日揮がロシア・極東にて 展開するビジネスについて

日揮株式会社
営業本部 部門スタッフ(欧州・CIS)
加藤 資一

日揮とロシア市場

石油、天然ガス、石油化学プラントなどのオイル&ガス分野を中心に、発電プラントなどのエネルギーインフラ分野、非鉄金属プラントなどの産業インフラ分野、医薬品工場、病院などの社会インフラ分野に至る幅広い分野で、プラント・施設を設計・調達・建設(EPC)を行うのが当社のコアビジネスである。一方、EPCビジネスの利益変動を補完する目的で2005年から事業投資・運営事業を開始した。

ロシア市場における当社のEPCビジネスは、古くは旧ソ連時代の1960年代に化学プラントの輸出の実績を持つ。その後も切れ目なく営業活動を継続し、2013年にはヤマールLNGプラント建設プロジェクトにつながった。当社にとってロシアは「古くて、新しい」市場である。

さて、当社は現在ロシアで三つのプロジェクトに取り組んでいる。
(1)北極圏のヤマール半島での液化天然ガス(LNG)生産設備建設
(2)ロシア極東ハバロフスク市における温室野菜栽培・販売事業
(3)ウラジオストク市における外来リハビリテーション事業

上記(1)はEPC案件で、2013年4月に受注し現在建設中、(2)と(3)は事業投資案件でいずれも事業の運営を開始している。

ヤマールLNG プラント建設プロジェクト

LNGプラント建設は、当社が得意とするものであり、世界のLNG生産能力の3割強を当社が参画して建設した実績と経験がある。ただし、このプロジェクトの特異な点は北極圏という極寒の条件の中で建設すること。ヤマールというのは現地語で「最果て」という意味だが、このプロジェクトはロシアにとって北極圏の資源開発の第1号案件であり、ヤマールは北極圏資源の「フロンティア」に化しつつある。従い、ロシア政府もインフラ整備等幅広く支援した。

2017年12月8日この地をプーチン大統領が訪れた。ここに建設された大型LNG生産プラント第1系列からの製品出荷を記念する式典に参加するためだ。出資者のトップのみならず、ロシア連邦政府からは主要閣僚が駆け付けた。第2系列は2018年、第3系列は2019年に完工できるよう全力を挙げて取り組んでいる。

何故日揮はハバロフスクで野菜を作って売っているのか?

これはある出会いから始まった。2013年6月サンクトペテルブルク国際経済フォーラムに当社のトップマネジメントが参加した。参加していたハバロフスク地方の知事から、ぜひ現地を視察し、投資を検討してほしいと依頼された。同年10月に早速現地視察を行い、地方政府が抱えている問題を尋ねたところ、「新鮮かつ安全な食糧(野菜)の確保」であった。ソ連時代は極東地域にも多数の国営企業経営による温室があったが、ソ連崩壊後その多くが倒産などで閉鎖された。その後も状況は変わらず、中国からの輸入に依存していたので、地元の消費者は新鮮で安全、安心な地元産野菜の復活を願っていた。

その要請に対する日揮の提案は、現地に温室を建設し温室野菜栽培・販売事業を行うというもの。パートナーは北海道銀行とロシア企業「エネルゴ・インパルス社」。同社は地元の中小企業で、極東で唯一配電盤を製造していた。ソ連邦崩壊後20年近く事業を行っており、日本センターから紹介いただいたロシアパートナー候補の1社であった。温室の敷地は、くしくも旧ソ連時代に温室野菜栽培が行われていた土地であり、再びその場所で新たな野菜栽培事業の投資がなされたことになり、運命的な出会いを感じた。

2016年春からトマトとキュウリを販売し始め、構想からおよそ3年で野菜の販売にまでたどり着くことができた。中国の輸入野菜と比べると価格はやや高いが、地元住民には非常に好評で売り出すとすぐに行列ができ、アッという間に完売してしまうほど。2017年5月には栽培温室面積を倍増することを決定。追加投資をして拡張工事を行い、2017年12月には拡張した施設の竣工(しゅんこう)式典を行った。

われわれが提供するのはJapan Quality。温室技術は日本ではないが、日本人が、日本の栽培技術と経営手法を使い、高品質の野菜を提供すること。Touch Japan, FeelJapan, Eat Japanでロシア人が日本を身近に感じている。将来は、ロシア人に好評なイチゴなども栽培したい。


温室に広がる一面の野菜


店頭販売の様子


何故ウラジオでリハビリ事業をするに至ったか?


