの安定を期待しては誤るところもあるのではないか。変動を前提として、補助金や歳出の削減と、経済の成長をバランスよく運営することを中東各国には期待したい。

鈴木(豊田通商)
油価はこの20年、高低差でバレル当たり100ドル余のレベルで大きく変動してきた。中東産油国は国家歳入の大宗を原油に依存してきただけに、オイルマネーをよりどころとした国外での分散投資や、消費国市場への参入等、試行錯誤の中で確実に知恵を付けてきていると思う。確かに、昨今の原油価格の低迷は楽観を許さず、戦略を見直さざるを得ない厳しい局面もあろうが、補助金の削減等、緊縮財政策の取り組みなども、過去の教訓からしっかりできると思う。

三橋(伊藤忠商事)
石油開発では原油を探鉱してから、開発、生産するプロセスが、約35年ぐらいかかる。あまり油価が低いと投資が減少し、5年後ぐらいに影響が表れる。一方、需要の方は、毎年日量100万バレル程度の伸びを見せている。今、世界全体で9,300万バレル程度の需要があると思うが、余剰分は日量150万-200万バレルといわれており、需給は12年内にはバランスするものと思われる。油価が低いために開発が停滞すると、5年後、10年後に価格急騰という逆のインパクトが表れるのではないか。そういう意味では、ある程度の生産水準を維持した方が世界全体にとって良い面もある。

吉川(司会)
原油価格については、油価が下がり始めた2014年暮れに専門家も含めいろいろな人に意見を聞いたが、その後の展開を予想した人は、私も含めてほとんどいなかった。やはり回復するのかどうか、どこまで回復するのか、回復までにどの程度の時間がかかるのか、等の点が、油価下落のブローがどれくらい効いてくるのかということに関わってくると思う。すぐに回復することはないとしても、それが 1年先なのか、3年先なのかということになるのではないか。

(2)中東地域におけるビジネス環境、成長が期待できる産業分野、ビジネスを行う際の留意点

吉川(司会)
それでは次に、中東地域でビジネスを行う際の留意点について、これから中東に出てこようと思っておられる企業の参考になるような点も含めて、住友商事の藤浦さんからコメントをお願いしたい。

藤浦(住友商事)
議論のきっかけとして、ビジネスに関する中東の特性を列挙してみたい。中東といえば石油だが、湾岸中心に石油ガスモノカルチャー経済の国家が存在する一方、工業の中進国と位置付けられる国々もあり、中東には多様性がある。人口増、特に若年層の増加は内需の拡大につながるが、一方で失業問題への対策も重要である。自国民の雇用機会創出として、サウジアラビアにおいては「サウダイゼーション」、オマーンにおいては「オマニゼーション」が進められ、われわれが事業を営むに当たっても、現実の問題としてこういう「ナショナリゼーション」を避けて通れない。

一方、法制面を見ると、法整備が必ずしも十分でないところがあり、通常の業務では大きな支障は感じないが、諸手続きに時間がかかることがある。また、日本の工業化、人材教育を高く評価する親日国が多い一方、経済的には、イラクがODA対象国から卒業し、中東のODA対象国というのが少なくなってきている。そして国有系企業が多くの中東諸国において経済を引っ張っているという側面もある。

こうしたビジネス環境を踏まえて成長が期待される産業分野としては、やはり石油・ガス部門は圧倒的に開発コストが低く、大きな強みのある分野である。当然電力コストも安く、電力消費型の産業誘致に積極的。また、これは石油・ガスに立脚する化学プラントも含まれるが、付加価値を生み出すことと雇用拡大を目的とする産業振興策が進められており、消費地から生産地への転換を図っている。引き続き旺盛なインフラ需要と人口増・雇用増を背景とする内需全体の拡大は中東の最大の魅力である。

ビジネスを行う上での留意点としては、1点目は油価の動向であるが、2点目として、先ほど挙げた産業振興策の長期的な信頼性を挙げたい。長期で市場の成長性を見ながら仕込んでいくビジネス分野になると、国ごとの政策の信頼性はもちろん、国家としての安定性から国家収入まで含め、われわれ投資国側がどこまで信頼を持てるかが大事になる。3点目は中国、韓国とのコンペティションで、日本も頑張らないといけない状況にある。4点目は、これは歴史的な産物でもあるが、欧州を中心とする規格が結構多い。こうした規格面で欧州に先行されているが故に、日本には余分なコストが掛かってしまうことにも留意が必要であろう。

