大手町連鎖型都市再生 プロジェクトの現状

独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部
都心業務部 大手町エリア計画課 主幹
安達 幸信

1.大手町連鎖型都市再生プロジェクトの経緯


大手町地区位置図

大手町地区位置図

大手町は、東京駅の北側、皇居、丸の内に近接して位置し、金融・保険、商社、情報通信・新聞メディアなどの日本を代表する企業の本社・本部が集積し、日本経済の中枢的機能を担ってきたエリアである。しかしながら、多くのビルが高度経済成長期に建築され、30年以上経過したビルが平成14年時点で7割を超えるなど、老朽化が進み建物の更新が必要となっていた。これらのビルは、現有敷地に目いっぱいに建築されているため同一敷地内での建て替えが困難であること、大規模な情報システムを備えた24時間稼働型の業種が多いため、仮移転を伴う建て替えは業務の連続性に支障を来す可能性があること等が建物更新を進めるに当たって特有の課題となっていた。

一方で、平成12年度から14年度にかけて大手町合同庁舎第1・2号館に入居していた国の行政機関がさいたま新都心に移転することが決まり、空閑地となった約1.3haの国有地を大手町のまちづくりに活用すべきであるとの意見が、行政や地権者等から出された。

また、国の都市再生を巡る動きとして、平成15年、都市再生プロジェクト(第5次)のメニューの一つとして「大手町合同庁舎跡地の活用による国際ビジネス拠点の再生」が指定され、行政や地権者等は大手町まちづくり推進会議を組織し、地区特有課題の解決方策として連鎖型都市再生の具体的な事業スキームを検討した。連鎖型都市再生とは「起点になる未利用地を種地として、そこに老朽化した建物を所有する地権者が新たな建物を建築して移転し、元の建物を除却した跡地を次の建て替え用地として活用しながら順次連続的に建物の更新をし、地区全体の再生を図る手法」である。

同会議での検討の結果、種地に建て替えを希望する地権者の土地の権利移転・集約と周辺公共施設整備を行う事業手法として土地区画整理事業が選定され、独立行政法人都市再生機構(以下、UR)は、都市再生事業に関するさまざまな事業手法のノウハウを持つことなどから、当該スキームの確立のための事業コーディネートを行い、同会議から事業参画の要請を受け、合同庁舎跡地の取得および一部保有、土地区画整理事業や市街地再開発事業の施行といった大手町連鎖型都市再生プロジェクトを進める上で重要な役割を担うこととなった。連鎖の流れは図1の通りである。


図1 連鎖型都市再生の流れ

図1 連鎖型都市再生の流れ

図1 連鎖型都市再生の流れ


2. プロジェクトを支える三つの事業

(1)合同庁舎跡地の取得・長期保有

連鎖型都市再生を成立させるためには、建て替えに活用するために取得した合同庁舎跡地を地価変動リスクを抱えながら連鎖終了まで長期間保有する必要がある。種地は、平成17年3月にURが取得した後、リスク分散のため、民間SPCである(有)大手町開発に持ち分の3分の2を信託受益権化して譲渡し、共有している。

ここでいう種地には、二つの役割があり、一つは地権者が移転建て替えを実施する場所(空閑地)としての役割、もう一つは移転建て替えを行う地権者が従前地を使い続けることを可能にする(これによって直接移転が可能となる)ための役割である。

空閑地としての役割として、合同庁舎跡地そのものが1次再開発事業の事業区域になっているように、最初の移転建て替え先としての役割を果たしている。さらに、直接移転を可能とする役割を果たすため、種地保有者が所有地(合同庁舎跡地の換地)を自己利用しないことで、1次再開発に参画した地権者が合同庁舎跡地で市街地再開発事業による建築着工を開始した後でも、1次再開発に参画した地権者が合同庁舎跡地の換地において引き続き従前ビルを使用(従前地を使用)することができるスキームを構築している。このスキームは、種地保有者が土地保有コストを賄えるようにすることがポイントになる。大手町連鎖型都市再生では、移転建て替えを行う地権者が従前地を継続して使用できることの対価を負担金として土地区画整理施行者に支払い、その一方で、合同庁舎跡地を使用収益できない状態となる種地保有者に対しては、土地区画整理事業施行者から先述の負担金を財源とする使用収益停止に伴う損失に対する補償金(土地区画整理法第101条)が支払われるというスキームを構築することで、「種地」の保有が成立している。このスキームを「土地の二重使用」と呼んでいる。

(2)土地区画整理事業

大手町土地区画整理事業は、URが施行者となり、平成18年4月に事業計画認可を取得し開始している。1次再開発、2次再開発、3次再開発の各区域にはそれぞれ高度利用推進区(土地区画整理法第85条の4)を設定し、移転建て替えを行う地権者の「申出」を受けて換地を定め、複数者いる移転建て替えを行う地権者の土地を集約している。

平成25年4月には、それまで約13.1haで実施してきた事業区域を、JR線を挟んで東側に隣接する常盤橋街区へ拡大(事業計画変更認可)し、より周辺への波及を進めることとなった。常盤橋街区には稼働を停止することができない更新時期を迎えていた下水ポンプ場等があり、連鎖手法に組み込むことにより下水ポンプ場の機能を停止することなく移設できることとなったとともに、同じく老朽化が進んでいた街区全体の建物の更新も図られることとなった。

