日本とASEAN諸国とのさらなるビジネス関係強化に向けて

一般社団法人日本経済団体連合会アジア・大洋州地域委員会 委員長伊藤 雅俊
一般社団法人日本経済団体連合会アジア・大洋州地域委員会 委員長江頭 敏明

1. はじめに〜さらなる拡大が期待される日ASEAN経済関係

人口6億人超の巨大市場を有し、豊富な若年層労働力に恵まれた ASEANは、過去10年でGDPが3倍となるなど目覚ましい経済成長を遂げており、世界の成長センターの一つとして大きな期待が寄せられている。

わが国にとってもASEANは地域の平和と安定、発展と繁栄のための重要なパートナーであり、経済関係も ASEANの発展とともに、拡大の一途をたどってきた。貿易においては、日本ASEAN間の輸出入総額は2004年の約1,400億ドルから、2014年には約2,200億ドルまで増加し、日本にとって中国に次ぐ第2のパートナーとなっている。投資においても、2004年末に360億ドルであったわが国の対ASEAN投資残高は、2014年末には4倍超の1,600億ドルへと拡大し、米国、EUに次ぐ規模となった。

こうした背景には、ASEAN域内の経済統合の進展や、国境を超えた生産ネットワークの連結性強化と強きょう靭じん化による、ASEANの「市場」とともに「生産拠点」としての魅力の高まりがある。

加えて、2015年末に発足予定のASEAN経済共同体(AEC)では、ASEAN加盟10ヵ国における「物品、サービス、投資、熟練労働者、資金の自由な移動」の実現を目指している。ASEANには多くの日本企業が生産、物流、販売のネットワークを構築しており、経済界としても、AECの発足によってその魅力がさらに高まるものと大いに期待している。

2. 生産拠点としてのASEAN

生産拠点としてのASEANを考えた際、その魅力を高めるためには、ハード・ソフト両面にわたるインフラの整備、裾野産業の整備・育成、人材の育成の3点が欠かせない。

まず、ハード面のインフラに関しては、企業が立地し、安定して事業活動を行う上で欠かすことのできない電力インフラの整備とともに、物流インフラ(鉄道、港湾、空港等)の整備が不可欠である。メコン地域では東西、南北回廊の開通など、域内のインフラ整備は着実に進みつつあるが、国により進しん捗ちょく状況は異なり、地域全体の連結性や整合性を視野に入れつつ、着実に整備していく必要がある。ソフト面では、輸出入・港湾関連情報処理システムの普及、ビジネス関連法規の整備等が急がれる。わが国企業は、政府関係機関と連携しつつ、これらハード・ソフト両面にわたり、これまで培ってきた技術やノウハウを活用し、さまざまな協力を実施してきたところであり、今後ともこれらの取り組みを強化していきたい。

裾野産業の育成に関しては、一般に、組立型産業では労賃に比べ部品がコストに占める比率が高いとともに、その品質が完成品の出来具合に大きく影響する。従って、良質で合理的な価格の部品がタイムリーに確保できない場合には、競争力が大きく劣ることとなる。また、現地政府からのローカル・コンテンツ要求やFTA/EPAの原産地規則を満たす上で、組立メーカーは、現地企業からの調達拡大が必要となる。こうした観点からASEAN域内における質・量両面での裾野産業の整備・育成が欠かせない。このため、工業団地の整備や魅力的なインセンティブ措置などを通じ、外資系中小企業の進出を促進すると同時に、中長期的視点からは、地場の中小企業を育成していくことも必要である。

産業界のニーズに即した人材の育成も、企業が進出をする上で重要な要素である。ASEAN諸国が有する豊富で安価な労働力は大きな魅力であるが、技術者や熟練労働者の供給は必ずしも十分であるとはいえない。わが国企業は、投資企業によるOJTならびに企業内研修、さらにはわが国での技能実習制度の活用などを通じて、現地人材の育成を行ってきた。また、各種の奨学金制度の実施を通じて、人材育成に貢献してきたところであり、ASEAN諸国の引き続きの協力を期待したい。

3. 地域経済統合の推進

企業のサプライチェーン・ネットワークがグローバル化する現在、ASEAN地域がこうしたネットワーク上の重要な拠点として発展していくためには、ASEANを包含する形で地域経済統合を推進させ、最終的にはアジア太平洋地域をカバーする経済連携網を構築していくことが欠かせない。

その点、2015年末の発足に向けて準備が進むAECにおいてレベルの高い経済統合を実現すれば、ASEAN+6の枠組みで交渉が進められている東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の重要なコアとして、これをけん引することが期待される。AECは、域内関税の削減・撤廃が高い水準で実現する見通しとなっているが、他方、非関税障壁の撤廃やサービス分野の自由化等の進捗は必ずしも十分ではないとされている。従って、AECの発足後も、基準・規格の統一、通関手続きの円滑化、サービス分野の自由化、熟練労働者の移動円滑化等への取り組みを加速し、着実に実現するよう期待したい。また、RCEPが実現すれば、世界全体の約半分に相当する人口約34億人、GDPでは世界全体の3割に相当する20兆ドル、貿易総額でも世界全体の約3割に相当する10兆ドルをカバーする広域経済圏が出現することになる。従って、RCEPにおいては、包括的で質の高い経済連携を実現するため、高いレベルの物品貿易の自由化、ネガティブリスト方式による投資・サービス貿易の自由化、知的財産権の保護、ビジネス環境の整備および各種標準の統一を実現することが重要である。わが国としてもASEAN諸国と緊密に連携し、その早期実現を働き掛けていく必要がある。

また、広域経済連携の効果を高める観点から、先般大筋合意に達したTPPへのASEAN諸国の参加やRCEPとの融合を通じて、中期的には、アジア太平洋地域をカバーする経済連携であるFTAAPにもつなげていくことが期待される。

わが国経済界としても、前述のインフラや裾野産業整備、人材育成とともにASEAN地域を中心とする開かれたビジネス空間において、より積極的に事業展開を進め、アジア地域ひいては世界経済の持続的成長に貢献してまいりたい。

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