大学との協力による学生寮開発事業

伊藤忠アーバンコミュニティ株式会社
レジデンシャルグループ長補佐
森永 修元

1. 学生寮開発事業の背景と意義

伊藤忠商事は、主として住宅(分譲・賃貸マンション)・物流センター等の開発事業を展開しており、伊藤忠都市開発や当社をはじめとするグループ会社群が、開発・販売、管理・運営サービスを行う形でバリューチェーンを生かした事業の展開、およびサービスの提供を行っています。住宅事業で培ったノウハウを基に、伊藤忠グループの機能を活用して学生寮開発事業を行っており、開発事業主体は伊藤忠商事と伊藤忠都市開発が担い、保有は投資家や不動産投資信託(REIT)、管理・運営は当社が行っています。

開発事業主体である伊藤忠商事の最近例は、慶應義塾大学の学生専用の「元住吉国際学生寮」(2018年3月オープン、156室)がありますが、一つの大学の専用寮として当社が手掛けた初めての事例です。また伊藤忠都市開発で行った最近例は「東京・スチューデントハウス クレヴィアウィル武蔵小杉」(2017年3月オープン、390室)がありますが、これは青山学院大学とテンプル大学ジャパンが国際寮としてフロアごとに使用する形となっています。

昨今は、少子化に伴って、上京する学生が少なくなったことなどに対応して、魅力ある大学づくりの一環として学生寮の開発が注目されています。学生寮は大学自身が運営するのが一般的でしたが、経営改革の流れもあり、最近は建設も運営も民間事業者のノウハウや資金力を活用する事例が増えています。当社は、日吉学生ハイツ(男子専用、920室、1970年竣工(しゅんこう))の保有・運営を皮切りに、大学を限定しない形の学生会館の運営について約40年の実績があり、将来を担う人材のサポートと留学生30万人計画に代表される国際交流の推進に貢献しています。慶應義塾大学・元住吉国際学生寮は、この流れに沿って、当社が大学に対して物件の提示を行って実現したものです。

2. 慶應義塾大学との協力による学生寮開発事業の概要

慶應義塾大学は2014年に文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」事業におけるトップ大学(タイプA)に採択され、留学生の受け入れや学生の国際交流活動を積極的に推進しています。学生寮は、各国からの留学生と日本人学生との交流をより推進することによって多様な国際感覚を磨くことができる場と考えており、日本人学生と留学生が混在する7件の学生寮を整備しています。そのなかの一つである元住吉国際学生寮は大学と連携しながら企画したもので、156室のうち60室は留学生が入居し、残り96室については、大学の協力を得て当社が入居者の募集を行っています。明確なコンセプトとしては部屋ごとにキッチンを設けるのではなく、各フロアに共同キッチンと共同リビングを備えることによって、料理などをする際に入居者同士のコミュニケーションが自然と促進されることを狙っています。共用には食堂も整備されており、栄養のバランスに配慮した食事をとることが可能です。この食堂では、寮の入居者が集まってウエルカムパーティーなどのイベントも実施されます。また、運営上の特徴として、日本人入居者のうち英語が話せる人を各フロアで1-2人大学がレジデンス・アシスタント(RA)として選抜し、留学生との交流をアシストする試みを行っています。当社とRAの定例会議(月1回)を設けて、イベント企画などを通じた交流の促進と課題解決を行う仕組みづくりを行うなど、大学と協議しながら学生寮を運営していく予定です。管理運営で気付いた点をフィードバックし創意工夫を積み重ねることで、より良い国際学生寮につくり上げていきたいと考えています。

3. 学生寮開発事業の今後の展望

いろいろな大学の方々と話をすると、学生寮に対するニーズは続いてありますので、当社は今後も積極的に取り組んでいきたいと考えています。

大学が考えている学生寮の開発手法としては、民間事業者が開発した案件を大学が借り上げるなどして専用寮として学生に指定・推薦する方法、大学がキャンパス内の土地を民間事業者に提供し、民間事業者が自社のリスクと負担で学生寮を整備する方法などがあります。前者は当社が手掛けた元住吉国際学生寮のパターンであり、後者はPFI(PrivateFinance Initiative)をはじめとしてさまざまなスキームが試みられています。当社はどちらのパターンについても積極的に取り組んでいきたいと考えています。

今後も、日本人学生と留学生との交流促進は大きな流れになると思われます。交流促進にはイベントの開催など、入居者が自発的に交流の機会をつくっていく仕組みが欠かせません。また、学生寮のタイプも完全個室型からシェアハウスまであり、食事の提供の有無等も含めてさまざまです。いろいろな事例が出始めていますので、今後は大学から「こういうスタイルにしたい」といったコンセプトがより明確に打ち出されるようになると考えています。当社は、そうした希望に応えながら、伊藤忠グループの強みを生かした学生寮の開発・運営に取り組む所存です。


元住吉国際学生寮入口

元住吉国際学生寮入口


共同キッチンの利用

共同キッチンの利用

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