道路等の都市基盤がおおむね整備されている大手町地区では、一般的な土地区画整理事業のように道路等公共施設整備による土地の価値の増進が見込めない状況にあった。そこで、大手町土地区画整理事業においては、土地区画整理事業による歩行者専用道新設等の公共施設整備を都市再生への貢献とした都市再生特別地区による容積率緩和を土地の価値の増進の要素としており、土地区画整理事業の土地評価に反映している。この点が大手町土地区画整理事業の大きな特徴となっている。

さらに、土地区画整理事業による「土地の二重使用」スキームは、従前地の建物の使用を継続しながら、移転先(仮換地)での建築工事を実施することで直接移転を可能にするため、大手町連鎖型都市再生を進める上で非常に重要な役割を果たしている。

新設された歩行者専用道「大手町川端緑道」は、日本橋川沿いに幅員12m・延長780mで整備され、都心部においてはぜいたくな緑道空間となっており、平成26年4月に供用開始された。大手町川端緑道は、事業着手前の都市計画においては車道として計画されていたところ、本プロジェクトの開始に合わせて歩行者専用道に計画変更されている。その理由は、大手町という日本経済の中枢機能を担うエリアにおいて、オフィスワーカーのためのアメニティ空間を備えることや、日本橋川に顔を向けたまちづくりを推進し、日本橋や神田エリアとの連携・交流を促進させることが企図されたからである。

また、川端緑道の高質な空間を維持するため、日常管理についてはエリアマネジメント組織により実施されることが道路管理者との間で約定されている。同緑道は、丸の内仲通り・行幸通りとあわせて国家戦略道路占用事業として認定され、キッチンカーの配置や夏祭り等のイベントも実施されており、今後も引き続きまちのにぎわいを創出し、エリアの価値を向上させるために必要な取り組みが期待されている。


大手町川端緑道

大手町川端緑道


(3)市街地再開発事業

第1次再開発

大手町連鎖型都市再生の第1弾として、平成21年4月に竣工(しゅんこう)し、再開発に参加した日本経済新聞社、JA各団体(全農、農林中金、全中)、日本経済団体連合会が移転、業務を開始している。オフィス床に加え、国際カンファレンスセンター、農業・農村ギャラリー等の複合機能を併設し、3棟の超高層オフィスからなる高層部と、国際会議場、レセプションホール等を配置する低層部で構成されている。

第2次再開発

第2弾として、平成24年10月に竣工し、日本政策投資銀行本店、日本政策金融公庫本店などが移転、業務を開始している。「大手町フィナンシャルシティ」と命名された。オフィス床に加え、国際金融人材の育成に資する「東京金融ビレッジ」、英語対応可能な医療サービスを提供する「聖路加メディローカス」、店舗などを併設した2棟の超高層オフィスビルとなっている。

第3次再開発

第3弾として、平成28年4月に竣工し、先に竣工した2次再開発と同街区にあることから、「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」と命名されている。オフィス棟の他に宿泊施設棟も整備され、星野リゾートによる「星のや東京」が平成28年7月にオープン、営業している。また、2次再開発と3次再開発の建物の間はそれぞれセットバックがなされ、大手町・丸の内・有楽町エリアの仲通り機能を延伸し、ビジネス活動・アメニティ機能の充実が図られている。

第4次再開発(常盤橋地区プロジェクト)

第4弾(連鎖の完了)として、平成29年4月に着工した。街区内に存する下水ポンプ場、変電所といった重要なインフラ施設の機能を維持しながら4棟の再開発ビルを建築、約10年後の全体竣工を目指し整備を進めている。都市再生への貢献として、地下歩行者ネットワークの整備、常盤橋公園の再整備と一体となった大規模広場・親水空間の整備、ビジネス交流機能の導入、国際都市東京の魅力を高める都市観光機能の導入、災害時の復旧活動の拠点となる大規模広場・防災船着き場の整備等を行う計画である。ビジネスや観光など多様な機能を導入した国際競争力の強化に資する先進的で魅力的なまちづくりを進めている。


大手町フィナンシャルシティ グランキューブ

大手町フィナンシャルシティ
グランキューブ


常盤橋地区プロジェクト 完成イメージ

常盤橋地区プロジェクト
完成イメージ


3. 事業の効果


現在、建物更新の連鎖は4次まで展開している。連鎖型都市再生事業では、効率的に建て替えができるだけでなく、複数の権利者の土地を集約した街区で市街地再開発事業を施行することにより、土地の有効利用が図られ広場等の公共的な空間も拡大している。また、市街地再開発事業においても都市再生特別地区による容積緩和を得ながらさまざまな都市再生の公共貢献が行われており、地上・地下の歩行者ネットワークや、地域の魅力向上・機能強化のためのインフラ整備等が進んでいる。

土地区画整理事業で整備した日本橋川沿いの歩行者専用道は、先述の通り大手町川端緑道と名付けられ、都心部での水と緑のネットワークの一部を形成しており、区画整理と再開発の両事業が有効に機能し、大手町連鎖型都市再生プロジェクトの目標である「国際ビジネス拠点としての再構築」が着実に進んでいるものと考えられる。

大手町地区は土地区画整理事業と市街地再開発事業が連携したプロジェクトであるが、土地区画整理事業は土地権利を移す機能を地域の課題に対応して柔軟に展開でき、道路・河川・防災公園等の広域インフラ整備事業との組み合わせや民間事業との連携等、活用の幅は広がっている。現在、都市再生の重要な施策となっている都市のコンパクトシティ化や密集市街地の整備にも寄与する事業手法として今後も期待されるところである。

大手町連鎖型都市再生 プロジェクトの現状 誌面のダウンロードはこちら