藤谷(三井物産)
中東は、安全対策コストを掛けてでも世界で一番安いエネルギーがあり、かつ世界一の埋蔵量がある。例えばオマーンの輸出相手国では中国がすでに1位で、日本は2位。カタールの輸入相手国も、伝統的に武器輸入があるため米国が 1位であるが、中国が 2位。カタールの輸出相手国も1位は日本であるが、中国が 4位まで上がってきている。UAEの輸入相手国も中国が 2位に上がってきている。サウジアラビアの輸入相手国でも中国が 2位。サウジアラビアの輸出相手国は中国が 3位となっており、日本との関係を覆すほど中国と中東諸国との関係が近づいている。

2013年7月に中国の原油輸入量が米国を抜いて世界一となったが、資源が乏しい日本として、この地域に日本企業が持っている原油、あるいはガス権益の期限延長問題が出てくる。韓国、中国の「国家資本主義」の言葉通り、両国の国家元首はほとんどの中東を訪問している。安倍政権になってから日本もようやくトップ外交が進んでいるが、引き続き政府の強い民間支援をお願いしたいところである。

三橋(伊藤忠商事)
最近、中国、韓国勢にプラント案件を取られることが増えているが、一方で、中東の人たちが最近気付き始めたのは、中国や韓国のプラントは確かに安いけれども、納期は遅れる、完成したが2-3年でいろいろな不具合が生じる。一方、日本のエンジニアリング会社は、納期は守るし、設備の不具合も生じない。「長い目で見れば日本の仕事は決して割高ではない」ということを中東の人々にアピールしている。われわれの諸先輩方が蓄積した素晴らしい仕事が評価されているので、プロジェクトは値段だけではないというところをこれからアピールしていったらいいのではないか。

アフリカ諸国も、中国は技術移転や、その国の雇用拡大に全く寄与しない形で攻めてくると思い始めている。これから中東、アフリカの人たちがわれわれに期待しているのは、教育や先端技術の移転、いわゆる自国の雇用拡大に結び付くようなことではないか。

藏元(丸紅)
プラント案件に関して言えば、完工まで納期を守り、パフォーマンスも約定通り達成する、これが日本の最大の魅力。現段階で、特にオイル&ガスの世界においては、日本の技術や信頼性が、かなり顧客の間にも浸透してきたのではないか。その信頼性を保ちながら、技術の移転・人材の育成等を考慮して、今まで以上に差別化できる日本の総合力を全面に出していけば、中東でも道は開けると思う。

藤浦(住友商事)
中国には国のトップが 2人おり、2人が入れ代わり立ち代わり中東を訪問している。安倍総理に5回も中東にお越しいただいているのは非常に強く感謝申し上げるところであるが、ドバイの新聞を読んでいると、結構、中国を賛美する記事が目に付く。一方で日本関連の記事は少なく、必ずしも好意的なコメントばかりではない。メディア報道に対するアプローチにも何か改善するポイントがあるのかなと思うことがある。

藏元(丸紅)
人材育成も同様であるが、文化交流などを通じて日本を理解して、日本に共感してもらえる世代を生み出していくというアプローチも、中東では必要ではないか。例えば、中東から日本に留学する人の数は増えていないが、韓国や中国に留学する人の数は増えている。もう一度、文化から理解し合って、日本のファンを増やすような地道な行動もここでは必要ではないか。

吉川(司会)
弊社内でこの地域の攻め方として認識しているのが、第一にやはりエネルギー分野。産油・産ガス国はNational OilCompany(NOC)に“Best & the Brightest”の人材を集めている。その筆頭ともいえるサウジアラムコなどは今や単なる石油会社ではなく、サウジアラビアの国策を具現化する組織となりつつあるが、そういう組織としっかり付き合っていくことが大事である。第二にインフラ分野。今後の世界のインフラ需要の予想を見ると、アジアの次は中東・中央アジアが主戦場となるという可能性が非常に高い。中東でも2020年までに4.3兆ドルの需要があるといわれているが、いろいろな協力分野があると思う。