リハビリセンター外観

背景と経緯

2015年9月第1回東方経済フォーラムに参加したことがきっかけ。ロシアへの投資の第一の矢はハバロフスクの野菜、第二の矢を何にすべきかヒントを得るためにトルトネフ副首相他ロシア政府関係者と面談してヒアリングを行った。共通するキーワードは「医療」であった。当社は長年、日本で病院建設事業を行っており、さらにカンボジアでは病院運営事業に進出した経験もある。検討を開始した直後の2013年10月末にパートナーとなる北海道帯広市にある北斗病院から海外進出に関するご相談をいただき、最終的にウラジオストクで外来リハビリ事業を共同で行うことで投資決定した。北斗病院は既にウラジオストク市で画像診断事業の実績があり、リハビリ分野でも主導的な病院である。

2017年7月末に事業運営会社の会社登記を行い、同年9月の東方経済フォーラム時に経済特区であるウラジオストク自由港のレジデントとして認定された。2018年3月には医療施設としての認可、4月末には医療ラインセスを取得し、5月8日に第1号の患者を受け入れた。5月16日には沿海地方政府タラセンコ知事代行、ウラジオストク市ベルケーエンコ市長他地元の有力者の列席の下、センターにおいて開院式を開催した。「ロシアにおける日本年」の行事として実施、またレセプションは在ウラジオストク日本国総領事館公邸で総領事主催にて開催していただいた。ハバロフスクの温室野菜事業会社の社長が、取れたての野菜を持参して式典に参加、皆さんに試食して楽しんでもらった。医療というヒントを得てから、2年7ヵ月でリハビリ事業をスタートすることができた。

ウラジオストクで提供するリハビリテーションについて

ロシアでは、後遺症を持つ患者のリハビリテーションは、機能障害に対する治療が主体で、部分的な機能障害に対するリハビリテーションに終始する傾向が強い。効果判定は形態異常や機能障害に対して行われるのが一般的であり、生活や社会参加を念頭に置いたリハビリテーションはほぼ提供されていない。

また、運動療法や徒手療法等の各療法が独立して実施されており、わが国のように1人の患者に対し、複数の療法を組み合わせて運動の再学習を支援するような治療は行われていない。よって、運動の再学習や行動変容につながる段階的なリハビリテーションプログラムが、提供されていないのが実情である。

一方、当社事業では、わが国のリハビリテーション医療の概念を踏まえ、患者中心の医療を実践している。心理的サポートも重視しつつ機能回復を支援し、「活動・参加」「社会復帰」を促すことに重点を置き、効果判定においても機能のみならず日常生活動作(ADL)能力や社会参加の改善度も含めている。

また、わが国では通常行われている治療医学とリハビリテーション医学の連携、すなわち、画像診断情報の活用や個々の疾病の病理・病態理解による個別性を重視したリハビリテーションを展開している。そのために、北斗グループである現地の「ウラジオストク北斗画像診断センター」や北斗病院(帯広市)の脳外科医、神経内科医、整形外科医との連携を持って運用している。


リハビリセンター施設内のリハビリ器具


当社マネジメントを含むセンタースタッフ一同


極東に投資をして感じたこと

最後に個人的な感想を一言。それは、ロシアは確実に変わってきているということ。

当社は2012年からサンクトペテルブルク経済フォーラム、2015年からは東方経済フォーラムにトップマネジメントがほぼ毎回参加している。プーチン大統領が東方シフトの戦略を打ち出してから当社はロシア極東開発に非常に興味を持ち、結果として2件の投資を行った。さまざまな機会を通じてトルトネフ副首相他ロシア政府閣僚と直接対話し、問題の解決を図ったり、またエージェンシーの計らいでプーチン大統領と外国投資家との懇談会に招かれ直接大統領と話をしたりと、ソ連時代からビジネスに携わっている私としては考えられないことが起きている。

上記2件の投資案件を実現するまでには、ロシア側の関係諸機関に大変お世話になった。その中でもハバロフスクの温室野菜栽培・販売事業は、ハバロフスク地方政府シュポルト知事、ウラジオストクの外来リハビリテーション事業では極東投資誘致・輸出促進エージェンシーのご担当者には非常にお世話になった。彼らの支援なしには、このスピード感を持って事業を開始することはできなかったと思っている。振り返ってみると、ロシアに投資をしたいと宣言してから、良い案件、良いパートナー、良いサポーターと巡り合うことができたのはつくづく幸運であったと思う。

ところで、ロシア政府が打ち出したロシア極東への新たな投資誘致ツールに新型経済特区とウラジオストク自由港制度がある。ハバロフスク温室野菜事業は前者、ウラジオストクの外来リハビリテーション事業は後者のレジデントとなっている。これらは有効な制度であるが、実際のところは建前と現実が乖離(かいり)しているところもあり、もう少し現実を踏まえた制度自体の改善などをロシア側に再考を継続してお願いしている。挙げれば切りがないが、以下2点のみこの場で申し上げたい。

(1)インフラ整備の問題。新型経済特区ではインフラは極東発展公社が整備することになっているが、不備が多く改善をお願いしたい(既に問題提起はしているが未解決)。

(2)外国企業が投資した後のアフターケアを、ロシア側の関係当局にぜひお願いしたい。新しい制度のため必ずしも完璧ではなく、事業を展開する中で種々問題が起こる。それらの解決にもぜひ力を貸していただきたいと思っている。

最後に、日ロ経済関係は過去を振り返っても今が最も活発であると思う。この順風を利用して、一社でも多くの会社が少しでもロシアビジネスを前に進めていけるよう心から祈願する次第です。

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