野村貿易のASEAN域内での事業展開

野村貿易株式会社 執行役員 ASEAN地域統括責任者 兼 ホーチミン駐在事務所長
田端 秀平

1. 野村貿易にとってのASEAN市場

当社の創業は創業者野村徳七が「野村徳七商店(1904年設立)」へ1917年に設置した「野村南洋事業部」に始まります。1920年には蘭領ボルネオゴム工業を設立しており、旧野村財閥の一員としてカリマンタン島でゴム農園を保有していました。当時は、日本向けの軍需用ゴムや米国向け輸出用の天然ゴム、パーム油を扱っていましたが、第2次世界大戦後、1951年に「新野村貿易㈱」を設立後、インドネシア、タイ、シンガポール、ベトナムにおいて、貿易業務を再開し、支店をシンガポールに設け、その後タイ、インドネシアに現地法人を設置しました。現在ではミャンマーにも事務所を構え、ASEAN域内で幅広く事業を展開しています。このような背景を持つ当社にとって、海外市場、中でもASEAN市場は当社の設立の歴史とも直接つながる最も重要な営業地域であると位置付けています。

2. 野村貿易がASEAN市場で手掛ける事業

古くから東南アジアと深い結び付きを持つ当社が、現在、ASEAN市場で手掛けるビジネスは、日本向けの輸出入が8-9割を占めています。取り扱う商品は、ASEAN諸国から日本に輸出される食品、各種原料、アパレル製品、日本からASEAN諸国に輸出される機械、化学品、医薬関連商品が中心です。近年は、こうした日本との貿易取引に加え、ASEAN諸国の経済・産業の発展に伴い、日本以外の諸国への輸出入、また、ASEAN加盟国間の域内貿易も拡大しています。

ASEANといっても加盟各国間で経済水準が大きく異なりますが、若年層の人口増や中間層の拡大に伴い、さまざまな製品に対する需要が大きい国が多いといえます。とりわけ「Made in Japan」のブランドイメージは高いことで知られますが、中国や他国の製品に比べて価格が高いことも事実です。当社としても製品を納めるだけのビジネスではなく、付加価値を付けた、事業投資的なビジネスを検討していくことが今後ますます重要であると考えています。

例えば、日本の国内市場が縮小する一方で海外進出が遅れている、高い技術力や高品質の製品を生み出す中小企業が多々あります。こうした有望な中小企業とタイアップすることで、ASEAN域内で技術を求める企業、顧客との橋渡しをしながら、ビジネス機会を拡大させていくことが商社としても重要であると考えています。ASEAN各国においてはさまざまなインフラの整備計画が動いていますが、特に環境分野においては日本に競争優位性があり、過去に公害を克服した経験も踏まえ、技術移転を通じて大いに貢献できる分野であると考えています。特に排水設備などの水利関係の設備は、中国メーカー等とも競合しますが、「日本メーカーの方がやはり高い技術を持ち、中長期的には日本メーカーと取引をした方がよい」という認識を定着させることがわれわれの大きな責務と考えています。

3. ASEAN市場における今後のビジネスへの期待

こうした中で、2015年12月に「ASEAN経済共同体」(AEC)が発足することが見込まれ、域内市場におけるさまざまな規制の撤廃や貿易・投資の円滑化が進むことを当社は期待しているところです。しかし、各国の経済政策の他、経済の成熟度にも違いが見られることから、単一市場と位置付けることができるようになるまでには、長い時間がかかるという印象を持っています。とりわけミャンマーやカンボジア等のメコン諸国は、同じASEAN諸国の中でも、シンガポールのような先進国とは発展のレベルが大きく異なります。また、ベトナムに駐在していることから余計に感じられるのですが、通関手続きに時間がかかることや必要な通関書類が突然に変更されるなど、「非関税障壁」も依然として多いように感じています。その他、貨幣価値の格差が見られることも、今後、経済共同体が発足した後にも残る課題の一つではないかと考えています。その意味において、AECの発足後のビジネス環境は、当面、大きな変化は見られないものと考えていますが、こうした非関税障壁が少しでも減少することを期待したいと思います。

他方、ASEAN域内でビジネスを展開するときに、一から事業展開の全てを構築するには時間もかかり、大変な労力を要するため、地場企業とのパートナーシップが不可欠です。ASEAN域内で長年当社と関係を深めてきた地場のパートナー企業も大きく成長しており、こうしたパートナー企業との提携をより親密にすることで、現地ニーズもさらに把握することができるのではないかと思います。商社ビジネスにとっては、日本企業が持つ技術・製品と、ASEAN各国におけるニーズとを結び付ける役割を担っていくことが今後も引き続き重要であり、そのニーズはASEANの成長に伴い、さらに高まるのではないかと考えています。

(聞き手:広報・調査グループ 石塚哲也)

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