第三に投資。今までトレード中心であった日本と中東各国との関係において、その他の産業を含めた投資案件を増やしていかないと、この地域の人たちとしっかり付き合っていくベースができない。われわれも、資金も入れ、人も入れて一緒に事業をやっていくということを始めていかないと、長期的な関係を築くことは難しい。

篠原(双日)
UAEの人たちは「ここをゲートウエーにして、アフリカに行ってください、あるいはトルコ、あるいはEU市場へ行ってください」という言い方をする。彼ら自身が、自分たちには、そういう地理的優位性があると捉えている。また、UAE政府は「UAEの原油・ガスはいずれ枯渇する。われわれは泣かずに、笑ってその時を迎えることができるのか? 笑って迎えることができるように産業構造を変えていく。そのために最も重要なことは教育である」と述べている。中東から地球に残された最後のHORIZONであるアフリカ市場へ、産業構造の変革、教育レベルアップという大きな課題、われわれが関心を寄せる領域は多い。

3.今後の中東地域との関係強化のあり方

吉川(司会) 
それでは最後に「今後の中東地域との関係強化のあり方」として、あらためて中東地域との関係強化という面から、皆さんのご意見をお願いしたい。

渡邊(JETRO)
統計によると、日本からUAEに来ている人の数は年間7万人強であるが、UAEからの来日者数は年間2,400人程度にとどまっている。この2,400人の内訳は、ほとんどがビジネスマンである。若い世代はほとんど来日していない。観光客はUAEも年間2,000万人、日本も年間2,000万人とほぼ同じ目標を掲げているが、日本は日本全国で2,000万人を受け入れるのに対して、ドバイは埼玉県程度の大きさで2,000万人を受け入れ、観光客のもたらす影響度が大きく異なる。こういう点でも、何か一緒にできたらよいのではないかと思う。

藤浦(住友商事)
人材交流のレベルを国家レベルに引き上げて仕掛けづくりをしないと、一民間企業の努力だけではなかなか限界がある。


丸紅株式会社
執行役員 中東・アフリカ支配人
藏元 正隆氏

藏元(丸紅)
弊社は、カタール大学との文化交流の一環として、例えばアラビア語で日本文化を紹介する百科事典の制作、カタール大学での丸紅の冠講座の設置、当社へのインターンシップ受け入れ等を進めている。一民間企業ができることはその程度であるが、こうした取り組みをJETRO、日本貿易会等に働き掛けて文化交流の輪を広げていくことは、将来的には非常に効果が得られるのではないか。「資金はどうするのか、誰がコストを負担するのか」などと議論はあると思うが、少なくとも各企業が少しずつやっているものを、加速、拡大させるために政府も巻き込んで交流の輪を広げていけば、将来的なビジネスチャンスにもつながると思う。

鈴木(豊田通商)
UAEを訪問する日本人7万人もおそらく高齢化が進む。今の日本国のアラビア語、ペルシャ語人材の養成基盤は、質量共に全くプアーであると思う。語学専門大学レベルではないにしても、一般大学の第2外国語に中東の言語を加える等、今から少しずつ、ただし継続的に進めるべきである。そういう草の根的な取り組みが10年も続けば、中東の言語を学ぶ学生たちや、学んだOG・OBたちの間で、中東の言語を通じて中東を肌感覚でつかめる「サークル」が各界で構成されると思うし、並行して官民一体となっての海外研修制度も拡充すれば、日本国として「中東人材」の一定母数を継続的に確保できるようになると思う。

三橋(伊藤忠商事)
安倍総理が中東に5回来ていただいたことで、経済面では非常にありがたいことではある。米国の対中東政策の重要性が低下している中にあって、われわれは依然として8割以上の原油をこの地に頼っていることを考えると、日本政府に対中東政策の政治的なイニシアチブを取っていただくことも期待したい。

藤谷(三井物産)
文化交流については外務省、文部科学省にこうした事業への予算が付いていないため、結局持っていきどころがなく話が進まない。政府の中でも多少、補助金を出すような仕組みを考えていただく必要がある。本当の輸出振興には、長期的にはこうした取り組みの方が有効という考え方もあるような気がする。

