<インタビュー> 空港ビジネス業界における商社の姿 ―仙台空港民営化について―

仙台国際空港株式会社
取締役 航空営業部長
(豊田通商株式会社から出向中)
岡﨑 克彦

1. 仙台国際空港株式会社とは

仙台空港は国管理空港として初めて民営化されましたが、仙台国際空港株式会社は仙台空港を運営するために2015年11月に設立された株式会社です。豊田通商の他、東京急行電鉄、東急不動産、前田建設工業等が出資しています。2016年7月1日に滑走路等の基本施設の運営を任されてから2期目には黒字化を達成することができました。

さかのぼること2013年7月に「民活空港運営法」が施行され、宮城県は国が進める「空港民営化」に応える形で「仙台空港600万人・5万トン実現サポーター会議」を設置し、「空港民営化」による空港および周辺地域の活性化に向けた県内の機運醸成や情報発信に取り組みました。その後、2014年4月には仙台空港が民営化第1号に決定され、6月に募集要項公表、12月に選定手続きが開始されました。現在の仙台国際空港株式会社に出資している企業がコンソーシアムを組み、募集要項を満たした上で自分たちが描く空港像を提案、2度にわたった審査の結果、優先交渉権者に選定され、最終的に民営化実施契約の締結に至りました。当社による運営期間は30年で、オプションとしてさらに30年、すなわち、運営期間は最長60年となっています。

日本における「空港民営化」は、地域の意見・要望に基づいて国と地方自治体が行う空港の経営改革ということができます。この改革においては、(1)地域の実情を踏まえた空港経営計画を推進し、(2)公共施設等運営権制度を活用した航空系事業と非航空系事業の一体的経営を目指す、とされています。インフラとしての公共性を維持しながら、民間企業による経営によって空港の付加価値を高めていく、いわゆるPFI*手法により、地域を活性化させることが期待されています。現在、「空港民営化」は全国に拡大していますが(高松、神戸、富士山静岡、福岡、北海道7空港等)、こうした目的に加えて、人口減少と少子・高齢化が著しい東北地方において、交流人口・関係人口を増加させ、東日本大震災からの復興を加速化させたいという希望を込めて、仙台空港が民営化第1号に選ばれたと考えています。

* PFI(Private Finance Initiative)=公共施設等の設計、建設、維持管理および運営に民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方。

2. 豊田通商が参画した経緯、生かされた強みとは

豊田通商は、旧トーメン時代、ラオス・ワッタイ国際空港のターミナルビル拡張事業(日本の政府開発援助案件)に協力しました。当時、政府開発援助案件では受注した企業が建設事業を担い、完成後に相手国が運営することが一般的でしたが、この事業では旧トーメンとJALUXがターミナルビルの運営を担うこととなりました。日本企業では初めてのことであり、極めて例外的であったといえます。

昨今、他商社も空港経営を手掛けていますが、民間企業が事業に参入することによって、利用者目線で必要とされるサービスを拡充させることが求められています。仙台空港の場合、豊田通商が持つトヨタグループのネットワークも活用し、(1)国内外の就航路線の拡大、(2)貨物輸送のリードタイム縮小・輸送量の増加、を実現させ、東北地方の発展に貢献したいと考えています。これまでに国際線ではソウル線が民営化前の週4便から週7便に、台北線は同じく民営化前の週2便から2019年7月に週19便に増える予定です。また、国際貨物の取り扱いも着実に増加しています。

仙台空港は、仙台駅からのアクセスも良く(仙台空港アクセス線で快速17分、普通25分)、民営化後には空港発着の高速バスを誘致するなど、東北地方の空の玄関口としての地位を確立しつつあります。その一方で、海外旅行客の多い首都圏と北海道の間にあり、海外から見ると埋もれてしまう危険性が常に存在します。通り一遍の営業活動ではなく、東北地方の魅力を効果的にアピールすることに努めていきたいと考えています。

3. 空港経営を通じた地域や世界との結び付き、社会貢献の在り方

東日本大震災の後、東北地方における国内・海外旅行客が激減し、物流面ではサプライチェーンが寸断されたことから、宮城県は「創造的復興」の一環として、ヒト・モノの交流を拡大すべく国際会議や学会の誘致に力を入れていましたが、「第3回国連防災世界会議」が2015年3月に仙台市で開催された際には、市内の英語案内が不十分であるなど外国人を迎え入れる体制が十分ではありませんでした。

仙台空港が民営化されて以降、紅葉観賞やウインタースポーツなどレジャーに訪れる外国人が仙台駅や仙台市内、周辺の観光スポットでも数多く見られるようになりました。その結果、東北地方全体が外国人の受け入れに前向きになっています。こうした相乗効果も仙台空港の民営化によるものではないかと考えています。

また、膨大な貨物を取り扱う成田空港に代わって仙台空港から東北地方の特産品や北関東地方の企業が製造する工業製品の輸出業務を受注しました。貨物の滞留がないため、現地に届く日数の短縮を実現しています。その中には宮城県名産のイチゴもあります。生鮮食品は鮮度の維持が重要であるため、所要日数の短縮は輸出者だけでなく、相手国の消費者からも感謝されています。

今なお、風評被害により東北地方の農水産物や加工品に対して一部の海外の国々から厳しい目を向けられていますが、一次産品の輸出を当社と株主の豊田通商が支援することで、東北地方のビジネス拡大や雇用創出にも貢献していきたいと思います。


貨物機能の中枢 仙台エアカーゴターミナル


国内線到着ロビーのウエルカムウォール


シャワーブース完備のランナーズポート


4. 空港経営における今後の課題や展望


まもなく民営化から3年がたとうとしていますが、今後の課題も見えてきました。まず、何といっても、仙台空港に就航するエアラインを増やすこと。そして、実際に運航を決めたエアラインに運航を維持していただくことが大きな課題です。同時に二次交通の充実にも引き続き取り組んでいかなくてはいけません。また、従来、国が担当していた滑走路の維持管理や空港の保安・防災を仙台国際空港株式会社が担っていますが、専門性の高さから、民営化から3年間は国家公務員の皆さんに出向していただいています。2019年夏には出向期間が終了しますので、以降は当社が対応していかなくてはいけません。さらに、2020年度以降には商業スペースと保安検査場の拡充を内容とするターミナルビル2階3階のリニューアルを計画しています。加えて、国が進めるインバウンド誘客拡大政策に沿って東北地方を訪れる訪日外国人観光客を増加させることにも協力していかなくてはいけません。その上位を占めている中国やタイ・マレーシア・ベトナムといった東南アジアからの誘客に積極的に働き掛けていきたいと思います。

空港運営は長期間にわたって安定的に利益を生む事業になるだけでなく、駐車場経営や飲食店の展開、さらにはランプバスの自動運転のように、さまざまなビジネスの可能性を秘めた事業でもあります。今後も、事業の公共性と民間企業としての健全性を維持することを前提とした上で東北地方が抱える課題の解決に貢献していきたいと考えています。

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