篠原(双日)
中東から日本への観光客を増やすという点について言えば、「日本のこんなところが良い。こういうものは魅力的だ」など、もっと自分から売り込まないと、彼らは興味を持たないし、知ろうともしない。彼らから見れば、来ない人はいない人。日本の観光資源には、素晴らしいものがあると思う。全国的に整備された社会インフラの有効活用という意味でも、きちんと売り込んでいく努力は国益にかなう。中東の人々が、日本において、仕事だけではなく、余暇も楽しめるという状況をつくり上げていくべき。

また、今後の関係強化という点で言えば、中東の人々が一番困っている問題にアドレスすることが、パートナーシップであり、フレンドシップであると思う。例えば、日本が健康・長寿社会であることは、一つの切り口。中東では肥満と糖尿病が大きな社会問題になっており、糖尿病の罹患率は世界でトップクラス。日本の生活習慣、高度医療技術など、長寿社会を実現できているシステムなどを積極的に提供していき、先ほどの教育問題への対応、といった努力を重ねることで、お互いの信頼関係は深まっていくものと思う。

藤浦(住友商事)
GCCの某国で日本車を40万台も売っている企業は、日本の企業文化をしっかりと導入している。とにかく、現地パートナー側に日本文化を学び、日本の経営文化を学ぶという姿勢があり成功している。やっぱりそういう意味では、日本側としても、有形無形の強みをしっかり維持していくことが中東においても大事ではないかと思う。

渡邊(JETRO)
国際交流基金、日本政府観光局(JNTO)が海外に拠点を構えているところは、ほとんどが欧米先進国で、GCC諸国にはいずれも構えていない。まずそういった事務所の設置をお願いする必要があるかもしれない。文化交流を行うところと、経済促進を行うところと両輪でやっていければと思う。

吉川(司会)
最後に全体をまとめさせていただく。バブル崩壊後、潮が引くようにいったん中東から半ば撤退した日本企業も、2000年代に入ってから当地域の重要性とハブとしてのドバイのポジションを認識したのではないか。その意味では、われわれがドバイに拠点を置いて広域で見ていることの利便性を非常に強く感じており、社内外に大きくアピールできる点ではないかと思う。

中東の「アラブの春」以降、いろいろな政治的混乱があった。テロの脅威は地域を問わず存在するが、「IS」の問題を除くと紛争している国はある程度特定されており、その他の国は歳出を増やして社会インフラを充実させ、若年層の雇用創出に注力するなど、各国が安定を求めていろいろな手法で努力をしている。

GCCを含めたアラブ世界にも、各国の方針に従来温度差があったが、「IS」という一つの共通の敵が現れたことで、まとまりが出てきている。この地域の国々にとっては苦手なことだが、団結してことに当たっていく流れにもつながるのではないか。特にGCCはより政治的な色彩も増して、軍事的にも同盟として動いていくという意味では、従来の隣組的組織を脱したものになってきたようにみえる。

化石燃料の圧倒的な埋蔵量を誇るこの地域で、それを原料にした石油化学製品、低コストの電力を武器にしたアルミ等の産業も興ってきており、市場としての魅力も含めてこの地域の重要性が高まっている。また、これだけの大型インフラ案件を進めていけるのは、この地域以外にないのではないか。各社で受注している案件を見ると、必ずしも日本連合だけではなく、多国籍コンソーシアムで競争力を高めながら受注している案件も増えている。それをさらに工夫して、大きなインフラ市場で受注の確度を高めることが必要だ。

中東地域の重要性に比べて、日本ではまだまだこの地域に対するリテラシーが高くないという意味では、われわれがしっかりと情報発信していかなければならない。各社で進めているCSRを中心にした文化交流、人材交流などは草の根的な活動として極めて重要だ。

今後はさらに、官民の連携によるより組織立った国・地域への貢献という、大きなレベルの動きにしていくことも提言していかなければならないのではないか。

原油価格の今後の見通しはわれわれの最大の関心事ではあるが、やはりコストをカバーするような形での原油価格の収斂がどこで起こってくるのかが注目される。それがなければ、この地域の安定にもつながってこない。そういうことも期待しながら、私たちはこの地域での活動を引き続き積極的に推進していければと思っている。本日はいろいろ幅広いご議論を頂いてありがとうございました。

(2015年3月1日 三菱商事㈱中東・中央アジア統括事務所 会議室において)


座談会終了後の懇親会

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